山吹アマネの妖怪道中記

上坂 涼

文字の大きさ
63 / 63
五頭龍に愛の微笑みを

無精髭の龍神様

しおりを挟む
「おい、アマネ。そろそろ起きろ」
「お? もう着きましたか」
 所は変わって友人町駅。アマネの妖怪研究事務所があるマイホームタウンだ。
 二人は電車から降りて、改札を抜ける。服と髪に染み付いた潮の香りが、江ノ島を彷彿とさせる。前を見ると、左右に見える北口と南口から夕日が差し込んでいた。右側に見える南口の方が夕日の日差しが強い。
 南口の階段を降りる途中でアマネが言った。
「んー。もう十八時半を過ぎてるのに明るいなあ」
 彼女はぐぐっと背伸びをして、ふわあとあくびをかく。
「七月だからな。これからどんどん暑くなるぞ」
「露出の高い女の子が増えて、アッキーはうはうはですねえ」
「うるせえなあ」
 野沢は話題を変えようと、空木の話を持ち出した。
「空木はちゃんとやっていけんのかね」
 と、アマネはニコニコとした表情で、駅前のクレープ屋を指差した。
「アッキー! 明日のタカノフルーツパーラーに向けて模擬戦しようぜ」
「お前、デザートのことなんだと思ってんの?」
 野沢の言葉には耳を貸さず、我先にと一人でクレープ屋へ走っていく。彼は後ろからゆっくりと追いかけた。
「アッキーはチョコバナナで良いよね? チョコレート党だもんね」
 追いつくと、既に彼女は注文を終えていた。待ち遠しくてわくわくしているのか、声が弾んでいる。
「バッチリだ」
 と、ここで彼女が野沢からの質問を返す。
「で、空木さんでしたっけ? 彼はもう大丈夫だと思いますよ。玉依姫命と五頭龍にケジメをつけたじゃないですか」
 彼女は言いながら、クレープ屋を覗き込み、店員の手元を追いかけている。彼女はさらに言葉を続けた。
「腕を犠牲にしてでも、ちゃんと直接謝罪して。龍口明神社の御神体である木彫の五頭龍に如意宝珠を供えて。揃った夫婦に手を合わせて、江ノ島を守ることを誓ったじゃないですか」
「そうだな。……それにしても、人の成れの果ては恐ろしいな。巨大な顔だけとか正直、ちびりそうだった。霊力も尋常じゃなかったしな」
「でも、私は玉依姫命の気持ち分かるな」
 玉依姫命の話に彼女は寂しく笑う。
「異物扱いされたら、誰でもああなりますよ。私だって人間なんだ、お前らの為に犠牲になってんだ。って思っちゃいますよ、やっぱり。
 ……ずーっとそれがしこりになって、やるせない気持ちを抱えて千五百年ですよ? むしろ人の原型を留めていただけ、すげえなあって思いましたね。アッキーがちびってる時にね」
「ちびってねえよ。ちびりそうって言ったんだよ」
「アッキーはさ」
 ふいにアマネが意味ありげな視線を野沢に向けた。
「私をバカにする人がいたらどうする?」
「はっ! そんなやつがいたら、お前をバカにしなくなるまで、ネチネチと陰湿にイジメてやるよ」
 野沢の言葉に、彼女は大きな声を上げて笑い、やがて嬉しそうに言った。
「アッキーらしいね」
「だろ」
「うん」
 と、ここで「お待たせしました」の声。アマネがよそ行きの声で店員と受け答えする。
「はい、アッキーの」
「おう。サンキュー」
「……こっちこそ、いつもサンキュー」
 アマネはクレープを頬張って、ふわりと笑った。彼女の言葉に目を白黒させる自分の龍神様を見つめながら。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...