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結婚編
最終話
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どこまでも青い空が広がっている。春らしい穏やかな気候で、時折吹く風が心地よく頬を撫でる。
「新郎様、花嫁様のお支度が調いました。どうぞ」
エリアストが部屋に入ると、春の日差しに彩られ、本当に輝いているアリスがこちらを見て微笑んでいた。
「エル様」
恥ずかしそうに名を呼ぶアリスに、エリアストは言葉が出なかった。走り寄り、無言で抱き締める。
支度が調ったら、一番に自分に見せてくれ。
エリアストはそう言って譲らなかった。アリスは嬉しそうに頷くと、準備に入った。
長い長い時間が過ぎ、ようやく訪れたこの時。
ハイネックタイプのAライン。ロングトレーンは見事な刺繍が施され、長いヴェールも繊細なレースで仕上がっている。真っ白な衣装に包まれたアリスは、女神そのものだった。
気付けば夢中でその唇を奪っていた。酸欠で力の抜けたアリスを抱き締める。その頬に、額に、耳に、首筋に、キスの雨を降らせる。
誰にも見せたくない。
エリアストは隠すようにアリスを抱き締め続けた。
式の始まるお時間です、と係の者が声をかけても、エリアストは動かない。公爵の話も夫人の話ももちろんスルーだ。頼みのアリスは酸欠でフラフラ。もう待つしかなかった。アリスが回復するのを。
しばらくして回復したアリスに促され、渋々嫌々不承不承なんとかアリスから離れたが、アリスの手を握って離さない。もうこのままでいいか、とメイクを直し、少し乱れた髪も手直しする。
一時間近く遅れて始まった式は、やっぱり普通の式にはならなかった。エリアストが別々に入場することを拒み、新郎新婦でヴァージンロードを歩くことになった。アリスの父が泣いていたが、とりあえず置いておく。
誓いのキスでヴェールをあげる際、来賓たちに
「エルシィを見たヤツは殺す」
と、絶対零度の声で脅迫をしたため、全員が下を向いて黙祷のようになっていた。ララでさえキチンと下を向いたほどだ。その誓いのキスもとんでもなく長い。ようやく終わったかと思うと、またヴェールを被せてしまう。徹底的にアリスを見せない。
そんな、独占欲にまみれた結婚式となった。
その日の夜。
アリスは侍女たちに徹底的に磨き上げられ、可愛らしい夜着に身を包み、ベッドの端にちょこんと座り、緊張から息を潜めて待っていた。
初めてエリアストに呼ばれてこの屋敷に来たときも、ソファの端にちょこんと座って息を潜めていたことを思い出す。あの時は、まさかこうなろうとは思いもしなかった。
欲しいものがあるのに、どうしたら手に入るかわからない。大事なものがあるのに、どう手を伸ばしたらいいかわからない。大切なものがあるのに、どのように守るのかわからない。そんなエリアストと共に歩んで来た。時には母のように諫め、時には姉のように慎ませ、そして婚約者の立場のままに寄り添ってきた。
この四年半、悲しいこともあったけれど、それ以上の幸せがいつも隣にあった。
いつからかはわからない。気付けばアリスの心はエリアストで占められていた。元々外見の美しさは突出していたが、正直なところ、怖いとしか思えなかった。いつからか、エリアストの目に温度が宿り、死滅した表情筋が僅かに蘇りはじめた。触れる手に優しさが滲み始め、言葉に気遣いが混じり始めると、アリスの心は落ち着かなくなった。
エリアストからの愛が、とてもとても心を満たしてくれる。
「エルシィ」
バスローブ姿のエリアストを見て、アリスの顔が真っ赤になる。
キシ、と隣に座る音がして、アリスは緊張で固まってしまった。
「エルシィ、エルシィの心が追いついていないなら、私は待つ」
だからそんなに固くならなくていい。そう言って優しく髪を梳く。
「怖がらないでくれ、エルシィ」
ゆっくりと、包み込むように抱き締める。
ああ、なんて大きな愛だろう。
アリスはその優しさに胸が締めつけられた。
「あの、え、エル様」
優しく優しく髪を撫でるエリアストに、アリスは言った。
「あ、あなた様の、つ、妻に、なりたい、です」
エリアストの手が止まる。
ゆっくり体が離れ、顔を覗き込まれる。
「本当?無理してないか?」
アリスはブンブンと首を横に振る。
「き、緊張、している、だけです」
真っ赤な顔のアリスが愛しくて堪らない。
「エルシィ」
左手を掬うように持ち上げる。薬指には結婚指輪が光る。アリスの瞳の色、アメシストを、エリアストの色、ダイヤモンドとアクアマリンが守るように囲んでいる。その手に忠誠を誓う騎士のように、熱い唇が触れる。
「エル様」
アリスの潤んだ瞳が揺れている。
「エルシィ」
優しく唇が重なる。ゆっくり体がベッドに沈む。
「ああ、本当に美しいな、エルシィ」
たっぷりと愛撫を施され、完全に溶かされたアリスを見て、エリアストは微笑んだ。
両手を互いの指を絡めて繋ぐ。
「愛している、アリス」
美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛は、終わることなく続いていく。
*おわり*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
本編はこれにて終了です。この後、登場人物たちを使ったパロディや誰かの番外編などもいくつか投稿予定です。よろしかったらそちらもお付き合いください。
読みづらかったりわかりづらかったりの部分もあったかと思いますが、温かく見守ってくださり、本当にありがとうございました。
「新郎様、花嫁様のお支度が調いました。どうぞ」
エリアストが部屋に入ると、春の日差しに彩られ、本当に輝いているアリスがこちらを見て微笑んでいた。
「エル様」
恥ずかしそうに名を呼ぶアリスに、エリアストは言葉が出なかった。走り寄り、無言で抱き締める。
支度が調ったら、一番に自分に見せてくれ。
エリアストはそう言って譲らなかった。アリスは嬉しそうに頷くと、準備に入った。
長い長い時間が過ぎ、ようやく訪れたこの時。
ハイネックタイプのAライン。ロングトレーンは見事な刺繍が施され、長いヴェールも繊細なレースで仕上がっている。真っ白な衣装に包まれたアリスは、女神そのものだった。
気付けば夢中でその唇を奪っていた。酸欠で力の抜けたアリスを抱き締める。その頬に、額に、耳に、首筋に、キスの雨を降らせる。
誰にも見せたくない。
エリアストは隠すようにアリスを抱き締め続けた。
式の始まるお時間です、と係の者が声をかけても、エリアストは動かない。公爵の話も夫人の話ももちろんスルーだ。頼みのアリスは酸欠でフラフラ。もう待つしかなかった。アリスが回復するのを。
しばらくして回復したアリスに促され、渋々嫌々不承不承なんとかアリスから離れたが、アリスの手を握って離さない。もうこのままでいいか、とメイクを直し、少し乱れた髪も手直しする。
一時間近く遅れて始まった式は、やっぱり普通の式にはならなかった。エリアストが別々に入場することを拒み、新郎新婦でヴァージンロードを歩くことになった。アリスの父が泣いていたが、とりあえず置いておく。
誓いのキスでヴェールをあげる際、来賓たちに
「エルシィを見たヤツは殺す」
と、絶対零度の声で脅迫をしたため、全員が下を向いて黙祷のようになっていた。ララでさえキチンと下を向いたほどだ。その誓いのキスもとんでもなく長い。ようやく終わったかと思うと、またヴェールを被せてしまう。徹底的にアリスを見せない。
そんな、独占欲にまみれた結婚式となった。
その日の夜。
アリスは侍女たちに徹底的に磨き上げられ、可愛らしい夜着に身を包み、ベッドの端にちょこんと座り、緊張から息を潜めて待っていた。
初めてエリアストに呼ばれてこの屋敷に来たときも、ソファの端にちょこんと座って息を潜めていたことを思い出す。あの時は、まさかこうなろうとは思いもしなかった。
欲しいものがあるのに、どうしたら手に入るかわからない。大事なものがあるのに、どう手を伸ばしたらいいかわからない。大切なものがあるのに、どのように守るのかわからない。そんなエリアストと共に歩んで来た。時には母のように諫め、時には姉のように慎ませ、そして婚約者の立場のままに寄り添ってきた。
この四年半、悲しいこともあったけれど、それ以上の幸せがいつも隣にあった。
いつからかはわからない。気付けばアリスの心はエリアストで占められていた。元々外見の美しさは突出していたが、正直なところ、怖いとしか思えなかった。いつからか、エリアストの目に温度が宿り、死滅した表情筋が僅かに蘇りはじめた。触れる手に優しさが滲み始め、言葉に気遣いが混じり始めると、アリスの心は落ち着かなくなった。
エリアストからの愛が、とてもとても心を満たしてくれる。
「エルシィ」
バスローブ姿のエリアストを見て、アリスの顔が真っ赤になる。
キシ、と隣に座る音がして、アリスは緊張で固まってしまった。
「エルシィ、エルシィの心が追いついていないなら、私は待つ」
だからそんなに固くならなくていい。そう言って優しく髪を梳く。
「怖がらないでくれ、エルシィ」
ゆっくりと、包み込むように抱き締める。
ああ、なんて大きな愛だろう。
アリスはその優しさに胸が締めつけられた。
「あの、え、エル様」
優しく優しく髪を撫でるエリアストに、アリスは言った。
「あ、あなた様の、つ、妻に、なりたい、です」
エリアストの手が止まる。
ゆっくり体が離れ、顔を覗き込まれる。
「本当?無理してないか?」
アリスはブンブンと首を横に振る。
「き、緊張、している、だけです」
真っ赤な顔のアリスが愛しくて堪らない。
「エルシィ」
左手を掬うように持ち上げる。薬指には結婚指輪が光る。アリスの瞳の色、アメシストを、エリアストの色、ダイヤモンドとアクアマリンが守るように囲んでいる。その手に忠誠を誓う騎士のように、熱い唇が触れる。
「エル様」
アリスの潤んだ瞳が揺れている。
「エルシィ」
優しく唇が重なる。ゆっくり体がベッドに沈む。
「ああ、本当に美しいな、エルシィ」
たっぷりと愛撫を施され、完全に溶かされたアリスを見て、エリアストは微笑んだ。
両手を互いの指を絡めて繋ぐ。
「愛している、アリス」
美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛は、終わることなく続いていく。
*おわり*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
本編はこれにて終了です。この後、登場人物たちを使ったパロディや誰かの番外編などもいくつか投稿予定です。よろしかったらそちらもお付き合いください。
読みづらかったりわかりづらかったりの部分もあったかと思いますが、温かく見守ってくださり、本当にありがとうございました。
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