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52話:初仕事1 魔物討伐
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「というわけで、北の街道に来たわよ! いやー、粘魔を探すなんていつ以来かしら」
妙にテンションの高いリアナが、街道の中央で腕を組みながら仁王立ちをしている。
先輩冒険者としての威厳を出そうとしているのだろうか、俺たちよりも張り切って見える。
「どうしてこうなった……」
ついて行くと言い出した時、俺と職員は揃って理由を聞いたが、リアナはあっけらかんとした態度でこう言った。
『なんか面白そうだから―。そもそも協会に来たもの、仕事をしに来たというよりただ暇つぶしに来ただけだし』
とのこと。暇していたところへ偶然俺たちが居合わせたというわけだった。
最初は戸惑ったが、これは俺たちにとっても助かる話だ。俺もフィリアもここら辺のことはまったく知らないから、土地勘のある者の案内があるとスムーズに依頼をこなせるというものだ。
「しかし、本当に依頼を受けなくても良かったのか? いくら暇つぶしと言ったって、せっかく町から出たのに報酬も何もないんじゃ損した気分にならないか?」
リアナは今回、何の依頼も受けずについてきた。Cランクの依頼を受けることもなく、俺たちの依頼を一緒に受けたわけでもない。だからこの時間はリアナとって報酬も実績にもならない、まったく利益にならないのだがそれでいいのだろうか?
「何水臭いこと言ってるのよ。友達が後輩になったんだから、先輩として少しくらい面倒を見ないとね。それに、フィリアのお父さんからたっぷり報酬貰ったから、お金にはしばらく困らなくなったしね」
「そうか。そういうことなら、遠慮なく先輩を頼らせてもらおうかな」
いつから友達になったのかという疑問はあるが、その厚意はありがたい。村にいる間は領主様の館に泊っていたためか、フィリアとも仲が良いみたいだしな。
リアナに率いられて、俺たちは街道から外れて森の中へ入っていく。
雰囲気的にはロスウェル村の西の森に近く、強い魔物の気配は感じられない。居てもせいぜいDランク……いや、それすらもこの森に居るかどうかも怪しいな、これは。
「粘魔……森とかではよく見るけど、どうして討伐依頼が出ているのかしら? 粘魔自体はまったく害はないのに……」
依頼を選んだフィリアがそんな疑問を投げかけると、それに対してリアナが答えた。
「確かに粘魔は狂暴ではないけど、増えすぎるとそれはそれで問題があるのよ? なにせアイツ等は基本なんでも食べるからねー。魔物や動物の死体なんかを食べてくれるのはありがたいけど、放置すると薬草なんかも食べちゃうから、ちょっと面倒だけど定期的に減らしておかないといけないの」
リアナの言う通り、粘魔は主に魔物などの死体や糞、腐り落ちた果実などを積極的に食してくれる。しかしそれらが見つからない場合は、草や新鮮な果実なんかも食べるし、それどころか石ころまで身体に取り込み食べてしまう。時には人の畑に侵入して作物を荒らしたり、鳥の巣に潜り込んで卵や雛を捕食することもあるという。
もはや雑食を通り越して悪食だが、それ以外にはこれと言って害がない。
魔物と言ってもその性格は温厚そのもので、身体の大きい人や魔物を襲うようなことはまずない。また柔らかいゲルの身体に、内臓は魔石のみという非常に単純な構造をしているため、他に類を見ないほど非常に貧弱な存在となっている。
魔石を覆っているゲルもそこまで厚くないため、少し硬い木の棒で強く叩けば衝撃で魔石が傷付き弱るし、刃物や魔物の牙なんかで魔石を欠けさせればあっさりと死んでしまう。ともすれば、そこら辺で拾った木の棒を持った、そこら辺の五歳児でも簡単に倒すことができてしまう。
その貧弱さ故に、粘魔は「最弱の魔物」の名を欲しいままにしている。中にはその弱さをから皮肉を込めて「偉大なる生命体」と呼ぶ者もいる。
「とは言え、下手に触ると獲物と勘違いして溶かされちまうからな。間違っても「カワイイ~」なんて言って野生の粘魔を撫でるなんてことするなよ?」
「さすがにそんなことしないわよ⁉ 私をなんだと思ってるの!」
そう言ってフィリアは怒るが、こいつは幼少の頃に初めて見た粘魔に手を突っ込んで焼けどしたことがある。
幸いすぐに気付いた俺が急いで手を引っ張って、粘魔を蹴り飛ばしたことにより、傷跡にもならない軽い怪我で済んだ。
あの時は大変だったなあ。周りには他にも同年代の子どもがいたが、泣き出したフィリアを見て子どもたちも粘魔に怯え始めるわ、フィリアが怪我したってんで村の大人たちまで慌てだすわで大騒ぎだった。
「……ちょっと、今なにか変なこと考えなかった?」
「いや別に。ちょいと昔のことを思い出しただけだ――っと、そんなことより、噂をしていれば出て来たぞ」
誤魔化すように前方を指さすと、そこに水色の身体をナメクジのように引きずる丸い生き物がいた。
大きさは子どもが蹴って遊ぶボール程度で、透明度のない粘液の身体は日の光を反射して妙にテカっている。動きは非常に遅く、人間の歩行にも劣っている。奴が全速力で動けばもう少し早いが、それでも人間の速足で十分に追いつける程度しか出ない。
あれがかの有名な最弱の魔物、粘魔だ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……結構いるな。運よくまとまっているところに出くわしたみたいだ」
最初に目についた水色の個体の他に、周囲には色の異なる粘魔が何匹もいた。確認できる色は、水色の他に緑色と黄色の三色。若干水色と、黄色の個体が多いか。水場が近くに有るのかな?
「しっかし、あれだな……粘魔は狩りの間にも何度も見てきたが、獲物として見たことはほとんどなかったな」
「アンタの言いたいことわかるわ。アタシも粘魔の依頼を受けたことなかったから、今奇妙な感動を覚えてる」
同じことを感じたのかリアナが俺の言葉に反応する。
俺のような頻繁に森で狩りをする人間や、リアナのような各地を移動する冒険者などは、粘魔を目にすることは何度もある。それこそ、外へ出れば確実に一度は目にするくらいには粘魔という魔物はありふれている。
粘魔は食える部位もないし、魔石は脆いから持ち帰って売っても二束三文にしかならない。だから見かけても大抵は無視して放置するし、野外での活動に慣れてしまえば路傍の小石程度にしか気に留まらない。
だからこそ、いざ「獲物」として粘魔と対峙すると、なんだか妙な新鮮味を感じる。
例えが適切かわからないが、普段は素通りするだけの近所の家を観察したら、こんな風な材質の壁を使っているのかと新たな発見があったような。当たり前のように渡っている橋の上から、川を眺めていたら魚が跳ねているのが見えたかのような。そんな、えも言えぬ感動があった。
そんな俺たちの様子を見ていたフィリアは、「何を言っているんだ」と言わんばかりに溜息を吐いて、そして――
「【炎矢】」
「「あ……」」
最初に見つけた水色の粘魔が火の矢に貫かれた。粘液の身体は熱で湯気を出しながら崩れて消えていき、その跡には水色に澄んだ魔石が一つ転がった。
「親切で手伝いに来たリアナはともかくとして、アゼル。ぼやっとしてないで、真面目に仕事しなさい」
「……それもそうだな」
フィリアに窘められたので、俺も気を取り直して剣を抜く。
フィリアの【炎矢】に驚いて周りの粘魔が慌てて逃げ出したが、先も言った通り速足で十分に追いつけるほどに遅い。
あっという間に黄色い粘魔に接近すると、剣を抜いて真上から粘魔を貫き、そのまま横に引き裂く。それだけで粘魔は徐々に弱っていき、身体を崩壊させていく。
粘魔の倒し方は主に二種類だ。魔術で攻撃するか、武器で魔石を傷付けるかだ。
最終的に売ることを考えると魔石は極力傷付けない方が良いが、魔術を修めている人間はあまり多くない。魔術を勉強してから入った者は別だが、新人の若い冒険者や兵士の多くは魔術の使えない者のほうが一般的だ。故に、粘魔の魔石の多くは武器で傷付いた状態で売却されるされることが多い。
魔術を用いずに魔石を傷付かせない方法はいくつかあるが、一番手っ取り早いのは手を突っ込んでゲルの身体から無理やり魔石を引っこ抜く方法だ。ただそれをすると命の危機を察知した粘魔が本気で手を溶かしにかかるため非常に危険だ。最悪の場合は手に大きな傷跡を残すほどの怪我を負う可能性もある。
それをするほど粘魔の魔石に高い価値は無いから、狩る方も買い取る方もある程度の傷は許容している。
「ほい、二匹目」
黄色い粘魔から出てきた黄色い魔石を拾い、すぐに別の個体を追いかけて剣を突き立てる。刺したらすぐに抜かないと剣先が溶かされて血が落ちてしまうのが少々面倒だが、それ以外はまったく楽なものだ。
粘魔は己の脆さを理解しているためか、斬りつけられてもこちらに反撃することはなく逃げるばかりだ。運よく魔石を外して致命傷を免れた個体もいたが、なにぶん動きも遅いためすぐに追いつきもう一撃加えて処理する。
こうなるともはや作業のようなもので、俺は淡々と剣で周りの粘魔を狩っていく。
フィリアも【炎矢】を次々と放って倒していくが、途中から粘魔を倒すことを目的とするよりも、遠くから【炎矢】を当てることに集中していたように見える。ま、粘魔退治なんてそんなものだな。
それぞれ十匹程――計二十体を倒したあたりで、持ってきた袋が魔石でいっぱいになったため、討伐は打ち止めにした。
「どう、リアナ? これくらいでいいかしら?」
「うん、いいんじゃない? これだけだと大半が食事に消えるだろうけど、依頼的には十分な量だと思うわ。まだ薬草の採取の依頼も残っているし、切り上げるには丁度いい目安ね」
袋の中身を見たリアナも太鼓判を押す。依頼書にも正確な数は書かれていなかったから、それなりにまとまった数があれば良いだろう。少なくとも、今日の宿代は稼げた。
「さてと……それじゃあ次は、緋露芍薬を探しに行くか。リアナ、生えているそうな場所に心当たりはあるか?」
「自分で探すのも冒険者の仕事よー……とか格好よく言えたら先輩らしかったけどね、アタシも実は知らないんだ。フローレ草の場所なら心当たりがあるから、そっちで良ければ案内するけど?」
「フローレ草か……」
フローレ草は外傷を癒す軟膏「回復薬」の材料である特別な薬草だ。特別といっても、これ自体は豊かな森であればよく見かける薬草だ。特別なのはそれを加工して作られた薬の効力だ。
怪我の深さにもよるが、この薬を傷に塗ればたちまち傷が癒えるという代物だ。軽い怪我程度ならば、下級の回復魔術をかけるのと同じ効果がある。
値は少し張るが、魔術の使えないかつ稼ぎのある兵士や冒険者はよくフローレ草を使った回復薬を携帯している。
「うーん、手掛かりが無いよりかはマシだが、植生が真逆なんだよな……」
フローレ草は水辺の近くに生えるにに対し、緋露芍薬は水はけの良い土地を好む。まったく正反対の植生をしてるのだが、闇雲に探すよりかはまだ他の薬草があるところから探し始めたほうが見つかる可能性はある。
緋露芍薬がこの森に有るのは間違いなさそうだし、生える条件に当てはまるような場所を目指して奥へ進めば見つかるだろう。
「とりあえず、そこを目指しつつ生えてそうな所を探そう。案内を頼めるか?」
「おっけー、こっちだよ。少し奥まったところにあるから、魔物の警戒だけはしてねー」
そう言ってリアナの先導のもと、俺たちは森の更に奥へと進んでいく。
妙にテンションの高いリアナが、街道の中央で腕を組みながら仁王立ちをしている。
先輩冒険者としての威厳を出そうとしているのだろうか、俺たちよりも張り切って見える。
「どうしてこうなった……」
ついて行くと言い出した時、俺と職員は揃って理由を聞いたが、リアナはあっけらかんとした態度でこう言った。
『なんか面白そうだから―。そもそも協会に来たもの、仕事をしに来たというよりただ暇つぶしに来ただけだし』
とのこと。暇していたところへ偶然俺たちが居合わせたというわけだった。
最初は戸惑ったが、これは俺たちにとっても助かる話だ。俺もフィリアもここら辺のことはまったく知らないから、土地勘のある者の案内があるとスムーズに依頼をこなせるというものだ。
「しかし、本当に依頼を受けなくても良かったのか? いくら暇つぶしと言ったって、せっかく町から出たのに報酬も何もないんじゃ損した気分にならないか?」
リアナは今回、何の依頼も受けずについてきた。Cランクの依頼を受けることもなく、俺たちの依頼を一緒に受けたわけでもない。だからこの時間はリアナとって報酬も実績にもならない、まったく利益にならないのだがそれでいいのだろうか?
「何水臭いこと言ってるのよ。友達が後輩になったんだから、先輩として少しくらい面倒を見ないとね。それに、フィリアのお父さんからたっぷり報酬貰ったから、お金にはしばらく困らなくなったしね」
「そうか。そういうことなら、遠慮なく先輩を頼らせてもらおうかな」
いつから友達になったのかという疑問はあるが、その厚意はありがたい。村にいる間は領主様の館に泊っていたためか、フィリアとも仲が良いみたいだしな。
リアナに率いられて、俺たちは街道から外れて森の中へ入っていく。
雰囲気的にはロスウェル村の西の森に近く、強い魔物の気配は感じられない。居てもせいぜいDランク……いや、それすらもこの森に居るかどうかも怪しいな、これは。
「粘魔……森とかではよく見るけど、どうして討伐依頼が出ているのかしら? 粘魔自体はまったく害はないのに……」
依頼を選んだフィリアがそんな疑問を投げかけると、それに対してリアナが答えた。
「確かに粘魔は狂暴ではないけど、増えすぎるとそれはそれで問題があるのよ? なにせアイツ等は基本なんでも食べるからねー。魔物や動物の死体なんかを食べてくれるのはありがたいけど、放置すると薬草なんかも食べちゃうから、ちょっと面倒だけど定期的に減らしておかないといけないの」
リアナの言う通り、粘魔は主に魔物などの死体や糞、腐り落ちた果実などを積極的に食してくれる。しかしそれらが見つからない場合は、草や新鮮な果実なんかも食べるし、それどころか石ころまで身体に取り込み食べてしまう。時には人の畑に侵入して作物を荒らしたり、鳥の巣に潜り込んで卵や雛を捕食することもあるという。
もはや雑食を通り越して悪食だが、それ以外にはこれと言って害がない。
魔物と言ってもその性格は温厚そのもので、身体の大きい人や魔物を襲うようなことはまずない。また柔らかいゲルの身体に、内臓は魔石のみという非常に単純な構造をしているため、他に類を見ないほど非常に貧弱な存在となっている。
魔石を覆っているゲルもそこまで厚くないため、少し硬い木の棒で強く叩けば衝撃で魔石が傷付き弱るし、刃物や魔物の牙なんかで魔石を欠けさせればあっさりと死んでしまう。ともすれば、そこら辺で拾った木の棒を持った、そこら辺の五歳児でも簡単に倒すことができてしまう。
その貧弱さ故に、粘魔は「最弱の魔物」の名を欲しいままにしている。中にはその弱さをから皮肉を込めて「偉大なる生命体」と呼ぶ者もいる。
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「さすがにそんなことしないわよ⁉ 私をなんだと思ってるの!」
そう言ってフィリアは怒るが、こいつは幼少の頃に初めて見た粘魔に手を突っ込んで焼けどしたことがある。
幸いすぐに気付いた俺が急いで手を引っ張って、粘魔を蹴り飛ばしたことにより、傷跡にもならない軽い怪我で済んだ。
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「……ちょっと、今なにか変なこと考えなかった?」
「いや別に。ちょいと昔のことを思い出しただけだ――っと、そんなことより、噂をしていれば出て来たぞ」
誤魔化すように前方を指さすと、そこに水色の身体をナメクジのように引きずる丸い生き物がいた。
大きさは子どもが蹴って遊ぶボール程度で、透明度のない粘液の身体は日の光を反射して妙にテカっている。動きは非常に遅く、人間の歩行にも劣っている。奴が全速力で動けばもう少し早いが、それでも人間の速足で十分に追いつける程度しか出ない。
あれがかの有名な最弱の魔物、粘魔だ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……結構いるな。運よくまとまっているところに出くわしたみたいだ」
最初に目についた水色の個体の他に、周囲には色の異なる粘魔が何匹もいた。確認できる色は、水色の他に緑色と黄色の三色。若干水色と、黄色の個体が多いか。水場が近くに有るのかな?
「しっかし、あれだな……粘魔は狩りの間にも何度も見てきたが、獲物として見たことはほとんどなかったな」
「アンタの言いたいことわかるわ。アタシも粘魔の依頼を受けたことなかったから、今奇妙な感動を覚えてる」
同じことを感じたのかリアナが俺の言葉に反応する。
俺のような頻繁に森で狩りをする人間や、リアナのような各地を移動する冒険者などは、粘魔を目にすることは何度もある。それこそ、外へ出れば確実に一度は目にするくらいには粘魔という魔物はありふれている。
粘魔は食える部位もないし、魔石は脆いから持ち帰って売っても二束三文にしかならない。だから見かけても大抵は無視して放置するし、野外での活動に慣れてしまえば路傍の小石程度にしか気に留まらない。
だからこそ、いざ「獲物」として粘魔と対峙すると、なんだか妙な新鮮味を感じる。
例えが適切かわからないが、普段は素通りするだけの近所の家を観察したら、こんな風な材質の壁を使っているのかと新たな発見があったような。当たり前のように渡っている橋の上から、川を眺めていたら魚が跳ねているのが見えたかのような。そんな、えも言えぬ感動があった。
そんな俺たちの様子を見ていたフィリアは、「何を言っているんだ」と言わんばかりに溜息を吐いて、そして――
「【炎矢】」
「「あ……」」
最初に見つけた水色の粘魔が火の矢に貫かれた。粘液の身体は熱で湯気を出しながら崩れて消えていき、その跡には水色に澄んだ魔石が一つ転がった。
「親切で手伝いに来たリアナはともかくとして、アゼル。ぼやっとしてないで、真面目に仕事しなさい」
「……それもそうだな」
フィリアに窘められたので、俺も気を取り直して剣を抜く。
フィリアの【炎矢】に驚いて周りの粘魔が慌てて逃げ出したが、先も言った通り速足で十分に追いつけるほどに遅い。
あっという間に黄色い粘魔に接近すると、剣を抜いて真上から粘魔を貫き、そのまま横に引き裂く。それだけで粘魔は徐々に弱っていき、身体を崩壊させていく。
粘魔の倒し方は主に二種類だ。魔術で攻撃するか、武器で魔石を傷付けるかだ。
最終的に売ることを考えると魔石は極力傷付けない方が良いが、魔術を修めている人間はあまり多くない。魔術を勉強してから入った者は別だが、新人の若い冒険者や兵士の多くは魔術の使えない者のほうが一般的だ。故に、粘魔の魔石の多くは武器で傷付いた状態で売却されるされることが多い。
魔術を用いずに魔石を傷付かせない方法はいくつかあるが、一番手っ取り早いのは手を突っ込んでゲルの身体から無理やり魔石を引っこ抜く方法だ。ただそれをすると命の危機を察知した粘魔が本気で手を溶かしにかかるため非常に危険だ。最悪の場合は手に大きな傷跡を残すほどの怪我を負う可能性もある。
それをするほど粘魔の魔石に高い価値は無いから、狩る方も買い取る方もある程度の傷は許容している。
「ほい、二匹目」
黄色い粘魔から出てきた黄色い魔石を拾い、すぐに別の個体を追いかけて剣を突き立てる。刺したらすぐに抜かないと剣先が溶かされて血が落ちてしまうのが少々面倒だが、それ以外はまったく楽なものだ。
粘魔は己の脆さを理解しているためか、斬りつけられてもこちらに反撃することはなく逃げるばかりだ。運よく魔石を外して致命傷を免れた個体もいたが、なにぶん動きも遅いためすぐに追いつきもう一撃加えて処理する。
こうなるともはや作業のようなもので、俺は淡々と剣で周りの粘魔を狩っていく。
フィリアも【炎矢】を次々と放って倒していくが、途中から粘魔を倒すことを目的とするよりも、遠くから【炎矢】を当てることに集中していたように見える。ま、粘魔退治なんてそんなものだな。
それぞれ十匹程――計二十体を倒したあたりで、持ってきた袋が魔石でいっぱいになったため、討伐は打ち止めにした。
「どう、リアナ? これくらいでいいかしら?」
「うん、いいんじゃない? これだけだと大半が食事に消えるだろうけど、依頼的には十分な量だと思うわ。まだ薬草の採取の依頼も残っているし、切り上げるには丁度いい目安ね」
袋の中身を見たリアナも太鼓判を押す。依頼書にも正確な数は書かれていなかったから、それなりにまとまった数があれば良いだろう。少なくとも、今日の宿代は稼げた。
「さてと……それじゃあ次は、緋露芍薬を探しに行くか。リアナ、生えているそうな場所に心当たりはあるか?」
「自分で探すのも冒険者の仕事よー……とか格好よく言えたら先輩らしかったけどね、アタシも実は知らないんだ。フローレ草の場所なら心当たりがあるから、そっちで良ければ案内するけど?」
「フローレ草か……」
フローレ草は外傷を癒す軟膏「回復薬」の材料である特別な薬草だ。特別といっても、これ自体は豊かな森であればよく見かける薬草だ。特別なのはそれを加工して作られた薬の効力だ。
怪我の深さにもよるが、この薬を傷に塗ればたちまち傷が癒えるという代物だ。軽い怪我程度ならば、下級の回復魔術をかけるのと同じ効果がある。
値は少し張るが、魔術の使えないかつ稼ぎのある兵士や冒険者はよくフローレ草を使った回復薬を携帯している。
「うーん、手掛かりが無いよりかはマシだが、植生が真逆なんだよな……」
フローレ草は水辺の近くに生えるにに対し、緋露芍薬は水はけの良い土地を好む。まったく正反対の植生をしてるのだが、闇雲に探すよりかはまだ他の薬草があるところから探し始めたほうが見つかる可能性はある。
緋露芍薬がこの森に有るのは間違いなさそうだし、生える条件に当てはまるような場所を目指して奥へ進めば見つかるだろう。
「とりあえず、そこを目指しつつ生えてそうな所を探そう。案内を頼めるか?」
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