妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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障害編

41話【off duty】新條 浩平:「引き取りに来て」(新條編)

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 そろそろ寝ようと思っていたところに、電話が鳴った。知らない番号からだ。こんな時間に、誰だ?

「……もしもし」
『夜分にごめんなさいね、新條くんの電話かしら?』
「……そうですけど」

 知らない女の人の声だ。

『私ね、M病院内科の西園寺といいます。藍原さんの、上司』
「あ、藍原先生の……?」
『あなた、藍原さんのお隣に住んでる新條くんよね?』
「そ、そうですけど」
『あなたの彼女、私の部屋で飲んでたら酔い潰れちゃったの。今から迎えに来てくれない?』
「え……ええ!?」

 なんだそれ!? 藍原先生の上司に、俺が彼氏だって知られてるのもちょっとびっくりだけど、それでどう調べたのか藍原先生だって知らないはずの(いや、本当は教えたいんだけどタイミングがないだけで……)俺の電話にかけてきたのもびっくりだけど。え、西園寺先生の部屋で今まで飲んでて、潰れただって?

『港区の△マンション、4025号室。よろしくね』
「え、あの、えっと――」

 ……もう切れてる。予想外の事態にびっくりだけど、とりあえず、ジャージからいつもの服に着替える。港区か。最寄り駅は……品川。よかった、この時間なら電車もある。
 とりあえずバタバタと身支度をして、部屋を出た。

 地図で検索しながら、何とか辿り着いたマンションが、あまりにもでかくてびっくりする。なんだこれは、マンションじゃなくて、ホテルの間違いじゃないのか? 入り口がロビーみたいになってて、ライトアップのされ方が、ただのマンションとは思えない。……うわ、中に、受付嬢みたいなのがいるぞ?
 すごく落ち着かないけど、とりあえず、いわれたとおり4025のインターホンを押す。電話と同じ女性の声がして、自動ドアが開いた。……やばいな、こんな高級マンションだとわかってたら、もうちょっとましな恰好してきたのに。やっぱり医者ってすげえな。
 絨毯の敷かれたふわふわの廊下を通って、部屋に着く。恐る恐るチャイムを鳴らすと、しばらくして扉が開いた。

「こんばんは、新條くん。ごめんなさいね、こんな時間に」

 そういって微笑む女医は、俺が想像していたよりずっと美人で、スタイルもよくて、モデルみたいで……それで、なんていうか……とても、色っぽい人だった。……やばい、急にドキドキしてきた。呼び出されたとはいえ、俺、この人の部屋に、本当に入っていいのかな……?
 藍原先生を迎えに来たはずなのに、なぜだかものすごく後ろめたい気分になる。それでも、西園寺先生について入った広いリビングのソファで藍原先生が気持ちよさそうに寝ているのを見たときは、すごくほっとした。

「悪いわねぇ。起こしても全然起きないものだから。……ああ、とりあえずそちらに座って。せっかく来てもらったんだもの、飲み物くらい入れるわ。ワイン? ビール?」
「ええ!? あ、いや、大丈夫です、お気遣いなく……」

 すっかり恐縮していると、西園寺先生は俺を見て意味ありげに笑った。

「……可愛い藍原さんに彼氏ができたって聞いたから、いったいどんな子なのかと思ったら……。ふふふ、あなたも相当、ウブねえ」

 低くて艶のある声で、キッチンの向こう側から視線を送ってくる。その切れ長の目の、目力がすごすぎて、俺はソファの前で思わず姿勢を正す。……なんだろう、この人の、この……なんでも見透かしてるような目と、その奥にある見えない本心みたいなものと……すごく、緊張する。なんだか俺、蛇に睨まれたカエルみたいだ。

 結局、テーブルを挟んで藍原先生の向かい側の床に正座した俺の前に、西園寺先生は小さなグラスと缶ビールを置いた。

「あ、ありがとうござい……」

 藍原先生の隣に腰を下ろした西園寺先生を見て、思わず言葉が止まる。……今気づいたけど。この先生……洋服じゃなくて、ガウンを羽織ってる。外国の映画によく出てくるような、風呂上がりに着るようなやつ。それで、その下……その下、なにも、着てないよね……? パンツはどうだかわからないけど、絹のように薄くて光沢のあるガウンの、胸の合わせのところから……胸の膨らみが、ちょっとだけ、見えてる……!
 思わず生唾を飲み込み、視線が完全に動かせなくなりそうなのを大慌てで戒めて、ごまかすようにビールを飲み干す。

「い、いただきます……ッ!」

 西園寺先生は、終始意味深な笑みを湛えて、今では爆睡している藍原先生に膝枕をしている。……よかった、藍原先生はいつもの服だ。膝くらいまでのスカートと、白いブラウス。……あれ、ブラウス、ちょっとはだけてない?

「藍原先生ね、あなたのこと、あったかくて包容力があって優しいっていってたわよ」

 突然話しかけられて、俺は慌てて西園寺先生の顔を見た。なるべく胸に目が行かないように、意識して、目を見つめる。

「それでね、あなたのこと大好きなのに、どうしても怖くて最後までできないんだ、って、私に相談に来たのよ?」

 先生、そんなことまで話したんだ? ってことは、藍原先生が、よほど信頼してる人なんだな。

「どうして怖がってるのか、知ってる?」
「えっと、その……自分が、乱れる姿を見られて、俺が引かないか心配、って……」

 俺、こんなことばらしていいのかな? まずい気もするけど、この先生に見つめられると、なんだかうそをつけない気持ちになってしまう。でも、西園寺先生は、そのこともすでに知っているみたいだった。

「元カレとのことが、トラウマなんですってね? ……初体験のときにいわれた一言がショックで、それからずっと恋愛が怖かった、って」
「元カレの、一言……ですか?」
「あら、そこまでは聞いてないの?」

 うすうす気づいてはいたけど、そこまでは話してもらってない。

「……とんでもない淫乱の、ド変態、って、いわれたんですって」

 ……マジか。なんだ、そのいい方。あいつ、そんなことを藍原先生にいったのか。あんな穏やかそうな顔して、そんなひどいことを……。
 ふつふつと怒りがこみあげてきて、でも寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている藍原先生を見ると、それもすぐなくなって、代わりに胸を締め付けられるような苦しさが湧いてきた。
 ……先生。辛かったんだろうな。あんなに一生懸命、俺と最後までしようと努力してくれて、それでも無理で。努力するたびに、あいつの一言が頭をよぎって、そのたびにまた傷ついて。

「うふふ。そんなの、女にとっては誉め言葉なんだから、気にすることないのにねえ? 藍原さんてば、体はエロいくせに心は純粋だから」

 そうだな、西園寺先生なら、確かに気にしなさそうだ。こうやって座ってるだけでも物凄い色気を振りまいてるしな。……て、西園寺先生。藍原先生の体がエロいことまで、知ってるんだ? ……なんていうか、聞いた話っていうより、知ってる話……ていう雰囲気だけど。

 西園寺先生は飲みかけのワイングラスをテーブルに置くと、そっと藍原先生の髪を撫でた。ただそれだけのことのなのに、その仕草が妙にエロく感じて、ドキッとする。

「藍原さんて、可愛いわよねえ? あなたもそんなところに惚れたの?」
「え……あ……はい……」

 返事も上の空だ。だって、西園寺先生は俺に話しかけながらも、視線はずっと藍原先生で、それで……髪を撫でた指先は、そのままとても自然に先生の頬に触れて、それから首筋へ降りて……。

「んん……っ」

 首から鎖骨に指先が滑った瞬間、藍原先生が甘い吐息を漏らして、少しだけ身をよじった。俺はもう、西園寺先生の指先から目が離せなくて、身動きひとつできない。

「可愛くて、感じやすいのよね? そんなところも、好きなんでしょ?」
「え……と……」

 喉がカラカラに乾いてきた。もう、返事どころじゃない。西園寺先生の右手は、鎖骨を通り過ぎ、はだけて谷間の覗いている藍原先生の胸元にもぐりこんだ。右手を覆う胸元のブラウスがむくりと持ち上がり、その形を変える。それは、ブラの下に入った西園寺先生の手の動きを、そのままリアルに表現していて――
 やわやわとした緩慢な動きに合わせて、藍原先生が目を閉じたままぴくりと体を震わせた。

「あん……っ、あ、は……っ」

 俺はもう、心臓がバクバクで、今起きている事態を消化しきれない。これはおかしい、これは異常だってわかるけど、身動きができない。どうして、この女医さんは、藍原先生にこんなことをするんだろう? どうしてそれを、俺に見せるんだ? そんな疑問が頭をよぎったのは一瞬のことで、俺の中は今、目の前の藍原先生の姿でいっぱいだ。西園寺先生の指に、眠ったまま感じてる藍原先生の、このいやらしい姿で……。

「それでね……」

 西園寺先生が目をあげて、俺を見た。俺はまた背筋を伸ばして、ちょっとだけ前屈みになる。いつの間にか俺の股間が反応していて、何とかそれを隠そうとするけど、そんなことはもうバレてる気もする。

「大好きな藍原さんのために、私、一肌脱ごうと思って」
「え……」

 西園寺先生は、妖しげな笑みを浮かべていった。

「あなた、藍原さんと、最後までしたいんでしょう? 私が彼女と、させてあげる」
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