4 / 20
4.儀式と婚約発表と噂
しおりを挟む
そんな第四皇子だったが、どんなに見放されていようとも、表舞台へ立たなくてはならない時期が訪れた。
十八の成人の儀だ。皇族が成人するときは、この儀式を必ず行う。皇位継承権のある者として、その証となる冠を授かるのだ。
そして今回の成人の儀は異例だった。婚約発表も兼ねるという。いつの間にか決まっていた婚約者にも驚きだが、どちらも本来国を挙げての式典のはず。それを一度で済ませるというのだ。
どれだけ第四皇子はデキが悪いというのか。そんな皇子を、きっと王命で無理矢理押しつけられたであろう令嬢に、同情を禁じ得なかった。
そんな第四皇子だが、さすがにその時ばかりはキチンとしているだろうと、興味を上手に隠して、貴族たちは儀式に集まる。そして、期待を裏切ってと言うべきか、裏切らないと言うべきか、その姿に、呆れ、或いは安堵をした。
主役として登場したカダージュは、皇族らしからぬ姿勢だった。折角の衣装も台無しにするかのように、背を丸めて歩き、自信のなさそうな足下は覚束ず、俯いているため髪が顔にかかってよく見えない。儀式で述べる口上も、ボソボソと何を言っているか聞き取れないものだった。
貴族たちは嗤う。いつもと変わらないカダージュを。
そして婚約発表では、婚約者として紹介されたメリオラーザの斜め前に立っていたことにも、貴族たちは嗤った。
「何だ、あれは。自分の方が偉いとでも言いたいのか」
「婚約してやったとでも思っているのではないか?愚かしい」
「大人しそうなご令嬢だ。ああいうタイプには強く出られるのだろうな。恥知らずな」
「腐っても皇族。ティシモ家と繋がりを作れば、皇家とパイプが出来るやもしれぬ」
「第四皇子を押しつけたのだ。皇家もティシモ家には甘くならざるを得んのではないか?」
ティシモ家やメリオラーザに同情しつつ、貴族たちのそれぞれの思惑が交錯していた。
ヒオニアリア帝国は、長子が皇帝になるわけではない。血を継ぐ皇子の中から、一番相応しい者が継ぐ。あらゆる条件の中で、皇太子は決められる。後ろ盾もその一つ。野心ある者はその権力を存分に発揮し、狙いの皇子を皇太子にするべく尽力する。そのため、皇子たちは、見定めなくてはならない。自身の後ろ盾になるに、相応しい者たちを。皇子たちは、第四皇子カダージュの後ろ盾になろうとする者たちを、特によく見ていた。
式典後の夜会に、カダージュの姿はない。主役であるにもかかわらず、面倒くさがって引きこもったらしい。皇子たちと言い争う姿が目撃されている。と言っても、相変わらずカダージュは何を言っているかわからなかったが。
「今日くらい最後までいることも出来ないのか」
そう言う第一皇子レヴェージュに、何か言い返す、ということを何度か繰り返し、
「もういい。わかった」
レヴェージュがそう言うと、皇子たちもカダージュの元を去ったという。
その事実に、また貴族たちは嗤うのだった。
*~*~*~*~*
儀式の一月後、第四皇子カダージュが皇位継承権を返上する、というニュースが駆け巡る。
皇位の継承は、成人の儀を行い、継承権を得た上で、継続するか返上するかを決める。継続であれば、皇太子が決まるまで切磋琢磨し、破れたとしても、継承権は残るため、皇帝に万が一があった場合の第二、第三の皇帝候補となる。そんな重責、カダージュには無理だと返上させられたのだろうと囁かれた。
一方、返上をした者は、結婚を機に一代限りの大公の爵位が与えられる。
しかし、カダージュへの爵位について、揉めているという噂も同時に流れた。爵位をもっと下げる、というものだ。この噂に、悪意ある者たちは嗤う。
アレに、大公など過ぎたもの。皇族もそれをわかって身分を抑えようとしているのだ。そもそもアレに爵位などいらないのではないか。
様々な思惑が蠢く中、第一皇子レヴェージュの生誕祭で、それは起きた。
*つづく*
十八の成人の儀だ。皇族が成人するときは、この儀式を必ず行う。皇位継承権のある者として、その証となる冠を授かるのだ。
そして今回の成人の儀は異例だった。婚約発表も兼ねるという。いつの間にか決まっていた婚約者にも驚きだが、どちらも本来国を挙げての式典のはず。それを一度で済ませるというのだ。
どれだけ第四皇子はデキが悪いというのか。そんな皇子を、きっと王命で無理矢理押しつけられたであろう令嬢に、同情を禁じ得なかった。
そんな第四皇子だが、さすがにその時ばかりはキチンとしているだろうと、興味を上手に隠して、貴族たちは儀式に集まる。そして、期待を裏切ってと言うべきか、裏切らないと言うべきか、その姿に、呆れ、或いは安堵をした。
主役として登場したカダージュは、皇族らしからぬ姿勢だった。折角の衣装も台無しにするかのように、背を丸めて歩き、自信のなさそうな足下は覚束ず、俯いているため髪が顔にかかってよく見えない。儀式で述べる口上も、ボソボソと何を言っているか聞き取れないものだった。
貴族たちは嗤う。いつもと変わらないカダージュを。
そして婚約発表では、婚約者として紹介されたメリオラーザの斜め前に立っていたことにも、貴族たちは嗤った。
「何だ、あれは。自分の方が偉いとでも言いたいのか」
「婚約してやったとでも思っているのではないか?愚かしい」
「大人しそうなご令嬢だ。ああいうタイプには強く出られるのだろうな。恥知らずな」
「腐っても皇族。ティシモ家と繋がりを作れば、皇家とパイプが出来るやもしれぬ」
「第四皇子を押しつけたのだ。皇家もティシモ家には甘くならざるを得んのではないか?」
ティシモ家やメリオラーザに同情しつつ、貴族たちのそれぞれの思惑が交錯していた。
ヒオニアリア帝国は、長子が皇帝になるわけではない。血を継ぐ皇子の中から、一番相応しい者が継ぐ。あらゆる条件の中で、皇太子は決められる。後ろ盾もその一つ。野心ある者はその権力を存分に発揮し、狙いの皇子を皇太子にするべく尽力する。そのため、皇子たちは、見定めなくてはならない。自身の後ろ盾になるに、相応しい者たちを。皇子たちは、第四皇子カダージュの後ろ盾になろうとする者たちを、特によく見ていた。
式典後の夜会に、カダージュの姿はない。主役であるにもかかわらず、面倒くさがって引きこもったらしい。皇子たちと言い争う姿が目撃されている。と言っても、相変わらずカダージュは何を言っているかわからなかったが。
「今日くらい最後までいることも出来ないのか」
そう言う第一皇子レヴェージュに、何か言い返す、ということを何度か繰り返し、
「もういい。わかった」
レヴェージュがそう言うと、皇子たちもカダージュの元を去ったという。
その事実に、また貴族たちは嗤うのだった。
*~*~*~*~*
儀式の一月後、第四皇子カダージュが皇位継承権を返上する、というニュースが駆け巡る。
皇位の継承は、成人の儀を行い、継承権を得た上で、継続するか返上するかを決める。継続であれば、皇太子が決まるまで切磋琢磨し、破れたとしても、継承権は残るため、皇帝に万が一があった場合の第二、第三の皇帝候補となる。そんな重責、カダージュには無理だと返上させられたのだろうと囁かれた。
一方、返上をした者は、結婚を機に一代限りの大公の爵位が与えられる。
しかし、カダージュへの爵位について、揉めているという噂も同時に流れた。爵位をもっと下げる、というものだ。この噂に、悪意ある者たちは嗤う。
アレに、大公など過ぎたもの。皇族もそれをわかって身分を抑えようとしているのだ。そもそもアレに爵位などいらないのではないか。
様々な思惑が蠢く中、第一皇子レヴェージュの生誕祭で、それは起きた。
*つづく*
102
あなたにおすすめの小説
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
老け顔ですが?何かあります?
宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。
でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。
――私はきっと、“普通”じゃいられない。
5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。
周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。
努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。
年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。
これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。
ジルの身の丈
ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。
身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。
ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。
同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。
そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で───
※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです
果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。
幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。
ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。
月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。
パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。
これでは、結婚した後は別居かしら。
お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。
だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる