神様の成れの果て

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2. 祈願

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 歩道を歩くこと十分。

「猿喰、別に学校まで送って貰わなくても平気だよ」

「途中で連れ去られたら洒落になりません。何より坊は可愛いから、変な人に声をかけられないか心配なんです」

「か、可愛いって……!」

 猿喰の「可愛い」という言葉に変に意識してしまう。そう軽々しく言われただけで顔を赤くさせるのは僕の悪い癖。

「俺は本気で言ってるんですよ?」至って猿喰は真面目であった。

 猿喰は顔を近付けて、俺の片耳をすりすり触る。猿喰の指が冷たく擽ったい。

「ちょ、ちょっと……! 猿喰ったら! 人が来ちゃうから」

「じゃあ、ここを通り過ぎる人全員抹殺すれば良い話ですよね」

「どうして殺そうとするの! 絶対ダメ!」

 僕の登下校は毎回このようなやり取りを繰り返す。意中の人であるから心臓が幾つあっても足りない。
 それでも猿喰は積極的に絡み、僕に近付くのだ。恥ずかしげもなく触るのだがら、猿喰が僕に脈なしなのは一目瞭然。

 考えるだけ悲しくなってくる。

「あ、猿喰。あそこでお参りしてくるね」

 道路の傍に小さな祠を見つけ、手を合わせる。

「坊は本当に飽きませんねぇ。毎日この祠に手を合わせるなんて」

「別にご利益があるとかは気にしてないけれど、なんだか安心するんだ」

 僕は目を瞑り心の中で唱える。
 今日も良い日になりますようにっと。
 あとはいつか、猿喰が僕のことを好きになってくれたらいいなぁ。

「な、何願ってるんだろ僕。恥ずかしい……」

 猿喰には聞こえてないと良いけれど。

 幸運なことに猿喰には聞こえておらず、隣から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
 
「……坊は」

「ん?」

「坊は、神様って本当にいると思いますか?」

「……え?」

「いえ、余計な言葉でしたね。すみません」

「別に大丈夫だけれど。そう言う猿喰は、神様を信じるの?」

「俺ですか……? まぁ、いるんじゃないんでしょうか。何か縋りたい人は沢山いるでしょう」

「どう言うこと?」

 首を傾げる僕に猿喰は淡々と述べる。

「辛く苦しい時、自分で状況下を打破することも、周りに頼み込める味方もいない完全な孤独感の中で、彼らは一体何をすると思いますか?」

「さ、さぁ?」

「自暴自棄になって他所に迷惑をかけるか、自殺するか……将又は人を神だと崇拝するか。所謂神頼みってやつですよ。……本当に滑稽でしょう?」

 猿喰は鼻で笑い、祠から視線を突き放す。まるで、自分が体験したかのように内容が生々しく思わず顔を引き攣らせた。

「坊、もし何かあったら俺に何でも言ってください。俺が坊の神様になってあげます」

「あ、ありがとう……? 猿喰がいるなら僕は安心だね……」

 返答がこれで合っているのか分からないが取り敢えず笑顔を向ける。猿喰は不服そうに僕を睨む。

「俺は本気で言っているのに……」

「そんなことより早く学校に行かないと遅刻しちゃう!」

 僕は急いで立ち上がり、学校へと駆け出した。校門前に辿り着いた僕は時計を見る。

 良かった。登校時間までに間に合った。

 急いで走ったせいか脇腹が痛い。帰宅部で運動も碌にしてないツケが回ってきた。後から猿喰が息切れせずにやってくる。
 相変わらず表情を崩さない。その綺麗な顔にまた胸がときめいた。

「じゃあね、猿喰。また夕方に」

「帰宅時間は必ず連絡してください。あと、一人で下校はしないで俺の迎えが来るまで待っててくださいね。約束ですから」

「わ、分かってるよ。でも僕、別に一人でも帰れるのに」

「坊は良くても俺が駄目なんです。それに今日は組長が帰ってきますよ」

「え?! 兄さんが?!」

 僕は顔をずいっと近付ける。嬉しさのあまり勢い付いたが、猿喰の筋の通った鼻が僕の鼻に触れそうだった。

「おや、随分と積極的ですね。さっきまで周囲のことを気にしていたのに」

「ち、違っ……。てか、兄さんが帰ってくるだなんて聞いてないんだけれど!」

「そりゃあ当たり前です。さっき、逆井さんから聞いたばかりですから」

 猿喰は少し不服そうに僕の腰を引き寄せる。

「待って待って、距離が近いって」

「坊から近付いてきたのに理不尽では? 絶好の機会ではありませんか。」

「何だよ絶好の機会って! そう言う猿喰だって! 猿喰だって……」

 そっちだって、恋人とか愛人がいるくせに。それなのにどうして僕に構うんだ。思わせぶりだって分かっている。だけど、猿喰が僕に注目するのは凄く嬉しいんだ。

「俺が? 俺がいったい何なんですか?」

「何でもない。じゃ、じゃあもう行くから!」

「行ってらっしゃい。今日も愛してます」

「い、行ってきます!!」

 ややヤケクソ気味になりながら言い放ち、校舎へと走っていった。ある程度距離が離れた所でぽつりと呟く。

「猿喰のばか。なんで、いつもあんなこと言うんだ……」



【猿喰視点】

 坊の後ろ姿が見えなくなるのを確認した俺は、静かにため息を吐く。

「本当、可愛すぎて困る」

 明らかに恥じらった表情で俺を見つめた熱い視線に胸の鼓動が加速する。徐々に熱っていく顔に手を当てる。

「坊。俺には坊しかいないんです。そんなこと、分かってくれますよね……?」

 ポツリと呟いた言葉に誰も答えてはくれない。

 俺は周りから変な期待と失望を押し付けられ、誰も助けてくれなかった。そんな中、坊が純粋な眼差しで俺を必要としてくれた。

 俺が「神様になる」と坊に言ったが、彼は冗談だと受け止めたようだ。

「本気なのになぁ。俺、坊の為なら何でもしてあげますから」

 辺りから登校する生徒が俺を怪訝そうに見る。制服を着た人たちの中に、黒いスーツは一際目立つのは当たり前だ。そろそろ校門を離れようと歩いた。

 坊にこの気持ちをぶつけたらどうなるか考えただけで身震いする。恐怖に駆られ、失望するだろうか。しかし彼が拒絶しようが突き放そうが絶対に逃しはしない。

「坊、俺にとってあなたは絶対的な存在なんです。だから、坊も俺を必要としてくれますよね……?」

 だって、俺は墨怜の神様なんだから。


 ◇

【墨怜視点】

 まだ治らない胸の鼓動に耐えながら教室へと入る。教室内では既にクラスメイトで賑わっていた。僕の姿を確認した一人の生徒がこちらに手を振る。

「おはよー。すみちん」

「おはよう。霧雨きりさめくん」

「おはよう、墨怜」

練太郎れんたろうくんもおはよう」

 僕はこの学校で仲良しな人が二人いる。
泰泉寺しんせんじ霧雨きりさめくん。関西から引っ越してきたそうで、今はマンションで家族と暮らしているとのこと。
 方弁混じりの気さくな口調で場を盛り上げるのが得意な人だ。

 もう一人は手塚てづか練太郎れんたろうくん。空手部の主将でガタイもいい。まっすぐで正義感が強く、男女問わず信頼感のある人だ。

「今日もお熱い登校で」

「み、見てたの?!」

「そりゃ窓からガッツリ見えてたし」

 霧雨くんは窓側に指差し、当然だと言い張る。

「しかも今日は校門前でキスしてなかったー?」

「し、ししししてない!! 誤解だってば! あれは少し事情があって」

「ほんまかー?」

「本当本当!!」

 口角を上げて笑う霧雨くんに僕は必死に頷く。それと同時にスマホからバイブ音が鳴った。

「さ、猿喰……?!」
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