乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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本編

親友がどんどん悪役化していくんですが。

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 ――この世界にアレクシアとして転生させられてから、三ヶ月ほど経過しました。

 その間に、エージュの助言に従ったおかげで、私は立派に「未来視の姫君」と呼ばれるようになった。攻略キャラの親族限定だけど、子供が生まれることと性別まで予知したり、この年は干ばつが続いて飢饉かと思いきや、絶妙のタイミングで雨が降ることを予知した結果だ。

 お父様は鼻が高いらしくて御機嫌だけど、お母様経由で、あちこちの奥方や令嬢から「娘or自分の運命の相手を知りたい」と依頼されるのには困った。さすがに、サブならまだしもモブ、ましてモブですらなかった人達の恋愛事情までは知らない。エージュに相談して、「未来見」はいつでもできるわけではないし、個人の未来は曖昧すぎてわからないと断った。

 合間に、このヴェルスブルク国の重大事――隣国の国王が崩御した時、嫡出の温厚な王太子は廃されて庶出の王子が即位することを予言した。好戦的な新王は、北方の独立商人同盟を攻めることを言い当てた。その後、このヴェルスブルク国を攻めることは、まだ「予知」としては言っていない。



「ここまでは、上出来かしらね」

 私は、エージュのお屋敷にお邪魔している。ラウエンシュタインの屋敷にいたら、未だに「未来視」の依頼が入って、応対に時間を取られる為だ。

「うーん、でも、まだオリヴィエと仲良くなれてないのよね。今、私が不穏な気配がしますとか言ったら、オリヴィエじゃなくて大神官が出てきそうだし」
「そうねえ……」

 香り高い紅茶を飲み、エージュは私の知識を元にした「ヴェルスブルクの年表」を手に取って、真剣に見つめている。

「あと三月みつきで、神竜を召喚することになるのでしょう? ここ、「オリヴィエが神竜王ローランの召喚に成功」とあるけれど」

 細い指で年表の一部を指し示し、エージュは私を見た。

「深読みすれば、「成功」とあるからには、それまでに「失敗」もあるんじゃなくて?」
「え?」
「わたくしなら、失敗もなく成功したなら「神竜王を召喚」としか書かないわ」
「……ちょっと待って、オリヴィエルートの記憶を探す」

 確か……初対面時に、そんなようなことを言ってた。二周目以降はスキップしたから、はっきり覚えてなかったけど……「僕より魔力のある、高位の神官にも叶わなかったことができた。それは僕が竜を愛していると、ローランに伝わったからだ」とアホなことを言った。先にローランルートをプレイ済だった私は、ローランが召喚されたいと願ったタイミングで術を発動したのがオリヴィエだっただけだと知っていたので、こいつは自信過剰のアホだなと思ったのだ。

「間違いない。オリヴィエ以外の神官も召喚は試してる。でも、神竜の召喚はできなかった」

 だけど、オリヴィエは成功した。それどころか、召喚できたのはバハムートの異名を許された「王」である神竜。

「そう。なら、手はあるわね」
「? どうするの?」
「あなたのおかげで神竜王の召喚が成功したと、オリヴィエに思い込ませればいいのよ」

 放っておいても、オリヴィエは実力以上の奇跡でローランを召喚できる。でも、彼はそれを奇跡と認めたくなくて、周囲と軋轢を生むんだけど――私の協力で、神竜を召喚できたとなれば、どうなるだろう?
 少なくとも、ルート初期のように、ローランに近づくのを邪魔したりはしない。できない。そして独力だけでローランを召喚できたわけではないと自認していれば、あの俺様で高飛車な性格も少しはマシになるかもしれない。

「……輝石を使うのね?」
「その通りよ」

 神じいさんからもらった輝石には、膨大な魔力が貯め込まれている。この世界について調べる時にちょっと借りたけれど、あまりにも膨大すぎて、情報量が多すぎて取捨選択に時間がかかるという本末転倒なことになったので、以後、使っていない。

「あなたは未来視の姫。神が、神竜の召喚に使うようにと下された夢を見たと公言なさい。どなたにお渡しすればよいのかはわからない、と大神官様に相談してもいいわ。そこにオリヴィエが食いついてくればよし、食いついて来なければ――食いつかせるのよ」
「……この輝石を使えば、最強の神竜を召喚できる、と」
「そう。だけど、輝石を使えるのはあなただけだと」
「でも、私には召喚術の心得がない」

 そこに、オリヴィエを上手く食いつかせられるように。
 にっこり微笑み合った私達は、おそらくどんどん悪役令嬢にふさわしくなっていると思う。




「ところで、シュラウス将軍とはどうなっているの?」
「戦が起こりそうで怖い、って話した時のことは報告してなかったっけ」
「されてなくてよ。もう、アリー。報告・連絡・相談は基本なのだから、疎かにしないで」

 軽く窘められて、私はエージュに謝った。カインにはなかなか会う機会がなかった。宮中晩餐会では席次の違いで全く接触のチャンスがなく、仕方ないので比較的自由に動ける舞踏会を待った。
 その舞踏会があったのは先々週のことだ。既に未来視の力を噂され始めていた私は、たくさんの令嬢や奥方に囲まれて動きづらかった。人に酔ったと逃げたバルコニーに、同じく人ごみを避けていたカインがいた。以下、再現します。



 ――将軍様……?
 ――おお、これは未来視の姫。如何なされた?
 ――少し、人に酔ってしまいましたので、外の空気をと思って……
 ――それでは、このようなむくつけき男がお傍にいてはなりませんな。すぐに失礼致しましょう。
 ――お待ち下さいませ。私、将軍様に……シュラウス閣下にお伺いしたいことがありますの。
 ――俺……私に?
 ――はい。……隣国……シルハークの新王は、好戦的だと聞いています。そのことで。
 ――ラウエンシュタイン公爵令嬢は、その新王の即位を言い当てられた。まさか、兄王子を弑して即位するとは……。
 ――今は、北方の商人同盟ギルドを攻めていると聞きます。……私、視えてしまいましたの。シルハークは商人同盟を屈服させ、形だけの独立を認めて支配下に置きます。その後、商人同盟からの「献上金」を元に、ヴェルスブルクに――
 ――攻め入ると?
 ――はっきりとは申せません。でも、少なくとも一年以内には……そうなってしまいそうで、私、怖くて……このようなこと、迂闊には申せません。どなたかに杞憂だと叱っていただきたくて。
 ――姫。お名前は……アレクシア姫でしたな。
 ――はい。
 ――ならば、アレクシア姫。その杞憂は、杞憂ではないとしか申せません。軍務に関わることですから、詳細は明かせませんが……陛下、あるいは宰相閣下にご相談すべきか迷っておりました。だが、姫のお言葉で心が定まりました。
 ――将軍様。私は、ただ不安なだけです。戦になどならぬと、そうおっしゃっていただきたくて……
 ――それが不可能なことは、姫御自身がおわかりのはず。急ぎ、陛下に奏上致します。御無礼を。




 以上、再現終わります。魔力を注いだ白い紙に私とカインの名前を書いて、台詞を書くと、二頭身くらいのデフォルメされた人形になって、その台詞を読み上げてくれた。

「……どうかな?」
「及第点ね。あなたが戦が起こりそうで不安を感じていることを印象づけたし、陛下への奏上にも繋げている。……だけど、それなら疑問が残るのよ」
「何?」
「何故、陛下も宰相閣下も、あなたを召してこのことを確かめないのか、ということよ」

 言われてみれば、確かにそうだ。開戦かもしれないという一大事なのに。

「……まだ、あなたの予知能力を疑っているのかしら。それなら、次の手を打つわ」

 流れる銀の髪を緩く払って、エージュはトントンと年表を叩いた。

「何をすればいいの?」
「時系列を狂わせる」

 そう言うと、女神もかくやという微笑みを浮かべた。

「わたくしが陛下のご落胤だという噂――三月でかなり広まったわ。でも、お父様と陛下との妥協ができていないの。元々、その交渉に一年はかかるだろうと思ったから、あなたに予知してもらったのだけれど」

 爵位の引き上げ――しかも、王族でもある大公家は別にして、最高位の「公爵」に叙すには、それなりの理由がいる。落胤である王女を養育したというだけでは、戦や「女神」ことミレイや、神竜の召喚でゴタゴタしている時ならともかく、表向きは平和な今は、難しい。

「今日、ラウエンシュタインの屋敷に帰ったら、公爵夫人に申し上げなさい。「エージュが死ぬ予知を見た」と」
「エージュ!?」
「わたくし、明日、自殺未遂をするわ」

 ――エージュの「親友」であるアレクシアが口にした「エージュは陛下のご落胤という夢」は、アレクシアが「未来視の姫」と名高くなったことで、やはり真実ではないかという声は高くなっている。公式には国王陛下もバシュラール侯爵も、そのことには一切触れていない。

 そして、自分は母の姦通の結果の子なのかと不安になったエージュは、「今日」、屋敷を訪れた私に、未来視を懇願する。エージュを傷つけまいと頑なに拒む私を泣き落として、結局、「同じ結果しか見えない」と言われる。
 親友を見送った後、エージュは父に真偽を問い質す。

「ここで、お父様が認めれば話は違うけれど、まだ陛下との交渉が終わっていない以上、お父様は否定なさるわ。わたくしのこの薄い色彩は、偶々だとね」

 自室に戻ったエージュは、魔力のすべてを注ぎ込んで「神問い」を行い――自分の出生を知り、国王陛下がそれを認めない以上、「父」であるバシュラール侯爵を裏切ることはできないと、自殺を図る。
 同時に、私が「エージュの身に何かあった!」とラウエンシュタインの屋敷で両親に泣きつく。公爵家からの火急の使いに驚いたバシュラール侯爵がエージュの部屋に行くと、毒を仰いだエージュが倒れている――という筋書きだ。

「待って、それってエージュが危険すぎるじゃない」
「致死量は飲まないわ。飲んだと見えるように細工はするけれど」
「……なら、ラウエンシュタインからの使いは、私が直接来るようにする。私なら、この輝石に貯めてる魔力で、回復魔法を最高レベルで使えるから、エージュを完全に解毒してあげられる」

 そう言った私に、エージュは大丈夫よと笑った。

「輝石の魔力は、必要な時の為に――……」
「エージュの命が懸ってる。何より必要な時よ」

 ローランも大事だけど、エージュも大事なのよ。ローランの召喚は、本来ならオリヴィエの魔力だけでもできるんだから、ここで輝石の魔力を使い果たしたって構わない。恩を売るのは別の方法でもいいのだ。

「エージュを失くすのは絶対に嫌。危険に晒すのも嫌」
「……そうね。自殺を図ったのは、あなたがわたくしを不安にさせたからだと非難させない為にも、その方がいいかもしれないわね。わたくしとあなたには同情が集まり、批判は国王陛下とお父様だけに向かうようにしなくては」
「私には、同情は集まらなくていいわよ」

 私の言葉に、エージュは首を振った。

「駄目よ。まだわかっていないわね、アリー。宮廷やこの社交界で一番恐ろしいのは、そういう声なき声よ」

 その声には、うんざりした響きと、微かな恐れがあった。――魔性の女と言われることに、エージュは傷ついていないわけじゃない。

「時間を合わせましょう。お父様とのお話がいつ終わるかわからないから……そうね、わたくしが毒を仰ぐのは、今夜0時ちょうど」
「その直後に、私はお父様とお母様の寝室に駆け込めばいいのね」
「……駆け込む前に、ノックはするのよ」

 仲良くなさっている最中だったら困るから。
 さらりと言われて、赤面する。う、うん、お父様とお母様もまだお若いしね、その可能性はなくはないわね。

「そんなことにならないように、今夜は何だか怖いとか理由を付けて、公爵夫人に一緒に休んでもらってもいいわね」
「採用」

 お母様は私に甘い。お父様も甘いけれど。

「眠ったフリをして、0時になったら飛び起きる。エージュに何かあった、って」
「できるだけ急いで来てね。毒は……お約束だし、使用例も多いことだし、カンタレラを使うわ」

 ……どうしてそんな毒を持っているのかは、訊かない方がいいのかな……。

「古文書に調合方法が載っていたのよ」

 私の言葉にしない疑問にあっさり答えて、「だから古書を読むのはやめられないわ」と呟いたエージュは、悪役令嬢を通り越して、悪役魔女になりそうです。
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