王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る

リオール

文字の大きさ
12 / 27

11、※両親視点

しおりを挟む
 
 
~※父親視点~


 あの日、いつもの茶会に行ったはずのフィリアが突然帰ってきた。しかもあろうことか、下着姿で!

 誰も訪問予定の無い穏やかな屋敷の扉を、荒々しく開く存在に眉を潜め。そして入ってきた人物の姿に目を見開いたのだ。

『フィ、フィリア!?』
『げ!お父様!』
『げ、じゃない!そ、その姿は!?』
『ええっと……ちょっと暑くって?』
『暑いからって下着姿で帰って来るか!?服は、ドレスはどうした!?』

 初参加する妹とお揃いのデザインにするんだと、二人して大喜びだったはずのドレス。
 それを、フィリアは恐る恐る頭上に掲げた。

『えっと、多分、これ……?』
『いや多分って!ボロボロじゃないか!』

 それは雑巾か何かか!?
 そう突っ込みたくなるほどに酷い状態のそれに仰天して。

 そしてなぜか濡れてる状態の娘を、まずは湯船で温まるようにさせるのが先決だった。

 その後。
 湯船から出て身なりを整えたフィリアにどうしたのかを聞いた。

『あまりに暑くって池に足をつけようとしたら、滑ってはまってしまったの』

 という言い訳に。
 長時間のお説教が決定したのは当然のことと言えよう。

 その後に帰宅した妻から王子とメリッサの話を聞いて、眉をひそめた。

 メリッサが溺れてる王子を助けた?
 それは、フィリアがずぶ濡れになったという池だろうか?
 溺れてる王子をメリッサが……。

 メリッサははたして溺れる王子を助けるのに濡れたのだろうか?
 どうやって助けたのだろうか?

 疑問は起こる。当然のように起こる。

 けれど目の前の光景に、私の言葉は呑み込まれたのだ。

 茶会から数日後のことだ、妹のメリッサがエドワード第一王子の婚約者にと打診があったのは。

 そして眼前では、楽し気にエドワード王子と話すメリッサ。
 それを微笑まし気に見つめるフィリア。

 二人とも何も言わない。
 王子をメリッサが助けた、その事について何も言及しない。

 ただ目の前の事実を受け入れる娘二人に。

 私はどうすればいいのか途方に暮れるのだった────




※ ※ ※



~※母親視点~



『あらメリッサ。どうしたの?』

 あれはいつものお茶会。
 いつも子供たちは庭園で賑やかに遊び、お菓子をつつきながら会話に花を咲かせている。
 付き添いの親や従者は、屋敷内で大人の会話をするのが常だった。

 大人が終わりの声をかけるまで、子供たちは夢中で遊び──それまでは大人の部屋に来る子供など居なかった。

 なのにあの日は違った。
 突如開かれる扉。
 飛び込んで来たのは──初参加の我が娘、メリッサだった。

 血相変えて飛びこんで来たメリッサは、私の顔を認めて泣きそうな顔で近づいてきた。

 どうしたのだろう?うまくお友達の輪に溶け込めなかったのだろうか?

 初参加としては遅い年齢のメリッサに一抹の不安を覚え。
 けれどメリッサが発した言葉は予想とは違う、けれど驚きの内容だった。

『王子様が!池で溺れたの!!』

 その後、その場が騒然としたのは当然のことと言えよう。




 王子の容体が落ち着いたところで、私はメリッサに何があったのか問うた。

『池でね、王子様が溺れてたの。だから助けたのよ』

 答えは簡潔にして明確なものだった。
 けれどその内容に首を傾げるのは、私がメリッサの母だからだ。

 王子を助けた?どうやって?
 泳いで助けたのだろうか?

『メリッサが?でも貴女は……』

 疑問に感じたことを問おうとしたまさにその瞬間、目の前を塞ぐ形で現れた王子の側近達によって阻まれる。

 無礼であると言える状況でもない。
 涙を流しながら王子を救ったメリッサに感謝する者たちに、怒りを覚えるほど狭量でもない。

 けれど私の中に生まれた疑問は、いつまでも消化されることなくくすぶり続けた。

 それから、先に帰ったと聞いたフィリアが──ずぶ濡れになっていたと聞いて驚いた。
 それでは、それではまさか……?

 けれど真実を知る前に婚約が成されてしまった。
 あれよあれよとメリッサが王子の婚約者となってしまったのだ。

 二人が話す内容から、どうやら泳いで王子を助けたようだと推測し。

 メリッサも、そしてフィリアも何も言わない。

 二人は笑っている。
 自身の幸せに笑顔を浮かべるメリッサ。そんな妹を愛し気に見つめ微笑む姉、フィリア。

 そんな二人に私は何も言えなくなってしまった。
 真実を知る事を恐れ、目を背けた。

 私だけが、母親の私だけが知っている事実。おそらくは夫も、フィリアも知らない事。

 メリッサは。
 泳げないのだ。

 それを言う勇気は。
 問い詰める勇気は。

 私には無かった。







 知らぬは罪。
 真実を語らぬは罪。

 嘘は無くとも真実もない世界で。

 歯車は、確実に軋みを上げ始めていた。







 
しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました

朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。 ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す── 「また、大切な人に置いていかれた」 残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。 これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

佐藤 美奈
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

処理中です...