12 / 93
本編
兄はシスコン、妹はヤンデレ。
しおりを挟む
三人が出て行った後――というか、オリヴィエは放心中だったのをリヒト殿下が引きずっていったけど――カインが溜息をついた。
「姫……無茶を申される」
「シュラウス将軍。石になっておれとの言葉は、聞こえなんだか?」
「…………」
大神官様の言葉に、カインが固まる。大神官様は、私を見据えた。
「たった三月。姫、それで真実神竜召喚が叶うとお思いか?」
「叶えます。必ず、叶えます。召喚魔法を軽んじているわけではありません。ですが、オリヴィエ様と信頼関係を築くより、私が学んだ方が早いと思ったのです。あれほどに疑われて、それでも信じるなど、私には……私だけでなく、エージュのことまで……!」
そう。私がムカついたのは、未来視のことを疑われたからじゃない。実際、転生前の知識を元にした「知っていることを先に言っただけ」の嘘だし。
だけど、エージュの自殺未遂は本当だ。未来視のことはともかく、エージュが毒を仰いだのは本当だ。それすら「演技じゃねえの?(笑)」と馬鹿にしてくれたことは、私は根に持っておく。
「魔力は……十分のようじゃ。あとは知識、そして実践。アレクシア姫。毎日、この神殿に通えますかの?」
「はい、大神官様」
泊まり込んでもいいくらいだけど、それは言わない。貴族の未婚の娘が、神殿で暮らすということは、「尼僧になりたい」というアピールだから。私は尼僧になりたいわけじゃない。神竜の嫁になりたいのだ。
「よろしい。ならば、わしからも国王陛下に申し上げましょう。公爵には……」
「父には、私から話します。きちんと、わかってもらいます」
「そうなさるがよろしかろう。では、姫。まずは魔力の加減を見せていただけますかの」
「何をすれば……?」
「そうじゃのう……ふむ、この窓から見えるあの樹木、わかりますかな?」
大神官様が指し示した先には、大きな樹木がある。えーと、あれは確かセアラという樹だ。綺麗な花が咲き、葉も花も実も、それぞれが薬剤になる万能樹木。
「あのセアラの大樹ですか?」
「如何にも。あのセアラの樹、根本にヤドリギが寄生しております。姫は、それを如何なさる?」
ヤドリギだけなら、枯れさせてしまえばいい。けれど、枯死や退化の呪文だと、寄生されているセアラの樹木まで傷めてしまう。
私は考えて――考えに考えた。こういうのはエージュの担当なのよ、私は行動あるのみ!なんだけど、今回のことは私の行動から出たものだから、私が何とかしなくちゃいけない。
ゆっくり考えて――私は、じっと目を凝らしてヤドリギを見た。寄生しているヤドリギを、寄生されているセアラを傷つけずに――。
「……変化」
私がそう呟くと、ヤドリギは見る見るうちに小さくなり――セアラの一枝に変化して、蕾を付けた。
「よろしい。合格じゃ」
大神官様は、優しく微笑みながら頷く。
「ヤドリギを枯れさせたら、その場で失格と申し上げようかと思うておりましたが。変化させて同化させるとは、なかなかにお見事」
「ありがとうございます」
「明日から、こちらに通われるがよい。時間は――明日は、今日と同じに」
明後日以降のことは、明日までに調えておくと言う大神官様に見送られ、私とカインは神殿を後にした。
そのまま、カインにラウエンシュタイン家に送ってもらった私は、お父様やお母様への御挨拶もそこそこに、エージュの部屋へと向かった。お説教は覚悟してますので、どうぞお手柔らかに!
「……あなたときたら……」
私から事情を聞いたエージュは、深々と溜息をついた。
「ごめんなさい」
「謝ることはなくてよ。苦労するのはアリーですもの。愛しのローランを召喚する為に、ね」
そう言って、私の髪を撫でてくれた。
「……よく、切り抜けたわ。褒めてあげる」
それから、カインがエージュに恋をしているっぽいことも報告した。エージュは、「あら、つまらない」と退屈そうに答えた。口説く経験をしてみたかったらしい。
「エージュがカインを口説いてたら、リヒト殿下が鬱陶しいことになりそうだから、ある意味、これでいいのかも。あ、リヒト殿下から、これ、預かり物」
「いらないわ。どうせ王家伝来の宝飾品でしょう?」
「そう言わないで。リヒト殿下には、ちょっと助けてもらったのよ」
「アリーがそう言うなら、受け取ってもいいけれど」
エージュが銀細工の箱の蓋を開けると、大きな翡翠の指環があった。私達は同時に互いの顔を見つめる。
「……殿下は、殿方が未婚女性に指環を贈ることの意味を、ご理解なさっていないのかしら」
「……舞い上がっているんだと思う」
私のフォローは、なかなかに苦しい。しかも、自分の瞳と同じ色の宝石の指環となると――その意味は、求婚である。繰り返すが、求愛ではなく、求婚だ。
「わたくし、近親相姦願望はないのだけれど」
溜息まじりに指環を見つめ、エージュは少し考え込んだ。
「エージュ?」
「この翡翠の魔力は、なかなかのものよね」
「輝石ではないけど、結構強いね」
「……それなら、何かに使えることもあるでしょうし。受け取っておくわ」
あまり大振りな宝石は好きではないのに、と言いながら、エージュは指環を台座から外した。そして、私の首飾りを見る。今日は王宮行きだったから、正装させられているのだ。
「アリー。その銀鎖をもらってもいい?」
「これ?」
メインの首飾りは、私の瞳と合わせたアクアマリンと真珠だ。輝きが少し足りないので、銀鎖と金鎖を重ねている。
「いいけど」
私は銀鎖を外そうとしたけど、正装しているということは、つまりコルセットなどで体を締められて、動きが取りづらい。悪戦苦闘しかけた時、エージュの手がふわっと私の首に回る。
「動かないで」
至近距離からのエージュの美貌、やわらかな声は、いけない方向に進みそうで危ないです。
私の首から銀鎖をふたつ外して、エージュはそれに指環を通す。そして、体を反転させ、髪をかきあげて白い項を晒した。
「留めて?」
「……エージュ。私を誑し込もうとするのはやめて」
「ふふ。アリーが、リヒト殿下を褒めたりするからよ。少し妬けてしまったの」
「私の本命はローランです」
全く日に焼けていない真っ白な項にドキドキしながら、エージュに言われた通り、銀鎖を留める。これ、細いから、切れちゃわないかな。
「エージュ。これ、切れちゃいそうよ」
「切れる前に、アリーが新しい鎖をくれればいいわ」
「首飾りを贈るのは、恋人限定でしょ」
首飾りは求愛で、指環は求婚。謝罪は原石そのままを渡す――どのように加工されても文句は言いませんという証だ。
「……アリーが殿方だったら、わたくし、絶対に狙ったわよ」
「私が男だったら、そもそもエージュと友達になってないでしょ。たぶん、私がエージュに逆上せあがって、記憶にも留めてもらえてないと思う」
「そんなことはないわ。あなたなら、わたくし、恋している」
体勢を戻して、エージュは優しく笑った。そして、私の髪を撫でる。
「優しいアリー。ローランを召喚できるオリヴィエを切り捨ててまで、わたくしの名誉を守ってくれた」
「……だって」
「だから、わたくしもあなたの為に何でもするわ。殿下を兄上様と呼んで情報を引き出すくらい、何でもないもの」
密やかに微笑んだエージュは、魔性の姫君と呼ばれるだけあって、破滅的なほどに美しく魅惑的だ。
「エージュが嫌なことなら、しなくていい。ローランを召喚するよう努力するのは、私の我儘からの結果だもの」
「そうね。わたくしの為という我儘ね」
頑是ない子供に言い聞かせるような、歌うような口調で告げて、エージュは不意に私を抱き締めた。
「だから、許さないわ。あなたの未来視を侮辱した、オリヴィエ・ステファニアス。――ねえ、アリー。あなたがローランを召喚するなら、ミレイとやらが来るまでは、彼がいなくても困らないわね?」
ヤバい。エージュが静かにキレている。
「……エージュ」
「リヒト殿下に同意するわ。ええ、腹を立てるのは当然よね。わたくしの大切なアリーを、よくも侮辱してくれたものだわ」
キレているのがわかるのに、口調は落ち着いたままだから怖い。
「エージュ。私はいいんだってば。それより、私がリヒト殿下の妃の座を狙ってるかもって思われて、未来視を疑われる方が困るわ」
「あなたは祝事ばかりを未来視してあげたのに、ひどい侮辱よ。ええ、確かに未来視は作れるわね、でも、あなたは作りはしなかった。本来起こるべきことを告げただけ」
エージュの出生に関することは、時系列を変えたけれど、事実を言ったという意味では変わりない。
オリヴィエが言ったことも、正しくはある。使用人達の噂をまとめ上げれば、結婚や出産はわかる。――死亡も、絞り込める。
私の記憶しているゲーム年表と、エージュの知識。それを合わせただけで、ゲーム開始から九ヶ月ほど前の現在なら元気な貴族を、「一年以内に亡くなる」と未来視できる。
ただ、これは私の未来視を「不吉なもの」と忌ませる可能性もあるから、選ばなかった方法だ。
「……オリヴィエとやらが、お馬鹿さんであることを願いたいわ」
くすっと笑ったエージュは、ひどく酷薄な表情で……私は、思わず彼女に抱きついていた。
「アリー? どうしたの?」
「駄目。エージュは、いつもみたいに綺麗に笑ってくれなきゃ駄目。そんな風に、歪んじゃ駄目」
「……アリー」
「さっきのエージュも、すごく綺麗だけど。闇堕ちはよくない。駄目」
そう繰り返す私に根負けしたように、エージュはそっと私を抱き返してくれた。
「私達は一蓮托生よ。エージュが闇堕ちしたら、私も堕ちちゃうじゃない」
「闇堕ちとやらの意味はよくわからないけれど。……あなたが嫌なことはしないわ」
あなたの見えるところでは。
――そんな、微かな声が聞こえた。
「姫……無茶を申される」
「シュラウス将軍。石になっておれとの言葉は、聞こえなんだか?」
「…………」
大神官様の言葉に、カインが固まる。大神官様は、私を見据えた。
「たった三月。姫、それで真実神竜召喚が叶うとお思いか?」
「叶えます。必ず、叶えます。召喚魔法を軽んじているわけではありません。ですが、オリヴィエ様と信頼関係を築くより、私が学んだ方が早いと思ったのです。あれほどに疑われて、それでも信じるなど、私には……私だけでなく、エージュのことまで……!」
そう。私がムカついたのは、未来視のことを疑われたからじゃない。実際、転生前の知識を元にした「知っていることを先に言っただけ」の嘘だし。
だけど、エージュの自殺未遂は本当だ。未来視のことはともかく、エージュが毒を仰いだのは本当だ。それすら「演技じゃねえの?(笑)」と馬鹿にしてくれたことは、私は根に持っておく。
「魔力は……十分のようじゃ。あとは知識、そして実践。アレクシア姫。毎日、この神殿に通えますかの?」
「はい、大神官様」
泊まり込んでもいいくらいだけど、それは言わない。貴族の未婚の娘が、神殿で暮らすということは、「尼僧になりたい」というアピールだから。私は尼僧になりたいわけじゃない。神竜の嫁になりたいのだ。
「よろしい。ならば、わしからも国王陛下に申し上げましょう。公爵には……」
「父には、私から話します。きちんと、わかってもらいます」
「そうなさるがよろしかろう。では、姫。まずは魔力の加減を見せていただけますかの」
「何をすれば……?」
「そうじゃのう……ふむ、この窓から見えるあの樹木、わかりますかな?」
大神官様が指し示した先には、大きな樹木がある。えーと、あれは確かセアラという樹だ。綺麗な花が咲き、葉も花も実も、それぞれが薬剤になる万能樹木。
「あのセアラの大樹ですか?」
「如何にも。あのセアラの樹、根本にヤドリギが寄生しております。姫は、それを如何なさる?」
ヤドリギだけなら、枯れさせてしまえばいい。けれど、枯死や退化の呪文だと、寄生されているセアラの樹木まで傷めてしまう。
私は考えて――考えに考えた。こういうのはエージュの担当なのよ、私は行動あるのみ!なんだけど、今回のことは私の行動から出たものだから、私が何とかしなくちゃいけない。
ゆっくり考えて――私は、じっと目を凝らしてヤドリギを見た。寄生しているヤドリギを、寄生されているセアラを傷つけずに――。
「……変化」
私がそう呟くと、ヤドリギは見る見るうちに小さくなり――セアラの一枝に変化して、蕾を付けた。
「よろしい。合格じゃ」
大神官様は、優しく微笑みながら頷く。
「ヤドリギを枯れさせたら、その場で失格と申し上げようかと思うておりましたが。変化させて同化させるとは、なかなかにお見事」
「ありがとうございます」
「明日から、こちらに通われるがよい。時間は――明日は、今日と同じに」
明後日以降のことは、明日までに調えておくと言う大神官様に見送られ、私とカインは神殿を後にした。
そのまま、カインにラウエンシュタイン家に送ってもらった私は、お父様やお母様への御挨拶もそこそこに、エージュの部屋へと向かった。お説教は覚悟してますので、どうぞお手柔らかに!
「……あなたときたら……」
私から事情を聞いたエージュは、深々と溜息をついた。
「ごめんなさい」
「謝ることはなくてよ。苦労するのはアリーですもの。愛しのローランを召喚する為に、ね」
そう言って、私の髪を撫でてくれた。
「……よく、切り抜けたわ。褒めてあげる」
それから、カインがエージュに恋をしているっぽいことも報告した。エージュは、「あら、つまらない」と退屈そうに答えた。口説く経験をしてみたかったらしい。
「エージュがカインを口説いてたら、リヒト殿下が鬱陶しいことになりそうだから、ある意味、これでいいのかも。あ、リヒト殿下から、これ、預かり物」
「いらないわ。どうせ王家伝来の宝飾品でしょう?」
「そう言わないで。リヒト殿下には、ちょっと助けてもらったのよ」
「アリーがそう言うなら、受け取ってもいいけれど」
エージュが銀細工の箱の蓋を開けると、大きな翡翠の指環があった。私達は同時に互いの顔を見つめる。
「……殿下は、殿方が未婚女性に指環を贈ることの意味を、ご理解なさっていないのかしら」
「……舞い上がっているんだと思う」
私のフォローは、なかなかに苦しい。しかも、自分の瞳と同じ色の宝石の指環となると――その意味は、求婚である。繰り返すが、求愛ではなく、求婚だ。
「わたくし、近親相姦願望はないのだけれど」
溜息まじりに指環を見つめ、エージュは少し考え込んだ。
「エージュ?」
「この翡翠の魔力は、なかなかのものよね」
「輝石ではないけど、結構強いね」
「……それなら、何かに使えることもあるでしょうし。受け取っておくわ」
あまり大振りな宝石は好きではないのに、と言いながら、エージュは指環を台座から外した。そして、私の首飾りを見る。今日は王宮行きだったから、正装させられているのだ。
「アリー。その銀鎖をもらってもいい?」
「これ?」
メインの首飾りは、私の瞳と合わせたアクアマリンと真珠だ。輝きが少し足りないので、銀鎖と金鎖を重ねている。
「いいけど」
私は銀鎖を外そうとしたけど、正装しているということは、つまりコルセットなどで体を締められて、動きが取りづらい。悪戦苦闘しかけた時、エージュの手がふわっと私の首に回る。
「動かないで」
至近距離からのエージュの美貌、やわらかな声は、いけない方向に進みそうで危ないです。
私の首から銀鎖をふたつ外して、エージュはそれに指環を通す。そして、体を反転させ、髪をかきあげて白い項を晒した。
「留めて?」
「……エージュ。私を誑し込もうとするのはやめて」
「ふふ。アリーが、リヒト殿下を褒めたりするからよ。少し妬けてしまったの」
「私の本命はローランです」
全く日に焼けていない真っ白な項にドキドキしながら、エージュに言われた通り、銀鎖を留める。これ、細いから、切れちゃわないかな。
「エージュ。これ、切れちゃいそうよ」
「切れる前に、アリーが新しい鎖をくれればいいわ」
「首飾りを贈るのは、恋人限定でしょ」
首飾りは求愛で、指環は求婚。謝罪は原石そのままを渡す――どのように加工されても文句は言いませんという証だ。
「……アリーが殿方だったら、わたくし、絶対に狙ったわよ」
「私が男だったら、そもそもエージュと友達になってないでしょ。たぶん、私がエージュに逆上せあがって、記憶にも留めてもらえてないと思う」
「そんなことはないわ。あなたなら、わたくし、恋している」
体勢を戻して、エージュは優しく笑った。そして、私の髪を撫でる。
「優しいアリー。ローランを召喚できるオリヴィエを切り捨ててまで、わたくしの名誉を守ってくれた」
「……だって」
「だから、わたくしもあなたの為に何でもするわ。殿下を兄上様と呼んで情報を引き出すくらい、何でもないもの」
密やかに微笑んだエージュは、魔性の姫君と呼ばれるだけあって、破滅的なほどに美しく魅惑的だ。
「エージュが嫌なことなら、しなくていい。ローランを召喚するよう努力するのは、私の我儘からの結果だもの」
「そうね。わたくしの為という我儘ね」
頑是ない子供に言い聞かせるような、歌うような口調で告げて、エージュは不意に私を抱き締めた。
「だから、許さないわ。あなたの未来視を侮辱した、オリヴィエ・ステファニアス。――ねえ、アリー。あなたがローランを召喚するなら、ミレイとやらが来るまでは、彼がいなくても困らないわね?」
ヤバい。エージュが静かにキレている。
「……エージュ」
「リヒト殿下に同意するわ。ええ、腹を立てるのは当然よね。わたくしの大切なアリーを、よくも侮辱してくれたものだわ」
キレているのがわかるのに、口調は落ち着いたままだから怖い。
「エージュ。私はいいんだってば。それより、私がリヒト殿下の妃の座を狙ってるかもって思われて、未来視を疑われる方が困るわ」
「あなたは祝事ばかりを未来視してあげたのに、ひどい侮辱よ。ええ、確かに未来視は作れるわね、でも、あなたは作りはしなかった。本来起こるべきことを告げただけ」
エージュの出生に関することは、時系列を変えたけれど、事実を言ったという意味では変わりない。
オリヴィエが言ったことも、正しくはある。使用人達の噂をまとめ上げれば、結婚や出産はわかる。――死亡も、絞り込める。
私の記憶しているゲーム年表と、エージュの知識。それを合わせただけで、ゲーム開始から九ヶ月ほど前の現在なら元気な貴族を、「一年以内に亡くなる」と未来視できる。
ただ、これは私の未来視を「不吉なもの」と忌ませる可能性もあるから、選ばなかった方法だ。
「……オリヴィエとやらが、お馬鹿さんであることを願いたいわ」
くすっと笑ったエージュは、ひどく酷薄な表情で……私は、思わず彼女に抱きついていた。
「アリー? どうしたの?」
「駄目。エージュは、いつもみたいに綺麗に笑ってくれなきゃ駄目。そんな風に、歪んじゃ駄目」
「……アリー」
「さっきのエージュも、すごく綺麗だけど。闇堕ちはよくない。駄目」
そう繰り返す私に根負けしたように、エージュはそっと私を抱き返してくれた。
「私達は一蓮托生よ。エージュが闇堕ちしたら、私も堕ちちゃうじゃない」
「闇堕ちとやらの意味はよくわからないけれど。……あなたが嫌なことはしないわ」
あなたの見えるところでは。
――そんな、微かな声が聞こえた。
10
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる