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3章
居酒屋偵察その3
しおりを挟む丸坊主男はドルン・エレイド。
俺は世界一の魚屋繁盛店のオーナーになるッ! と宣言したね。
ドルン・エレイドは厨房に通され、まな板の前に立つ。
店主が氷詰めされた木箱から魚3匹を取り出し、まな板の上に投げた。
「ほら、好きな魚を刺し身にしてみろよ」
ドルンに余裕の笑みが消える。
カレイ類、それも舌平目だったから。
舌平目は本来ムニエル、バター焼きの魚だよ。
鮮度が良ければ刺し身でも美味しい。
だけど、身が薄っぺらいのでプロでもおろすのが難しい。
とくに美味しい《えんがわ》部分が、おろす時にちぎれたり、骨についたりするね。
「どうした? 知らない魚だったか。
どんな刺し身でも造ってやる、と豪語したのはアンタだぜ、ハゲ頭よ」
「流石は店長! 困ってますぜ、ひっひっひひひひ」
「さーて、皿の模様が透けて見える薄造りにして貰おうか」
「……」
ドルンが無言で厨房から出てゆく。
「おいおい。降参かよ。ちっとばかし魚を知っているからって、口出すんじゃねーぜ! 馬鹿野郎!」
『お父さん。僕たちでも舌平目の刺し身は自信ないですよ』
『酷いなあ、この店長』
『帰るのかな、頭つるつるの人』
ドルンは、一度自分のカウンター席に戻り、バッグを持って厨房に帰る。
バッグから取り出し広げたさらしには、よく研がれた出刃包丁と刺し身包丁。
『あっ! どちらも、お父さんが加工した日本式包丁じゃない?』
『切刃に浮かぶ波模様は間違いないよ』
俺が東商店街の魚屋で働き刺し身がブームになると、包丁の作成依頼がよく入って来た。
近隣住民たちと親しくなりたかったし、断るのも悪い気がして全部作ったね。
やがて依頼が増えて行き、途中から店主さんが全部断ってた。
今まで作った出刃包丁は100丁くらい。刺し身包丁だと150かな。
『そういや、内区の刃物店で、お父さんの包丁が50万ギルで売ってたよ』
『あ、それ、俺も見た。金持ち貴族が自宅に飾るらしい。
刃渡りが長い刺し身包丁が人気だね。1丁80万ギルだった』
昭和の包丁(堺包丁)をイメージしたよ。
仕事を教わった師匠の影響で、俺も昔ながらの日本包丁を愛している。
別に西洋包丁が劣るわけじゃないよ。
どちらも用途により得手不得手がある。
平成に入り包丁は、洋包丁と和包丁のお互いのいい部分を吸収し、素材も錆びにくいステンレス鋼になり、軽くて薄い、それでいて頑丈な包丁に進化している。
「……」
ドルンが木樽の蛇口をひねり水を出し、舌平目のウロコを取り始めたね。
キキン国は水が豊富だよ。
あちこちに水路があり、この店舗にも水が流れこみ木樽に溜まる仕組み。
下水路もほぼキキン全域に設置されている。
店長がニヤニヤし、残りの2名も嬉しそう。
素人目でもドルンの包丁さばきは、ぎこちなかったからね。
予想通り、骨と身の境目を探るよう魚身に何度も刃を入れている。
これだと滑らかなブロックには仕上がらない。
おろし終わると、ごっそり骨に身が残っていた。
問題は左手に持った右利き用の包丁。
ドルンは左利きだね。
本来なら左利き包丁か、西洋包丁で調理すべきなのに、無理して右利き用を使っているので、よほど注意しないとまっすぐ切れない。
ドルンも自覚してるはずなのに、それでも右包丁を使うのは、日本包丁への憧れだけで無理して使っているのか……それとも……。
う~ん。
理解できないね。
ドルンは魚が大好きで知識だけは豊富。
だけど実際におろしたりの経験は乏しいと思う。
「酷えなあ~、ドルンよお」
器に広げられた薄造りは、厚さ不揃いで、所々ちぎれ、見た目も綺麗ではなかったね。
仕方が無い。
せめて、アジやタイといった普通の魚で刺し身を造らせてみたかったな。
「さあ、約束どおり、100万ギル払ってもらおうか~」
「100……万ッ!?」
「何を驚いてんだ。
俺は『覚悟しとけ』と言ったはずだ。
俺が納得するような刺し身が造れなかったら、覚悟しとけよ、と。
まさか、『ごめんなさい』と土下座で終わらせようと思ってたわけじゃねえよなあ。
もし仮に、お前が勝っていたらどうだったと思う?
プロが素人に負けたわけだ。俺はここらへんの笑いもんだぜ。
営業できなくなっていたかもしれねえ。負けたショックでな」
言うなあ店長さん。
そんなデリケートな性格じゃないだろうに。
横の店員たちがニヤニヤしているね。
いい金づるを捕まえたってわけか。
「そうなると、100万ギル請求されてもおかしくないだろ。
むしろ、1000万ギル要求されなくて、良かったと思えよ」
ドルンの身体が小刻みに震え、包丁を持った手に力が入る。
店長と従業員を睨みつけた。
「とりあえず、有り金全部いただくぞ。その包丁もな……」
「クククク……」
「こ、これは……」
大切な包丁なのだろう、じっと見ている。
『あの店長は、包丁が欲しいんですよ。2丁で100万ギルは軽く超えますから』
だろうね……。
ちょっとドルンが気の毒になってきたね。
「あのお~、すいませんが……」
声をかけてみたら、ざっと、店長と店員が俺を睨んだよ。
怖い顔だなあ。
「なんだ! 恐喝と言いたいのか?」
「いえいえ、そんな。恐喝だなんて」
店長さん、自覚はあるんだね。
「私はただ、賭けに勝った店長にお願いがありまして」
~賭けに勝った店長~
このフレーズが良かったんだと思うね。
店長さんが嬉しそうにし、店員の顔も緩んだから。
「お見事でしたね。実にスリリングな勝負でした」
「ほう……お前、わ、分かってるじゃねえか」
本当は店長がドルンをはめたわけだけど、
それを――、刺し身を上手に造れるか、造れないかの賭け――、
真剣勝負だったと言い変えたよ。
「で、なんだ、願いとは」
「言っても良いんですか?」
「良いから言ってみろよ。言わなきゃ分かんねーだろ!」
「そうですよね。では言わせていただきます。
実は私、こう見えても各国を渡り歩く勝負師でして、
『刺し身を造れるか、造れないかの勝負100万ギル』には、興奮しました。
最近私も刺し身を習う機会がありまして、調理には少し自信があります。
そこで、もしよろしければ、私も勝負に参加させてもらえないかと」
「なにっ!?」
「あ、いえ、もちろん無料とは言いません。
もし私が上手に刺し身を造れなかったら、100万ギル払わせてもらいます」
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