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3章
居酒屋偵察その4
しおりを挟む「あ、いえ、もちろん無料とは言いません。
もし私が上手に刺し身を造れなかったら、100万ギル払わせてもらいます」
そう言い、履いていた靴を体内に取り込む。
100万ギルの札束をイメージし、5秒後、出来上がった偽札を手に取り、店長さんに見えるようテーブルに置いたよ。
誰が見ても、本物と変わらない札束。
3秒ほど呆気にとられた店長。
ザワつく店員と相談し、嬉しそうに「いいだろう、ただし。同じ舌平目の刺し身だが、それでも良いのか?」と念を押してきたね。
「もちろん、店長の指定した魚でOKですとも。真剣勝負ですからね。
ただし、もし私が勝ったら、こちらの丸坊主の持ち物全部もらいますよ」
「ククク……、そうかそうか、いいだろう」
店長滅茶苦茶嬉しそう。
俺って、鴨が葱を背負って来た?
もう100万ギルゲットと思ってんだね。
「では、さっそく、よろしくお願いします」
◆
「見事な包丁ですね、ドルンさん。少しお借りしてよろしいでしょうか?」
厨房に入った俺は汚いけどエプロンを借り、包丁はドルンさんに借りたよ。
切味がいまいちだったので、砥石を借りて、バリバリの切味に仕上げる。
人間が分かる程度の速度で調理をしてゆく、10分後。
「な……、なんでだ?」
「うそだろ……」
店長さんは、口を大きく開けたまま、わなわな震わせているね。
出来上がった刺し身が完璧と思ってる証拠。
店員が舌平目の骨を持ち上げる。向こうが透けて見えるほど、身が残っていない。
ドルンさんも、信じられないって顔で俺を見ている。
「さて、じゃ、約束通り、丸坊主さんの荷物はいただきますから」
そう言って、俺はまだ呆然としているドルンの脇を担いで、店を出たよ。
後ろから店長の視線が刺さっていたけど、気にしない。
顔を変えてて良かったなあ。
俺が誰だか分かんないもんね。
「キキン国でも、あそこまで上手に調理できる人は、数名しかいない」
ドルンさんに返事はせず、バッグ一式をドルンさんの足元に置く。
「じゃ、また、どこかで!」
「ま、待ってください!」
SSたちと次の店に行こうとしたら、ドルンに腕を掴まれたよ。
「あなたはいったい……? 最近刺し身を習ったなんてウソだ。
1~2年修行した程度では、あんな技術は身につかないはず。何者なんですか、あなたは!?
……はっ! まさか……、東商店街のアズマ魚商店のスタッフ……」
今更だけど、1階店舗の店主のお店は『アズマ魚商店』だね。
「……まあ」
腕を放してくれないので、仕方なく同意したよ。
「1期生ですよね! 1期生でないと出来るわけがない」
「そうですね……」
「アズマ魚商店1期生15人は数ヶ月で、高い調理技術と知識を得たと言う。
……ヒジカタさまの指導によるものと噂されています。
どうなんですか、そこは!?」
「……ヒジカタ」
「そう、ヒジカタさまです。
あなたもヒジカタさまに指導を受けて、あんな技を身につけたんでしょう?!」
「いや、まあ」
「誤魔化しても無駄。もう調べはついてますから。
刺し身や寿司を考案したのもヒジカタさま。
アズマ魚商店を繁盛店にしたのもヒジカタさま。
5歳児ですらヒジカタさまが指導すれば天才寿司職人になる。
彼は、魚屋の神です!!」
と、ドルンはとろ~んとした目になる。
右手を胸の位置に持ってきて、十字を切ってお祈りを捧げたよ。
『お父さんの崇拝者ですよ、この人』
困ったなあ。
「ヒジカタさまは魚以外にも、包丁の作成もなさっており、見て下さいこの包丁――」
「はあ……、綺麗だと思います」
「ヒジカタさまがお作りになられた包丁……美し過ぎますよね」
「はあ」
「2丁で3000万ギル――」
高いなあ。
絶対にぼられてるぞ。
「私は先祖代々の山を売り、家を売り、全財産を叩いて手に入れました!」
やめてそういうのッ!
「ヒジカタさまが2期生を募集されていると知り、ギルドに駆けつけたのですが、もう終わっていて……」
そうそう、ギルドに寿司店員の募集を出したら、半日で500名が応募して来たから、速攻で閉めたよ。
「あなたが、羨ましい……。神に手ほどきを受けられるあなたが……」
執念をヒシヒシと感じて、ちょっと怖いんだけど。
『お父さん、可哀想ですよ、この人』
『そうですよ、入れてあげたらどうです?』
『だよなあ。店先に立って金銭の受け渡しでもして貰うかな』
「あ~、ここだけの情報なんだけど、今度ヒジカタが数名募集するらし――」
「ほ、ほんとですか!!」
ドルンが、ガシッと俺の手を両手で握ったよ。
「ああ、間違いないって。だから、明日にでも、新店のヒジカタを訪ねてみてよ」
「……だ、大丈夫だろうか。こんな私なんかを、雇ってもらえるだろうか」
「俺『ケンジ』から話しを聞いて来たとでも言って貰えれば」
「おおお! ケンジさん。ありがとう! この御恩はいつかきっと、払いますから!」
「気にしなくて、良いからね~」
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