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3章
人形 その2
しおりを挟む「どうした、ラミアミ」
ビンソンが筆を置いて振り向く。
緊張した秘書たちを見たからか、表情が曇ったよ。
右の秘書(ラミアミ)の足元に眼をやる。
「……出したのか?」
絨毯が大きなモミジ型で2つ落ち込んでいる。
ビンソンは青黒い物体が見えないのか……。
そういや、コイツには影がないな。
「侵入者です、ビンソン様、お下がりくださいッ」
ラミアミが、ビンソンを後手で制止したよ。
「侵入者っ?!」
もう一人の秘書も、背格好が全く同じ赤黒い人形を出現させた。
違うのは、ラミアミの青に対して、赤というだけ。
「……現在、アメーバー属性らしきモンスターが天井に2体」
「らしき?」
「はい、見たことがありません。
新種か突然変異かと」
「……むぅうう。マナスルのモンスターがロアロク内部まで侵入した、とは思えない。
反乱軍のレプリカンスタか? それとも軍の実験施設から誤って出たか。
いずれにしても、緊急の打ち鐘は鳴ってないが……」
「モンスターの侵入報告はありません!
とにかく、未知の生物。急いで避難ください」
「うむ。
モンスターは、検体用にする。確保しろ!」
「はいッ! 必ず」
「……、…………」
「なにか、ビンソンさま?」
「いや、……キキンにいた頃の、変わった生物を思い出しただけだ。
まさかとは思うが……」
あ~~、俺の事だね。
そのまさかなんだよ。
はるばるキキン国から訪ねて来たんだけど。
ビンソンは、ボディガード(ラミアミ)に促されながら、足早に部屋から出ていったよ。
残ったのは赤黒い人形(ひとがた)と青黒い人形と、もう一人の美人秘書だ。
俺はビンソンを壁伝いに追ったね。
すると、赤黒い人形がジャンプして、俺の前に両足をつけたよ。
慌てて停止。
人形の俊敏な動きに、びっくりしたよ。
それに――。
「……落ちないんだね」
何かに掴まっているわけでもないし、壁に爪を立てているわけでもない。
赤黒い毛に覆われた人形は重力に逆らい壁に垂直に立っているぞ。
「神の邪魔をするとはッ!」
後ろのビトくんが、触手を槍状にして飛ばしたよ。
分裂個体とはいえ、その素早さは7桁(3,293,056)もある。
触手を躱すには、5桁はないと無理だろう。
予想通り、人形の胸のど真ん中に触手が突き刺ささった。
かと思ったら、なんの抵抗もなく突き抜け、後ろの壁の絵画を射抜いたよ。
赤黒い人形は、ゆらゆらしているだけ。
「手応えがありません。神よ」
「みたいだね」
ズボッと引っこ抜いた触手を柔らかくして身体に戻すビトくん。
戻すときも人形の身体を触手が走ったけど、まるで煙を斬ったみたい。
見えるだけで、実態がないのか。
デーモンも人間には見えなかったけど、それとは違うみたいだ。
「なんて、速さ……、見えた? ラミアミ」
『見えたわシキアキ。紐状の槍みたいな武器。先端は鉄?』
出ていったラミアミの声が、青黒い人形から聞こえる。
離れていても、人形がいる部屋の状況が分かるのか。
いつまでも関心していられないね。
ビンソンを追わなくちゃ。
俺は床に降りて人間モードで実体化する。ビトくんも同じ。
顔は、さっき女性にキャーキャー騒がれた形にして……。
「なッ……、なんてことなの……人間になったわ」
『この生物は、身体を自由に変化させる事も出来るし、属性すらも変更出来る。しかも一瞬で。
前例がないわ。最高の検体よ』
「しかし、イケメン……」
美人(シキアキ)さんが、ポケーとしたね。
ほっぺが紅くなったぞ。
「ありがとうございます。シキアキさんも美しいですよ」
「し、喋ったわ!」
『知能が高い!』
赤黒い人形は、ビンソンが出たドアの前でゆらゆらしている。
俺たちを行かせないつもりだね。
青黒い人形が、二足歩行でゆっくりと接近してきたぞ。
『こんにちは』
表情がない、青黒い毛だけで覆われた頭部から、綺麗なソプラノボイスが届いたね。
「はい、こんにちは」
『同行してもらえるかしら? いろいろとお話しを聞きたいわ』
「ラミアミさん、でしたよね。
美人さんとトークは嬉しいけど、俺たちビンソンに用事があってね。
悪いけど、終わってからでいい?」
『ビンソン様はモンスターに用はありません』
「あーいや、手荒なことをするつもりはないよ。
質問を少しするだけ。ただ、それだけね」
ビンソンと接触すれば、何を考えているか分かるからね。
『私たちを知らなくて幸せね、あなた』
ふっ、とラミアミの笑い声と同時だったよ。
青黒い人形が、右手を大きく振りかぶる。
そのまま右ストレートを俺の顔面に打ち込んできたね。
バッシ――ンッッ!!
俺の人間化した頭部が一瞬で弾け飛んだね。
首から上がないよ。
まあ、別にいいんだけど。
「お見事~。
なかなかの速度とパワーだったよ。うんうん」
避けようと思えば出来たんだけど、ビトくんの触手がヤツの身体を空振りしたのに対して、
人形(ひとがた)の攻撃がどうなるのか気になったからね。
結果は、向こうからは殴れるけど、こっちは殴っても空振り。
向こうは触れるけど、俺たちはダメ。
なんだろう、この都合の良さは。
『あ……、あ、頭がないのに喋っている……』
「ホラーだわ」
「あっと、これは失礼。
レディに見せるべきじゃなかったね」
反省だね。反省。
シャーペンの芯みたいに瞬時に頭を出したよ。
『キモい……』
あー、まあ、そうだろうなあ。
でも、どうすりゃ良かったんだ?
「そっちだって似たようなもんじゃない」
背後の壁、ドア、絨毯の床などに飛び散った俺の頭部細胞を集合させる。
枕サイズになったので脚を4つ作り、トコトコ歩行して、俺の右足にくっついて体内に戻ったね。
『なっ……なにそれ』
「勿体無いからね。おかえり~、って事だよ」
『ふ、ふざけないでッ!!』
青黒い人形(ひとがた)が、右脚で蹴ってきたよ。
ハイスピードだけど、当然俺にはスローモーションのように見えちゃう。
頭部を狙っているね。
もう一度受けても良いけど、そうだなあ、
今度は防御してみようかな。
ギシッ!
ギリギリギリ……。
青黒い脚が、硬質化した俺の左腕で止まったよ。
「やっぱりね」
『笑うんじゃないッ!!』
人形は脚を戻し、右ストレート、左、右、右脚、左脚と、風切音を上げ連打してきたけど、全部きっちりと受けとめる。
『ハア、ハア、ハア、ハア、ハア……』
ラミアミさんの息遣いが聞こえるね。
「おつかれさま~」
『ぐぐぐ……、お、おのれッ……』
再び打ち込んできた左ストレートを肩で流し、試しに押してみたよ、人形の両肩を。
「おっ、触れたぞ」
この人形は、ゆらゆら立っている、不動の時の身体は、煙みたいに実態がない。
だけど、攻撃や防御、動いている時の身体は、実態があるんだと思う。
そういった意味で、やっぱり、顔を殴らなくて正解だったね。
人形の五感もラミアミさんと同調しているみたいだから、顔なんか殴ったら痛いだろうし、
もしかしたら、ラミアミさんの美しい顔に痣が出来るかもしれない。
『キャャ――――――――ッ!!!』
あら?!
軽くプッシュしたつもりだったのに、人形は吹っ飛んだ。
後ろの壁を突き破り、外に飛んでゆく。
「ラ、ラミアミが……」
ショボーンとして涙ぐむ残った秘書(シキアキ)さん。
やり過ぎたなあ。
「ごめんなさい」
俺は走り、開けた穴から飛び出しロケット飛行したよ。
すると、3キロメートル先の入道雲をかすり、バタバタもがきながら放物線状に落下してゆく青黒い物体を発見したよ。
触手をギューンと伸ばして――。
よしキャッチできたぞ。
引き寄せてお姫様抱っこしたよ。
普通に人間の女性一人分の重さだね。人肌に温かいし、いい匂いまでするよ。
『ど、どうやってここにッ!?』
声がする。
人形はラミアミさんの分身のような物かな。
「ジャンプだよ。ごめんね」
『そ、そんな馬鹿――』
眼下には豆粒のような建物や農耕地。ロアロク国を区切るアローズ壁が見えているよ。
降下して外壁を踏み台にしてターンしたね。
『……』
5秒でアローズ館に戻った。
人形の身体は煙のように消えていた。
「ただいま~。
……あれ?」
部屋中が赤黒い人形だらけだったよ。
天井にゆらゆら仁王立ち。壁にもゆらゆら、全部で30体以上かな。
あちこちの空間から、赤黒い人形が泡のように出現している。
何体でも出せるの?
「か、神よ~~~~」
ビトくんの悲痛な声が、人形の奥から聞こえてくる。
「ビトくん! どうした?」
「た、助けてッ!」
俺の分裂個体が苦戦しているのか?
信じられないけど。
「あら、おかえりなさい。
凄いのね、あなた」
美人秘書の姿はなく、シキアキの声だけがする。
「仲間は、ありがたくいただくわ。
くふふふふ…………」
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