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デビュタント編
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なぜ、わたくしは部屋に閉じ込められているのでしょう。
なぜ、わたくしはお父様に叩かれたのでしょう。
なぜ、誰もわたくしの話を聞いて下さらなかったのでしょう。
いいえ、本当はわかっています。
あの時。図々しくもエリアストと共に挨拶に来たあの時。みんなに魔法をかけたのよ。正体を見破ったわたくしを孤立させようと、みんなにわたくしを追い出すよう仕向ける魔法を。
そうでなくては、説明が出来ません。あのお優しいお父様が、わたくしを叩くなど。お優しいお兄様たちが、黙って見ているだけなど。
何という恐ろしい魔女なのでしょう。
わたくしはひとりで戦わなくてはならないのですね。
いいでしょう。
エリアストがわたくしの元へ安心して来られるよう、わたくしはひとりででも戦って見せますわ。待っていて下さいね、エリアスト。必ずわたくしが守って差し上げますから。
今度は間違えません。軽率に行動せず、どうすればあなたを救えるか、あの魔女から引き離せるか、よくよく考えて行動いたしますわ。
ここから出たら、すぐにあなたを助けて差し上げますから。
もう少し。もう少しだけ、我慢してくださいませ。
勉強が、少しは役に立つと知った。知りたい情報を知ることが出来た。我慢をして大人しく勉強していたら、部屋から出してもらえた。そうなればあとは待つ。自分から動いてはいけない。そういう素振りを見せると、きっとまた閉じ込められてしまうから。だって、みんな、魔女の魔法が解けていないから。
神様は見ている。わたくしに、魔女を討伐する機会を必ず与えてくれる。
ほら、ね。
神様は、見ているのよ。
「あら、ファナトラタ家の。アリスさん、でしたかしら」
院内で魔女の姿を見つけた。するとマージは、スッとわたくしの前に立つ。警戒していることがありありと伝わってきて、思わず嗤ってしまった。その背に大丈夫よ、と声をかけると、マージは眉を顰めつつ、不承不承下がる。そして始まる。一世一代の大芝居。何事もないかのように、魔女に声をかけた。
これを待っていた。この偶然を、待っていたのよ。
サーフィアは気付かれないようほくそ笑んだ。
*~*~*~*~*
魔女の魔法を封じる、聖刻というものがある。それをどこでもいい、体のどこかに刻むと、魔法が使えなくなるという。かけられた魔法の効果もなくなると、そう記されていた。
聖刻を紙に写し取り、“家紋用の指輪”として職人に作らせた。
「ねえ院長。今こちらに訪問されているファナトラタ家の娘は、よくいらっしゃるの?」
院長は微笑みながら頷く。
「月に二、三度は訪れてくださいますよ」
「そう。とても素晴らしい方ね。少しお話ししてみたいわ」
「ええ、ええ、もちろんですとも。お年も近うございます。きっと殿下にとって良き話し相手になりましょう」
早速院長はアリスを呼びに行った。それを見届けると、サーフィアは暖炉の火をすぐに燭台に移し、聖刻の指輪を火で炙る。どの孤児院で遭遇してもいいように、すべての孤児院でのシミュレーションは出来ている。訪問先で馬車が止まっていたら、采配のわからない物を紛れさせることも忘れてはいけない。マージに席を外させるためだ。訪問時の馬車は家紋がない質素なものなので、何度も期待しては外れていた。だがやっと当たりだ。やっとエリアストが手に入る。
少しして、院長はアリスを連れて戻って来た。アリスの侍女もついて来ている。まあいい、とサーフィアは思った。
どうせ侍女如き、わたくしに触れることは出来ないのだから。
「あなたと少し、話がしたくて。院長、彼女にもお茶を」
サーフィアとアリスは部屋に残された。侍女のルタが、警戒している。
「ねえ、アリスさん」
サーフィアは暖炉の上に置いた燭台に近付く。レンガ造りの暖炉の隙間に指輪を固定して炙り続けていた。燭台の火を息を吹きかけて消す。ハンカチで指輪を掴み、コツリコツリとアリスに歩を向ける。
アリスはジリ、と一歩下がる。扉近くに控えていたはずのルタが、アリスとサーフィアの間に入った瞬間、サーフィアは素早くアリスの左手を掴んだ。
「何を!」
ルタが言うや否や、アリスの叫び声が部屋中に響いた。
「リズ様!」
左手を押さえて蹲るアリスを、ルタは庇うように抱き締める。見ると、手の甲が真っ赤に火傷をしていた。
「何てことを!!」
ルタが青ざめ非難の目を向けると、サーフィアは歪んだ顔で叫んだ。
「エリアストを解放なさい!この魔女め!」
アリスもルタも、驚いたようにサーフィアを見つめる。何を言われたのだろう。理解できずにいると、アリスの叫び声を聞きつけた院長とマージ、数名の修道女と子どもたちまでもが駆けつけた。
*つづく*
なぜ、わたくしはお父様に叩かれたのでしょう。
なぜ、誰もわたくしの話を聞いて下さらなかったのでしょう。
いいえ、本当はわかっています。
あの時。図々しくもエリアストと共に挨拶に来たあの時。みんなに魔法をかけたのよ。正体を見破ったわたくしを孤立させようと、みんなにわたくしを追い出すよう仕向ける魔法を。
そうでなくては、説明が出来ません。あのお優しいお父様が、わたくしを叩くなど。お優しいお兄様たちが、黙って見ているだけなど。
何という恐ろしい魔女なのでしょう。
わたくしはひとりで戦わなくてはならないのですね。
いいでしょう。
エリアストがわたくしの元へ安心して来られるよう、わたくしはひとりででも戦って見せますわ。待っていて下さいね、エリアスト。必ずわたくしが守って差し上げますから。
今度は間違えません。軽率に行動せず、どうすればあなたを救えるか、あの魔女から引き離せるか、よくよく考えて行動いたしますわ。
ここから出たら、すぐにあなたを助けて差し上げますから。
もう少し。もう少しだけ、我慢してくださいませ。
勉強が、少しは役に立つと知った。知りたい情報を知ることが出来た。我慢をして大人しく勉強していたら、部屋から出してもらえた。そうなればあとは待つ。自分から動いてはいけない。そういう素振りを見せると、きっとまた閉じ込められてしまうから。だって、みんな、魔女の魔法が解けていないから。
神様は見ている。わたくしに、魔女を討伐する機会を必ず与えてくれる。
ほら、ね。
神様は、見ているのよ。
「あら、ファナトラタ家の。アリスさん、でしたかしら」
院内で魔女の姿を見つけた。するとマージは、スッとわたくしの前に立つ。警戒していることがありありと伝わってきて、思わず嗤ってしまった。その背に大丈夫よ、と声をかけると、マージは眉を顰めつつ、不承不承下がる。そして始まる。一世一代の大芝居。何事もないかのように、魔女に声をかけた。
これを待っていた。この偶然を、待っていたのよ。
サーフィアは気付かれないようほくそ笑んだ。
*~*~*~*~*
魔女の魔法を封じる、聖刻というものがある。それをどこでもいい、体のどこかに刻むと、魔法が使えなくなるという。かけられた魔法の効果もなくなると、そう記されていた。
聖刻を紙に写し取り、“家紋用の指輪”として職人に作らせた。
「ねえ院長。今こちらに訪問されているファナトラタ家の娘は、よくいらっしゃるの?」
院長は微笑みながら頷く。
「月に二、三度は訪れてくださいますよ」
「そう。とても素晴らしい方ね。少しお話ししてみたいわ」
「ええ、ええ、もちろんですとも。お年も近うございます。きっと殿下にとって良き話し相手になりましょう」
早速院長はアリスを呼びに行った。それを見届けると、サーフィアは暖炉の火をすぐに燭台に移し、聖刻の指輪を火で炙る。どの孤児院で遭遇してもいいように、すべての孤児院でのシミュレーションは出来ている。訪問先で馬車が止まっていたら、采配のわからない物を紛れさせることも忘れてはいけない。マージに席を外させるためだ。訪問時の馬車は家紋がない質素なものなので、何度も期待しては外れていた。だがやっと当たりだ。やっとエリアストが手に入る。
少しして、院長はアリスを連れて戻って来た。アリスの侍女もついて来ている。まあいい、とサーフィアは思った。
どうせ侍女如き、わたくしに触れることは出来ないのだから。
「あなたと少し、話がしたくて。院長、彼女にもお茶を」
サーフィアとアリスは部屋に残された。侍女のルタが、警戒している。
「ねえ、アリスさん」
サーフィアは暖炉の上に置いた燭台に近付く。レンガ造りの暖炉の隙間に指輪を固定して炙り続けていた。燭台の火を息を吹きかけて消す。ハンカチで指輪を掴み、コツリコツリとアリスに歩を向ける。
アリスはジリ、と一歩下がる。扉近くに控えていたはずのルタが、アリスとサーフィアの間に入った瞬間、サーフィアは素早くアリスの左手を掴んだ。
「何を!」
ルタが言うや否や、アリスの叫び声が部屋中に響いた。
「リズ様!」
左手を押さえて蹲るアリスを、ルタは庇うように抱き締める。見ると、手の甲が真っ赤に火傷をしていた。
「何てことを!!」
ルタが青ざめ非難の目を向けると、サーフィアは歪んだ顔で叫んだ。
「エリアストを解放なさい!この魔女め!」
アリスもルタも、驚いたようにサーフィアを見つめる。何を言われたのだろう。理解できずにいると、アリスの叫び声を聞きつけた院長とマージ、数名の修道女と子どもたちまでもが駆けつけた。
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