美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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結婚編

結婚式前夜

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 アリスの十四の誕生日には、婚約指輪を贈った。
 十五の誕生日に、懐中時計を贈った。
 十六には温室を贈ろうと思ったが、私の構想する物だと、とても間に合わないと言われ、それではと四季の花々が見られるガゼボを贈った。
 十七で、念願の温室を贈ることが出来た。
 十八の誕生日は、結婚式だ。やっと、やっと夫婦になれる。帰ればアリスがいて、目覚めてもアリスがいる。それが当たり前になるのだ。この世で一番幸せな男だと思う。
 明日はアリスの誕生日。結婚式だ。もうすぐアリスはファナトラタ家へ帰る時間。ファナトラタ家の娘として家族と過ごす最後の日。いつもと変わらずアリスはディレイガルド家で過ごしてくれている。
 「エルシィ、寒くないか」
 春とは言え、外は冷える。アリスに贈った温室に二人はいた。
 「少し、寒いですが、大丈夫です、エル様」
 肩を寄せ合い、空を見上げていた。満月が煌々と照らしている。昼間のように明るい。
 エリアストはアリスを抱き上げ、自分の膝の間に座らせた。後ろから抱き締め、その後頭部にくちづけを落とす。
 「これで少しは温かいだろうか、エルシィ」
 「は、はい、温かい、です」
 アリスは真っ赤になって俯く。その白いうなじに、エリアストはまたくちづける。アリスの体がビクリと震えた。エリアストの唇が何度も押し当てられ、時には舌が這わされる。アリスは恥ずかしさから、小さく声が漏れる。薄く涙が滲んだ。
 「ふぇ、え、エル様、は、恥ずかしいです」
 思い切って告げるアリスに、エリアストは笑った。
 「ふふ、すまないエルシィ。あまりに可愛くて、つい、な」
 そう言いつつ、なかなかキスの雨は止まなかった。
 「なあ、エルシィ」
 ようやく羞恥の時間が終わり、エリアストが言った。
 「踊らないか、エルシィ」
 そう言うと、アリスをベンチに降ろし、エリアストはアリスの前に跪いた。
 「アリス・コーサ・ファナトラタ嬢。私と踊っていただけますか」
 アリスの手を掬い上げ、その手にくちづけながらエリアストはアリスを見上げた。
 「はい、はい。喜んでお受けいたします」
 花が綻ぶような笑顔をくれた。
 今宵は満月。アリス・コーサ・ファナトラタを名乗れる最後の夜。
 月明かりが降り注ぐ中、二人は踊る。
 互いに見つめ合う。
 これからもずっと離れないように。
 そう誓いながら。


 *最終話へつづく*
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