美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん

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ばんがいへん

王家の受難

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感謝を込めて、一話お贈りいたします。
時系列的に、フルシュターゼの町編の後だと思います。


*∽*∽*∽*∽*


 王子様って、絵本の中にしかいないのよって、お姉様が言っていたわ。
 でも、そんなの嘘。
 だって私、出会ったんだもの。
 絵本の王子様よりも、ずっとずっと王子様な王子様に。





 とある日の夜も少々更けた、プライベートな時間。三人の兄弟が顔を合わせていた。第一王弟メラルディと第二王弟カルセドが、兄である国王ディアンを訪ねていた。
 「え、一体何なの?トラブルメーカーなの?何で変なものに憑かれてくるの、私の甥っ子くんは」
 カルセドの相談内容に、ディアンは呆れというよりも、不思議そうにそう言った。
 カルセドの息子セドニアが、所用で護衛三人を連れてとある街へ行ったときのこと、暴漢に絡まれる女性がいたという。見て見ぬふりも出来なかったので、護衛の一人に解決に向かわせた。
 少し離れたベンチで他の護衛と待っていると、助けに入った護衛に頭を下げる女性が見えた。解決したかと安堵の息をくが、護衛が何かを女性にお願いされているように見受けられた。女性は婚約者と待ち合わせをしていたが、また誰かに絡まれたら怖いから送って欲しいと、懇願されたようだ。
 王家に連なる者を護衛しているため、あまり長い時間対象から離れられないが護衛であることも知られてはならない。同僚に手振りで合図をすると、それをセドニアに伝えた同僚から、送るようにと同じく手振りで許可が出た。
 しかし、女性が待ち合わせる方向が、偶然セドニアたちの待つ方向だった。
 これが運命の別れ道だったのだろう。
 ベンチに座り、市井の様子を見つめていたセドニアに、女性が一目惚れをしたという。
 「いえ、あの、まだ、二度目です、兄上」
 気まずそうに俯きがちに答えるカルセドに、尚もディアンは言い募る。
 「そもそもその女性、婚約者と待ち合わせって言ってたんだよね?一目惚れしちゃったのは仕方がないとして、その場で迫るってどうなの?」
 「二度と会えないかもと思ってのことでは?」
 尤もな疑問を口にするディアンに、メラルディが、それでも考えられないことだけど、と苦い笑いを浮かべながら言う。
 「それにしても、今まで何もなかったのに、この短期間で何があったの?アーリオーリの件も終わって、リカリエットの件も落ち着いたばかりなのに。もしやアフロディーテあのお姫様が怨念にでもなっているのか?」
 怨念になってそんなことをする意味もわからないけど、と肩を竦めるディアンに、メラルディが呆れたように返す。
 「それならこちらになど構わず、ディレイガルド家に真っ先に向かっていますよ」
 「あー、そうだよねぇ。ディレイガルドかあ。でも私なら絶対近寄りたくないなあ。なんか肉体がなくても殺されそう」
 「兄上、そうではなく」
 遠い目をするディアンに、カルセドが自身の額を押さえながら話を戻させた。
 「ああ、そうだね。ごめんごめん」
 「ところがですね、この女性――」
 その後の話の続きを聞いたディアンとメラルディは、揃って顔を引き攣らせた。





 所用でとある街を訪れたセドニア。妙な女が絡んできた。
 男に絡まれているところを護衛に助けさせたことがきっかけだった。
 「王子様っ!」
 目を輝かせた女がセドニアを見るや否や、そう叫んで走り出した。女を助けた護衛は、咄嗟に女の手を掴んでセドニアに近付かせないようにする。
 「何よっ?!」
 助けてもらったしおらしさはどこへやら、女は鬼のような形相で護衛を睨む。あまりのギャップに護衛は怯むも、手は離さない。
 「ご令嬢、どちらへ?あのベンチに座る方が婚約者ですか?違いますよね?」
 「あの人が私の運命の人よ!」
 婚約者かどうか聞いたのだが、珍回答が返ってきた。ますますこの手を離すわけにいかない。女はセドニアの元へ行かせるよう喚くが、一向に離さない護衛に罵詈雑言を浴びせ始める。セドニアとは少し離れていることが幸いだ。無関係を装える。気付いたセドニアを護る護衛たちも、上手くセドニアの壁になり、野次馬を演じる。
 周囲の注目を浴びる中、件の婚約者も騒ぎの中心が自身の婚約者であると気付いて慌てて駆け寄ってきた。絡まれているので助けなくてはと思ったようだ。しかし、実際は違うとわかり、婚約者は護衛に頭を下げたが、女はそれが気に入らなかったのか、護衛だけではなく、婚約者にまで暴言を吐く始末。
 女のあまりの醜悪さに、セドニアは顔を引きつらせた。
 こう言っては何だが、アーリオーリの元王女アフロディーテの方がまだマシだと思えるほど。アフロディーテは権力を手にしてはいけない者だったが、この女は生きているだけで害悪を撒き散らす者だった。
 実は、女が絡まれていたことは、自業自得と言えばよいのか自作自演と言えばよいのか、というものだった。女は権力者の娘なのだが、それだけが理由ではなくこの街では有名だった。
 自分好みの男を見かけると、わざと何かしらの騒ぎを起こし、好みの男に近付こうとするのだという。だから、街の人間たちは誰も助けなかった。単純に、暴漢から助けるだけではすまないトラブルに巻き込まれるからだ。
 好みの男が助けてくれれば権力を使って自分のものにするし、違う人が助けたならそれを利用して好みの男に近付く。今の婚約者は、すべて女の言いなりに出来る条件の男であるだけ。
 そんな女を怒らせているという状況に、珍しさも手伝い、その道は人が溢れた。
 少しずつその場から護衛に離されていくセドニアは、ギョッとした。
 「な、なぜ、ここに」
 セドニアの視線の先に、あり得ない人物を捉えた護衛たちの空気も張り詰める。
 目深に被るシルクハットでわかりづらいが、間違えるはずがない。
 馬上から、チラリと視線を投げられたセドニアは、不躾に見つめていた自分に気付き、慌てて頭を下げた。
 すぐにその男はセドニアから視線を外し、ひづめをカツカツと強めに鳴らす。
 「邪魔だ。退け」
 この喧噪の中、決して大きくはないはずの声。だが、よく通った。
 自然、人垣が割れていく。
 元凶の女は、馬上の男の姿に顔を真っ赤にさせて興奮した。

 ああ、お姉様!ほら、やっぱりいるのよ、現実に!
 いいえ、絵本なんかより、ずっとずっと素敵な王子様よ!

 「あ、あ、あなた!私のものにしてあげるから!その帽子、取ってごらんなさい?!」
 女の手を掴んでいた護衛は顔色を無くし、咄嗟に女を地面に組み伏せた。その様子に人々は驚き、続く護衛の言葉に誰もが声を失った。
 「知らぬこととは言え、大変ご無礼を、ディレイガルド公爵様」
 ディレイガルド。この国に長く貴族の頂点に君臨する、筆頭公爵家。その名を知らない国民はいない。もちろん、この女も。
 その名を聞いた女は、先程の自身の発言に震える。
 美しく残酷な公爵様。妻以外に心を傾けることはないという。
 女は、終わったと思った。が、すぐに起死回生の案が浮かぶ。

 そうだ。この人を自分のものに出来れば。
 そこまで考え、突如口に何かを突っ込まれた。いつの間にか後ろ手に拘束され、誰かの肩に担がれる。あまりの早業に、何も思考が追いつかない。先程まで自分を組み伏せていた男が呆然と自分を見つめている。担がれたまま、最初に目を付けた綺麗な男が、ディレイガルド公爵に走り寄った。そのすれ違いざま、顔色を無くしているのが見えた。

 なぜか、ああ、やっぱり、私の人生終わったんだ、と、

 「ディ、ディレイガルド殿、すみませんでした。ありがとうございました」
 ディレイガルドの護衛が連れ去った方を一瞥してから、馬上のエリアストに頭を下げるセドニア。エリアストは微かに眉を寄せた。
 「この騒ぎは貴様のせいか」
 アリスへの贈り物をこの先にある店に依頼していたエリアストは、僅かにも足止めされた苛立ちを滲ませた。
 「いいえ、私のせいではありません。あの女が勝手に暴走していただけです」
 自分が原因らしいが、自分のせいではない。あの女の問題だ。
 キッパリと否定するセドニアは、これ以上邪魔をしてはいけないと、
 「巻き込まれそうなところを助けていただき、ありがとうございました」
 そう再度頭を下げた。
 「この程度のことで騒ぎを起こすな」
 一睨みされ、セドニアたちは全身の毛が逆立ったまま、頭を下げ続けるしか出来なかった。





 「ぐ、偶然とは言え、お礼、お詫び?しないと、だよねえ」
 「奥方に関わる用事で、よく皆無事だったな」
 「助かりました、ありがとうございました、で済む話ではない、ですよね」
 ディアン、メラルディ、カルセドは、重い重い息を吐いた。
 「急いでいたから些事に構っていられなかったのだろう。セドニアに何らかの報復がいかないように、ディレイガルドを鎮めないとなあ」
 女は自業自得過ぎるので放っておく。助けても害悪にしかならないようだし、そんな者のためにディレイガルドの逆鱗に触れる可能性のあることに手など出すはずもない。
 三人は明け方まで知恵を絞りあい、エリアストに三日間の休みを取ってもらい、片道半日ほどの場所にある、王家所有の別荘にしか咲かない花を堪能してもらうことにした。
 片道半日?エルシィにそんな強行をさせる気か?と相変わらずの妻狂さいきょう発言に、泣く泣く五日間の休みへと変更したのだった。



*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
アリスといられるはずの僅かな時間を奪われたエル様、それと引き替えにアリスといられる五日間をもぎ取る。さすがですね。この間二週間休み取ったばっかりじゃん、とはまかり間違っても言えない王様です。
R7.10月末頃に らがまふぃん三周年記念 の企画をお届け予定です。
こちらからも一話投稿予定ですので、気が向いたらのぞきに来て下さい。R7.10/13
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