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3章
スライムの魚屋さん
しおりを挟む少なくとも、このサルトリーフにメッセージを書いてくれた人は、俺がスライムでも関係なく応援してくれている。
くれなかった人の中にも、同じように応援してくれるファンがいると思う。
少ないかもしれないけれど。
いや、少なくても、良いじゃないかよ。
その人たちのためだけの魚屋さんでも良いじゃないか。
「続けようか、……魚屋を、寿司屋を」
「はい!」
「そうですよ、おとうさん!!」
ジン、ハヤテ、エースが腕で涙を拭い微笑む。
青ちゃんを頭に乗っけたランちゃんが真っ白な歯を見せて笑い、
リュックを下ろしたスーちゃんがVサインを決め、
ミキが命の次に大事な刺し身包丁をサラシから解いてゆく。
売上がたった3万ギルでも。
やってみよう。
俺が思い描く、日本の魚屋さんを。
「「「あ、ありがとうございますッ!!」」」
なに事かと思ったよ。
2階へあがったはずの若手スタッフ18名が、拍手を始めたから。
「ど、どうちたの、ディードンちゃん?!」
寿司屋キャンディーズの若手ディードンが真っ赤な顔で駆け寄り、ランちゃんを青ちゃん共々ハグしたよ。
「ランさんが何だろうと、俺の師匠には変わりはねえぇぇッ! あるはずねえッ!」
「や、やめてよ、ディードンちゃん。あたちは人妻。アンちゃんという、裏切れない人がいるのよ」
いつ嫁に行ったんだよ。
てか、ディードンはそんなつもりじゃないから。
「きゅーきゅー!!」
青ちゃんが母親の危険を感じ取ったのか、ディードンの頭部を半透明な身体に包み、たぶん溶解している。
「あ……、あああ……、もごもご」
「やめなさい、青ちゃん」
「きゅーきゅー!!」
むにーっ、と青ちゃんを引っぺがすとディードンの頭部は、ドルン・エレイドくん30歳みたいにつるつるの丸坊主になり、顔がロウを塗ったみたいにテカテカになっていたよ。
「いいこと、スライムだからって甘く考えてると、酷い目にあうのよ、わかった?」
「は、……はい、ラン師匠」
残りのスタッフ17名が俺を囲む。
「社長! これからもついて行きます!
だから、がんばってください! このキキンでっ!」
「いいのか、俺は……、スライム。
人間じゃなくて、モンスターになるんだけど……怖くないのか?」
「知ってました」
「……そ、そうなの?」
「「「「はいッ!!」」」」
店がオープンして、数日後に分かったと言う。
俺だけじゃなく、SSたちも人間じゃないと。ポラリスくんも。
「最初は社長に近寄るのも怖くて……、
だけど、逃げ出さなかったのは、社長の仕事に対する情熱が、人間と何も変わらなかったから。
私が知っている人間以上に真剣で、そして優しかったから。
ジンさんも、ランちゃんも、ミキちゃんも、みんな必死だったから」
「……」
「人を襲い食らうモンスターと、社長たちは別です!
どうして私たちが、国民を助ける社長たちを怖がります?
巨大ドラゴンが出現したときも、社長は躊躇いもせず、屋上から飛んで行ったじゃないですか!
尊敬以外ありません」
「……み、見てたの?」
「はい。皆さんよく飛行されてたので、なあ」
「「だよね」」
俺たちがモンスター家族とスタッフに認知され、
知らなかったのは、俺たちのほうだったとは驚きだよ。
「社長のキキン愛は、キキン国民とかわりません。
社長が困っている今、私たちが助けます!」
◆
3日経過したよ。
甘くないと覚悟はしてたけど、売上は2店舗合わせて3万ギルと横ばいだね。
仕入れ金額にも満たない。
相変わらず、お客さんは来ないよ。
男の子SSたち目当てのご婦人たちも、女の子SS目当てのヲタク客も。
このまま続くと今月は大赤字になりそう。
資金に余裕はあるけど、いずれスタッフに迷惑をかける。
早い段階で大胆な仕掛けをしないとダメだな。
「そうだな、まず看板の店名を変えてみようかな」
「魚屋ヒジカタじゃだめなんですか? お父さんの名前ですよ」
「今までは魚屋ヒジカタだったけど、これからは《スライムの魚屋さん》にする」
「ええっ!
わざわざ公表するんですか!」
「そうだよ。
悪い話、興味深い話は広まるのが早いよ。
キキン初の刺し身や寿司を売っていた魚屋店主がスライムだったなんて、最高の話題だからね。
逆に、スライムの魚屋さんでも良いなら買って下さいな、と開き直るわけ」
「なるほど……。でも国が許可しますかね」
「それなんだけど……、
たぶん、キキン国は俺をそんなに悪く捉えてないと思う。
真っ先に国王に俺がスライムだったと伝わり、判断が下されたはずだよ。
アハートさんや、コウくん、ヒトミさんにも俺の正体を知っていたか、知っていて隠していたかを質問されているはず。
なのに、4日経っても国から俺に何も通達がない。
それはつまり、今のところ、ヒジカタ(スライム)を排除するつもりはない、とキキン国王は決断したと思うね」
内区にいるアハートさんに直接訊ねたわけじゃないから、言い切れないけど、
ほぼ間違いないだろうね。
「お父さんがいなければ、キキン国は間違いなくSSレアエインシェントに滅ぼされていた!」
「「そうだよ、そうだよ」」
SSたちが興奮してるね。
国王だって承知の上。
でも、国王の決断を公表しないのは、国民の反感を買うのを恐れての事。
エースたちアハート秘書が、未だに内区に入れないのも同じ理由だろうね。
ほとぼりが冷め、俺の店を含め、どんな状況になるのか静観してるわけだよ。
「だから、看板でスライムをアピールしても、たぶん大丈夫。
逆に、店を閉ざし、俺たちがキキンを逃げ出すほうが、ヒジカタはやっぱり危険生物なんだ、と思われるから良くない。
友好的な態度を示すというか、
ただ、魚屋家業を営みたいだけのスライムなんだと思わせるほうが良いよ」
「なるほど、じゃあさっそく」
ジンが店先にハシゴをかけ、魚屋ヒジカタと、寿司屋キャンディーズと記された看板を撤去してゆく。
店から一歩外に出ると俺やSSたちはもちろん、人間のスタッフにも白い目が注がれるよ。
だから非常事態以外は人前で触手は使わない。火に油を注ぐようなものだからね。
更に、お客さんが店に入りやすいよう『おすすめボード』も設置しようかな。
よく飲食店の入り口に、ランチの見本を出してるよね、
あんな感じで、2階寿司屋と1階魚屋のお買い得品を日替わりで提示するわけ。
それに、キキン国は製紙猫(せいしねこ)が生息するお陰で、紙が安価だね。
内区では、裕福層向けにガリ版刷り新聞があり、雑貨店には娯楽本やエッチな本もあるくらい。
その紙でキキン国初の公告チラシを作り、俺の店から半径5キロ圏内の家々に直接配布してみようと思う。
公告内容は、魚の低価格販売で集客狙い。
キキンには馴染みがない酢飯で作る寿司、巻き寿司のアピール。
ちょっと食べてみたいなあ、と主婦や子供に思わせたいね。
公告の裏面には、美味しい魚の焼き方、煮魚の作り方、魚の保存方法、調理方法などなど、
キキンの奥さんたちが読んで為になる、捨てずに置いとこうかしら、と思わせる魚に関するハウツーを掲載しちゃうよ。
公告の端には『くじ引き券』をつけ、お客さんにひいてもらう。
一等1000ギル相当のお造り盛り合せ、ハズレ無し。
とにかく来店したくなるような、来店しなくても、読んで楽しい公告を配布したいね。
「1階店舗の壁も変えるよ」
「え? 壁面ですか……」
木造の壁面には、明かりを取り込む、外区では珍しいガラス窓が6もあり、お陰で製氷猫が出す冷たい空気が店内をいい感じに冷やしているよ。
「一度壊して、大型透明ガラスで両サイドの壁をつくる」
「……は?
ま、丸見えになりますよっ!?」
「透け透けだよ」
正面はトロ箱の対面で筒抜けだから、そうなる。
「そ、それに、ガラスは高価ですよ、お父さん」
ガラスは内区の教会とか、キキン城、裕福層が使うだけで、一般には広まってないね。
「もちろん。
大型ガラスだと強度も必要だから、更に高くなるけど、それでも、外から店内の様子が見えるようにしたいね」
「わざわざですか……?」
「大事だと思う。お客さんが店に入りやすくするには」
ジンとランちゃんたちが首をひねったよ。
「いいかい、ジン。
この店は、魚がダメで客離れしたわけじゃないよ。
俺たちがスライムだから、モンスターだったから」
「そうです……」
「うん。
――だから、お客さんに安心を売りたい」
「安心を売る?」
「数日前までは、大量に魚が売れ、うなぎの蒲焼きも長蛇の列だったよね。
それは、お客さんが安心していたから。
魚の鮮度と価格に満足し、蒲焼きの味を認めていたから」
「はい……」
「今は無関係な要因(俺がスライム)でお客さんが来ないわけ。
魚が美味しいと分かっていても、数名のお客さんは来辛い、入り辛いわけ。
サルトリーフにメッセージを忍ばせたのも、俺を応援しているとバレたくないから。
モンスターに手を貸す非国民(こう言われるか分からないけど)と軽蔑される、村八分みたいな仕打ちを受ける、分かんないけど、たぶんそう警戒していると思う」
「だから、店内が見えると入りやすい。
1人でもお客さんがいれば、釣られて躊躇しているお客さん(常連さん)も入りやすいだろ?」
赤信号、皆で渡れば怖くない、ってやつ。
「モンスターは嫌だけど、魚が安いし新鮮だから買いに行く。
くじ引きが、したいだけ。
見に来ただけ。
そう主婦が考え始めたら、お客さんは少しづつ増えるはず」
一度でも魚を買ってくれれば、
モンスターと知ってて、それでも買ってくれれば。
不思議なもので、2度目はすんなり買ってくれる。
今は損をしてもいいから、安心を、安全を売るべきだと思うね。
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