SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)

文字の大きさ
136 / 182
3章

スライムの魚屋さん

しおりを挟む


 少なくとも、このサルトリーフにメッセージを書いてくれた人は、俺がスライムでも関係なく応援してくれている。
 くれなかった人の中にも、同じように応援してくれるファンがいると思う。

 少ないかもしれないけれど。
 いや、少なくても、良いじゃないかよ。 
 その人たちのためだけの魚屋さんでも良いじゃないか。

「続けようか、……魚屋を、寿司屋を」

「はい!」
「そうですよ、おとうさん!!」

 ジン、ハヤテ、エースが腕で涙を拭い微笑む。
 青ちゃんを頭に乗っけたランちゃんが真っ白な歯を見せて笑い、
 リュックを下ろしたスーちゃんがVサインを決め、
 ミキが命の次に大事な刺し身包丁をサラシから解いてゆく。

 売上がたった3万ギルでも。
 やってみよう。
 俺が思い描く、日本の魚屋さんを。

「「「あ、ありがとうございますッ!!」」」

 なに事かと思ったよ。
 2階へあがったはずの若手スタッフ18名が、拍手を始めたから。

「ど、どうちたの、ディードンちゃん?!」

 寿司屋キャンディーズの若手ディードンが真っ赤な顔で駆け寄り、ランちゃんを青ちゃん共々ハグしたよ。 

「ランさんが何だろうと、俺の師匠には変わりはねえぇぇッ! あるはずねえッ!」

「や、やめてよ、ディードンちゃん。あたちは人妻。アンちゃんという、裏切れない人がいるのよ」

 いつ嫁に行ったんだよ。
 てか、ディードンはそんなつもりじゃないから。

「きゅーきゅー!!」

 青ちゃんが母親の危険を感じ取ったのか、ディードンの頭部を半透明な身体に包み、たぶん溶解している。
 
「あ……、あああ……、もごもご」

「やめなさい、青ちゃん」

「きゅーきゅー!!」

 むにーっ、と青ちゃんを引っぺがすとディードンの頭部は、ドルン・エレイドくん30歳みたいにつるつるの丸坊主になり、顔がロウを塗ったみたいにテカテカになっていたよ。
 
「いいこと、スライムだからって甘く考えてると、酷い目にあうのよ、わかった?」
 
「は、……はい、ラン師匠」

 残りのスタッフ17名が俺を囲む。

「社長! これからもついて行きます!
 だから、がんばってください! このキキンでっ!」

「いいのか、俺は……、スライム。
 人間じゃなくて、モンスターになるんだけど……怖くないのか?」

「知ってました」

「……そ、そうなの?」

「「「「はいッ!!」」」」

 店がオープンして、数日後に分かったと言う。
 俺だけじゃなく、SSたちも人間じゃないと。ポラリスくんも。

「最初は社長に近寄るのも怖くて……、
 だけど、逃げ出さなかったのは、社長の仕事に対する情熱が、人間と何も変わらなかったから。
 私が知っている人間以上に真剣で、そして優しかったから。
 ジンさんも、ランちゃんも、ミキちゃんも、みんな必死だったから」

「……」

「人を襲い食らうモンスターと、社長たちは別です!
 どうして私たちが、国民を助ける社長たちを怖がります? 
 巨大ドラゴンが出現したときも、社長は躊躇いもせず、屋上から飛んで行ったじゃないですか!
 尊敬以外ありません」

「……み、見てたの?」
 
「はい。皆さんよく飛行されてたので、なあ」
「「だよね」」

 俺たちがモンスター家族とスタッフに認知され、
 知らなかったのは、俺たちのほうだったとは驚きだよ。
 
「社長のキキン愛は、キキン国民とかわりません。
 社長が困っている今、私たちが助けます!」   


 ◆

 
 3日経過したよ。
 
 甘くないと覚悟はしてたけど、売上は2店舗合わせて3万ギルと横ばいだね。
 仕入れ金額にも満たない。

 相変わらず、お客さんは来ないよ。
 男の子SSたち目当てのご婦人たちも、女の子SS目当てのヲタク客も。

 このまま続くと今月は大赤字になりそう。
 資金に余裕はあるけど、いずれスタッフに迷惑をかける。
 早い段階で大胆な仕掛けをしないとダメだな。

「そうだな、まず看板の店名を変えてみようかな」

「魚屋ヒジカタじゃだめなんですか? お父さんの名前ですよ」

「今までは魚屋ヒジカタだったけど、これからは《スライムの魚屋さん》にする」

「ええっ! 
 わざわざ公表するんですか!」

「そうだよ。
 悪い話、興味深い話は広まるのが早いよ。
 キキン初の刺し身や寿司を売っていた魚屋店主がスライムだったなんて、最高の話題だからね。
 逆に、スライムの魚屋さんでも良いなら買って下さいな、と開き直るわけ」

「なるほど……。でも国が許可しますかね」

「それなんだけど……、
 たぶん、キキン国は俺をそんなに悪く捉えてないと思う。
 真っ先に国王に俺がスライムだったと伝わり、判断が下されたはずだよ。
 アハートさんや、コウくん、ヒトミさんにも俺の正体を知っていたか、知っていて隠していたかを質問されているはず。
 なのに、4日経っても国から俺に何も通達がない。
 それはつまり、今のところ、ヒジカタ(スライム)を排除するつもりはない、とキキン国王は決断したと思うね」

 内区にいるアハートさんに直接訊ねたわけじゃないから、言い切れないけど、
 ほぼ間違いないだろうね。

「お父さんがいなければ、キキン国は間違いなくSSレアエインシェントに滅ぼされていた!」

「「そうだよ、そうだよ」」

 SSたちが興奮してるね。
 国王だって承知の上。

 でも、国王の決断を公表しないのは、国民の反感を買うのを恐れての事。
 エースたちアハート秘書が、未だに内区に入れないのも同じ理由だろうね。
 ほとぼりが冷め、俺の店を含め、どんな状況になるのか静観してるわけだよ。

「だから、看板でスライムをアピールしても、たぶん大丈夫。
 逆に、店を閉ざし、俺たちがキキンを逃げ出すほうが、ヒジカタはやっぱり危険生物なんだ、と思われるから良くない。
 友好的な態度を示すというか、
 ただ、魚屋家業を営みたいだけのスライムなんだと思わせるほうが良いよ」

「なるほど、じゃあさっそく」

 ジンが店先にハシゴをかけ、魚屋ヒジカタと、寿司屋キャンディーズと記された看板を撤去してゆく。
 店から一歩外に出ると俺やSSたちはもちろん、人間のスタッフにも白い目が注がれるよ。
 だから非常事態以外は人前で触手は使わない。火に油を注ぐようなものだからね。


 更に、お客さんが店に入りやすいよう『おすすめボード』も設置しようかな。
 よく飲食店の入り口に、ランチの見本を出してるよね、
 あんな感じで、2階寿司屋と1階魚屋のお買い得品を日替わりで提示するわけ。

 それに、キキン国は製紙猫(せいしねこ)が生息するお陰で、紙が安価だね。
 内区では、裕福層向けにガリ版刷り新聞があり、雑貨店には娯楽本やエッチな本もあるくらい。
 その紙でキキン国初の公告チラシを作り、俺の店から半径5キロ圏内の家々に直接配布してみようと思う。
 
 公告内容は、魚の低価格販売で集客狙い。
 キキンには馴染みがない酢飯で作る寿司、巻き寿司のアピール。
 ちょっと食べてみたいなあ、と主婦や子供に思わせたいね。
 
 公告の裏面には、美味しい魚の焼き方、煮魚の作り方、魚の保存方法、調理方法などなど、
 キキンの奥さんたちが読んで為になる、捨てずに置いとこうかしら、と思わせる魚に関するハウツーを掲載しちゃうよ。
 
 公告の端には『くじ引き券』をつけ、お客さんにひいてもらう。
 一等1000ギル相当のお造り盛り合せ、ハズレ無し。
 とにかく来店したくなるような、来店しなくても、読んで楽しい公告を配布したいね。
 
「1階店舗の壁も変えるよ」

「え? 壁面ですか……」

 木造の壁面には、明かりを取り込む、外区では珍しいガラス窓が6もあり、お陰で製氷猫が出す冷たい空気が店内をいい感じに冷やしているよ。 

「一度壊して、大型透明ガラスで両サイドの壁をつくる」

「……は? 
 ま、丸見えになりますよっ!?」

「透け透けだよ」
 
 正面はトロ箱の対面で筒抜けだから、そうなる。
 
「そ、それに、ガラスは高価ですよ、お父さん」

 ガラスは内区の教会とか、キキン城、裕福層が使うだけで、一般には広まってないね。

「もちろん。
 大型ガラスだと強度も必要だから、更に高くなるけど、それでも、外から店内の様子が見えるようにしたいね」

「わざわざですか……?」

「大事だと思う。お客さんが店に入りやすくするには」

 ジンとランちゃんたちが首をひねったよ。

「いいかい、ジン。
 この店は、魚がダメで客離れしたわけじゃないよ。
 俺たちがスライムだから、モンスターだったから」

「そうです……」

「うん。
 ――だから、お客さんに安心を売りたい」

「安心を売る?」

「数日前までは、大量に魚が売れ、うなぎの蒲焼きも長蛇の列だったよね。
 それは、お客さんが安心していたから。
 魚の鮮度と価格に満足し、蒲焼きの味を認めていたから」

「はい……」

「今は無関係な要因(俺がスライム)でお客さんが来ないわけ。
 魚が美味しいと分かっていても、数名のお客さんは来辛い、入り辛いわけ。
 
 サルトリーフにメッセージを忍ばせたのも、俺を応援しているとバレたくないから。
 モンスターに手を貸す非国民(こう言われるか分からないけど)と軽蔑される、村八分みたいな仕打ちを受ける、分かんないけど、たぶんそう警戒していると思う」

「だから、店内が見えると入りやすい。
 1人でもお客さんがいれば、釣られて躊躇しているお客さん(常連さん)も入りやすいだろ?」

 赤信号、皆で渡れば怖くない、ってやつ。

「モンスターは嫌だけど、魚が安いし新鮮だから買いに行く。
 くじ引きが、したいだけ。
 見に来ただけ。
 そう主婦が考え始めたら、お客さんは少しづつ増えるはず」

 一度でも魚を買ってくれれば、
 モンスターと知ってて、それでも買ってくれれば。
 不思議なもので、2度目はすんなり買ってくれる。
 今は損をしてもいいから、安心を、安全を売るべきだと思うね。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

処理中です...