美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛

らがまふぃん

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番外編

寿限無寿限無、この世で一番美しいのはだあれ

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お気に入り登録300を超えたことに、多大なる感謝を込めて、一話お届けいたします。
本当にありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

本編とはまったく関係のない話としてお読みください。
白雪姫っぽい話です。違うかな。


*∽*∽*∽*∽*


 この国の王には悩みがあった。それを少しでも手助けして欲しくて、国一番の魔法使いを訪ねることにした。
 「面倒だ。私に何のメリットがある。出直せ。もしくは死ね」
 二択の片方が酷い。
 「ご、ごもっともです。ですが、お力添えをいただきましたら、魔法使い殿の望みを出来る限り叶える所存ですので、何卒」
 「おい、鏡」
 『この世で一番美しいのはエリアスト様です!』
 「そんなくだらんことは聞いていない。一週間ほど出掛けるが、出先で何かがありそうだ。それが脅威なのか何なのか、判断がつかん。それの姿だけでもわかれば対処が出来る。映せ」
 第六感が何かを訴えていることは間違いない。そして国王のことは完全に無視だ。
 『かしこまりました』
 そうして映し出された姿に、エリアストは息を飲んだ。
 「っ。これは、そうか」
 エリアストは僅かに考えると、鏡に言った。
 「私が出掛けている間、おまえを国王コイツのところに預ける」
 突然の心変わりに、国王ディアンは驚く。願ったりではあるが。
 『イヤです』
 「粗相があったら貴様を砕いて別の鏡を私の物とする」
 『粉骨砕身全力全霊ご奉仕して参ります』
 「おい、私の願いを何でも叶えると言ったな」
 口の端を上げて笑うエリアストに、ディアンはひるみつつ頷く。
 「私に出来ることであれば」
 「いいだろう。私が戻ったらコイツを引き上げに出向いてやる。その時に要望を伝える」
 「すまない。本当に助かるよ」
 『私があるじの側を離れるのは不本意なんてものではありませんが、一瞬でも早く戻れるよう私も努力しますので、あなたもさっさと結果を出してくださいね』
 鏡だ。目はないはずだが、冷たく見下ろされている感じがする。それに、エリアストは外出すると言っているのだからどちらにせよ離れているし、早く戻ったとていないのでは、何より引き上げに来ると言っているが、と思ったが、ディアンはその言葉を飲み込む。
 「せ、精励恪勤せいれいかっきん、頑張ります」
 ディアンの言葉を聞かず、エリアストと鏡は話し始める。
 「ああ、最後に一つ仕事だ」
 『最後とか言わないでください』


*~*~*~*~*


 女性が七人の男に囲まれている。
 「何をしている」
 頭上からの声に、女性と男たちが仰ぎ見る。そこには人外の美貌があった。口と目を見開き、男たちは真っ赤になって固まっている。言葉が出て来ない男たちに、頭上の男は不機嫌そうに指を鳴らす。それだけで、男たちは倒れた。驚いた女性は、倒れた男たちを見回した後、頭上の美しすぎる男に感謝を述べた。
 「本当に、本当にありがとうございました。どこかお怪我をされていないか、心配です。お礼も兼ねて、よろしかったら」
 そこまで言うと頭上の男がフワリと下りてきて、女性の手を掴む。
 「私はエリアスト。エリアスト・カーサ・ディレイガルドだ。名を、教えてくれ」
 「あ、は、はい。リトル=マイスウィート=エンジェル=アリス=シラユキ=メガミ=シエル=エトワール=プティ=プリンセス=ラブリスト=ディユー=アンジュ=リヒト=ディアナ・コーサ・ファナトラタと申します」
 少し、見つめ合う。
 「アリス、無事で良かった」
 心の底からの安堵の息と共に抱き締められたアリスは、真っ赤になって戸惑う。男性からの抱擁など、家族以外では初めてだ。どうしたらいいかわからない。
 「あ、あの、魔法使い様、」
 「エル。エルと呼んでくれ、エルシィ」
 「ふえ?え、え、エル、様?」
 エリアストの抱き締める力がますます強くなる。
 「あ、あ、エル様、町へ、戻って」
 「っ、そうだな。ご両親への挨拶が先だ」
 「え?いえ、エル様の診察を」
 「さあ行こう。ああ、ゆっくり歩きながらエルシィと二人きりの語らいの時間とするか、即刻瞬間移動飛んで挨拶を済ませて私の邸へ連れて行くか。何という究極の選択だ」
 今この出会いの時を満喫すべきか、即時邸で愛を育むか。かなり悩んだ末、出会いの時は今しかないと思い、歩いてアリスの家に向かうことにした。


 何故、家を知っているのだろう。
 アリスはそう思ったが、命の恩人は魔法使い。人智を超えた何かがあるのだろうと、深く考えないことにした。もちろん、最後に一つ仕事だ、と言った鏡への要求に他ならないのだが、アリスは知る由もない。魔法と言えば魔法なので、間違いではない。
 「あの、ぜひ助けていただいたお礼を、家族からもさせていただきたいので、どうぞ、お入りくださいませ」
 道中、怪我は何一つないから心配いらない、それよりエルシィこそ何もないか、とずっとお姫様抱っこで移動してきた。アリスの家の前でやっと下ろしてもらい、アリスは羞恥にフラフラだ。
 家に入ると、エリアストの魔法で先に報せを受けていた両親と兄が、顔を青くしていた。アリスの無事な姿を見て、泣きながら抱き締めてくれた。エリアストに泣きながら礼を言い続け、その人外の美貌故、神だ天の使いだと崇めながら、自分たちに出来る精一杯の礼がしたいと言った。
 「礼か。では、アリスをもらおう」
 家族は涙が止まった。首を傾げてエリアストを見る。
 「礼は、アリスだ。アリスをこのまま連れて帰る。いいな」
 悪魔だった。


 アリスと二度と会わせないわけではない、アリスが望めばすぐに会わせてやる、とエリアストはアリスを連れ去った。
 名前からもわかる通り、家族はアリスを溺愛していた。一つに絞れなくて、ならばもうすべてをアリスの名にしようと、愛情なのか嫌がらせなのかわからない名前となった。それ程までに溺愛していたアリスとの突然の別れ。
 魔王様の去った後のファナトラタ家は、お葬式のようだった。
 一方、アリスを連れたエリアストは、国王ディアンを訪ねていた。
 「婚約してから一年は籍を入れられない、ことはないな?」
 この国の法律で、一年以上の婚約期間を設けるよう定められている。為人ひととなりを知らずに結婚し、悲惨な目に遭うリスクを少しでも下げるためだ。一年本性を隠す者もいるだろうが、ボロが出ない者の方が少ない。そういった理由などから、結婚は早くて一年後。なのだが。
 「大丈夫です!」
 鏡の貸しがあるディアンは、絶対零度の瞳で見下ろされ、半泣きで震えながら、エリアストとアリスの婚姻を認めた。エリアストが怖くてアリスを差し出したわけではない。断じて、違う。
 結婚証明書にディアンのサインをもらうと、エリアストは鏡と共に去って行った。
 ファナトラタ嬢、アレに気に入られたんだ。気に入られちゃったんだあ。
 ディアンは遠い目をしていた。


*~*~*~*~*


 「エルシィはこれからここに住む。エルシィから話しかけられたら五文字以内で簡潔に答えろ。おまえが話しかけることは許さん。いいな」
 五文字って。
 「まあ、エル様。こちらの鏡はお話が出来るのですか?とても素敵ですね」
 微笑むアリスに、エリアストは鏡に嫉妬の目を向ける。今にも鏡を破壊しそうな勢いだ。しかし、続く言葉にエリアストは破顔する。
 「エル様の魔法は優しい魔法なのですね。話の出来ないものにまで心配りをなさるなんて、本当に素敵ですわ。自慢の、だ、旦那様、です」
 愛しくて愛しくて仕方がない。エリアストはアリスを強く抱き締めた。
 『この世で一番心が美しいのは、アリス様です』
 「エルシィの名を呼ぶな。破壊されたいか」



*おしまい*

たくさんの愛に支えられ、なんとお気に入り登録300に!
心臓が痛い。嬉しすぎます。
本当にありがとうございます(泣)

今回、落語の寿限無のようなアリスの名前、みなさまはいくつ意味がわかりましたでしょうか。

リトル=マイスウィート=エンジェル→そのまんまですね
アリス→アリスですね
シラユキ→白雪です。雪のように白い肌からきました
メガミ→女神です。そのまんまですね
シエル=エトワール→星空です
プティ=プリンセス→小さなお姫様です
ラブリスト→愛らしいの天元突破ですかね
ディユー→神です
アンジュ→天使です
リヒト→光です
ディアナ→女神です

言語を変えて、意味は重複しているものもあります。家族の愛が伝わりますね。
ラブリストは作者的にラブの最上級として使用。そんな言葉があるかどうかすらわからないです。すみません。
中途半端なところにアリスの名を置いたのは、ワザとです。
それでもエル様は、アリスの名に反応するのですね。
きっとこの世界では、アリスを「女神のようですね」とか「天使のようです」と言ってしまった人物は、エリアストに処刑されるかもしれませんね。それらもアリスの名前の一部ですから。
また、お会い出来ることを祈って。R5.11/12
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