妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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恋愛編

57話【off duty】新條 浩平:待ち伏せ(藍原編)②

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「はい先生、あったかいコーヒー」

 近くの自販機で、新條くんが二人分の飲み物を買ってきた。

「……ありがとう」

 素直に受け取る。あたしたちは、夜の公園のベンチに座っていた。

「……あのね、先生。昨日もいったけど、俺、全然気にしてないから、引っ越したりしないで? 先生がいなくなるのは寂しい」
「……無理よ。あなたが大丈夫でも、あたしはもう無理。恥ずかしくて、今だって逃げ出したいくらいだもん」
「ねえ、あれくらい別に普通だよ? 俺はあんなの見たからって、幻滅したりしないよ?」
「そんなの、口だけよ、絶対。新條くんは、わかってない。あたし、あんなもんじゃないんだから。もう絶対、どんな人でも引いちゃうくらいのド変態なの。だから、これ以上関わりたくないの!」

 もう、新條くんを遠ざけたくて、ほとんど自爆してる気がする。

「どこが変態なんだよ、だったら俺なんて先生より変態だよ。外来でケツに指突っ込まれて、うっかり感じちゃったあげくにツッコんだ先生に惚れてさ、満員電車で勃起して先生にチンコ押し付けて、それでもアホみたいに先生にコクってさ、その上先生んちでついオナって部屋汚して、それでも先生のこと好きだってしつこくいい続けて。もう絶対嫌われてるだろって状況でさ、ああもう俺、何いってるんだろう」

 あたしのために一生懸命自分のダメなところを話そうとする新條くんを見ていて、涙が出てきた。こんなにいい子、絶対あたしなんかにはふさわしくない。

「新條くんは、わかってない! あたしなんて、あたしなんて、仕事中だってエロいことばっか考えてるんだからっ! 絶対人にはいえないようなことたくさん妄想して、だれかれ構わず感じちゃって、節操のない淫乱なのっ! あたしだって、新條くんのお尻の穴に指ツッコんでエロいこと想像したし、満員電車で新條くんの勃起したチンコ押し付けられて感じちゃったし、遊園地では、もうずっとムラムラしてそれを隠すのに必死だったんだからッ!!」

 もう何これ、何で変態自慢みたいになってんの?

「せ、先生……俺に、感じてくれてたの……?」
「ええそりゃあもうビンビンよっ! あたしはねっ、そんな自分の体も頭もコントロールできないようないやらしい女なの! わかったでしょ、あたしはあなたが考えてるような女じゃないの!」

 もう完全に開き直ってる。どうせあんなとこ見られたんだもの、怖いものなんてないわ!

「先生……俺、エロい先生、大好きだよ? ねえ、俺たち、相性バッチリだよ」

 新條くんがあたしの手を握ろうとするのを慌てて振り払う。

「違うの! 相性とかじゃないの、これは。あたし、病気なの。あたしなんかと付き合ったら、絶対、後悔するよ。だってあたし、絶対新條くんのこと、いつか裏切るから。妄想だからって、誰とでもエロいことできちゃって、ちょっといじられるとすぐ感じちゃって……相手なんて、関係ないの。体が勝手に反応しちゃうから、もう、どうしようもないの。あたしはドエロの変態で、誰にでも感じちゃう汚らわしい女だから……っ」

 いってて、自分で悲しくなってくる。これ以上傷つきたくないから新條くんと話したくなかったのに、結局新條くんを遠ざけるために、自分で自分をえぐってる。

「先生……先生は、自分のこと、わかってないね?」

 新條くんが静かにそういって、あたしの手を握った。振りほどこうとするけど、新條くんは手を離さない。新條くんは、真剣な目であたしをまっすぐ見つめていた。

「先生。先生はいつも優しくて、他人を思いやってて、すごく純粋な人だよ? 仕事のときも、普段のときも。それがいつも滲み出てるから、俺、先生のこと大好きになったんだ。体がエロくたって関係ないよ。先生の純粋であったかい心は、体がどんなにエロくても、変わらないんだよ? だから俺、先生がどんなに変態でも、絶対に嫌いにならないし、幻滅しない」
「嘘よ! 新條くんに、あたしの気持ちなんかわかるわけない!」
「嘘じゃない!」

 新條くんが、あたしを見つめて叫んだ。

「俺、先生となら、いくらでも変態になれる!」

「何を――」

 何をバカなことをいってるの。

 そういおうとして、言葉を飲み込んだ。新條くんの目が、とてもまっすぐで真剣だったから。
 そう、なのかな? あたしのあんな姿を見ても平気っていってくれる新條くん。本当に、素のあたしを曝け出しても、嫌いにならないのかな? 私とならいくらでも変態になれる、なんて……。信じても、いいのかな……。

「先生。先生、大好き……」

 新條くんの手が、あたしの肩に触れた。新條くんの顔が、近づいてくる。あたしはちょっとだけ身構えて、体をのけ反らせる。

 心を許しちゃ、いけないのかもしれない。彼の言葉はきっと本気なんだろうけど、それを信じたら、結局傷つくかもしれない。でも……。それでも……また傷つくことになっても、今は……。

 新條くんの唇が、あたしの唇に触れた。見なくても感じる、緊張した唇。軽く触れて、すぐに離れた。
 目を開けると、熱を帯びた新條くんの目が、間近であたしを見つめていた。

「先生……っ」

 吐息混じりの新條くんの声が含む湿度に、あたしの全身が粟立つ。その瞬間、あたしの中で何かが弾けて。

 あたしが新條くんの頭を引き寄せるのと、新條くんの唇が深くあたしを覆うのとは、ほとんど同時だった。

「先生っ、藍原先生……っ、んん……っ」

 タガが外れたように、新條くんの熱い舌があたしの中に入ってきて激しく動き回る。あたしは夢中でそれを追いかけて自分の舌を絡めた。

「んんっ、はあっ、新條、くんっ、んっ、ふ……っ」

 いくら絡めても、まだ足りない。新條くんの舌を、唾液を、粘膜を、すべて味わいたい。何度も角度を変えて唇を合わせ、奥へ、奥へと舌を伸ばす。少し残っていたコーヒーの味はすぐに消えて、今はもう、新條くんの味。ちう、じゅる、と互いの舌を絡めながら、唾液の味をじっくりと味わう。

「ああ、藍原先生……っ、先生、好きだ……っ」

 新條くんがどんどんあたしに覆いかぶさってきて、あたしはベンチの上に倒れ込んだ。新條くんの唇があたしのうなじへと移動する。ペロリと首筋を舐められて、あたしは快感に震えた。

「ああ……っ」

 新條くんの手があたしのトレーナーの下から、中へ侵入する。胸の膨らみをためらいがちに揉む。

「んん……」

 新條くん、そんなに遠慮しないで。そんなんじゃ、満足できない。
 あたしは新條くんの首に腕を回して引き寄せた。もっとちゃんと、触ってほしい。胸を新條くんに押しつけると、新條くんの呼吸が荒くなった。

「はあ、先生……」

 新條くんの指先が、胸の先端に触れた。

「あん……っ!」

 弱い快感が胸から上半身へじわりと広がる。ほんのちょっとの快感なのに、それを待ち焦がれていて、それがうれしくて、思わず大きな声が出てしまう。あたしは無意識に、右足を彼の腰へと回してきゅっと力を入れた。熱くなってきた下半身を、彼の下半身に押しつける。彼の中心も、熱く硬くなっているのがわかった。

「はあっ、先生……敏感だね……エロい先生も、大好き……」

 新條くんが耳元で囁く。ああ、耳は弱いの、ますます感じちゃう。あたしは新條くんに抱きついて首元に顔をうずめる。

「んっ、もっと、いじって? 新條くんに、キモチよくして、欲しい……っ」
「先生……っ、それ、ヤバい……っ」

 新條くんの股間が一気に硬度を増して、新條くんの手が――

「そこ! 何してる!?」

 えっ、な、何!?
 突然視界が眩しくなって、新條くんがパッとあたしから離れる。

「ヤバい先生、警察だっ」
「え?」

 事態の飲み込めないあたしの耳元で新條くんが囁いて、あたしを引っ張り起こした。

「おいこら、君たち、未成年か!?」

 懐中電灯を持ったおまわりさんが近づいてくるのが見えた。え、あたしたち、捕まっちゃうの?

「先生、逃げるよっ!」

 新條くんがあたしの手を引いたままダッシュする。

「待てこら、君たち、学校は!?」

 引っ張られるように一緒に逃げて、茂みの中に隠れる。はあはあと息を切らしながら、木の根元に丸まった。どうしよう、心臓がバクバクいってる。公共の場で、ついえっちなこと始めちゃったから、補導? 職質? かけられちゃったのかしら。あれかな、わいせつ罪とかになっちゃうのかな。
 ビクビクして隣の新條くんの顔を見ると、しゃがんでる彼と目が合った。新條くんは顔を赤くして息を切らしながら、ニコッと笑った。

「へへ。危なかったね、先生」

 ……うわ。こんな笑顔にも、キュンとしてる自分がいる。思わず頬が緩んじゃう。

「ちょっと、やりすぎちゃった……」
「俺は、もっとやりたかったけどね」

 やだ、そんな恥ずかしいようなうれしいようなこと、いわないで。

「……大丈夫、もう行ったみたい」

 しばらくして新條くんが立ち上がった。

「先生。晩御飯、買いに行く途中だったよね。一緒に行こうか」

 返事も待たずに、新條くんがあたしの手を握ったまま歩き出す。……新條くん、ほっぺたが赤い。寒さのせいか、走ったせいか、それとも……。

 不思議だな。ついさっきまで、話すのもあんなに嫌だった新條くんなのに、今は、近くにいるだけでなぜだかほっとする。新條くんの隣は、温かい。

 ドクンドクンとうるさいほどに高鳴る心臓の音は、なぜだか妙に心地よくて。あたしは、そっと寄り添うようにして、新條くんとコンビニに向かった。
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