フットモンキー ~FooT MoNKeY~

崗本 健太郎

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第7話 静岡最速の男

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第二章  信 頼 編

本日6月9日は、バランサーズのシーズン初日だ。

対戦相手は茶色のユニフォームが勇猛な掛川ブレイカーズであり、男連中はヤンキー気質のわりに全員が黒髪で統一されていたが、マネージャーが茶髪にするのは許したりもしていた。

髪の毛が、頭頂部だけ黒くなってしまっている、所謂プリンの状態になっていたり、連れてきている子供たちもその状態になっていて、現代社会の問題点を象徴するかのようであった。

義理堅い選手が多く同じ所に住み続け、なぜかマンションの高層階に住んでいることを自慢している選手が多かった。

そのほとんどが土木作業の現場で働いており、不況の煽りを受けて仕事が厳しく、そんな綱渡りの生活で、いつも少しイライラしているのであった。

そのため一見おとなしそうに見えるが気性が荒く、独身の選手は複数の女を連れていたりもした。

試合前にエースの つつみとピヴォの坪倉が話をしている。

「いよいよ今日は初戦だ。今年の運命を占う大事な一戦だ。気合い入れて行くぞ」

「はいよー。毎回熱いよね、堤」

「当然だろ。本気でやってんだからよ」

「そうだね。ははは」

そしてホイッスルが鳴り、ブレイカーズボールでの試合開始となった。

鷹揚にボールをキープしたアラの城崎から堤にパスが通り一気に走り出す。マッチアップしている すばるはあまりのことに度肝を抜かれる。

“はっや、流石は堤。県内最速は伊達じゃねえな”

 ブレイカーズのエース、堤  疾走蛇亜しっそうじゃあは100m10秒台の韋駄天であった。

11秒台前半で走れる昴でも、横に並べばこの堤を止められるかは微妙であった。

“エグいな今の。左右に振れるだけで、それがもうフェイントになるんだよな”

このチームはロングパスが多く、堤を始めとしたイケイケのオフェンスで速い展開に持ち込み、速攻を仕掛けて来るのであった。

堤はいわゆる『リベロ』と呼ばれるタイプのフィクソで、守備を起点に攻撃にも積極的に参加するようなスタイルであった。

双方速い展開で攻防を繰り返しての試合開始8分、堤と、アラの垣谷のスクリーンに反応した甘利が咄嗟に足を掛けてしまい、この試合初めてのPKとなった。これを堤が落ち着き払って決めた。

ガンバ大阪所属、元日本代表の遠藤 保仁氏を彷彿とさせる、コロコロPKで1点をもぎ取った。

これは『パネンカ』と呼ばれるもので、UEFA欧州選手権1976決勝で、チェコスロバキア代表のアントニーン・パネンカがドイツ代表のキーパーゼップ・マイヤーにチップキックでPKを決め、チェコスロバキアを優勝に導いた時のものと同じであった。

そして試合開始13分、辛損がつま先で上げたコーナーキックに昴が合わせて、強烈なダイレクトボレーシュートが炸裂した。ここへ来て1対1の同点。

「おおっ。ナイッシュー昴さん」連は場を盛り上げようとする。

そして試合開始17分、ブレイカーズは陣形が崩れ、バランサーズのプレスを受けて攻めあぐねていた。

「坪倉、お前ボール持ちすぎだって」堤は少々イラッとしたようだ。

 ボールキープが苦手なピヴォの坪倉は、別記からのプレッシャーであっけなくボールを取られてしまった。

攻勢から一気に形勢逆転してのバランサーズ側のカウンターで、酸堂からの長めのパスを、昴がヒールで華麗に流し込んだ。

それを見た堤が、悔しそうに顔を歪める。ブレイカーズのレベルは全国的に見て決して低いわけではない。

だが、自分が求めている水準に、チームが達していないということは否めなかった。

再開後、アラの堤が蹴ったロングボールを城崎がダイレクトで受け、坪倉がシュートしてチャンスを演出するが、これは惜しくも外れてしまった。

保(たもつ)が別記にパスを出したところでホイッスルが鳴り、前半が終了した。

ハーフタイムに入り、ブレイカーズ陣営はなにやら話をしているようだ。

「なんか、今朝食べたフルーツグラノーラが歯に挟まっててさ。気になるんだよな」

「しっかりして下さいよ土屋さん」

「それより聞いてくれよ。うちの子、昨日 雲梯うんていで初めて向こう側まで行けてさ」

「おい、試合中に関係ない話すんなや」苛立った堤が思わず釘をさす。

「いいじゃねえかちょっとくらい。どうせ勝っても金になるわけでもねえんだしよ」

「それは、そうだけど――」

「だったら楽しんだ方がいいだろ?どうせ遊びなんだしよ」

高校2年生まで海外遠征に行くほど真剣に陸上をやっていた堤にとって、この発言は相当に面白くないものであった。

だが社会人であるため、垣谷の言うことも一理あるという思いがあった。

きっとどちらが正しいということはないのだろう。

ただ同じチームで勝ちに拘らない選手が居るということに、堤はどうしても納得が行かないのであった。

一方のバランサーズは、堤の猛攻に対して失点が1ということもあり、わりと余裕を持って会話をしていた。

昴と保は前半を振り返る。

「フットサルでは全員が攻撃に参加するってのはあるんだけど、流石にあそこまでホイホイ上がって来られるとしんどいものがあるよな」

「そうだな。マッチアップしてるのが昴じゃなかったら、ボコボコにやられてるかもしれないよ。後半も頼んだぞ」

「任せろよ、保さん。楽勝だろ?」

「ははっ。それは頼もしい限りだな」

 保を始めこのチームの選手は皆、エースである昴に大きな信頼を寄せているのであった。

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