虹の月 貝殻の雲

たいよう一花

文字の大きさ
48 / 80
Ⅱ 幽閉

29. セラシャル葉

しおりを挟む
レイが目覚めたときには、もうとうに日が暮れていた。
寝台からふらふらと立ち上がると、レイは厨房へ向かい、そこにシルファの姿を見つけた。

「シルファ」

レイが声をかけると、人形は弾かれたように振り返り、傍に駆け寄ってきた。

「レイ様! 鈴でお呼びいただければ、こちらから参りましたのに! どうぞ、こちらにお座りください」

シルファは慌てて、厨房の片隅に置かれた椅子を、レイの前に差し出した。

「ああ、ありがとう……」

レイが椅子に腰掛けるや、シルファは胸の前に手を交差させ、膝を付いて頭を垂れた。魔族特有の、謝罪の姿勢だ。

「レイ様、申し訳ございません。私の勝手な行動が、御身を危険に晒し――」

「待てよ、シルファ。謝るのは俺の方だ。俺が無知なばっかりに、君に余計な気遣いをさせて、悪かったと思ってる。ごめんな……」

「そんな……とんでもないことでございます。レイ様……」

人形にもし、「泣く」という機能が備わっていたら、その大きな青い目から、大粒の涙が溢れていたことだろう。シルファから静かに打ち寄せてくる感情の波を受け止め、レイは何て慰めようかと、言葉を探した。

「あのさ……俺のために……もう、無茶しないでくれ。いや、俺が無茶させたんだよな。ええと……とにかく、魔力の吸収に関しては、何も気にしなくていいから、ばんばん使ってくれ。今日は吸収量が多かったから倒れてしまったけど、少しずつなら異常も感じないだろうし。……触れるだけでいいんだよな?」

「はい。レイ様に少し触れるだけで、自動的に魔力の吸収が始まり、満了となるよう設定されております。陛下にお願いすれば、他の設定も可能です。変更されますか?」

「いや。そのままでいい。簡単だし。俺、毎日シルファに触ることにする」

「はい。……ありがとうございます、レイ様」

レイはそう言うと、複雑な笑みを浮かべた。

(魔王が嫉妬に狂いそうな会話だな……)

そんな風に思った自分が気恥ずかしくなり、レイは途端に喉の渇きを覚えた。

「シルファ、俺、喉が渇いた。水くれる?」

「はい、すぐに……あ!」

立ち上がったシルファは、部屋の隅の戸棚に歩み寄り、中から小瓶を取り出した。それを大切そうに両手で包み、レイに差し出す。

「どうぞ、レイ様。お望みの品です」

「何……?」

小瓶は周囲を布で覆われているため、中が見えない。レイが瓶の蓋を開けると、途端に馴染みのある刺激的な香りが鼻腔を直撃した。

「うっ……!この匂い……まさか……」

レイは急いで瓶の中身を取り出すと、その葉の形状を確認した。

――間違いない。それは仙界原産の薬草、セラシャル葉だった。

「どうしたんだ、これ、どうやって……」

「陛下が先ほど、お持ちくださったのです。まだレイ様がお休みになっているのをご覧になってから、すぐお帰りになりました」

「魔王が……。シルファが頼んでくれたのか?」

「はい。レイ様がセラシャル葉のことをお尋ねになった日に」

「そうかぁ……。ありがとう、シルファ!」

レイの喜ぶ様子を見て、シルファもまた、嬉しそうに顔を輝かせた。

「さっそくお使いになりますか? 煎じ方をご指導いただければ、すぐにご用意いたします」

「うん。土瓶を出してくれ。低温で、十五分ほど煮詰めるんだ……」

煮詰め始めると、特有の刺激臭が厨房内に漂った。
小瓶の中に入っていた茶葉は僅かな量だったが、それでも一回分の薬草茶となり、レイはそれを一気に飲み干した。

「うげぇ――。苦ぁぁぁ……」

はっきり言って、まずい。
しかしセラシャル葉の煎じ薬は、魔力の回復に驚くほどの効能を発揮する。その上、効き目も早い。

「いかがですか、レイ様?」

「うん、さすがセラシャル葉だ。魔力が満ちてゆく手ごたえを感じるよ」

(……でも、なんで魔王はセラシャル葉をくれたんだろう……)

レイは不思議に思って首を傾げた。
友人として2年付き合ううちに、大体の性格は掴んだつもりだが、魔王はたまに、わけのの分からない反応を見せたり、行動を取ったりする。
人とは得てしてそういうものだが、魔王のそれは、どこか異質だった。

「レイ様? どうなさいましたか?」

考え込んでいるレイを心配して、シルファが声をかける。
レイは「何でもない」と首を振ると、安心させようと笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...