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3章
三女カシアシ視点 その1
しおりを挟む~ 三姉妹の末っ子、カシアシ視点 ~
今までに見たことがない光景が広がっていた。
ゴアゴール10体、私の黄ちゃん10体。
あのスライムがいとも簡単に葬った。それもたった数分で。
この地下空間は黄ちゃんの領域。
現世界の生物は、黄ちゃんに触れないはず……。
「おい! 早くワシを地上に転移しろ。お前たちはここで戦えッ! 死んでもワシを守るのだ!」
ビン野郎が赤い顔して、姉さんたちを怒鳴り散らした。
ふん!
なんだこいつ。
ついさっき、私らが逃げたのをさんざんボロカスに言ったくせに、結局、逃げるんじゃないかよ。
ビン野郎とは、目の前のひょうたん顔をしたキキン国大使ビンソン・ギインのこと。
ちんちんをビンビンにする事と、袖の下を要求する事だけ上手い。
セックスは最低、最悪、悪趣味、だけど自分はテクニシャンだと思い込んでいる、哀れな腐れジジイだ。
次女ラミ姉は、『酷く言っちゃダメよ、男の人はみんなそういうものだから、ね』と苦笑いする。
『そうそう、エッチなのよ男は。それにね、ビンソン様がいなければ、父さんも母さんも生きていないんだから』と長女シキ姉も感謝している。
半年前。
私らと私らの両親は、キキン国で暮らしていた。
私らの家は貧しく、両親はビン野郎の執事メイドとして働き、3つ子の私ら3姉妹は揃って薬が手放せないほど病弱だったので、簡単な仕事を少し手伝うくらい。
それでもヘトヘト。
ある日、両親が倒れていると知らせがあった。
ツェーン迷宮の山中だと言う。
あそこは、迷宮内のモンスターに出くわす事があり、現地の人以外誰も近づかない場所。
たぶん、両親は危険と知りながら、私らの薬代の足しにしたくて、あそこにしか生えないマッタケ、黒トリュフ、白トリュフなどの高級キノコを採っていたんだと思う。
そこでキノコ毒にやられたのか、偶然レアモンスターが湧き襲われたのか――、
とにかく両親は二人とも、身体の皮膚は溶け、顔は崩れ、腕も脚も曲がらない方向に曲がっていた。
脳の一部も欠損しているらしく、話しかけても『おお~、おうおう~』と唸るだけで、私らを娘と分かっていない。
いや、もう、人間の思考はなく、獣のよう。
それでも定期的に医師が治療をしているおかげで、今でも辛うじて人間の形状は保っている、そんな状態だ。
現在の医学や魔法では治せない、余命も分からない。
莫大なお金を使って治療をしながら、いつ迎えるかも分からない死を待つばかり。
一瞬で両親を奪われた。
この世に神なんかいるのか?
私らが途方にくれていたとき、あのビン野郎が、病院代から治療代全額を負担すると言ってきた。
ビン野郎の研究施設で、私らの両親の病を研究して治すとも。
ビン野郎は、近づきたくないし、話しもしたくない。
同じ空気を吸うと思うだけで吐き気がする。
だけど、両親を治してくれるのなら――、
いや、苦痛を少しでも和らげてくれるのなら、楽にしてくれるのなら……。
私ら3姉妹はビン野郎に全てを委ね、両親を任せることにした。
ビン野郎の勧めで、私は姉たちと一緒にビン野郎の秘書になった。
借りた大金を返すあてがない私らには、断る理由はなかった。
それより、病弱な私らに秘書が務まるのか?
心配は無用だった。
後に、私らはビン野郎から強靭な身体と特殊能力を与えられ、
秘書という名のボディガード、そしてビン野郎の世話をするメイドになった。
「はっ!?
ギャアアアアアアアアアアッ!!」
シキ姉の叫び声が聞こえた。
ついさっき、検体を取りに研究室に行ったばかりなのに――。
「止まれっ! ラミアミ、カシアシ!!」
ラミ姉について急いで向かったら、ビン野郎に止められた。
「どうしてッ!?」
「行っても無駄だ。シキアキはもう死んでいる」
ビン野郎が神妙に言った。
「な……ッ!?
バカを言えッ!!
何を根拠に!」
「ヤツだ……。キキンのスライムがこの建物に侵入して、シキアキを殺した」
外にいたはずのスライムが見あたらない。
「お前たちも知っているだろう、ヤツはエンシェントすら倒した。3体もだ」
「そ、そんな……」
ラミ姉が固まった。
キキンのスライム――。
私らがロアロクに来て2ヶ月くらいして、祖国キキンのツェーン迷宮から、全長200メートル・伝説の古竜・エインシェントが出たと言う。
それをスライム、たった1匹が倒した、と聞いていたが、
あれは話しが大きくなっただけ、ただのほら話だと思っていたが。
本当に倒していたのか?
そうだったとして――。
「外のイエローが倒されて、まだ1分も経っていないのに……」
そう、ラミ姉の言い分は正しい。
どんなに強くても、1分で何ができる?
「ヤツが本気を出せば、1分でこの星を3周するだろうよ」
「……そ、そんなに」
本当だとしたら、早いなんて次元じゃない。
だけど――。
「早くここから逃げるぞ!」
「あ……はい……」
部屋を出ようとして止まっていたラミ姉は、踵を返しておずおずと両手を合わせ召喚を始めた。
「なにをしておるカシアシ! お前もだ!」
「シキ姉を放ったらかしでいいの?!」
「だから、シキアキは死んだと言っただろうがッ!」
「分からないじゃない!! 生きてるかもしれない」
「カシアシ……、ビン様のご命令よ」
「ラミ姉……本気で言ってるの?」
「ビン様の命令は絶対よ。分かってカシアシ……」
「わ……わ……分からない、分からない分からないッッ!!!」
ラミ姉が口を押さえて驚き、ビン野郎も絶句した。
2人を放ったらかして私は、部屋を出た。
生きてる。生きてる。生きてるよ絶対。
なんで死んだって決めつけるの?!
廊下を駆け、階段を3段飛ばしに降り、地下2階、検体(スライム)を入れた部屋のドアを開けた。
すると1人の男が、床に座ったシキ姉の背後から肩を掴んでいた。
シキ姉の胸が微かに上下していて、外傷はなさそうだが、目を閉じて俯いている。
良かった生きてる!!
でも気絶?
あのシキ姉が気絶。
「あ……」
男と目線が合った。
歳は20くらい、色白の痩せ型で、短髪、醤油顔のイケメンだ。
こいつが、ラミ姉の青ちゃんと、私の可愛い黄ちゃんを消したキキンのスライムか?
……身体を変化させていやがる。
騙されないぞ。
「な、何をしているッ!? どこから入った?!」
「……いやあ、シキさんを驚かせちゃって、俺」
ニコニコしやがって、油断させる気だろうが私は姉たちとは違う。
10
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