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3章
アハート&ヒトミ
しおりを挟む「いってらっちゃーい!」
「きゅーきゅー」
青ちゃんは触手を振り、ランちゃんには手を振られながら、俺はアハートさんをお姫様抱っこして垂直ジャンプしたよ。
ビュ――――――ン!
と一気に100メートルは上昇したかな。
見下ろせば、キキン城と庭園、貴族たちが住む豆粒のような石作りの家々、それから広大な内区を囲う前方後円墳型の外壁が見えたね。
アハートさんは目を閉じ、手で口を押さえている。
風圧で衣服が強くはためいているよ。
『息苦しいですか?』
心話してみた。
『だ、……だ、だい……じょうぶ……』
『降りましょうか?』
『だっ……だいじょうぶ、だって、……言ったでしょ!!』
アハートさんは、泣き言は言わない人だ。
気弱に思えたのも、俺が弟妹の死亡を報告した折に見せたあの涙だけ。
自分の家屋が全焼しようが、無一文になろうが、赤の他人(俺の家族)と同居しようが、なんともない。
いや、内心は辛いんだろうけど、おくびにも出さない。
強い人だと思う。
ヒトミさんもそうだけど、俺の知る女性たちはみんな心が強い。
『無理しないでくださいね、ヒトミさんでも気絶しましたから』
『わ、私を誰だと……思って……い、いるのですか! ヒトミと一緒にしないで……くださいッ!!』
なに、意地張ってるんだろう。
同い年のアハートさんとヒトミさん。
この2人、表向きは上司と秘書の関係だけど――。
実際はちょっと違うんだよね。
◆
2ヶ月前。
アハートさんがビンソンの後継者に赴任したよ。
キキンの長い歴史の中で、女性が公人になったのは初の事。
それも重役、国の繁栄を左右する国家事業を任され、しかも、貴族ではなく平民の出だよ。
新しいキキン国の幕開けだ!
男女平等ばんざーい!
国民は改革だと狂気し、抜擢したキキン王を褒め称えたよ。
秘書SSたちの話しだと、
赴任の翌日には、町長や、商人主、地主、職人長、大農場主がアハート事務所に訪れたそうだよ。
「アハートさま、おめでとうございます。
これは、その……、お近づきの印でして……」
ニヤニヤしながら菓子箱をテーブルの置くが、仏頂面のアハートさん。
「ああ……、いえいえ、ビンソンさまの時もそうでしたから、お気になさらずに。
それより、私の事、なにぶん、よろしくお願いしますよ」
「……なるほど。……なるほど。
こういう事ですか……」
アハートさんが開けた菓子箱の中には札束が3つ。300万ギル。
「お願いします……、……ですか……。
私は、何をお願いされるのでしょう……、これ、袖の下ですか?」
「いや、はや、そう言うわけでは……はは……」
「役人への金品譲渡……で間違いないですね。
自分を有利に取り計らおうとする違法行為にあたりますが。
もし勘違い。私の赴任祝いだと仰るのであれば、お茶で。秘書たちが飲むキキン茶程度で』
「……茶……ですか」
「私が目指すのは、クリーンな政治。
貴方が希望される、ビンソンさまの時――とはかけ離れたクリーンな公務を行いますので」
「ク、……クリーン……」
狼狽(うろた)える訪問者の顔を、秘書ヒトミさんが見つめていた。
アハートさんが対応している間に、ヒトミさんは情報を得たみたい。
「何か見えましたか、ヒトミ?」
「はい。大まかですが」
「よろしい。では、話してください」
ヒトミさんが10分ほど発言する間、訪問者は口を開けっ放し、ソファーに座ったまま、コウくんが入れてくれたキキン茶に手をつけなかった。
「――以上、
貴方の過去半年間の悪事、
ざっとですが、目立って法に触れる3件を述べさせていただきました」
「ありがとうヒトミ」
ヒトミスキャンで明らかになった犯件を、コウくんが書き留める。
「……、ば……馬鹿な……ワシは……」
「ごめんなさいね。うちの秘書(ヒトミ)は、人間の心が覗けるのよ」
「よ……、読み取る能力者?」
「キキン国800年の歴史でも前例がありません」
「……」
「ご安心を。
ヒトミの『心眼』は証拠にはなりません。
それに着任したばかりの私は思った以上に多忙でして、この件を立証する気はありません、今のところ」
「そ……そうですか」
「あくまで、今のところ、……ですので。
貴方が今までのような行為を取り続けるのであれば、彼らが処理に向かいますので」
「……彼ら?」
「頼もしい秘書たちですわ」
分厚い本が山積みのテーブルで、エースとハヤテが熟読中。
国営図書館から本を借り、開いた時間に知識を得ているわけね。
俺より偉くなるつもりかなあ。
「あ……ども」
2人が訪問者に軽く会釈した。
「な、なんだ。まだ子供じゃないですか。
……ん?」
「はい。まだまだ知識不足ですが――」
そう言ったエースが、音も立てず一瞬で5メートルの距離を詰める。
訪問者の衣服の乱れを直し、靴まで磨いてあげちゃう。
全部終わって気がつく訪問者。
「あ、わわわわわ……、ま……、魔法を使えるのか!」
エースの右胸には、Aクラス魔法認定者を意味する『特魔―A』カードが貼り付けてあるよ。
ちなみに名衛軍(めいえいぐん)でも最高が『特魔―C』しか認定されておらず、
ハヤテとエースは名衛軍(めいえいぐん)に一目おかれている。
「テ、テレポート……」
「おかえりは、あちらで」
エースがにっこり笑い、菓子箱を訪問者に渡し出口を示す。
訪問者はおずおずと申し訳なさそうに帰っていった。
「これで5人目。いったいビンソンは、何人と結託してたんだろう」
「分からないわ、エースくん。
ただ、今のキキンは、弱者はいつまでも弱者。富豪はいつまでも富豪。
それが真っ当な取引や、公平な自由競争でなら良いのです」
その後。
アハートさんは商人ギルドの監視、監査役でもあり、長年に渡る癒着や独占行為を次々に打破、撤廃して行ったよ。
楯突く者はエースとハヤテが手加減して相手をする。
怪我させたら、過剰防衛でこっちが悪くなるからね。
やがてアハート秘書にAクラス魔法使いが2人もいると知れ渡り、反抗する者は減ったね。
外見(ビジュアル)は癒し系美女で公人のアハート・ロダン。
その秘書、Aクラス魔法使いハヤテとエース、心眼のヒトミ、デーモン眼のコウ。
この5人を国民は尊敬と期待を込めて『Sアハートチーム』と呼び、人気がうなぎのぼりになったよ。
キキンで知らない者はいないね。
だけど、皮肉にも、古巣の公人たちはそれが気に入らない。
◆
週に一度のキキン城定例会議。
アハートさんは外壁建設計画が大幅に遅れている理由と、明確な対応報告をしなければいけない。
国王の到着を待つ間に、公人たちがわざわざアハートさんに聞こえるように言った。
『親の計画を娘が実現する――、泣かせるじゃないですか~』
『しかし、まあ、あれですなあ~。(ビンソンの)職を盗るのは上手いが、肝心の土地を買うのは下手ですなあ』
『なーに、そろそろ得意の身体を使って、地主と契約しますよ、きっと』
『あの美貌ですからなあ。ビンソンの職も、あれで盗ったらしいですから』
『国王が、いきなり20歳の小娘を国の重役に置いたのには理由がある』
『身体を売るのは上手いってわけですか、ハハハ』
問題発言だ。
アハートさんは資料を持ったまま言い返せない。
「言わせてもらいます――」
突然、後ろで待機していた秘書ヒトミさんが立ち上がった。
勝手に前へ歩き出し、公人たちが向かう丸テーブルに向かう。
「アダマード様、こんにちは。私、アハート様の秘書ヒトミ・イエシタと申します」
「お……おう。なんだ、秘書が我に何用じゃ?」
「いえ、ただ、昨夜のお遊びで一言。
奴隷娘に無理やり薬を飲まし行為に及ぶのは、所有奴隷でも法に触れるのはご存知ですか?」
「……な、……なにを根拠に、そんな……」
真っ赤な顔で狼狽している公人の問には答えず、ヒトミさんは右隣の公人へ向く。
「マドランザ様、こんにちは。
右ポケットの包みの中身をご存知で受け取りましたか?」
「な、なにを!」
「……ああ、そうですか。要求でしたか、金額指定で。はい。なるほど。
私の勘違いなら、申し訳ありません」
「お隣は、カダリゾン様ですね、こんにちは――」
次々に公人たちの悪戯を話しだした。
言い合いになったが、エースとハヤテが制してしまう。
ただ、右胸の『特魔―A』カードが眼に入っただけで、公人たちは大人しくなる。
「遅れてすまなかったな……?
どうした、みんな」
キキン国王が到着してからも、ヒトミさんの暴露語りは続いたよ。
◆
アハートさんはヒトミさんの能力に助けてもらってばかり。
もちろん、ヒトミさんは秘書だから、アハートさんをサポートして当然なのだけど、それがアハートさんには気に入らないみたい。
いや、だからって、ヒトミさんを秘書から外そうとは考えてないはず。
『無理しないでくださいよ、アハートさん』
『いいえ、無理ではありません!』
キキンの上空を、俺はアハートさんを抱っこして飛んでいる。
身体をグライダー状に変えて水平飛行。ハゲ山を目指す。
強風に煽られ、アハートさんは満足に呼吸も難しい状況。
『ヒジカタさん。分かりますか?
私は、ヒトミを秘書におけるだけの人間にならないといけないのよ。
ヒトミは強いわ。私以上にね』
『アハートさんだって、負けてませんから!
だから、張り合わないでくださいって!』
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