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ばんがいへん
幸福論
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こちらの内容は、妊娠・出産にかかわる、非常に繊細な内容を取り扱っております。不快に思うことや、表現があるかと思いますので、何でも大丈夫、気にしない、という方のみ、お読みください。あくまでも作品であるとご理解いただける方のみお読みいただきますよう、お願い申し上げます。
*~*~*~*~*
エルシィと結婚をして、幸せな毎日を送っている。
だがひとつ、憂いていることがある。
子どもだ。
後継ぎの問題ではない。私とエルシィの間に子どもが出来なければ、傍流から養子を迎えればいいだけだ。両親も、無理に私たちに子どもを望んでいるわけではない。
私は出産というもののリスクを恐れている。
命を生み出すのだ。それこそ、命懸けで。絶対の安全など存在しないことはわかっている。だが、危険とわかっていることにエルシィを晒さなくてはいけないことが、どうしても耐えられない。ならば、二人で生きていけば良い、とはならない。エルシィは、私との子どもを望んでくれているからだ。
なぜ男が出産出来ないのか。理解出来ん。
私が産めるのなら、いくらでも子どもを望む。エルシィの気が済むまで。一生産み続けてもいい。だが、現実は残酷だ。私はエルシィに代わって産むことが出来ない。
エルシィの望みを叶えたい。けれど、私はエルシィを失えない。
「エルシィ、お願いだ。約束して欲しい」
寝室で、エルシィの両手を自分の両手で包む。
「残酷なことを今から言う。けれど、私は」
エルシィを握る手に、力が入る。エルシィが、穏やかに微笑んだ。
「エル様。わかっております。わたくしの我儘を聞き入れようとしてくださって、ありがとうございます。子どもを優先させて、とは申しません」
「エルシィ」
驚いた。まさかエルシィから私が言おうとしていた言葉を聞くとは。
「けれど、どうしても、わたくしは助からない、子どもだけなら、となってしまったら」
「私も共に逝くことを許してくれ、エルシィ」
すかさずそう言った。言ってしまった。私の小ささに呆れるだろうか。父親になる覚悟が足りないと、怒られるだろうか。
しかし。
「はい。共に、参りましょう、エル様」
私は自分の耳で聞いたことが、信じられなかった。エルシィをマジマジと見る。エルシィは、握る私の手に、頬をすり寄せてくれた。
「わたくしは、悪い母ですね。愛する子どもから、父親まで奪ってしまうのですから」
ああ、聞き間違いではないのだ。私は、エルシィと共にあれるのだ。エルシィ、エルシィ。私は頬をすり寄せてくれるエルシィの額に、自分の額を合わせた。エルシィが許してくれた。なんて、なんて幸せなんだろう。
「違う。私が、エルシィがいないと生きていけない私が悪いのだ」
エルシィの血を半分継ぐ子ども。間違いなく可愛いだろう。
それでも。
「すまない。エルシィの分まで、子どもを大切に育てると言えなくて、すまない、エルシィ」
エルシィの大きさに救われてばかりの自分。何も返すことの出来ない私を赦してくれ。
「エル様。エル様とわたくしは、常に二人で考えて参りました」
ああ、そうだ。いつも、二人で歩もうと。
「どのような結果も、わたくしたち二人のものです」
そう、どんなことも、二人の、二人だけのもの。
「けれどエル様」
エルシィが祈るように目を閉じる。
「エル様がわたくしを守ってくださるように、わたくしもエル様を守りたいのです」
「エルシィ」
「わたくしが、エル様を守ります」
決意を秘めた、強い目が私を射貫く。
「子どもを、エル様との愛の証を、必ず守りましょう」
なんて美しい。
「わたくし、欲張りなんですよ、エル様」
とても柔らかな笑顔を向けてくれる。
「わたくしは、エル様も、子どもも、この手で抱き締め続けますわ」
エルシィと私の子どもを授かろうと決心するのに三年。かなり早く決心出来たと思う。エルシィが、私の心を守ってくれたことがかなり大きい。万が一の時は、共に逝ってもいいと、許してくれたことが。
子どもを優先させて、とは言いません。
エルシィはそう言ってくれた。どれほどの思いで紡いだ言葉だろう。
私は密かに決意した。
万が一、どちらかしか助からないと言われた場合。
子どもを助けて、共に逝くと。
そうして子どもを授かった。
だが、まさかの双子。多胎児は、母体にかなりの負担がかかる。リスクも跳ね上がる。私は気が気ではなかった。
「エル様。わたくしを誰だと思っておりますの?エリアスト・カーサ・ディレイガルドに見初められた女です。そして、エリアスト・カーサ・ディレイガルドを、愛している女ですわ」
最強、でしょう?そう言って、エルシィは私を抱き締めた。
「エル様との子どもが、一度に二人も。なんて幸せなことでしょう」
私の心配を余所に、エルシィも子どもも順調だ。医師も驚くほど、穏やかな妊娠だという。悪阻もない。妊婦にありがちな病気も不調も何もない。ただ、穏やかに、健やかに。それでも私は心配で堪らない。大きくなるエルシィの腹部と共に、私の不安も大きくなる。穏やかなのは今だけかもしれない。容態が急変するかもしれない。そんな不安が常に付きまとう。
そんなある日。
「エル様。わたくし、自分でも驚くほど順調だと思います」
エルシィが、隣に座る私の手を、だいぶ大きくなった腹部に添える。
「エル様が、毎日毎日わたくしを心配してくださいますでしょう。そして、この子たちにも言い聞かせてくださっている。“母様を中から守ってやれ、誰よりも大切な人を、守るんだ”」
エルシィが、嬉しそうに目を閉じる。
「エル様の思いが、この子たちに届いているのでしょうね」
大丈夫、心配ない、そう言うように、わたくしのお腹を、優しくトントン、とするのです、と、以前教えてくれた。確かに、私の言葉に返事をするように、エルシィの内側をトントンと叩いていた。
「エル様が、わたくしの分まで心配してくださるから、わたくしは、ただ安穏と妊婦生活を送れているのです」
エルシィが私の頭を抱き締めてくれる。
「この子たちに早く会いたいです。けれど」
そっと、エルシィのくちづけが、私の頭に降りてきた。
「残り少ない二人きりの生活を、思う存分満喫いたしましょう、エル様」
ああ、敵わない。
本当に、エルシィには敵わない。
これ程までに愛おしい存在が、常に私の側にあるこの奇跡。
幸せすぎて、なんて幸せなのだろう。
*おしまい*
次話はリカリエット王国編で出て来た、着物ドレスの話です。
*~*~*~*~*
エルシィと結婚をして、幸せな毎日を送っている。
だがひとつ、憂いていることがある。
子どもだ。
後継ぎの問題ではない。私とエルシィの間に子どもが出来なければ、傍流から養子を迎えればいいだけだ。両親も、無理に私たちに子どもを望んでいるわけではない。
私は出産というもののリスクを恐れている。
命を生み出すのだ。それこそ、命懸けで。絶対の安全など存在しないことはわかっている。だが、危険とわかっていることにエルシィを晒さなくてはいけないことが、どうしても耐えられない。ならば、二人で生きていけば良い、とはならない。エルシィは、私との子どもを望んでくれているからだ。
なぜ男が出産出来ないのか。理解出来ん。
私が産めるのなら、いくらでも子どもを望む。エルシィの気が済むまで。一生産み続けてもいい。だが、現実は残酷だ。私はエルシィに代わって産むことが出来ない。
エルシィの望みを叶えたい。けれど、私はエルシィを失えない。
「エルシィ、お願いだ。約束して欲しい」
寝室で、エルシィの両手を自分の両手で包む。
「残酷なことを今から言う。けれど、私は」
エルシィを握る手に、力が入る。エルシィが、穏やかに微笑んだ。
「エル様。わかっております。わたくしの我儘を聞き入れようとしてくださって、ありがとうございます。子どもを優先させて、とは申しません」
「エルシィ」
驚いた。まさかエルシィから私が言おうとしていた言葉を聞くとは。
「けれど、どうしても、わたくしは助からない、子どもだけなら、となってしまったら」
「私も共に逝くことを許してくれ、エルシィ」
すかさずそう言った。言ってしまった。私の小ささに呆れるだろうか。父親になる覚悟が足りないと、怒られるだろうか。
しかし。
「はい。共に、参りましょう、エル様」
私は自分の耳で聞いたことが、信じられなかった。エルシィをマジマジと見る。エルシィは、握る私の手に、頬をすり寄せてくれた。
「わたくしは、悪い母ですね。愛する子どもから、父親まで奪ってしまうのですから」
ああ、聞き間違いではないのだ。私は、エルシィと共にあれるのだ。エルシィ、エルシィ。私は頬をすり寄せてくれるエルシィの額に、自分の額を合わせた。エルシィが許してくれた。なんて、なんて幸せなんだろう。
「違う。私が、エルシィがいないと生きていけない私が悪いのだ」
エルシィの血を半分継ぐ子ども。間違いなく可愛いだろう。
それでも。
「すまない。エルシィの分まで、子どもを大切に育てると言えなくて、すまない、エルシィ」
エルシィの大きさに救われてばかりの自分。何も返すことの出来ない私を赦してくれ。
「エル様。エル様とわたくしは、常に二人で考えて参りました」
ああ、そうだ。いつも、二人で歩もうと。
「どのような結果も、わたくしたち二人のものです」
そう、どんなことも、二人の、二人だけのもの。
「けれどエル様」
エルシィが祈るように目を閉じる。
「エル様がわたくしを守ってくださるように、わたくしもエル様を守りたいのです」
「エルシィ」
「わたくしが、エル様を守ります」
決意を秘めた、強い目が私を射貫く。
「子どもを、エル様との愛の証を、必ず守りましょう」
なんて美しい。
「わたくし、欲張りなんですよ、エル様」
とても柔らかな笑顔を向けてくれる。
「わたくしは、エル様も、子どもも、この手で抱き締め続けますわ」
エルシィと私の子どもを授かろうと決心するのに三年。かなり早く決心出来たと思う。エルシィが、私の心を守ってくれたことがかなり大きい。万が一の時は、共に逝ってもいいと、許してくれたことが。
子どもを優先させて、とは言いません。
エルシィはそう言ってくれた。どれほどの思いで紡いだ言葉だろう。
私は密かに決意した。
万が一、どちらかしか助からないと言われた場合。
子どもを助けて、共に逝くと。
そうして子どもを授かった。
だが、まさかの双子。多胎児は、母体にかなりの負担がかかる。リスクも跳ね上がる。私は気が気ではなかった。
「エル様。わたくしを誰だと思っておりますの?エリアスト・カーサ・ディレイガルドに見初められた女です。そして、エリアスト・カーサ・ディレイガルドを、愛している女ですわ」
最強、でしょう?そう言って、エルシィは私を抱き締めた。
「エル様との子どもが、一度に二人も。なんて幸せなことでしょう」
私の心配を余所に、エルシィも子どもも順調だ。医師も驚くほど、穏やかな妊娠だという。悪阻もない。妊婦にありがちな病気も不調も何もない。ただ、穏やかに、健やかに。それでも私は心配で堪らない。大きくなるエルシィの腹部と共に、私の不安も大きくなる。穏やかなのは今だけかもしれない。容態が急変するかもしれない。そんな不安が常に付きまとう。
そんなある日。
「エル様。わたくし、自分でも驚くほど順調だと思います」
エルシィが、隣に座る私の手を、だいぶ大きくなった腹部に添える。
「エル様が、毎日毎日わたくしを心配してくださいますでしょう。そして、この子たちにも言い聞かせてくださっている。“母様を中から守ってやれ、誰よりも大切な人を、守るんだ”」
エルシィが、嬉しそうに目を閉じる。
「エル様の思いが、この子たちに届いているのでしょうね」
大丈夫、心配ない、そう言うように、わたくしのお腹を、優しくトントン、とするのです、と、以前教えてくれた。確かに、私の言葉に返事をするように、エルシィの内側をトントンと叩いていた。
「エル様が、わたくしの分まで心配してくださるから、わたくしは、ただ安穏と妊婦生活を送れているのです」
エルシィが私の頭を抱き締めてくれる。
「この子たちに早く会いたいです。けれど」
そっと、エルシィのくちづけが、私の頭に降りてきた。
「残り少ない二人きりの生活を、思う存分満喫いたしましょう、エル様」
ああ、敵わない。
本当に、エルシィには敵わない。
これ程までに愛おしい存在が、常に私の側にあるこの奇跡。
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