虹の月 貝殻の雲

たいよう一花

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Ⅲ 誓約

18. 狂気の再来(2)

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激昂した魔王の<気>が、膨れ上がって辺りを侵食してゆく。

その凄まじい威力も、強力な結界で守られたレイには届かなかった。しかし無残に枯れてゆく内庭の住人たちの姿に、レイは心を痛めると同時に本能的な恐怖を感じ、その身を震撼させた。

「やめろ……魔王。何も……傷付けるな……」

わななく唇から絞り出した声は、掠れていた。
魔王の炯眼けいがんが、レイを射抜く。

「レイ、その結界を解いて、私とねやを共にしろ」

泥沼にはまりこむのを自覚しながらも、レイは力なく首を振った。次第に高まってゆく感情を抑えきれず、涙声で叫ぶ。

「いやだ……。どうして……なんでだよっ、魔王! ロワンたちを攫う必要なんてなかった! こんな卑怯な真似をして、恥ずかしくないのか!」

「前にも言ったはずだ。おまえのいない生涯を耐え忍ぶくらいなら、卑怯者になるほうを選ぶ、と……」

魔王の唇が自嘲気味に歪められ、燃え立つ炎のような双眸が、危険な輝きを帯びてレイを見据えている。
飢えた肉食獣の標的となった小動物のように、レイは足をすくませ言葉もなく震えていた。

(……こんなやり方は……許せない)

――今、王妃になると告げれば、すべてが丸く収まるかもしれない。

しかし正義感の強いレイの矜持が、魔王を受け入れるのを妨げていた。その一方で、まったく魔王らしくない、この愚劣な手段へと走らせたのが、他ならぬ自分だという事実が、胸を突き刺す。

レイの心の揺れを感じ取ったように、魔王が口を開く。その声は冷たく、レイの心臓を凍りつかせた。

「レイ……おまえも知っているとおり、あの料理人には二人子供がいる。引き離すのは酷なので、共に我が王宮へと招待した」

「!」

「子供は弱い……。特に人間の子供は、些細な刺激で死んでしまう。だから……守ってやらねばな?……そうだろう、レイ……。怒りに駆られた私を止められるのは、おまえだけだ。……この意味が、分かるな……レイ?」

「……っ……!」

レイは胸元を押さえ、膝を付いてうずくまった。

(まさか……殺すというのかっ……! 子供を……!)

衝撃を受けるレイに、とどめとばかりに魔王の言葉が突き刺さる。

「結界を解け、レイ。これが最後だ」

レイは即座に解呪の呪文を詠唱し始めた。
息が詰まり、思うように唱えられない。
感情が高ぶり、涙が溢れて止まらなかった。
地面に片手をつき、背中を丸め、何度もつかえながら、レイは必死で呪文を唱えた。

やがて強力な結界が完全に消え去ると、魔王は即座に近づき、その場にレイを押し倒した。

「うっ!……がはっ!!」

地面に背中を強打したレイが、苦痛に体を折り曲げるのも構わず、魔王はその体の上に馬乗りになった。
魔王の目はすでに、正気を失っていた。
乱暴にレイの服を引き裂き、肌を露出させてゆく。
レイは恐怖におののきながらも、何とか魔王に正気を取り戻させようと、うわずる声で何度も呼びかけた。

「魔王……魔王……! やめてくれ……聞こえないのか、魔王!!」

しかし返事はなく、あっというまに剥き出しにされた下半身に、魔王の手がのびる。荒々しく急所を弄られ、レイは悲鳴を上げた。

「やめてくれっ! 魔王! いやだっ………いや……ふっ……ぐっ、ぐあああっ!!」

魔王の手に睾丸を強く握られ、レイは喉の奥から引き絞るような悲鳴を上げた。苦痛に顔を歪ませ、泣き叫び、指で地面を掻く。
急所を強く掴まれたのはわずかな間だったが、魔王の手はそれを離さず、今にも握りつぶされそうな不安をレイに与え、その恐怖でレイを支配していた。

「あっ……はっ……うっ……ううっ……」

レイは抵抗を諦め、すすり泣きながら地面にぐったりと体を横たえた。
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