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フルシュターゼの町編
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ディアンをいじるのもそこそこに、エリアストも急ぎアリスの側にとサロンへ向かう。エリアストの姿が見えると、アリスがすかさず走り寄る。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ、ただいま、エルシィ」
きゅう、と愛しくアリスを抱き締める。双子も護衛や侍女たちも、そっとサロンを後にする。
アリスがいつもより強くエリアストを抱き締めた。
「エルシィ?」
「折角のエル様との休暇だというのに、なかなかゆっくり出来ませんね、エル様」
困ったように眉を下げるアリスが、そっとエリアストから離れ、エリアストの手を取った。
「ふふ、エル様、少々お付き合いくださいませ」
晩餐の時間も過ぎているのに、どこへ行くのだろうと思っていると、二階の使用していない部屋に着いた。アリスがドアを開けると、食事が用意されていた。
「ここで食べたいのか、エルシィ」
エリアストがそう言うと、アリスは微笑んだ。
「はい。あ、あの、明かりは点けないでくださいませ、エル様」
不思議に思いながらエリアストは頷く。テーブルには、ガラスの器に入ったロウソクがひとつ揺らめき、席は窓に向いて二つ並んでいる。
「冷めない内にいただきましょう、エル様」
ふたり、寄り添いながら食事をする。
「エル様は、光る鳥をご存知ですか?」
アリスの言葉に、エリアストは少し考え首を振る。
「いや、わからない、エルシィ」
「この時季だけのようなのですが、よく見られるそうです。エル様と、見てみたいと思いまして、その、我儘を言って、このお部屋を、使わせていただきました」
どの部屋からも森は見える。だが、この部屋が一番外の明かりが少なく、よく見えるとのこと。
「月明かりが弱い程、よく光るそうです。今宵は三日月。きっとよく見えますわ、エル様」
「なるほど。ではこの蝋燭もない方が良いな、エルシィ」
「え?」
エリアストは、フ、と火を吹き消した。
「エル様、これでは食事が出来ませんわ」
楽しそうに笑うアリスの顎を捉えてくちづける。
「んんっ」
突然口の中に入ってきたものに驚きつつ、アリスは嚥下した。
「こうして私が食べさせるから問題ない、エルシィ。私は夜目が利く」
「ふええ、えるさまぁ」
恥ずかしすぎて俯くアリスの頭にくちづけた。
「私のために色々考えてくれてありがとう、エルシィ」
アリスは顔を上げて微笑むと、そっとエリアストの頬にくちづけた。
「わたくしが、エル様とひとつでも多くの素敵な思い出が欲しかったのです」
はにかむアリスに、エリアストは深くくちづけた。
翌日は、昼近くまで起きられなかったことは言うまでもない。
*~*~*~*~*
ディアンがリスフォニアに出立する際、護送の用意をして自分を追いかけるよう指示をしていた。急ぎ準備を調え、すぐにディアンの後を追った護送馬車は、ディアンが到着した翌日の、晩餐が終わる頃に到着した。
「無理をさせた」
ディアンの労いの言葉に、護衛の者たちは頭を下げる。一日見なかっただけで、もの凄くディアンがやつれているように見えるのは気のせいではない。
「陛下、お休みになられましたか?」
心配する護衛の言葉に、ディアンは苦笑した。
「心配をかけたな。大丈夫だ。問題ない」
そう。自分の体は問題ない。昨日のお仕置きが精神的にキツかっただけだから。奥方に会いたい故、早々にお仕置きが終わったことは僥倖だ。奥方には感謝しかない。寧ろ今後がやべー。城に帰ってからが本番だから。マジで来年中には法案通さないと世界が滅ぶ!
護送馬車が到着する数時間前。
「へ、陛、下」
ディアンはアルシレイスたちがいる部屋を訪れていた。今後の話をするためだ。
突然の王の登場に、アルシレイスたちは狼狽えた。
ディアンはアルシレイスたちの姿に苦笑いを浮かべる。公爵の右目に包帯、夫人の左耳に包帯、子女の首に包帯。共に来ていた六人の子女の内、四人は目が虚ろで焦点が合っていない。残る二人も顔色が酷い。
「まったく。なぜ大人しくしていない、アルシレイスの」
溜め息交じりにディアンがそう言うと、アルシレイスは項垂れた。
「ディレイガルドには手を出すな、と言っていただろう。私の忠告を無視するからこんな目に遭うのだ」
「お言葉ですが陛下。我々アルシレイス家の方が、国に貢献しております。財も我が家の方が潤沢だ。それなのに、何故ディレイガルドなのです。何故彼奴らが筆頭を掲げ続けておるのですか」
ディアンはアルシレイスの向かいのソファに腰を下ろした。
「愚か者め」
ピリ、と肌を刺すような威圧がディアンから放たれる。アルシレイスたちの顔が青ざめた。
*つづく*
光る鳥の光景は、蛍のでっかい版だと思っていただければ。動きも蛍より速いですが、通常の鳥よりゆっくりです。羽を動かさず、風に乗って遊んでいる鳥くらいの速度を想像していただければ。
ちなみにアリスが鳥の話を聞いたのも、二階の部屋を使わせてもらったのも、もちろん双子を通してです。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ、ただいま、エルシィ」
きゅう、と愛しくアリスを抱き締める。双子も護衛や侍女たちも、そっとサロンを後にする。
アリスがいつもより強くエリアストを抱き締めた。
「エルシィ?」
「折角のエル様との休暇だというのに、なかなかゆっくり出来ませんね、エル様」
困ったように眉を下げるアリスが、そっとエリアストから離れ、エリアストの手を取った。
「ふふ、エル様、少々お付き合いくださいませ」
晩餐の時間も過ぎているのに、どこへ行くのだろうと思っていると、二階の使用していない部屋に着いた。アリスがドアを開けると、食事が用意されていた。
「ここで食べたいのか、エルシィ」
エリアストがそう言うと、アリスは微笑んだ。
「はい。あ、あの、明かりは点けないでくださいませ、エル様」
不思議に思いながらエリアストは頷く。テーブルには、ガラスの器に入ったロウソクがひとつ揺らめき、席は窓に向いて二つ並んでいる。
「冷めない内にいただきましょう、エル様」
ふたり、寄り添いながら食事をする。
「エル様は、光る鳥をご存知ですか?」
アリスの言葉に、エリアストは少し考え首を振る。
「いや、わからない、エルシィ」
「この時季だけのようなのですが、よく見られるそうです。エル様と、見てみたいと思いまして、その、我儘を言って、このお部屋を、使わせていただきました」
どの部屋からも森は見える。だが、この部屋が一番外の明かりが少なく、よく見えるとのこと。
「月明かりが弱い程、よく光るそうです。今宵は三日月。きっとよく見えますわ、エル様」
「なるほど。ではこの蝋燭もない方が良いな、エルシィ」
「え?」
エリアストは、フ、と火を吹き消した。
「エル様、これでは食事が出来ませんわ」
楽しそうに笑うアリスの顎を捉えてくちづける。
「んんっ」
突然口の中に入ってきたものに驚きつつ、アリスは嚥下した。
「こうして私が食べさせるから問題ない、エルシィ。私は夜目が利く」
「ふええ、えるさまぁ」
恥ずかしすぎて俯くアリスの頭にくちづけた。
「私のために色々考えてくれてありがとう、エルシィ」
アリスは顔を上げて微笑むと、そっとエリアストの頬にくちづけた。
「わたくしが、エル様とひとつでも多くの素敵な思い出が欲しかったのです」
はにかむアリスに、エリアストは深くくちづけた。
翌日は、昼近くまで起きられなかったことは言うまでもない。
*~*~*~*~*
ディアンがリスフォニアに出立する際、護送の用意をして自分を追いかけるよう指示をしていた。急ぎ準備を調え、すぐにディアンの後を追った護送馬車は、ディアンが到着した翌日の、晩餐が終わる頃に到着した。
「無理をさせた」
ディアンの労いの言葉に、護衛の者たちは頭を下げる。一日見なかっただけで、もの凄くディアンがやつれているように見えるのは気のせいではない。
「陛下、お休みになられましたか?」
心配する護衛の言葉に、ディアンは苦笑した。
「心配をかけたな。大丈夫だ。問題ない」
そう。自分の体は問題ない。昨日のお仕置きが精神的にキツかっただけだから。奥方に会いたい故、早々にお仕置きが終わったことは僥倖だ。奥方には感謝しかない。寧ろ今後がやべー。城に帰ってからが本番だから。マジで来年中には法案通さないと世界が滅ぶ!
護送馬車が到着する数時間前。
「へ、陛、下」
ディアンはアルシレイスたちがいる部屋を訪れていた。今後の話をするためだ。
突然の王の登場に、アルシレイスたちは狼狽えた。
ディアンはアルシレイスたちの姿に苦笑いを浮かべる。公爵の右目に包帯、夫人の左耳に包帯、子女の首に包帯。共に来ていた六人の子女の内、四人は目が虚ろで焦点が合っていない。残る二人も顔色が酷い。
「まったく。なぜ大人しくしていない、アルシレイスの」
溜め息交じりにディアンがそう言うと、アルシレイスは項垂れた。
「ディレイガルドには手を出すな、と言っていただろう。私の忠告を無視するからこんな目に遭うのだ」
「お言葉ですが陛下。我々アルシレイス家の方が、国に貢献しております。財も我が家の方が潤沢だ。それなのに、何故ディレイガルドなのです。何故彼奴らが筆頭を掲げ続けておるのですか」
ディアンはアルシレイスの向かいのソファに腰を下ろした。
「愚か者め」
ピリ、と肌を刺すような威圧がディアンから放たれる。アルシレイスたちの顔が青ざめた。
*つづく*
光る鳥の光景は、蛍のでっかい版だと思っていただければ。動きも蛍より速いですが、通常の鳥よりゆっくりです。羽を動かさず、風に乗って遊んでいる鳥くらいの速度を想像していただければ。
ちなみにアリスが鳥の話を聞いたのも、二階の部屋を使わせてもらったのも、もちろん双子を通してです。
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