神様の成れの果て

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0. 贖罪

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「あぁ、ありがとうございます。ありがとうございます」

 歓喜めいた大袈裟な言葉が施設内に響き渡る。
 
 薄暗い部屋に線香臭い匂いが充満する。

俺の足元で年配の女性が床に這いつくばり、土下座を何度も繰り返す。

 女性の燻んだ瞳からは涙が溢れていた。俺は心底面倒臭かったが、仕事の為だと割り切った。

「大丈夫ですよ。あなたは十分頑張っております。だから、もうそんなに無駄な努力を振り回さなくていい」

 俺の言葉に、女性はガバッと顔を上げる。震える瞳孔に俺の顔がしっかりと焼き付いているようだ。
 今の俺の顔は、誰がどう見ても菩薩だろう。

「ほ、本当……ですか? 本当なんですか……?!」

「えぇ。神様はいつも、あなたの頑張りを見ておりました。あなたは人に献身的で、尽くす精神が立派だと感じます。神様もそう仰っていますよ」

 俺が適当な事を言うと、女性は間に受けて酷く嗚咽を漏らした。俺は女性の頭を優しく撫で、「大丈夫だ」と囁く。
 俺の安らぎのある声に女性の声は更に大きくなる。

 本当、俺は一体何をしているんだか。心底くだらなかった。



 火花が頬を掠めた。
 辺りは煙と炎に包まれ、進む先には火の海が憚っている。

「うっ、いってぇ……」

 頭の中がジクジクと痛む。
 俺は短い間だが気絶していたようだ。心なしか昔の夢を見た心地が拭いきれない。はっきりしない意識を無理矢理起こし、壁を頼りに立ち上がる。

「助けて!!! 誰かぁぁぁ!!!」

 廊下の奥から悲痛な叫び声がこだまする。俺は驚愕し、必死に彼の名前を叫ぶ。通りがかった扉を蹴り飛ばすと案の定、そこには彼が身を縮こませている。

 安堵と灰を吸ったことによる咽せが合わさり、痰混じりの咳が襲いかかる。彼は俺を心配して駆け寄り、思い切り抱き締められた。
 
「会いたかった。……助けに来てくれるって信じてたよ」

 彼の言葉に思わず表情が硬直する。俺よりも小さい腕が腰部分に巻き付く。

 それに応えるように力強く抱き締めた。
 俺は今でも、君のことが……。
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