美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん

文字の大きさ
49 / 82
フルシュターゼの町編

しおりを挟む
 街から馬車で二十分ほどの場所に、大きな森がある。その三分の二ほどが、フルシュターゼの町域だ。隣町域の程近くに、目的のものがある。馬が通れる程度の幅分だけ、道が綺麗に整備されている。環境保全のため、馬車では通れないようにしてあった。
 森に入ると、少し空気がひんやりしていた。
 エリアストは、アリスの頭に掛けていたショールを肩に掛け直してやる。お礼を言って微笑むアリスに、エリアストも微笑んだ。
 「ああ、ほら、エルシィ。あれが始まりの樹と言われているものだ」
 他の木々に遮られ、今はその幹しか見えない。けれど、かなりの大きさであることがわかる。近付くにつれ、その樹の大きさがとんでもないとわかる。大きすぎて全貌が見えない。周囲の木々をどれほど伐採すれば、全体を見ることが出来るのだろう。
 大樹のお膝元。大人十人が手を繋いで囲っても、とても囲いきれないどっしりとした極太の幹。
 「これは、何と言う…」
 始まりの樹。
 この世界、すべての生命の源と言われるほど、太古の昔から存在する大樹。悠久の時を見守り続け、今も尚、青々と雄々しく葉を茂らせている。
 言葉を失ったアリスを馬から下ろし、その大樹にゆっくり近付く。見上げると、大樹は優しく枝を揺らし、二人を歓迎しているようだった。
 「エルシィ」
 言葉を詰まらせ、涙を流すアリスを後ろから抱き締め、頬を伝う涙を舐めとる。
 「エル様、素晴らしいですねえ」
 ボロボロと涙を零しながら、その大樹から目が離せない。圧倒的なその存在に、体が歓喜に震える。
 「ああ、これは凄いな。何故だか、懐かしく感じられる」
 エリアストも大樹を仰ぎ見、不思議な感覚に包まれていた。
 これほど大きく圧倒的な存在であるにも関わらず、威圧的ではない。とても優しい、大きな愛に包まれているようだ。
 まるで、アリスのような。
 二人は、ただ無言で長いこと大樹を見つめていた。

*~*~*~*~*

 「お母様にお土産を選びたいわ」
 「ここの特産は何だろう」
 「密かな名所はあるけれど、特産はないのではないかしら」
 そんな話をしながら、馬でゆっくり街中を見ているノアリアストとダリア。人々は口を開けたまま二人を凝視する。人外の美貌が二つある。
 着替えをしていたため、エリアストたちより遅れて街に到着した。馬を預けてゆっくり見て回ろうと、うまやを探している。メイン通りも終わろうという場所に、ようやく目的のものを見つけた。
 厩のあるじは美貌の二人に声が出せず、ただ頷いて了承することしか出来なかった。
 「こ、こんな立派な馬、何かあったらどうしたらいいんだ」
 二人を見た衝撃から立ち直った後、主は頭を抱えた。

 「ん?何だこれは。おい、これは何だ」
 横柄な態度の子どもに、店主はぺこぺこと頭を下げながら商品の説明をしている。イグルーシャ侯爵家の人間だ。間違いがあってはただでは済まない。街の人に限った話ではないが、イグルーシャ家の横暴さはよく耳にする。この町がイグルーシャの領地ではないことに感謝することもしばしば。そんな侯爵家が、何故か今、リスフォニア領であるフルシュターゼに訪れている。この人たちも星でも見に来たのだろうか。街の人たちはヒソヒソとそんな話をしていた。
 イグルーシャの子どもたちが買い物を楽しんでいると、末っ子のカトリーナが興奮した声で兄姉を呼ぶ。
 「お兄様、お姉様、凄い、凄いですっ」
 「どうしたカトリーナ」
 そう言って顔を上げたアイルは時が止まった。つられてツイーナとサーレンも視線の方向に目をやり、固まる。
 美の化身が、そこにはいた。


*つづく*
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...