138 / 182
3章
家出
しおりを挟むこの世界のモンスターを大別すると、人間を助けるモンスターと、人間を襲うモンスターに分かれるよ。
製氷猫はエサを食べさせると、お腹の袋から氷を出す。
首のダイヤルを半回転すれば、氷の代わりに冷たい空気をそよそよ流すね。
精米猫は、玄米をお米にしてくれる。
製紙猫は、木材を食べさせると紙にしてくれる。
キキンの人たちにとって、魚屋を営む俺たちスライムの位置づけはなんだろうね。
俺だって製氷猫たちに負けないくらい、人間に貢献していると思うんだけどなあ。
今、俺たちは、漁師連中から侮蔑の視線を注がれている。
まあ、理由は分かるよ。
俺が触手を出し、うねうね動かし、先端をヒジカタの顔にしたし。
軽い冗談、キモいなあ~、程度のつもりだったんだけど、漁師たちにはホラーだったみたい。
昔観た映画『遊星からの物体X』で、人間の頭部がカニになるシーンがあったけど、あれ以上の衝撃なんだろうなあ。
「そ、そうなんですよ~。
スライムは身体を変化させることが出来まして、この紐みたいなのを――、
あ、これは触手と言いまして、人間で言うところの手や脚や眼ですね。
イメージすれば、こんな感じで顔だって造形できますね」
人間ヒジカタ体型から、左手を触手にし、楽しそうに微笑みながら実演してみたよ。
俺たちスライムのことを知って欲しい。
理解して欲しい。
慣れて欲しい。
「先日、SSレアエインシェントを倒したときも、この触手を武器にしましたよ」
右腕を一瞬で100センチのロングソードに変化させる。キラリと太陽光を反射したね。
漁師たちが「おお!」と感嘆の声をあげ、数名が小さく頷く。
「こんな事もできますよ」
新しく触手を作り海に突っ込み、3秒後、引き上げる。
漁師たちの前、針金のように細い触手には、真鯛が3匹巻き付いていたね。
ざわつく漁師たち。
信じられないって顔だね。
魚に詳しいからこそ、触手の凄さが分かる。
「真鯛はキキン港近辺には生息しません」
少なくとも1キロメートル沖の海域まで触手が進み、真鯛を捕まえた事になる。
捕まえたと言っても、人間が素手で泳ぐ魚は掴めないよ。銛で突ければ上出来だね。
でも、この真鯛3匹に傷はない、ピチピチ元気だね。
つまり、触手を銛状にして突いたわけじゃなく、巻きつけて獲ったことになる。
しかも、たった3秒間で。
海中を探すだけでも早くて数分だろうか。
「はい。ご察しの通り、この触手は1キロまで伸びます。
そのぶん、俺の身体が小さくなるし、触手も細くなりますけどね。
では、せっかくの真鯛ですし――」
更に新たな触手5つで、空中の真鯛3匹を手早く刺し身に造ったよ。
1つの触手がまな板。
1つが包丁。
1つが真鯛を押さえる手。
1つが水を汲んだバケツ。
1つが、出来上がった刺し身を盛り付けるお皿。
手早くと言ったけど、人間に見てもらわないと意味がないので、人間感覚で手際良いスピードだね。
10分後。
「どうぞ、よろしかったら、食べてみてください」
近くにいる3人は返事がないよ。
驚いてしまって、食べるどころじゃないみたい。
後の漁師たちは、感心しているみたい。
最後尾の、ラミア・キングに襲われ瀕死だった男は、隣の兄らしき漁師の話に耳を傾けている。
自分がどうやって海から上がり、誰が助けてくれたのか、何故生きているのか、そんな話しみたい。
やがて漁師たちは刺し身に触れもせず背中を見せ、市場に戻ってゆく。
ただ1人、襲われた男だけが怖い顔で近寄ってくる。
大量出血時に浴びた血が衣服に染み込んでいる。
誰にも聞こえないような小さな声で、
「ありがとう、ヒジカタさん……」
と口を緩めてくれたよ。
「……あ、……いや……」
面食らったね。
何か気の利いた返事をしようと思ったんだけど、男は直ぐに顔を強張らせ、市場に戻る漁師たちの後を追った。
俺の側にはジンとポラリスくんだけ。
「せっかくヒジカタさまが刺し身をお造りになったのに、1口でも食べろよ人間!」
珍しくポラリスくんがご立腹。
ジンが、人間たちの背中を睨んでいるよ。
「まあ、いいじゃないジン。
あれでも人間たちは感謝しているみたいだしね。
初日にしては手応えはあったと思う」
「初日って……?
まさか、お父さん」
「もちろん、明日も市場に顔を出すつもり。早朝が良いかな」
「やめたほうがいいかと、ヒジカタさま」
ポラリスくんも反対みたい。
分かってないなあ。
「キキン国民20万人の胃袋を満たすキキン市場には、每日大量の魚貝類が水揚げされるよ。
だけど、それらが全部さばける(完売する)わけじゃない。
水揚げ量は天候や潮に大きく左右され、多かったり少なかったり、いつも一定じゃない。
だから市場の連中が買い付けた金額より安くしないと売れ残る場合もあるね。
売れ残ると当然、翌日にまわり、客(俺たち魚屋さん)に買い叩かれる。
台風などで魚の水揚げがゼロだと、逆に高く売れちゃうけど、まあ例外だね」
「なるほど」
「そこでだ。
俺が明日から毎日市場に行き、売れ残った魚を言い値(言い値 = 市場の人の売りたい値段)で買ちゃう」
「え――――っ!!
そ、そんなもったいないッ」
「落ち着いて考えてジン。俺たちに売ってくれると思う?」
「あ、そうか。
でも、……どうなんだろう。う~ん」
「市場の人は売ってくれるか、それともモンスターだからって売らないのか」
「う~ん、分からない……」
「俺も分からないよ。
分からないから、交渉してみたいね。
ダメでも毎日通い、言い値で買う姿勢を続けていれば、いつかは売ってくれると思う。
市場の誰かが、俺に魚を売ると噂になり、『困った時はヒジカタが買い取ってくれる』そう思ってもらっても良いよ」
「なるほど。
でも鮮度が良い魚を買えないと思いますけど」
「初めはね。
最初だけだよ。
俺と取引があたり前になれば、俺に売りたい人は多いはず。
以前のように魚を買えるようになると思う」
それよりも――、
ラミアキングが気になる。
さっき、触手で真鯛を探したけど、海中でラミアキングは一体も見かけなかった。
俺の予想どおり、残モンスターならいいけど。
◆
ジンとポラリスくんと共に『スライムの魚屋さん』に戻る。
店の前に大量のトロ箱を突き出し、威勢良く魚を売っていた以前を思うと、今は悲しいくらい何もない。
店内に申し訳程度の魚が並べられいるだけ。
魚を仕入れられないから当然。
「……エースが戻らないって、どういうこと?!」
駆け寄ってきたランちゃんが言ったよ。
慌ててるから分からない。
エースから、俺へ渡して欲しいと預かった手紙を読むと。
最愛なるお父様へ
僕はやっぱり人間にはなれません
なれそうにありません
人間は、お父様や、僕たちスライムを認めません
そんな人間のために、何かをするのが辛くて、馬鹿らしくて
だから、僕はスライムとして生きてゆきます
捜さないで下さい
エース
「エースの直筆だね」
「どうするのよ、ヒジカタ」
「エースの行き先は北山だろうね」
以前からエースは俺の誕生した北山に、入っていたし……、
いま、経験値が俺に流れてきた。
SSSレアスライム(俺)は、分裂個体のSSレアスライムといくら離れていても、SSたちがモンスターを倒し獲得した経験値と同じ値がプラスされる。
簡単に言えば、俺が何もしなくても、SSたちが経験値を得ると、同じ数だけ俺にも加算されちゃう。
いま、エースが北山のモンスターを倒したんだろうね、わずかだけど入ってきたから。
エースは、スライムとして、本能のままに生きていく道を選んだのかな。
そういやアンフィニ大司教さんが言っていたなあ。
SSたちは、難易度SSのメソドラゴ遺跡のボス級だって。
エースが北山で生きてゆくとすれば、
100年、いや1000年後には、北山はエースをボスとした魔境になるんだろうか。
10
あなたにおすすめの小説
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる