美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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結婚編

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 「あ、女神」
 エリアストに呼ばれ、登城して回廊を歩いていた時だ。聞き覚えのある声に、アリスは振り向いた。相変わらずの騎士服で、満面の笑みで走り寄ってくるのは、クロバレイス国第二王女ララだ。アリスはつい、全力で尻尾を振って喜ぶ大型犬を想像してしまった。
 「まあ殿下。先日は有意義なお時間をいただき、ありがとうございました」
 カーテシーをすると、ララがピタリと止まった。
 「殿下?」
 アリスが不思議そうに首を傾げる。
 「見た?レンフィ。女神のお辞儀はこの世のものとは思えないほど美しいよ。女神だから?」
 「左様でございます」
 何を言っても無駄なのだろう。レンフィは肯定する。
 「あ、アリス嬢、その髪飾り、もしかしてかんざし?」
 「はい。ご存知でしたか。婚約者からの贈り物にございます」
 アリスは幸せそうに、柔らかく微笑む。その顔に、ララはキュン死しかけた。
 「はああああ。アリス嬢、私に会いに来てくれて嬉しいよ」
 自己都合の言葉と感嘆の息と共にアリスを抱き締めようとして止まる。
 アリスの後ろに凍てつく空気をまとわせた、この世のものとは思えない美しい男がいた。レンフィとシャールは息を呑む。見たこともない、圧倒的な美。恐ろしいほどの美しさだ。そんな男が、ララを射殺さんばかりに見ている。
 「エルシィに触るな。何者だ、貴様」
 今にも抜剣しそうな声音に、ララは臆することなく言う。
 「心の狭い男は嫌われるよー」
 「誰だと聞いている」
 「そっちこそ人に聞く前に名乗ったらどう?」
 一触即発の空気を破ったのは、アリスだ。
 「お止めくださいませ。殿下、こちらはわたくしの婚約者、エリアスト・カーサ・ディレイガルド公爵令息様です。エル様、この方はクロバレイス国の第二王女、ララ・クロバレイス殿下です」
 「王女?」
 格好から男だと思っていた。確かに声も男にしては高い。
 「そうか。女なら、まだいい。だがエルシィにむやみに触れるな。気安く名を呼ぶな。いいな」
 エリアストの発言に、ララとララ付きの女官レンフィは頬を引きつらせた。曲がりなりにもと言ったら失礼だが、一国の王女に対する発言ではない。
 「ちょ、アリス嬢、こんなのが婚約者で大丈夫?ウチにおいでよ。私が面倒見るし」
 「おい、貴様。寝言は寝て言え」
 ララの発言に、回廊の温度が明らかに下がった。エリアストが凍てつく冷気を放っている。
 「ひぃぃっ、で、殿下、戻りましょう、ええ、早く戻りましょう」
 レンフィがガタガタと震えながらララの背中をグイグイ押す。
 「ディレイガルド公爵令息様。殿下への無礼な発言、許し難い。即刻謝罪を求めます」
 シャール隊長が頑張って抗議する。だが、エリアストに一瞥いちべつされただけで回れ右をしてレンフィを手伝う。
 「殿下、部屋、早く!ハウス!」
 二人に押されながら、ララは、またね、とアリスに手を振った。
 騒がしかった回廊が、再び静寂を取り戻す。
 「エル様。あの方が、先日お話をいたしましたクロバレイス国の王女です」
 「何かされなかったか、エルシィ。私が呼んだばかりにすまない」
 「はい、大丈夫です、エル様」
 微笑むアリスをそっと抱き締め、腰に手を回して並んで歩く。
 「お迎えに来てくださったのですね、エル様。嬉しいです」
 「少しでも早くエルシィに会いたかった」
 目を合わせて微笑みあう。



 数日後、再び父のディレイガルド公爵と共に登城すると、また回廊でララに会った。エリアストは眉をひそめる。
 「わあお。仮にも公賓にそれはないでしょ。まあいいや、ちょっと時間ある?」
 ララは臆することなくエリアストに話しかける。レンフィは泣きそうだ。もう関わりたくない、と如実に物語っている。
 エリアストは無視をして通り過ぎようとした。
 「アリス嬢に関することなんだけどなあ」
 ピクリとエリアストの耳が反応した。


 *つづく*
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