妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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恋愛編

38-2話【off duty】新條 浩平:遊園地(新條編)②

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 身をかがめて、藍原先生の顔の横から、外を眺める。今だけ、本当の恋人同士みたいな気分を味わっても、いいよね。静かな観覧車の中。夜景を見ながら、ふたりで寄り添って。
 隣を見ると、すぐ近くに、藍原先生の横顔。……本当に、思いつきで、デートに誘ったんだ。好きとはいったけど、自分なんかが藍原先生と付き合えるわけはないって頭ではわかってた。だから、思い出に好きな人と一回でもデートできればと思って、誘ったんだ。なのに。……ダメだ、俺、ますます藍原先生のこと好きになってる。どうせ諦めなきゃいけないんなら、もっと傷が浅いうちに、やめときゃよかったんだ。なのに遊園地なんかに誘って、こんなに楽しくて……。

 冷えた座席に突いた手が、藍原先生の手に触れた。そっと握りしめたら、先生が振り向いた。ほんのり赤い頬。少しだけ潤んだ目が、大きく開いて俺を見てる。唇はピンクで、ぷっくりと艶めいて……俺は吸い寄せられるように、先生の唇に顔を近づけた。もう少しで触れるというところで、藍原先生がぱっと自分の手のひらで唇を隠した。

「っ……だ、ダメよ新條くん、それは……っ」
「ご、ごめん……つい」

 何やってんだ、俺。付き合ってもいない相手にいきなりキスなんか迫って、完全にセクハラじゃん。はあ、またもや自己嫌悪。藍原先生といると簡単に勃起しちゃうし、すぐ触りたくなるし、挙句に……こんなに自制が効かないなんて、俺もう、ただの発情期の猿だ。
 それでも、藍原先生は困ったように笑うだけで、怒りも怖がりもしない。ずっとニコニコ優しくて、久しぶりの遊園地は楽しかったっていってくれた。帰りの電車では、うとうと居眠りして俺にもたれてきたりして。そういう無防備なところに、もう俺の心臓はずっとドキドキ、チンコはずっとズキズキしっぱなしだった。

 家に着いたのは、すっかり遅くなってからだった。隣同士に並ぶ2枚の扉を見ると、一気に現実に引き戻される。

「えっと、あの、今日は楽しかったわ、新條くん」
「俺こそ、一日中付き合ってくれてありがとうございました。すごく楽しかったです。最高でした」

 デートは1回きりの約束だ。ここでお別れしたら、またもとのお隣さんに戻るんだな……。先生は付き合う気はないっていってたし、もうこれからは、さりげなく避けられたりとかするのかな……。そう思うと、切なくなってくる。

「じゃあ、またね。大学、がんばってね」

 先生が扉を開ける。もう、行っちゃう。
 俺の暴走しっぱなしの本能が、突然先生の腕を引き寄せてその小さくて柔らかい体を抱きしめた。ふわっと、甘い匂いが漂う。

「ちょっ、し、新條くん!?」

 先生はすっぽり俺の腕の中に入って、暴れるけど俺は逃がさない。大事に大事に抱きしめて。

「藍原先生。俺、やっぱり先生のこと好きだ。応えてくれなくてもいいから、せめて、これからもお隣さんでいて」

 なんだ、この告白。やっぱり俺、カッコ悪い。でも、今の俺の気持ちを伝えなきゃって思ったら、こんなふうになった。藍原先生、伝わったかな?
 このまま自分の部屋に連れ込みたい衝動を抑えて、先生の体を離すと、先生は真っ赤になってゆっくり俺から離れた。

「えっと、ありがとう。新條くんのことは、大好きよ。これからも、いいお隣さんとして、よろしくね」

 先生はそのままあとずさりするようにして、自分の部屋に帰っていった。
 いいお隣さんとして、か。完全に、お断り、されてるよな? でも、今日だって今までだって散々セクハラまがいのことをしてきた俺のこと、好きっていってくれて……拒絶は、しないんだな。それだけでも、ありがたいって思わないと。
 全身に藍原先生のぬくもりと匂いを噛みしめながら、俺は、現実の待つ自分の部屋へと戻った。
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