妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

文字の大きさ
214 / 309
障害編

13話【off duty】戸叶 梨沙 26歳:「力になりますよ」(梨沙編)

しおりを挟む
 信じらんない。あたしの話を断っておいて、結局は、デートじゃん。だったら最初から、デートがあるから今日は無理っていえばいいのに。IDカード落としたなんていっておいて、高校時代の先輩とやらとデート。

 気になってこっそり藍原先生のあとをつけてみたら、まさか、男と喫茶店で待ち合わせなんて。彼氏がいるくせに、二股かける気? サイテー。彼氏にばらしてやろうかな。でも、誰が彼氏か知らないし。だったら……。

 Y大付属病院のホームページを検索してみる。内科で、あの優男の写真を探して……いたいた。神沢隼人っていうんだ。ふうん、マイルドな感じでモテそうじゃん。

 むかむかしながら近場で夕飯を食べて、帰ろうとしたところに、偶然、大通りの端っこに立ち尽くしてる神沢先生を見つけた。藍原先生はいない。別れたあとかな? でも……これって、チャンス。

「……神沢先生!」

 声をかけると、神沢先生はびっくりしたようにあたしの顔を見た。

「えっと……誰、だっけ……」
「戸叶です。こないだの地方会で、藍原先生と一緒にいた」
「ああ……! そうか、M病院の……」

 思い出してくれたみたい。

「こんなところでどうしたんですか? 藍原先生は一緒じゃないんですか?」

 先生はまたびっくりしたような顔をした。

「香織ちゃんと一緒にいたの、知ってるの……?」
「はい、さっき見かけましたよ。喫茶店で一緒にいるところ」
「ああ……。そうなんだ、一緒にご飯を食べてね、今、別れたところ……」

 神沢先生、妙にソワソワしてる。

「……藍原先生と、何かあったんですか? よければ話、聞きますよ?」

 神沢先生はちょっと困ったような顔をしたけど、あたしは返事を待たずに先生の手を握った。そのまま、喫茶店へ連れていく。藍原先生との関係を聞き出すチャンス!

「こないだの地方会で、たまたま再会したんですよね?」

 神沢先生はためらいがちに話し始めた。昔、藍原先生と付き合ってたこと。すれ違いがきっかけで疎遠になったけど、自分はまだ先生を好きなこと。藍原先生も自分を嫌いなわけじゃないはずだけど、うまく嚙み合わないこと。
 ……なるほど、元カレってわけね。久々の再会で、焼け木杭に火がついたって感じ? 藍原先生、うまくじらして神沢先生の気を引こうって魂胆ね。ひょっとしたら、しばらく二股で様子を見て、あわよくば乗り換えようとしてるかもしれない。だって、Y大の医者で、これだけ優しそうで自分のことを好いてくれるんなら、絶対本命になるでしょ。

「……神沢先生」

 あたしは神沢先生の手に自分の手を重ねた。

「あたし、力になりますよ。さっき、道端で先生を見かけたとき、すごく辛そうで、見ていられませんでした。あたし、何でも相談に乗りますから」

 神沢先生は、力なく笑った。

「ありがとう、戸叶さん。優しいね」
「梨沙でいいですよ。藍原先生の様子、気になるようだったら、いつでもこっそり教えちゃいますから」

 そういって連絡先を渡した。

「ありがとう、梨沙ちゃん」

 神沢先生は、渡したメモをためらいがちにポケットにしまった。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...