美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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番外編

囚われの身の上 4

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 ディレイガルドが呼んでいる。明日十時に、王女を連れて監獄まで来いと言っている。
 王妃は目を見開く。
 「王女が、サーフィアが、また何かしたのですか?」
 王は首を振る。
 「わからぬ。とにかくサーフィアがあまりにも騒ぐものだから、その」
 王妃は表情がなくなった。ディレイガルド監獄がどういうところか知っていて、ただサーフィアの癇癪かんしゃくを収めるためだけに、貴族の令嬢をそこへ送ったというのか。愚かすぎて言葉が出ない。ディレイガルドに呼び出されている理由はわからないが、もう、ディレイガルドにこってり絞られればいい。
 王妃はしがみつく王を引きはがし、さっさとベッドに入って寝た。怒らないでくれ、何か知恵をくれないか、と懇願する王に背を向け、王妃は夢の住人となった。



 王女サーフィアは不満そうに口を尖らせていた。なぜ自分がわざわざ出向かなくてはならないのか。用があるならそちらが来ればいいのに。しかも汚らわしい人間ばかりの監獄なんぞに。
 「お父様もお父様ですわ。そんなもの、放っておけばよろしいのに」
 王は眉をひそめる。それが出来たらやっている。ディレイガルドの恐ろしさを知らないからそんなことが言えるのだ。
 お互いもやもやとしながら、馬車は目的地に着く。降り立つ二人に数名の護衛が同行する。
 案内役の二人の看守に前後を挟まれ、建物内に入る。建物内は警備、防犯など、機密性の高さから、王族と言えど護衛を連れては入れない。建物入り口で待機となる。迷路のように入り組んだそこは、なるほど、案内がないととてもではないが目的の場所に辿り着けない。脱走不可能とまで言われているのも頷ける。すでに方向感覚のなくなった二人は、重々しい鉄扉に阻まれた場所に辿り着いた。
 王は何度か視察で訪れたことがあるので、違和感を覚える。いつもなら矯正監室きょうせいかんしつで話をする。だが、この先は囚人の住む収監所ではないか。
 いくつもの鍵を外し、看守は中へと促す。後ろにいた看守がここからは案内する。前にいた看守は中に入らず、そのまま扉を閉めて鍵をかけた。
 サーフィアは不安そうに周囲を見回す。たくさんの檻の中、凶悪な犯罪者たちが自分たちを見ていた。サーフィアは思わず父親の腕にしがみつく。囚人たちがゲラゲラと笑う。こっちへ来いよ、遊ぼうぜ、オレの相手をしてくれよ。品のない言葉が飛び交う。怯えるサーフィアに容赦なく卑猥ひわいな言葉が投げかけられる。
 「わ、わたくしを誰だと思っていますのっ?!無礼者!」
 そんな言葉さえ笑い飛ばされる。
 ようやく目的の場所に着いたらしい。取調室、とある。二人が中に入ると、三人の看守がいた。一人は椅子に座り、その両側に一人ずつ立っている。帽子を目深まぶかに被る真ん中の男に、王は汗を流す。
 「これは、ディレイガルド殿。今日はどの」
 「話をする許可は与えていない」
 冷たい声が遮る。サーフィアはその男を睨む。
 「お父様の言葉を遮るとはなんて無礼なの!帽子も外しなさい!王族に顔を見せないとは不敬よ!」
 エリアストは両脇の看守に手で合図をすると、看守はすかさず王とサーフィアを後ろ手に拘束する。サーフィアは無礼者と喚いている。
 「さて、呼び出しに出向いたのはご苦労。簡潔に言う。その女はここから出られない。王よ、自分の判断がどのような結果をもたらすか、よくよく考えた方がいい」
 サーフィアの癇癪を受け入れた結果、今がある。我儘に付き合っていたらキリがない。諫めなかった責任を取れ。
 「その女はもう王族ではない。奸計かんけいにより民を貶める者。それゆえ自身が牢獄に繋がれることとなった。おまえはそれに頷けばいい。出来るな」
 「冗談じゃなくてよ!なぜわたくしがぎゃああ!」
 看守がサーフィアの腕を捻り上げる。
 痛みに喚くサーフィアが王に助けを求めるが、王は顔を背けることしか出来ない。
 「それでいい。おまえの罪は王女を失うことですすがれた。今後このようなことがないよう慎め」
 エリアストが顎で扉を示すと、王を拘束していた看守が引きずるように王を部屋から連れて行った。
 「さて、女。貴様の行いは万死に値する。と言いたいところだが」
 エリアストは立ち上がり、サーフィアに近付くと、サーベルでサーフィアの顎を持ち上げた。
 「実に素晴らしいプレゼントを贈ってもらった。それに免じて私からもプレゼントをやろう。存分に受け取るといい」
 形の良い口元が笑っている。
 サーフィアは目を見開く。目深に被った帽子で目は見えない。だが、これは。
 「あなた、王族に対して不敬ですわよ。その、その帽子を取りなさい。わたくしに、顔を見せてご覧なさい」
 絶対に美しい。サーフィアの頬は紅潮した。きっと、今まで見たこともないほどの美しさだ。お気に入りの護衛騎士なんて目ではない。
 「わたくしの、護衛騎士にして差し上げてよ。さあ、早く帽子を」
 興奮するサーフィアを、エリアストは冷たく見下ろした。サーフィアは、なぜ顔を見せないの、わたくしの専属騎士よ、わたくしの側に置いてやるのよ、と喚いている。
 「見境のないめすだ。盛りのついた犬の方がまだマシだな」
 話す価値もない。
 サーベルがサーフィアの頬を打つ。鮮血が飛んだ。痛みに叫ぶ。
 「黙れ。自分で強く望んだ監獄だ。存分に味わえ」
 自分が入ることを望んだのではない、と泣き喚くサーフィアを押さえる看守に頷くと、その看守もサーフィアを引きずるように部屋から出て行った。
 部屋が静かになると、エリアストは外に待機する看守を呼んだ。
 「新しいサーベルを用意しろ。これはもう使えん」
 汚いモノに触れた物など不要。汚いモノも、不要だ。


 *5へつづく*
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