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番外編
ララのプロポーズ
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アリスとエリアストに感化された破天荒姫ララのお話です。
アリスたちは出て来ませんが、よろしかったら読んでみてください。
*~*~*~*~*
え、ララはあんなイカツイのが好きなの?趣味悪いわ。
ちがう!すきじゃないもん!アイザックなんてすきじゃないわ!
おや、嫌われてしまいましたか。まあこんな見てくれです。仕方ないですな。
アイザック!あ、あの、ちが
まあいざという時はこの大きな体が盾になるので我慢してくださいね。
ちがうの、アイザック、ちがう
そうね。アイザックのその大きな体なら守れるわね。
勿論です。王女殿下お二人とも、命に替えてもお守りしますので、ご安心ください。
頼んだわよ。
御意。
アイザック、ちがうの
「違うのよ」
伸ばした手は空を掴んだ。
いつもの天蓋と自分の右手が視界にある。
時々見る、幼い頃の夢。姉にからかわれて、自分の心を守るために大切な人を傷つけた日のこと。アリスとエリアストの純粋さにあてられたのか、妙に鮮明な夢だった。自分のダメさを浮き彫りにさせるような、そんな鮮明さがあった。
「もう大切なものを傷つけたくない」
たかが子どもの発言だ、アイザックは気にも止めなかったのではないか、などと考えたりしない。間違いなく、彼は悲しそうな顔をしていたのだから。
そんな出来事があったからだろうか。どんなことであれ、ララは好意を隠すことをしなくなった。誰にでも良いものは良い、悪いものは悪いと、状況が許す限り、そうしてきた。けれどアイザックはララの好意を本気にはしない。困ったように笑って、ありがとうございます、と言うだけだった。
どうすれば伝わるのだろう。
ララは悩んでいた。そしてあの二人に会った。
アリスとエリアスト。
二人は何が一番なのか、何を大切にするべきなのかを間違えなかった。
ララは王女であり外交官でもある。たくさんの人を見てきた。たくさんの善意を見てきた。同じくらい、悪意も見てきた。
けれど、あの二人のように、純粋な愛は見たことがなかった。
「羨ましいな」
ポツリと溢れた言葉に苦笑した。羨んでいても仕方がない。悩んでいたってどうしようもない。
「行動あるのみ、だな」
あの二人を見習ってみよう。
「アイザックいるー?」
騎士訓練所に顔を出したララに、隊員たちは慣れたように対応する。
「団長でしたら今日は書類整理ですよ。執務室です」
「そっか。ありがとう」
ララは執務室へ足を向けた。周りに人がいない方が、アイザックにとってもいいだろう。自分だってすぐにあの二人のようにはなれない。傍から見たらやりたい放題に見えるだろうが、アイザックへの気持ちだけは、どうしても他のようにいかなかった。
執務室の前に着くと、扉をノックする手に躊躇いが生まれる。しばし逡巡し、ようやく決心したとき。
「あれ、殿下。団長に用事ですか」
シャール隊長だった。
「わあお、タイミングの悪い。ハゲろよ」
キラキラした笑顔でララに毒吐かれた。
「怖あっ。お邪魔してしまったみたいですみませんね」
「みたいじゃないよ。邪魔」
「めっちゃ怒ってます?」
「怒ってないよ。殺意が湧いただけ」
「しばらく誰も近づけないよう手配しますから」
「赦す」
そうしてようやくララはアイザックと対面する。
「どうしました?御用があるなら伺いましたのに」
厳つい顔とは裏腹に、アイザックがララに話す声は柔和だ。
「アイザックは結婚しないの?」
「ごほっ!な、んです、殿下。少し前からそんな話をよくしますね」
世間話のついでのように、アイザックの女の影や好みを探ったりしていた。こうして部屋を訪ねて直球で聞かれたのは初めてのことだ。
「結婚、しないの?」
いつもと少し雰囲気が違う。アイザックは机を離れてララの側に立った。
「殿下、とりあえず座ってください。今お茶を入れましょう」
「いらない。質問に答えて、アイザック」
アイザックは困ったように眉を下げた。
「わかりました。ではとりあえず座って。どうしたんですか、殿下」
ララをソファに座らせると、自分はその前に膝をつく。幼い子供を心配するように、ララの顔を覗き込む。ララはついその視線から逃れるように、目を逸らしてしまう。
ああ、またやってしまった。
気恥ずかしくて、嫌な態度を取ってしまう。
「殿下、私を護衛から外したいのかもしれませんが、こればかりは我慢いただくしかないのです」
なんだって?
驚いてララはアイザックを見る。アイザックは困ったように笑っている。
「殿下が幼い頃より私を好んでいないことは百も承知です。ですが、私は殿下たちを守ると忠誠を誓った身。たとえ結婚をしたところで、私よりも秀でたものと交代するまで、この誓いを違えることはないのです」
「なにを、言っている?」
大切だと、大好きだと、伝えていたではないか。本気にされていないことはわかっていた。けれど、ここまで伝わっていないとは思ってもいなかった。
「アイザック。私は伝えていた。大切だと。大好きだと。何度も、何度も伝えていたじゃないか」
今度はアイザックが驚く。
「子どもの戯れ言だと思ったか?ただの気分で気まぐれに伝えていたと?」
「殿下?」
「それこそ冗談じゃない!」
ララは立ち上がった。そしてその首に縋るように抱きついた。
「でででで、でん、でんか?」
「子どもの頃、おまえが好きかと姉様にからかわれて、気恥ずかしくて咄嗟に否定した。偶然おまえは聞いていたのだろう。おまえはこんな見てくれですまないと、我慢してくれと言った。その時の!おまえの悲しそうな顔が、ずっと、ずっと頭から離れないんだ」
「殿下」
「好き」
ララは抱き締める腕を解き、アイザックのふさふさの髭に覆われた頬を両手で包む。
「あの頃から、本当はずっとずっと、大好きなんだよ、アイザック」
ララの顔が近付く。髭の隙間から除く唇に、そっとその唇を重ねた。
「伝わった?アイザック」
少しして唇を離すと、ララはそう言った。
アイザックはパタリと後ろに倒れた。
「わーっ?!アイザックー?!」
「えー?何の問題もないよ?」
しばらくして目覚めたアイザックが、ものすごく狼狽えながら、年の差がとか王女なのにとか王がとかブツブツ言っていたので、ララはあっけらかんと言い放つ。
「年の差なんて今更だし、語学力を活かして外交官としてあらゆるパイプを作れば好きにしていいって父上には言われているし、アイザックの邪魔さえしなければ、アイザックが頷くなら結婚も構わないって母上にも言われてるよ」
「お…おう…」
アイザックは言葉が出てこない。
「一番大きかったのは、この間ディレイガルドとお近づきになれたことかな。あの国、実質ディレイガルドが支配してるよね。王家はハリボテ。そんな怖ーいディレイガルドとのパイプは、この国にとてつもない恩恵をもたらすよ」
扱いさえ間違えなければね、と実に爽やかに笑った。
「で、殿下は、その、本当に、私と?」
ララはニッコリ笑った。
「アイザックが頷くまでここから出さないよ。なんなら既成事実を虚言してでも手に入れるけど?」
アイザックは顔を真っ赤にしながら口を開閉させている。やがて観念したようにひとつ息を吐くと、ララの手を取った。
「女性にそこまで言われて応えないようでは、男が廃りますね」
アイザックはプロポーズの体勢を取る。
「ララ・クロバレイス王女殿下。あなたのこの手にくちづけを贈る栄誉を」
ララは感極まって、涙を浮かべた。
「ゆ、許す」
アイザックのふさふさの髭が手をくすぐると、柔らかな唇の感触がした。
*おしまい*
次話は 現代社会人だったら のパロディーになります。
よろしかったらお付き合いください。
アリスたちは出て来ませんが、よろしかったら読んでみてください。
*~*~*~*~*
え、ララはあんなイカツイのが好きなの?趣味悪いわ。
ちがう!すきじゃないもん!アイザックなんてすきじゃないわ!
おや、嫌われてしまいましたか。まあこんな見てくれです。仕方ないですな。
アイザック!あ、あの、ちが
まあいざという時はこの大きな体が盾になるので我慢してくださいね。
ちがうの、アイザック、ちがう
そうね。アイザックのその大きな体なら守れるわね。
勿論です。王女殿下お二人とも、命に替えてもお守りしますので、ご安心ください。
頼んだわよ。
御意。
アイザック、ちがうの
「違うのよ」
伸ばした手は空を掴んだ。
いつもの天蓋と自分の右手が視界にある。
時々見る、幼い頃の夢。姉にからかわれて、自分の心を守るために大切な人を傷つけた日のこと。アリスとエリアストの純粋さにあてられたのか、妙に鮮明な夢だった。自分のダメさを浮き彫りにさせるような、そんな鮮明さがあった。
「もう大切なものを傷つけたくない」
たかが子どもの発言だ、アイザックは気にも止めなかったのではないか、などと考えたりしない。間違いなく、彼は悲しそうな顔をしていたのだから。
そんな出来事があったからだろうか。どんなことであれ、ララは好意を隠すことをしなくなった。誰にでも良いものは良い、悪いものは悪いと、状況が許す限り、そうしてきた。けれどアイザックはララの好意を本気にはしない。困ったように笑って、ありがとうございます、と言うだけだった。
どうすれば伝わるのだろう。
ララは悩んでいた。そしてあの二人に会った。
アリスとエリアスト。
二人は何が一番なのか、何を大切にするべきなのかを間違えなかった。
ララは王女であり外交官でもある。たくさんの人を見てきた。たくさんの善意を見てきた。同じくらい、悪意も見てきた。
けれど、あの二人のように、純粋な愛は見たことがなかった。
「羨ましいな」
ポツリと溢れた言葉に苦笑した。羨んでいても仕方がない。悩んでいたってどうしようもない。
「行動あるのみ、だな」
あの二人を見習ってみよう。
「アイザックいるー?」
騎士訓練所に顔を出したララに、隊員たちは慣れたように対応する。
「団長でしたら今日は書類整理ですよ。執務室です」
「そっか。ありがとう」
ララは執務室へ足を向けた。周りに人がいない方が、アイザックにとってもいいだろう。自分だってすぐにあの二人のようにはなれない。傍から見たらやりたい放題に見えるだろうが、アイザックへの気持ちだけは、どうしても他のようにいかなかった。
執務室の前に着くと、扉をノックする手に躊躇いが生まれる。しばし逡巡し、ようやく決心したとき。
「あれ、殿下。団長に用事ですか」
シャール隊長だった。
「わあお、タイミングの悪い。ハゲろよ」
キラキラした笑顔でララに毒吐かれた。
「怖あっ。お邪魔してしまったみたいですみませんね」
「みたいじゃないよ。邪魔」
「めっちゃ怒ってます?」
「怒ってないよ。殺意が湧いただけ」
「しばらく誰も近づけないよう手配しますから」
「赦す」
そうしてようやくララはアイザックと対面する。
「どうしました?御用があるなら伺いましたのに」
厳つい顔とは裏腹に、アイザックがララに話す声は柔和だ。
「アイザックは結婚しないの?」
「ごほっ!な、んです、殿下。少し前からそんな話をよくしますね」
世間話のついでのように、アイザックの女の影や好みを探ったりしていた。こうして部屋を訪ねて直球で聞かれたのは初めてのことだ。
「結婚、しないの?」
いつもと少し雰囲気が違う。アイザックは机を離れてララの側に立った。
「殿下、とりあえず座ってください。今お茶を入れましょう」
「いらない。質問に答えて、アイザック」
アイザックは困ったように眉を下げた。
「わかりました。ではとりあえず座って。どうしたんですか、殿下」
ララをソファに座らせると、自分はその前に膝をつく。幼い子供を心配するように、ララの顔を覗き込む。ララはついその視線から逃れるように、目を逸らしてしまう。
ああ、またやってしまった。
気恥ずかしくて、嫌な態度を取ってしまう。
「殿下、私を護衛から外したいのかもしれませんが、こればかりは我慢いただくしかないのです」
なんだって?
驚いてララはアイザックを見る。アイザックは困ったように笑っている。
「殿下が幼い頃より私を好んでいないことは百も承知です。ですが、私は殿下たちを守ると忠誠を誓った身。たとえ結婚をしたところで、私よりも秀でたものと交代するまで、この誓いを違えることはないのです」
「なにを、言っている?」
大切だと、大好きだと、伝えていたではないか。本気にされていないことはわかっていた。けれど、ここまで伝わっていないとは思ってもいなかった。
「アイザック。私は伝えていた。大切だと。大好きだと。何度も、何度も伝えていたじゃないか」
今度はアイザックが驚く。
「子どもの戯れ言だと思ったか?ただの気分で気まぐれに伝えていたと?」
「殿下?」
「それこそ冗談じゃない!」
ララは立ち上がった。そしてその首に縋るように抱きついた。
「でででで、でん、でんか?」
「子どもの頃、おまえが好きかと姉様にからかわれて、気恥ずかしくて咄嗟に否定した。偶然おまえは聞いていたのだろう。おまえはこんな見てくれですまないと、我慢してくれと言った。その時の!おまえの悲しそうな顔が、ずっと、ずっと頭から離れないんだ」
「殿下」
「好き」
ララは抱き締める腕を解き、アイザックのふさふさの髭に覆われた頬を両手で包む。
「あの頃から、本当はずっとずっと、大好きなんだよ、アイザック」
ララの顔が近付く。髭の隙間から除く唇に、そっとその唇を重ねた。
「伝わった?アイザック」
少しして唇を離すと、ララはそう言った。
アイザックはパタリと後ろに倒れた。
「わーっ?!アイザックー?!」
「えー?何の問題もないよ?」
しばらくして目覚めたアイザックが、ものすごく狼狽えながら、年の差がとか王女なのにとか王がとかブツブツ言っていたので、ララはあっけらかんと言い放つ。
「年の差なんて今更だし、語学力を活かして外交官としてあらゆるパイプを作れば好きにしていいって父上には言われているし、アイザックの邪魔さえしなければ、アイザックが頷くなら結婚も構わないって母上にも言われてるよ」
「お…おう…」
アイザックは言葉が出てこない。
「一番大きかったのは、この間ディレイガルドとお近づきになれたことかな。あの国、実質ディレイガルドが支配してるよね。王家はハリボテ。そんな怖ーいディレイガルドとのパイプは、この国にとてつもない恩恵をもたらすよ」
扱いさえ間違えなければね、と実に爽やかに笑った。
「で、殿下は、その、本当に、私と?」
ララはニッコリ笑った。
「アイザックが頷くまでここから出さないよ。なんなら既成事実を虚言してでも手に入れるけど?」
アイザックは顔を真っ赤にしながら口を開閉させている。やがて観念したようにひとつ息を吐くと、ララの手を取った。
「女性にそこまで言われて応えないようでは、男が廃りますね」
アイザックはプロポーズの体勢を取る。
「ララ・クロバレイス王女殿下。あなたのこの手にくちづけを贈る栄誉を」
ララは感極まって、涙を浮かべた。
「ゆ、許す」
アイザックのふさふさの髭が手をくすぐると、柔らかな唇の感触がした。
*おしまい*
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