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フルシュターゼの町編
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みんな、頭を下げることすらまともに出来なかった。
「ようこそおいでくださいました、ディレイガルド公爵様並びに奥方様、ご令息様、ご令嬢様。ご満足いただけるよう精一杯努めさせていただきます。支配人のレストーニアにございます。何なりとお申し付けください」
さすが支配人であり、前当主の家令を勤め上げた人物だ。そつなく挨拶を熟す。
「世話になる」
輝く銀の髪に、アクアマリンのような水色の瞳。その顔は、この世界と隔絶された美しさであり、直視したら天国へ誘われるほどの破壊力だ。そしてその顔の幼さを残したバージョンが背後に二人。
平民の働き手は軒並み倒れ、貴族の三分の二も倒れた。
「よろしくお願いいたします」
艶やかな黒髪に、アメシストのような紫の瞳。穏やかな声音は天上のものか。
「エルシィ、話をしてはいけないと言っただろう。エルシィの声を聞いた者の耳を削ぎ落とさねば」
なん、だと?
何とか生き残っている者たちはガクブルだ。何もしていないのに、いきなりアウトか。
「旦那様、ご挨拶だけなら、とお許し下さったでしょう」
うふふ、と柔らかく微笑むアリスに、エリアストは、ああ、そうだったな、とアリスの頭にくちづけた。
声を他人に聞かせることすら厭うほどの独占欲。本当だったら、その姿すら見せたくないのだろう。よし。支配人にすべて任せよう。我々は徹底的に裏方に回ろうではないか。頷き合う生存者。みんなの心はひとつになった。
「ディレイガルド公爵様、隣の領地イグルーシャ侯とケーシー伯より、明日ご挨拶に伺いたいと打診が来ておりますが、如何されますか」
部屋を案内し、落ち着いた頃合いを見計らって、レストーニアは声をかけた。
こういうことが煩わしいのでお忍びで来ているのに、どうしても話は出回ってしまう。エリアストが、アリスにしかわからない程度だが面倒だと顔に出していると、隣に座るアリスが、そっとその手に自身の手を重ねて微笑む。エリアストは眉を下げ、アリスが重ねてくれた手を持ち上げ、くちづけた。
「わかった。昼餐の後に時間を設けよう」
レストーニアは頭を下げて退室した。
「父上、母上。ディアと少し外に出てもよろしいでしょうか」
「晩餐までに戻るなら許可する」
「あまり遠くへ行かないようにしてくださいね。知らない土地です。危険がどこにあるかわかりませんからね」
「大丈夫ですわ、お母様。わたくしたちの馬を少し走らせてくるだけです。街へ行ってもメイン通りから外れることは致しません」
「そうですか。気を付けるのですよ」
二人は嬉しそうに微笑んで返事をすると、頭を下げて部屋を出た。それを見てエリアストは立ち上がると、座るアリスを囲うようにソファの背もたれに両手をついて、アリスを覗き込むように見つめた。
「疲れていないか、エルシィ」
返事を待たずに唇が重なる。顔を真っ赤にしたアリスの小さな両手が、エリアストの胸元の服を遠慮がちにキュッと握る。無意識か、いつもそうするアリスの行動が愛おしい。フッとエリアストは笑った。
「本当に、なぜこんなにも愛らしいことをしてくれるのか」
片膝をソファに乗せると、アリスの頭と腰に腕を回して深くくちづけた。
「エルシィ、その愛らしすぎる顔が落ち着いたら、少し付き合ってくれないか」
エリアストの膝の上で抱き締められながら、酸欠気味で上がる息と、火照る顔。
誰にも見せられない。
通常の顔でも愛らしすぎるというのに、これでは人外にまで襲われてしまう。何があっても守り切るが、怖い思いなどして欲しくない。
暫くして落ち着いたアリスの少し崩れた髪を、エリアストは手際よく直すと、アリスをお姫様抱っこして部屋を出た。
仕事のため館内にいた者たちは、エリアストを目にすると、次々と倒れていく。お仕事の邪魔をしてすみません、とアリスは心の中で謝り通しであった。
*つづく*
「ようこそおいでくださいました、ディレイガルド公爵様並びに奥方様、ご令息様、ご令嬢様。ご満足いただけるよう精一杯努めさせていただきます。支配人のレストーニアにございます。何なりとお申し付けください」
さすが支配人であり、前当主の家令を勤め上げた人物だ。そつなく挨拶を熟す。
「世話になる」
輝く銀の髪に、アクアマリンのような水色の瞳。その顔は、この世界と隔絶された美しさであり、直視したら天国へ誘われるほどの破壊力だ。そしてその顔の幼さを残したバージョンが背後に二人。
平民の働き手は軒並み倒れ、貴族の三分の二も倒れた。
「よろしくお願いいたします」
艶やかな黒髪に、アメシストのような紫の瞳。穏やかな声音は天上のものか。
「エルシィ、話をしてはいけないと言っただろう。エルシィの声を聞いた者の耳を削ぎ落とさねば」
なん、だと?
何とか生き残っている者たちはガクブルだ。何もしていないのに、いきなりアウトか。
「旦那様、ご挨拶だけなら、とお許し下さったでしょう」
うふふ、と柔らかく微笑むアリスに、エリアストは、ああ、そうだったな、とアリスの頭にくちづけた。
声を他人に聞かせることすら厭うほどの独占欲。本当だったら、その姿すら見せたくないのだろう。よし。支配人にすべて任せよう。我々は徹底的に裏方に回ろうではないか。頷き合う生存者。みんなの心はひとつになった。
「ディレイガルド公爵様、隣の領地イグルーシャ侯とケーシー伯より、明日ご挨拶に伺いたいと打診が来ておりますが、如何されますか」
部屋を案内し、落ち着いた頃合いを見計らって、レストーニアは声をかけた。
こういうことが煩わしいのでお忍びで来ているのに、どうしても話は出回ってしまう。エリアストが、アリスにしかわからない程度だが面倒だと顔に出していると、隣に座るアリスが、そっとその手に自身の手を重ねて微笑む。エリアストは眉を下げ、アリスが重ねてくれた手を持ち上げ、くちづけた。
「わかった。昼餐の後に時間を設けよう」
レストーニアは頭を下げて退室した。
「父上、母上。ディアと少し外に出てもよろしいでしょうか」
「晩餐までに戻るなら許可する」
「あまり遠くへ行かないようにしてくださいね。知らない土地です。危険がどこにあるかわかりませんからね」
「大丈夫ですわ、お母様。わたくしたちの馬を少し走らせてくるだけです。街へ行ってもメイン通りから外れることは致しません」
「そうですか。気を付けるのですよ」
二人は嬉しそうに微笑んで返事をすると、頭を下げて部屋を出た。それを見てエリアストは立ち上がると、座るアリスを囲うようにソファの背もたれに両手をついて、アリスを覗き込むように見つめた。
「疲れていないか、エルシィ」
返事を待たずに唇が重なる。顔を真っ赤にしたアリスの小さな両手が、エリアストの胸元の服を遠慮がちにキュッと握る。無意識か、いつもそうするアリスの行動が愛おしい。フッとエリアストは笑った。
「本当に、なぜこんなにも愛らしいことをしてくれるのか」
片膝をソファに乗せると、アリスの頭と腰に腕を回して深くくちづけた。
「エルシィ、その愛らしすぎる顔が落ち着いたら、少し付き合ってくれないか」
エリアストの膝の上で抱き締められながら、酸欠気味で上がる息と、火照る顔。
誰にも見せられない。
通常の顔でも愛らしすぎるというのに、これでは人外にまで襲われてしまう。何があっても守り切るが、怖い思いなどして欲しくない。
暫くして落ち着いたアリスの少し崩れた髪を、エリアストは手際よく直すと、アリスをお姫様抱っこして部屋を出た。
仕事のため館内にいた者たちは、エリアストを目にすると、次々と倒れていく。お仕事の邪魔をしてすみません、とアリスは心の中で謝り通しであった。
*つづく*
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