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22話:血を啜る厄獣
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「もう、みんな遅いわよ!」
リアナが地面に向かって【振土】を放ち、魔物を足止めする。その隙に俺たちは三人と合流する。
「なんだよあの魔物……二人とも無事か?」
「攻撃はほぼアゼルが引き付けてくれていたから、アタシは無事」
頷くリアナの身体は、三割ほど血に染まっている。何度も攻撃を仕掛けて体表の血液と接触したことで、腕や顔、服など所々が赤く汚れており、重傷を負っているようにも見えるが、彼女に傷は一切無い。
俺も何度か攻撃を受け止めたりして魔力と血染布の血が減ったが、無傷で済んでいる。
三人に無事を伝えてから、戦闘で得た情報を共有する。カイルとエマは険しい顔で聞いていたが、コーネルは心当たりがあるのか、魔物の姿を確認した時からずっと小声で呟きながら魔物を凝視している。
「まさか――もしやとは思っていたが――聞いた通りの――」
心ここにあらずといった様子で、俺たちの会話も耳に入っていないようだった。彼が何を言っているかはよく聴き取れないが、今はゆっくりと考えていられる状況ではない。
「コーネル、時間が惜しい。知ってることがあるならさっさと吐け」
「……すみません。少々、衝撃が過ぎたもので」
我に返ったコーネルが謝罪し、自身の記憶を確認するように静かに言葉を続けた。
「私の知識が確かなら、あの魔物の名前は喰血哭です」
「なっ⁉」
「馬鹿な、喰血哭だって⁉」
「ウソ⁉ あれってお伽噺の魔物じゃないの⁉」
その名を聞いたカイルとエマだけでなく、先ほどまで戦っていたリアナまでもが驚く。どうやら有名な魔物らしい。
リアナの反応を鑑みるに、名前だけが広まっている珍しい魔物のようだ。
「血液の身体に空虚な眼孔、耳の欠けた狼の頭に、猿のような長い手足。そして身の毛もよだつ鳴き声と、腐血を啜る狂気を体現した異形の獣……私も実際に目にしたことはありませんが間違いありません!」
話しているうちに確信を持ち始めたのか、コーネルの語気は徐々に熱を帯び始める。
リアナの【振土】の効果が消えたのか、前足を地面に叩きつけふらついた巨体を支える魔物――喰血哭が低い唸りを上げる。
「ああ、まさか……まさかこんなところでお目にかかれるとは! あれこそが血を狩る獣にして、血濡れの眷属! かの「血塗れ夜王」がこの世に残した、厄災の獣です!」
「――――は?」
興奮したコーネルの言葉に、俺は一瞬思考が止まり視界が暗転した。
聞き間違いか? 今コイツ、誰が残したって言った?
「俺も喰血哭ことは噂でしか知らないが……そうかあれが伝説的な魔物にしてAランクの魔物かよ」
「大昔にAランク討伐者のパーティーが討伐に乗り出したけど、結局倒し切れず逃がしたって話よ……なんでこんな辺鄙なところにいるのか知らないけど、私たちじゃ相手にならない!」
Aランク――それはBランクを軽く上回る厄災級の魔物。おおよそ常人で対処可能な限界の存在であり、一体につき一〇〇人規模の軍隊が動かなければならない危険度の生物だ。
そんな存在がこんな人の近いところにいていいわけがないが、そんなことはもはやどうでもよかった。
「「血塗れ夜王」が残しただと? 俺はあんなモノを作った覚えはないぞ……」
ないが……心当たりがまったくないわけがなかった。もし俺が今考えている可能性が当たっているとしたら、血染布が取り込まれた理由も、ダメージが通らない理由も説明できる……できてしまう。
だがそれはあり得ない話なのだ。アレが現代まで残っているはずがないのだ。
「ゲルルゥゥ……アァァアアァァァッ‼」
「来るぞ!」
血の海を這い出たような低音から、水泡が破裂したような咆哮を上げて、喰血哭が長い手足で地面を掻き毟りながら突撃してくる。ヤツのターゲットは変わらず、俺を狙っているようだった。
「なっ!」
「ちょっ――⁉」
「なにして――⁉」
カイル、エマ、リアナから困惑と焦りが含まれた声が上がる。無理もない。四人が回避行動をとる中、俺だけがその場から動かず立ち尽くしているのだから。
「お前が「血塗れ夜王」の力で動いているのなら、なぜ俺を襲う?」
血液を纏った姿から連想されるのは死体を動かす【血骸操】だが、それは俺を襲うことなどないし、【血濡魔術】の弱点を考えると【血骸操】が現代まで動き続けているはずがない。
となると【血濡魔術】ではないもう一つの魔術による能力が考えられるが、そちらは【血濡魔術】のような弱点はないものの、二〇〇年の時を越えられるどころか半日で効力が消える力だ。現代まで残っている可能性は万に一つもない。
「あの力で蘇ったモノじゃない……特殊な環境で放置されていたとすれば、【血骸操】が残っている可能性はゼロとは言えない、か……なら確かめる方法は一つだ」
魔力とは意思によって生じる。
生物の魂から、思考力から、感情の起伏から、あらゆる精神活動から魔力というエネルギーは生まれる。
魂からのエネルギーであるために、その情報は時に人相よりも有用な個人情報となりうる。そのため犯罪捜査の場面においては、その場に残った魔力痕を採取し個人を特定することがある。
俺と「血塗れ夜王」は肉体は違えども、魂は同一人物だ。ならば俺の魔力を乗せた命令に服従するはずだ。
「止まれ!」
声に魔力が乗り、周囲に広がる。それ自体に何の効力は持たないが、ある程度の自立行動を持たせた【血骸操】ならば必ず止まる。止まらなければ、この魔物は「血塗れ夜王」の創造物ではない。
そして結果は――
リアナが地面に向かって【振土】を放ち、魔物を足止めする。その隙に俺たちは三人と合流する。
「なんだよあの魔物……二人とも無事か?」
「攻撃はほぼアゼルが引き付けてくれていたから、アタシは無事」
頷くリアナの身体は、三割ほど血に染まっている。何度も攻撃を仕掛けて体表の血液と接触したことで、腕や顔、服など所々が赤く汚れており、重傷を負っているようにも見えるが、彼女に傷は一切無い。
俺も何度か攻撃を受け止めたりして魔力と血染布の血が減ったが、無傷で済んでいる。
三人に無事を伝えてから、戦闘で得た情報を共有する。カイルとエマは険しい顔で聞いていたが、コーネルは心当たりがあるのか、魔物の姿を確認した時からずっと小声で呟きながら魔物を凝視している。
「まさか――もしやとは思っていたが――聞いた通りの――」
心ここにあらずといった様子で、俺たちの会話も耳に入っていないようだった。彼が何を言っているかはよく聴き取れないが、今はゆっくりと考えていられる状況ではない。
「コーネル、時間が惜しい。知ってることがあるならさっさと吐け」
「……すみません。少々、衝撃が過ぎたもので」
我に返ったコーネルが謝罪し、自身の記憶を確認するように静かに言葉を続けた。
「私の知識が確かなら、あの魔物の名前は喰血哭です」
「なっ⁉」
「馬鹿な、喰血哭だって⁉」
「ウソ⁉ あれってお伽噺の魔物じゃないの⁉」
その名を聞いたカイルとエマだけでなく、先ほどまで戦っていたリアナまでもが驚く。どうやら有名な魔物らしい。
リアナの反応を鑑みるに、名前だけが広まっている珍しい魔物のようだ。
「血液の身体に空虚な眼孔、耳の欠けた狼の頭に、猿のような長い手足。そして身の毛もよだつ鳴き声と、腐血を啜る狂気を体現した異形の獣……私も実際に目にしたことはありませんが間違いありません!」
話しているうちに確信を持ち始めたのか、コーネルの語気は徐々に熱を帯び始める。
リアナの【振土】の効果が消えたのか、前足を地面に叩きつけふらついた巨体を支える魔物――喰血哭が低い唸りを上げる。
「ああ、まさか……まさかこんなところでお目にかかれるとは! あれこそが血を狩る獣にして、血濡れの眷属! かの「血塗れ夜王」がこの世に残した、厄災の獣です!」
「――――は?」
興奮したコーネルの言葉に、俺は一瞬思考が止まり視界が暗転した。
聞き間違いか? 今コイツ、誰が残したって言った?
「俺も喰血哭ことは噂でしか知らないが……そうかあれが伝説的な魔物にしてAランクの魔物かよ」
「大昔にAランク討伐者のパーティーが討伐に乗り出したけど、結局倒し切れず逃がしたって話よ……なんでこんな辺鄙なところにいるのか知らないけど、私たちじゃ相手にならない!」
Aランク――それはBランクを軽く上回る厄災級の魔物。おおよそ常人で対処可能な限界の存在であり、一体につき一〇〇人規模の軍隊が動かなければならない危険度の生物だ。
そんな存在がこんな人の近いところにいていいわけがないが、そんなことはもはやどうでもよかった。
「「血塗れ夜王」が残しただと? 俺はあんなモノを作った覚えはないぞ……」
ないが……心当たりがまったくないわけがなかった。もし俺が今考えている可能性が当たっているとしたら、血染布が取り込まれた理由も、ダメージが通らない理由も説明できる……できてしまう。
だがそれはあり得ない話なのだ。アレが現代まで残っているはずがないのだ。
「ゲルルゥゥ……アァァアアァァァッ‼」
「来るぞ!」
血の海を這い出たような低音から、水泡が破裂したような咆哮を上げて、喰血哭が長い手足で地面を掻き毟りながら突撃してくる。ヤツのターゲットは変わらず、俺を狙っているようだった。
「なっ!」
「ちょっ――⁉」
「なにして――⁉」
カイル、エマ、リアナから困惑と焦りが含まれた声が上がる。無理もない。四人が回避行動をとる中、俺だけがその場から動かず立ち尽くしているのだから。
「お前が「血塗れ夜王」の力で動いているのなら、なぜ俺を襲う?」
血液を纏った姿から連想されるのは死体を動かす【血骸操】だが、それは俺を襲うことなどないし、【血濡魔術】の弱点を考えると【血骸操】が現代まで動き続けているはずがない。
となると【血濡魔術】ではないもう一つの魔術による能力が考えられるが、そちらは【血濡魔術】のような弱点はないものの、二〇〇年の時を越えられるどころか半日で効力が消える力だ。現代まで残っている可能性は万に一つもない。
「あの力で蘇ったモノじゃない……特殊な環境で放置されていたとすれば、【血骸操】が残っている可能性はゼロとは言えない、か……なら確かめる方法は一つだ」
魔力とは意思によって生じる。
生物の魂から、思考力から、感情の起伏から、あらゆる精神活動から魔力というエネルギーは生まれる。
魂からのエネルギーであるために、その情報は時に人相よりも有用な個人情報となりうる。そのため犯罪捜査の場面においては、その場に残った魔力痕を採取し個人を特定することがある。
俺と「血塗れ夜王」は肉体は違えども、魂は同一人物だ。ならば俺の魔力を乗せた命令に服従するはずだ。
「止まれ!」
声に魔力が乗り、周囲に広がる。それ自体に何の効力は持たないが、ある程度の自立行動を持たせた【血骸操】ならば必ず止まる。止まらなければ、この魔物は「血塗れ夜王」の創造物ではない。
そして結果は――
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