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迷走編
42-2話【off duty】岡林 幸太郎 25歳:「結構悔しいから」(藍原編)②
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「……ッ」
完全に不意を突かれて、あたしはビクッと肩をすくめた。突然左耳に訪れた繊細な感触に、息が止まる。
「……先生、相変わらず耳が弱いんだね」
岡林くんがそう呟きながら身を屈めて、よける隙もないほど自然な仕草で、あたしの唇を奪った。
「……っ!」
びっくりして動けなかった。岡林くんの唇はすぐにあたしを深く覆い、油断したあたしの中へとなめらかに滑り込んだ彼の舌は、柔らかく絶え間ない動きであたしの頬を、舌を、上から下から舐めとる。その動きと熱が、一瞬にして甘い電流のように口の中いっぱいに広がって、あたしは痺れたように立ち尽くした。やめて、っていおうとしたのに。岡林くんを、力いっぱい押し返そうと思ったのに。それより先にキスをされて、その瞬間に、あたしは完全に無力化されてしまう。それくらい、岡林くんのキスは、キモチよかった。
されるがままに岡林くんに濃厚なキスをされ、やっと唇が離れたとき、あたしは急に膝が震え出してがくりと倒れ込んでしまった。岡林くんがそれを支える。
「……先生、あいかわらず、感じやすいね」
耳元で囁かれて、一気に体が火照る。おかしい、こんなはずじゃなかったのに。普通に別れようとしてたのに、どうして気がついたら、こんなことになってるの? どうして、キスされてくらいで、こんなに……膝が立たないくらい、体が震えるの。
恥ずかしすぎて、岡林くんの顔が見れない。絶対、バレてる……あたしの体がすっかりその気になって、今頃はアソコも濡れだしてること……岡林くんなら、絶対気づいてる。どうしよう、こんな、人に見られるようなところでされるとは思ってなかった。あたし、帰らなきゃいけないのに。
岡林くんの腕に掴まりながら、震える膝で何とか立とうとする。でもなかなかうまく行かない。ああ、今これ以上されたら、あたし、今度こそ流されちゃうかもしれない――
パニックになりかけたけど。岡林くんは、あたしの体を支えて、そっと立たせてくれた。
「あ……ありがとう……」
恐る恐る岡林くんを見ると、また笑われた。
「だからさ。襲われてるのに、どうしてお礼いうかな?」
そういわれても。あたし、何かおかしかったかな。もう頭が混乱していてよくわからない。何だかあたし、いつも岡林くんに笑われてる気がするけど……。
「まったくさ……俺のキスで、腰くだけるくらい感じてさ、こんなんじゃあなかなか諦めつかないよね」
独り言のように岡林くんがいう。あたしはますます恥ずかしくなってしまった。
「それは、あたしのせいじゃなくて、岡林くんがうまいから……岡林くんに触られると、何だかすぐおかしくなっちゃって……」
そう、あたしの体がエロいのも悪いけど、もとはといえば、岡林くんがそう仕向けてるんだから。自分からちょっかい出しといて、あたしがキモチよくなったら、あたしが悪いみたいにいって、そんなのひどいわ。
「……だから。そういうこというから、諦めがつかないっていってるんだよ」
岡林くんが困ったような顔であたしを見る。
「……俺さ、今でも、本気出したら藍原先生を抱けるんじゃないかって思ってる。先生を夢中にさせる自信もあるよ。でもさ……あのとき、先生が俺を庇ってくれてさ……西先生も、見なかったことにしてくれて。それで外科医になれたのに、ここで裏切るのは、なしだよなって」
あたしの膝の震えが止まったのを見届けて、岡林くんがあたしから手を離した。
「顔には出さないけど、俺、今、結構悔しいから」
「え……?」
岡林くんは笑ってもう一度あたしに顔を寄せると、囁いた。
「彼氏と別れたら、俺のとこおいでよ。遊びでも本気でも。俺は、どっちでもいいよ」
あ、遊びでも……って。
「俺、慰めるの意外と得意だから。すぐ、忘れさせてあげるよ」
意味ありげにそういって笑われるだけで、また収まりかけていたウズウズが復活する。岡林くんがいうと、シャレにならない。
うっかりまた、ありがとう、っていいそうになって、慌てて飲み込む。違う違う、ここはありがとうじゃなくて。
「わ、別れないから、大丈夫よっ! 岡林くんの世話にはならないわ!」
岡林くんは変わらずにこにこしている。
「今のところは、そうみたいだけどね。今度彼氏紹介してよ。……やっぱいいや、ムカつくから。じゃあね、先生。気をつけて帰ってね」
爽やかな笑顔で最後に毒を吐いていたような気がしないでもないけど、岡林くんは何事もなかったかのように手を振って、去っていった。……何だったの、今のは。結局あたしはいつも岡林くんに翻弄されてばっかりで、我ながらよく、踏みとどまっていられるなと思う。そして、何だかんだいってもやっぱり岡林くんはかっこよくて、いつもドキドキさせられる。岡林くんのことは、好きだと思う。体だってあんなに反応するのに、じゃあ男性として心から好きかというと、それとは違う感じで。岡林くんとしたら、キモチいいかもしれない。でも、幸せな気分になれるのは……別の人。
「……早く帰らなきゃ」
あたしは妙に浮ついた心と体を落ち着かせるように頭を振ると、S線乗り場へ急いだ。
完全に不意を突かれて、あたしはビクッと肩をすくめた。突然左耳に訪れた繊細な感触に、息が止まる。
「……先生、相変わらず耳が弱いんだね」
岡林くんがそう呟きながら身を屈めて、よける隙もないほど自然な仕草で、あたしの唇を奪った。
「……っ!」
びっくりして動けなかった。岡林くんの唇はすぐにあたしを深く覆い、油断したあたしの中へとなめらかに滑り込んだ彼の舌は、柔らかく絶え間ない動きであたしの頬を、舌を、上から下から舐めとる。その動きと熱が、一瞬にして甘い電流のように口の中いっぱいに広がって、あたしは痺れたように立ち尽くした。やめて、っていおうとしたのに。岡林くんを、力いっぱい押し返そうと思ったのに。それより先にキスをされて、その瞬間に、あたしは完全に無力化されてしまう。それくらい、岡林くんのキスは、キモチよかった。
されるがままに岡林くんに濃厚なキスをされ、やっと唇が離れたとき、あたしは急に膝が震え出してがくりと倒れ込んでしまった。岡林くんがそれを支える。
「……先生、あいかわらず、感じやすいね」
耳元で囁かれて、一気に体が火照る。おかしい、こんなはずじゃなかったのに。普通に別れようとしてたのに、どうして気がついたら、こんなことになってるの? どうして、キスされてくらいで、こんなに……膝が立たないくらい、体が震えるの。
恥ずかしすぎて、岡林くんの顔が見れない。絶対、バレてる……あたしの体がすっかりその気になって、今頃はアソコも濡れだしてること……岡林くんなら、絶対気づいてる。どうしよう、こんな、人に見られるようなところでされるとは思ってなかった。あたし、帰らなきゃいけないのに。
岡林くんの腕に掴まりながら、震える膝で何とか立とうとする。でもなかなかうまく行かない。ああ、今これ以上されたら、あたし、今度こそ流されちゃうかもしれない――
パニックになりかけたけど。岡林くんは、あたしの体を支えて、そっと立たせてくれた。
「あ……ありがとう……」
恐る恐る岡林くんを見ると、また笑われた。
「だからさ。襲われてるのに、どうしてお礼いうかな?」
そういわれても。あたし、何かおかしかったかな。もう頭が混乱していてよくわからない。何だかあたし、いつも岡林くんに笑われてる気がするけど……。
「まったくさ……俺のキスで、腰くだけるくらい感じてさ、こんなんじゃあなかなか諦めつかないよね」
独り言のように岡林くんがいう。あたしはますます恥ずかしくなってしまった。
「それは、あたしのせいじゃなくて、岡林くんがうまいから……岡林くんに触られると、何だかすぐおかしくなっちゃって……」
そう、あたしの体がエロいのも悪いけど、もとはといえば、岡林くんがそう仕向けてるんだから。自分からちょっかい出しといて、あたしがキモチよくなったら、あたしが悪いみたいにいって、そんなのひどいわ。
「……だから。そういうこというから、諦めがつかないっていってるんだよ」
岡林くんが困ったような顔であたしを見る。
「……俺さ、今でも、本気出したら藍原先生を抱けるんじゃないかって思ってる。先生を夢中にさせる自信もあるよ。でもさ……あのとき、先生が俺を庇ってくれてさ……西先生も、見なかったことにしてくれて。それで外科医になれたのに、ここで裏切るのは、なしだよなって」
あたしの膝の震えが止まったのを見届けて、岡林くんがあたしから手を離した。
「顔には出さないけど、俺、今、結構悔しいから」
「え……?」
岡林くんは笑ってもう一度あたしに顔を寄せると、囁いた。
「彼氏と別れたら、俺のとこおいでよ。遊びでも本気でも。俺は、どっちでもいいよ」
あ、遊びでも……って。
「俺、慰めるの意外と得意だから。すぐ、忘れさせてあげるよ」
意味ありげにそういって笑われるだけで、また収まりかけていたウズウズが復活する。岡林くんがいうと、シャレにならない。
うっかりまた、ありがとう、っていいそうになって、慌てて飲み込む。違う違う、ここはありがとうじゃなくて。
「わ、別れないから、大丈夫よっ! 岡林くんの世話にはならないわ!」
岡林くんは変わらずにこにこしている。
「今のところは、そうみたいだけどね。今度彼氏紹介してよ。……やっぱいいや、ムカつくから。じゃあね、先生。気をつけて帰ってね」
爽やかな笑顔で最後に毒を吐いていたような気がしないでもないけど、岡林くんは何事もなかったかのように手を振って、去っていった。……何だったの、今のは。結局あたしはいつも岡林くんに翻弄されてばっかりで、我ながらよく、踏みとどまっていられるなと思う。そして、何だかんだいってもやっぱり岡林くんはかっこよくて、いつもドキドキさせられる。岡林くんのことは、好きだと思う。体だってあんなに反応するのに、じゃあ男性として心から好きかというと、それとは違う感じで。岡林くんとしたら、キモチいいかもしれない。でも、幸せな気分になれるのは……別の人。
「……早く帰らなきゃ」
あたしは妙に浮ついた心と体を落ち着かせるように頭を振ると、S線乗り場へ急いだ。
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