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障害編
79話【off duty】佐々木 楓:「やっぱり、何かあったんだ?」(楓編)①
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インターホンを押すと、部屋着の藍原先生が出てきた。よかった、思ったより顔色は悪くない。
「先生、珍しく風邪ですか? お見舞いに来ちゃった。これ、スポーツドリンクとうどんの差し入れでーす」
「ありがとう楓ちゃん……上がってく?」
病気なのに長居するのも悪いかなあとは思ったけど、やっぱり元気のなさそうな先生を見て、ちょっとだけお邪魔することにする。
「先生、熱あるの? ただの風邪ですか?」
「ええ、ただの風邪よ。今朝は37度台まで下がってるから、明日は行けると思う……」
「そうですか。西園寺先生が、病棟のフォローしに上がってきてたから」
「ああ、迷惑かけちゃったわね……」
藍原先生、心ここにあらずといった感じでため息をついてる。それから一呼吸おいて、ちらっとあたしを見る。
「……梨沙ちゃんは、大丈夫そうだった?」
「ええ、なんだかいつも以上にご機嫌に仕事してましたよ。患者さんも落ち着いてるみたい」
「そう……」
……なんだろう。やっぱり変だな、藍原先生。何が気にかかってるんだろう?
「先生、昨日からの熱なんでしょ? 新條くんには、ちゃんと看病してもらってます?」
冷やかすつもりで訊いてみたのに、先生はびくっと大げさな反応であたしを見た。
「えっと、新條くんには、いってないわ、心配かけるから。今日だって、大学のはずだし……」
「えー、そんなもんですか?」
うーん、やっぱりおかしい。なんだかよそよそしい気もするし……。新條くんと、何かあったのかな?
「……先生。何か、ありました?」
直球で訊いてみることにした。じっと目を覗き込むと、先生は逃げるように横を向いた。
「何かって、何が?」
「いや、だから、それを訊いてるんですけど……。西園寺先生も、心配してたから」
「西園寺先生が?」
「はい。藍原さんから何か聞いてる? って、あたしが訊かれて。だからあたし、先生の具合が気になっちゃって。先生、滅多に病気しないし、病院休んだこともほとんどないから、何か、あったのかなって……」
身を引いて警戒するようにあたしを見ていた藍原先生が、きゅっと唇を噛みしめて、それからみるみる目に涙が溜まっていって、突然ぽろぽろと泣き始めた!
「せ、先生!? やっぱり、何かあったんだ!? どうしたんですか、新條くんのことですか?」
先生はぎゅうっと両目を閉じてうつむくと、パタパタと涙をこぼしながら嗚咽を漏らした。
「うぅ……っ、楓ちゃん……っ、辛いよぅ」
先生は顔を歪ませて、しゃくりあげながら、震える声で話し出した。
「梨沙ちゃんが……梨沙ちゃんが……新條くんと……っ」
「先生、珍しく風邪ですか? お見舞いに来ちゃった。これ、スポーツドリンクとうどんの差し入れでーす」
「ありがとう楓ちゃん……上がってく?」
病気なのに長居するのも悪いかなあとは思ったけど、やっぱり元気のなさそうな先生を見て、ちょっとだけお邪魔することにする。
「先生、熱あるの? ただの風邪ですか?」
「ええ、ただの風邪よ。今朝は37度台まで下がってるから、明日は行けると思う……」
「そうですか。西園寺先生が、病棟のフォローしに上がってきてたから」
「ああ、迷惑かけちゃったわね……」
藍原先生、心ここにあらずといった感じでため息をついてる。それから一呼吸おいて、ちらっとあたしを見る。
「……梨沙ちゃんは、大丈夫そうだった?」
「ええ、なんだかいつも以上にご機嫌に仕事してましたよ。患者さんも落ち着いてるみたい」
「そう……」
……なんだろう。やっぱり変だな、藍原先生。何が気にかかってるんだろう?
「先生、昨日からの熱なんでしょ? 新條くんには、ちゃんと看病してもらってます?」
冷やかすつもりで訊いてみたのに、先生はびくっと大げさな反応であたしを見た。
「えっと、新條くんには、いってないわ、心配かけるから。今日だって、大学のはずだし……」
「えー、そんなもんですか?」
うーん、やっぱりおかしい。なんだかよそよそしい気もするし……。新條くんと、何かあったのかな?
「……先生。何か、ありました?」
直球で訊いてみることにした。じっと目を覗き込むと、先生は逃げるように横を向いた。
「何かって、何が?」
「いや、だから、それを訊いてるんですけど……。西園寺先生も、心配してたから」
「西園寺先生が?」
「はい。藍原さんから何か聞いてる? って、あたしが訊かれて。だからあたし、先生の具合が気になっちゃって。先生、滅多に病気しないし、病院休んだこともほとんどないから、何か、あったのかなって……」
身を引いて警戒するようにあたしを見ていた藍原先生が、きゅっと唇を噛みしめて、それからみるみる目に涙が溜まっていって、突然ぽろぽろと泣き始めた!
「せ、先生!? やっぱり、何かあったんだ!? どうしたんですか、新條くんのことですか?」
先生はぎゅうっと両目を閉じてうつむくと、パタパタと涙をこぼしながら嗚咽を漏らした。
「うぅ……っ、楓ちゃん……っ、辛いよぅ」
先生は顔を歪ませて、しゃくりあげながら、震える声で話し出した。
「梨沙ちゃんが……梨沙ちゃんが……新條くんと……っ」
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