SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)

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3章

神よ その2

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 残り3体。
 2体。
 1体。

「オオオオッ、ゴオルアアァァ――――――――ッッ!!」

 突然、カシアシが両拳をつくり叫んだ。

「止めなさいッ、カシアシ!」

 姉妹が抱きつくが、カシアシは叫び続ける。

 残っているヒュー・ゴアゴール1体の頭上の空間1000平方メートルが、真っ黄色に染まった。
 そこから、黄色の体毛をした人間タイプが10体下降したよ。
 
 こいつ、離れた場所にも出せるのか!

 俺をめがけて、猛スピードで突っ込んでくる。

 避ける……ッ!

「あれッ?」

 ゴアゴールに掴まれた俺は――、
 俺の攻撃力、パワーだったら簡単に解けるはずなのに、それが出来ない。
 ゴアゴールの手から逃れないぞ。

『ゴアゴールの手は、異界の手よ。生命力を吸収し終えるまで抜けれないわッ!』

 黄色い人形10体からカシアシの声が聞こえた。

『舐めた罰よ。あの世で後悔するのね、スライムさん』
 
 そう言い、人形が俺の心臓部分に腕を突き刺した。
 突き抜け、背中から人形の腕が出る。

『知ってるわよ。スライムは核を自在に動かせるのを』

 そうなんだよね。
 人形の腕の軌道から、先に核をお尻に移動させていたよ。

「俺って、ちょっとピンチかな」

『ちょっとじゃないわッッ!! 絶対絶命ッ!!』

 遅れて俺の周囲にいる9体の黄色い人形が、腕を振りかぶったよ。
 俺を突き刺すつもりだね。
 リアル黒ひげ危機一発かあ。

 俺に余裕があったのは、人形の動きがスローモーションに見えていたから。
 それに、触手で応戦できたから。
 
 瞬時に10本の触手を作り、10体の人形の胸を突いた――。 
 が、しかし、胸をすり抜け空を斬る。
 10本の触手全部が空振りした。
 
「バカなッ。
 動く人形は、俺でも触れるはずだろッ!?」

『バカは貴方よ。
 ここは地上じゃないわ。
 光りが届かない、ブルーライトだけの世界。
 貴方は、蜘蛛の巣にかかった獲物同然。諦めなさい』

 ダメだッ。
 くそッ、せめて身体が動かせれば。

 ――楽観したら命取り。
 分かっていたはずなのに……、俺ってやつは、ほんとに……。

『フハハハ。貰ったわ!!』

 カシアシの嬉しそうな言葉が届く。

 バカは死ななきゃ治らない――、
 魚屋に入りたての頃、ヘマやって、3年先輩によくそう笑われたよなあ。
 魚の知識も経験も無かったから、当然なんだけど、
 毎日市場に行き、誰よりも早く店に入り、一番最後まで魚を調理していたら、3年後、先輩より早く店を任せて貰えたね。
 やったね、って心の中でガッツポーズしたっけ。

 ここは異世界。
 やり直しが出来た前世とは違うんだよね。
 魚屋に命をかける、なんて気合入れてても、本当に死ぬことなんか無い前世と、リアルに命がけで生きているこの世界は全然違うんだよね。
 
 死ぬ間際に、やっと実感したなんて、ほんと馬鹿だよね、俺は。
 まあ、美女に殺されるんだから、良かったと思うべきかな……、なんて、諦めていたとき。

 ――――――ザンッッ!!

 ザンッ!
 ザシュ、ザン、ザンッ、ザシュ!

 俺の目前の人形が頭から分断された。
 他にも腹から両断され、肩口から斜めに斬られ、人形たちが次々に落ちてゆく。

「ビトくん?!」

 ビトくんが突然現れ、身体から刀状にした触手で、黄色い人形を片っ端から真っ二つにしていたよ。
 ビトくんの存在に、俺が気づかないなんて……、
 いや、そんな事より。

「た、助かったよ。ありがとうビトくん。
 でも、どうして触れるんだよ。俺でも無理なのに」

 奴らが青い光りに包まれている以上、奴らの身体は霧のように実体がないはず。 

 ビトくんが最後の1体を斬り終え微笑んだよ。
 それだけ、それだけで返事はない。

「どうしちゃったビトくん。なんかあったのか?」

 やっぱり返事はない。
 ゴアゴール1体が、生命値ERRになり崩れるようにたおれたる。
   
 どうしたんだろうか。
 ビトくんらしくないんだけど。

「あのスライム……動けないのに、私のイエローちゃんを10体も倒したわ」

 建物の中、カシアシが愕然として、そう言った。

「どこを見てんだよ、俺じゃなくビトくんが倒したんだけどなあ」

「念力? 念動?」
「分からないわ。未知のスライムだわ」
「たった1匹なのに、なんでよ……」

 姉妹たちが震えているよ。
 
「おい! 早くワシを地上に転移しろ。お前たちはここで戦えッ! 死んでもワシを守るのだ!」

 ビンソンがイライラしながら歩き回る。

「検体も転移させるのだ!」

「はいッ」

 検体?
 
 シキアキがビンソンの命令で部屋を飛び出したよ。
 
 検体の場所に行ったんだな。
 ビンソンの脚に密着していた個体をシキアキに向ける。
 シキアキは長い階段を降りて研究室に入り、直径1メータの桶に両手をかざしたよ。

 転移させる検体――。
 桶にはスライム細胞に似た水色ジェルが入っていたけど、力なくドロドロ。

「……」

 そんな桶の後ろに、人間モードのビトくんがゆらゆら浮かんでいたよ。
 指を下に向け、ニコニコしている。

 ビトくん!
 いつの間に、この建物に入った?
 てか、SSSレアの俺が気付かないわけがない。

 ビトくん、君は……。
 君なのか、桶の中身はッ!?

 おかしいとは、思ってたんだ……。

 こっくんしたビトくんが、もう一度微笑む。
 片手を胸の位置で振りながら、ゆっくりと薄らいでゆく。

「おい、ちょっと待ってよ、ビトくん!」

 言葉に出しても、心で念じても、返事はない。
 ビトくんの身体は、後ろの壁がはっきりと見えるくらいに消えている。

 あの時――、
 アローズ館5階のビンソン部屋で、無数の人形が出現した時だ。
 ビトくんは俺に助けを求めていたよ。
 あの時に……。

 俺(本体)は瞬時に建物の中に入り、シキアキが転移さようとする桶ごと、アイテム収納庫に入れた。
 
「はっ!?
 ギャアアアアアアアアアアッ!!」

 シキアキが、忽然と現れたスライム形態の俺に驚いた。


 …………神よ。

 どこかから、そんな声が聞こえた気がしたよ。
 もう、腰を抜かしたシキアキしか見えないんだけど。

 天に向かい、俺は触手を伸ばす。

「神は、君だよ、ビトくん」

 ありがとうな。

 
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