美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん

文字の大きさ
45 / 82
フルシュターゼの町編

しおりを挟む
 フルシュターゼは、リスフォニア領と隣接する、イグルーシャ領とケーシー領に接した街だ。リスフォニアとケーシーは、どちらも伯爵位、イグルーシャは、侯爵位の領主が治めていた。

 ケーシーの当主は堅実であった。当主に似て真面目な、二人の息子と一人の娘がいる。
 「隣のリスフォニアに先日話した通り、明日、あのディレイガルド公爵様御一行が到着するとのことだ。明後日、全員でご挨拶に行くよ」
 ケーシー伯の言葉に、子どもたちの顔に緊張が走る。ゴクリと唾を呑んだ。
 「彼の方たちに、挨拶以外で口を開いてはいけないよ。本当に何がご当主様の逆鱗に触れるかわからないのだから」
 長男のデュオは来年結婚を控えており、次男のデュイエはデビュー一年目。末の娘メリッサは二年後にデビューだ。緊張から、おかしなことをしでかさないといいのだけれど。
 先日の式典での夜会を思い出す。
 何が行われたかは見ていないが、あの、凍えるような瞳が恐ろしかった。
 夫人と息子たちも思い出したのだろう。顔色が悪い。
 「そうよ。本当に、お父様の言うことをよく聞くのよ。ディレイガルド公爵様たちにはご挨拶だけ。決して関わってはいけないわ」
 三人の子どもたちは、緊張した面持ちで頷いた。

 イグルーシャの当主は、権力を振りかざす人物だった。夫人もまた、同じような人物。子どもは四人。二人の息子と二人の娘。
 侯爵夫人はかなり奔放な人物だった。伯爵家の次女として生まれ、あまり厳しく躾けられなかった。本来であれば、侯爵家に嫁げるほどの器ではなかった。だが、イグルーシャ侯が一目惚れをし、その身一つで嫁いできてくれと口説き落とした。何もいらない。あなたさえいればいい。横暴な侯爵は、妻を甘やかしまくっていた。
 「リスフォニアに、明日ディレイガルド公爵様たちが来る。明後日、皆で挨拶に行くぞ」
 晩餐の時間、イグルーシャ侯はそう言った。
 「まあ、あのディレイガルド公爵様がっ?」
 夫人は頬を紅潮させる。
 「ディレイガルドって、あの、筆頭公爵家のですよね」
 「ご当主様が、とてもお美しいのよねっ?」
 「でもとても残酷だって聞くよ」
 「それでも見てみたいじゃない!」
 筆頭公爵家がすぐ側に来ているのに挨拶に行かないなどあり得ない。もしかしたら、公爵の子どもが自分の子どもを見初めるかもしれない。そうなったら、筆頭公爵家の仲間入りだ。思わず顔がにやけてしまう。
 「でも、大人しくしていてちょうだいよ。本当に公爵様はお美しいけれど、本当に恐ろしい方なんですからね」
 いつも自由気ままな母のそんな言葉に、子どもたちは顔を見合わせた。
 晩餐が終わり、いつもなら部屋に戻る子どもたち。だが、今夜は違った。長男アイルの部屋にみんなが集まる。
 「あのお母様がダメだって。ね、そんなに怖いのかしら」
 長女ツイーナがソファから身を乗り出すように前のめりになる。
 「あの母上が大人しくなるくらいだよ。相当じゃないかな」
 次男サーレンが怖々と答える。
 「でも、怖いからと言うより、見とれていて大人しくなるんじゃないかな。母上、面食いだから」
 アイルが笑う。
 「お母様を静かにさせるほどの美貌って、凄いわね。早く見たいわ」
 次女カトリーナが目を輝かせた。口々にそんな話をする。好奇心と、少しの不安。公爵家と話なんて、したこともない。同じ貴族でも、公爵、して筆頭なんて、凄すぎて想像もつかない。
 「公爵様の子どもって、お兄様と同い年なんでしょう?」
 カトリーナがサーレンを見てそう言った。
 「ああ。来年、一緒に学園に通うことになる。兄上も一年は一緒だよね」
 「ああ、そうだな」
 「お姉様は二年一緒。私も遅れて二年一緒よ。楽しみだわ」


*つづく*
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...