妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

文字の大きさ
32 / 309
妄想編

32話【daily work】西園寺 すみれ:医局(藍原編)

しおりを挟む
「さ、西園寺先生は、今から上がりですか?」

 なるべく自然に、話しかける。でも……西園寺先生の切れ長の目が、ますます細くなって、あたしをじっと見つめる。……獲物を狙ってる、蛇の目だわ、これは……。

「……ね、いったでしょ」
「え、何がですか?」

 西園寺先生がにやりと笑った。

「あの研修医、なかなかのもんだって、いったでしょ」

 う……うひゃああああ、やっぱりバレてた!? は、恥ずかしすぎるっ!! やばすぎる、夜の医局で研修医と……あ、あんな、破廉恥な……っ!

「い、いや、あの、あれはですね、先生、その、なんていうか、事故といいますか、意図的ではないといいますか、その~……」

 ダメだ、まったくいい訳が思いつかない。もうだめだ、あたし、クビになるかも……。

「あら、気にしなくていいのよ。あたしだって医局やシャワー室で、1回や2回」
「えええっ、しゃ、シャワー室ですか!?」

 う、うらやましい……っ! あたしはまだ妄想でしか経験ないわ……。じゃ、なくて! これはさすがに、誤解されすぎてる気がするわ!

「いや、あの、そういうのじゃなくて、本当に……」

 すると西園寺先生が笑っていった。

「冗談よ。ああ、1回や2回は本当だけど。あなたが医局で合意の上でそんな破廉恥な行為に及んでいたなんて、思っていないわ」
「あ、そ、そうですか……」

 いや、あの、今の一言の中に、ツッコミたいことがいろいろありましたけど……とりあえず、あたしがノリノリで研修医とイチャイチャしてたわけじゃないことはわかってくれてるようで、ほっとする。
 そんなあたしの様子を見て、西園寺先生がおもむろにいった。

「……2東、3東、3中央、4東、4西、ICU」
「……は?」

 なんですか、それ。

「あの研修医よ。ほぼ各病棟のナースに、手をつけてるわ」

 え。岡林くんが? ていうか、どうして西園寺先生がそんな情報を……。
 呆気にとられるあたしを横目に、西園寺先生がため息をつく。

「ふう……私もちょっと、見くびっていたわ。まさか、あのICUにまで手を出すとはね。あっぱれよ」

 あの、ちょっと、意味がわからないんですけど。

「あら藍原さん、わからない? ICUといえば、オペ看と一二を争う恐ろしさよ。オペ看に比べると、入院患者の件で絡まざるを得ない分、ICUナースのほうが実際は恐ろしいというのは周知の事実。あそこは師長も厳しいからね、研修医がICUナースに手を出したと師長に知れたら、確実にヤられるわ」

 え、ヤられるって、ちょっと意味が分かりません……。

「そもそもプライドの高いICUナースは、研修医ごときには絶対なびかないはずなの。それを、あの研修医は、1年目にして! ……やってのけたわけよ。……ふっ、末恐ろしい子ね。ぜひ、お手合わせを願いたいわ……」

 いやいや、話がずれてますけど。と思っていたら、西園寺先生が振り向いてビシッとあたしに人差し指を突き付けた。

「というわけで、彼が本気を出したら、あなたなんてイチコロ。実際、あやうくイチコロ状態になるところだったでしょ」
「そ、そんなことありません! ちゃんと抵抗しました、あたしは別に岡林くんを好きとかそういうのではありませんから! ただちょっと、力の差で、危うかったといいますか……あ、そういう意味では、西園寺先生がいらしてくれて助かったといいますか」

 西園寺先生は、信じてくれたのかどうかもわからないような笑みをうっすらと浮かべている。

「私の目はごまかせないわよ。……あなた、感じてたでしょ」
「ええええ!?」

 急に直球で来られて、言葉に詰まる。な、なんなの、この先生はっ!

「ああ、別にいいのよ、感じてたって。心と体は別物。それはよーく知ってるから。ただ、私がいいたいのはね」

 そういうと、西園寺先生が近づいてきて、あたしに囁いた。

「あなた、感じるとね、すごくエロくなるわ。それがね、無意識に男を誘ってるのよ。……あの研修医、まだあきらめないと思うわよ。ま、どっちの方向で収めるにしろ……せいぜい、頑張りなさいね」

 そして医局を出ていった。
 ……なんですか、今のは。またもやツッコミどころが、いろいろありましたけど……。ていうか、岡林くんとあんなことになっちゃったのも、よりによってドエロ肉食女子の西園寺先生に見られたのも、何だか、いろいろとまずいような……。ううう、明日、どんな顔して岡林くんに会えばいいんだろう……。はあ、今から気が重いわ……。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...