美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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学園編

最終話

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 公爵邸に着き、着替えてからエリアストの部屋に入るなり、アリスは言った。
 「エル様、呆れずに聞いていただけますか」
 「どうした、エルシィ」
 アリスの手を取り、ソファへ並んで座る。手は繋いだまま、空いた方の手はアリスの髪を撫でる。恥ずかしそうに頬を染めるアリスは、少し迷ってから思い切って口にした。
 「あの、エル様。今日は、嬉しかったです」
 髪を撫でるエリアストの手が止まる。
 顔を真っ赤にしながら懸命に伝える。
 これを言うと、エリアストはますます自分から離れなくなるだろうことも気付いている。確かに他者との交流で、エリアストを豊かにしたかった。だが間違えてはいけない。優先順位を。
 「ひとりで頑張ると申しましたのに。それなのに、同じ教室で、隣同士で座って、エル様と共にいられたこと、とても、嬉しかったです」
 エリアストがおもんぱかってくれたことに、気持ちを、感謝を伝えないなんてあり得ない。
 「ありがとんぅっ」
 エリアストが唇を塞ぐ。自身のそれで。
 唇を重ねながら、エリアストはアリスを自分の膝に乗せる。
 アリスの呼吸がままならなくなる頃、ようやくエリアストはアリスの唇を解放する。くったりと肩口にもたれかかる真っ赤なアリスが、愛おしくて仕方がない。その体を抱き締めながら、頭に、額に、瞼に、頬に、無数のキスの雨を降らせる。
 「エルシィ、エルシィ」
 唇にも何度もついばむようにキスが落ちる。
 エリアストは不安だった。ひとりで頑張りたいと言っていたアリスの気持ちを、踏みにじったのではないかと。それでもアリスから離れられなかった。結局自分の気持ちを優先させる自分に、アリスが呆れたのではないかと。
 失望、したのではないかと。
 アリスは優しい。自分の気持ちよりも、エリアストを優先させる。だから余計に不安だった。学園では周囲の目がある。アリスはそんなことで態度を変えたりはしない。わかっているのだが、不安になる気持ちがどうにもならなかった。
 「エル、さま」
 くすぐったそうに笑うアリスが愛おしい。
 「エルシィ」
 このままどこかに閉じ込めてしまおうか。
 仄暗い感情が、エリアストに囁いた。



 一緒に卒業しましょうね、エル様。
 机を並べたその日も、アリスはそう言って微笑んだ。
 言葉通り、アリスはエリアストの家庭教師のお陰もあって、無事一緒に卒業の日を迎えられた。式典の後は、プロムナードだ。正装に身を包んだ学園生が、今か今かと待ちわびている人物がいる。その人物とはもちろん、エリアスト・カーサ・ディレイガルドと、その婚約者、アリス・コーサ・ファナトラタ。
 ついに、その時が来る。
 談笑のさざめきが、入り口から波のように引いていく。誰もがそこに現れた存在に息を呑む。その姿に、バタバタと人が倒れる。
 エリアスト・カーサ・ディレイガルド。筆頭公爵家嫡男。性格は非常に冷酷。しかしその美貌は、他の追随を許さない、圧倒的なもの。そんな彼の正装姿は、誰もが息をすることを忘れた。黒の正装は、婚約者の髪の色。刺繍や小物などの差し色には、婚約者の瞳の色を。
 アリス・コーサ・ファナトラタ。伯爵家長女。性格は非常に穏やか。その内面を現わすように、発する声は、非常に温かい。ドレスは婚約者の瞳の色。彼女が着ると、その色に相応しい春の空の色になる。刺繍や小物は砕いたダイヤモンドを織り込んだ、婚約者の髪の色。
 並び立つ二人に、会場は静まり返った。
 やべえ。
 そこにいる者全員の語彙ごいが死んだ。

 両手両足の指の数では足りないほどの人が倒れはしたが、ひとまず救護室へ運び込み、プロムナードは進行していく。
 エリアストとアリスのダンスは、誰もが踊ることを忘れ、魅入っていた。
 アリスの髪を飾る、見たこともない飾り。一見地味だが、一度目にすると強烈に惹きつけられた。シャラシャラと奏でる銀細工の音は妖精の囁きのよう。光を反射し、不思議な輝きを放つそれは、控え目ながらその楚々そそとした美しさを見せる、アリスのようであった。
 終始見つめ合い、互いを想い合うその姿に、ダンスが終わると会場は割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。


 *学園編 おわり*

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 もう一話、番外編を投稿します。そちらは読み飛ばしていただいても差し支えありませんので、気が向いたら読んでいただけると嬉しいです。
 次の章はデビュタント編です。
 よろしかったらそちらもお付き合いいただけるとありがたいです。
 わかりづらい部分などありましたら申し訳ありません。
 優しくご指摘いただければと思います。精進いたします。
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