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本編
だって、禁断症状だったんです。
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召喚魔法について、私は大神官様に直々に習っている。オリヴィエ? ああ、適当にやってるんじゃないかな。たまに、一緒に召喚魔法の実践をするし、その時、物言いたげに私を見てる気がしなくもないけど、スルーです。エージュと話したければ、リヒト殿下を倒してこい。その後、私が相手になってやる。
エージュは、来月には王宮で暮らすことになりそうだと、リヒト殿下がうきうきと報告してきてくれた。彼女の十七歳の誕生日に、正式に「(妾腹の)王女」としてお披露目するらしい。
その場合、私はエージュの話し相手として、王宮に「作法見習い」に上がる予定だ。お母様はすごく渋っていたけど、お父様が「いずれは婿を取って家に戻るのだから」と宥めてくれた。すみません、その婿には神竜王を狙っています。お母様が卒倒しませんように。
「アレクシア姫。今日は、少し難易度を上げましょうかの。竜――飛竜を、召喚いただきますぞ」
大神官様の課題は、今の私には少し難しい。だけど、努力すれば叶わないわけじゃない。そのギリギリのラインを、課題として出してくる。
「輝石の魔力はお使いにならぬよう。――飛竜ならば、姫御自身の魔力で叶わぬことはない」
「……はい」
大神官様は、私を連れて召喚の間に向かいながら、気負うなと心遣いして下さった。さりげない優しさ、常に穏やかで優雅な物腰、気品溢れるお顔立ち――絶対、この方はモテたと思う。
というか、今現在もモテておられる。神殿勤めの女神官や女召喚士、女性近衛兵に大人気なのだ。ファンクラブもある。だけど、神官用・召喚士用・近衛兵用しかなくて、私は入れてもらえなかったので(公爵家の姫君が!と丁寧に拒否された)、貴族の令嬢用を自分で開設した。会員は私とエージュだ。
「大神官様。お願いがあります」
「はて、何をお望みであられよう?」
「飛竜を召喚できましたら、……レフィアス様とお呼びしてもよろしいですか?」
言った! 私、勇気を出した! 違うの、ローラン、これは浮気じゃないの。新参のファンクラブが、他より優位に立つ為に必要なことなの。
「このような老骨の名などが、褒美になりますか」
忍びやかに笑って、大神官様は許可してくれた。抜け駆け禁止なので、エージュ(と会員達。いないけど)もそう呼んでいいとお許しをいただいておく。
「私、頑張ります」
「姫は、少しばかり変わっておられますな」
「……公爵家の娘らしくないとは、自覚しています」
「わしは事実を申したまで。批判か称賛かは、姫がお決めなされ」
大神官様の言葉は、謎解きのようで少し難しい。
「では、半分ずつだと思っておきます」
「そう、そんなところが変わっておいでじゃ」
今度は軽やかに笑って、大神官様は召喚の間の扉を開けた。
――飛竜は、竜としてはやや上位にある。上から、神竜、竜、飛竜、水竜、土竜、蛟で、空を飛べるのは飛竜以上。それを私の魔力だけで召喚しろと言うんだから、大神官様はちょっとスパルタである。
「…………」
私は、召喚石を砕いた粉で、竜召喚の魔法陣を描いた。丁寧に、間違わないように、ゆっくり描きながら、気持ちを落ち着かせる。召喚は、召喚者の心身の調子も影響するからだ。
「…………喚びます」
「うむ」
魔法陣の中心に立って、目を閉じる。どれだけ正確に「召喚対象」を思い描けるかも大切だ。飛竜は、確か2冊目のガイドブックに出てたわ。大きな翼と鋭い牙と爪を持ち、意外に可愛い瞳をしていた。
――これに成功したら、ローランを召喚する。オリヴィエが輝石を託せる相手か見極めたい、なんて言ってみたけど、実行する気はない。
だってあいつ、有言不実行だもの。未だに、飛竜の召喚さえできていない。あれから二月経過したのに、せめて竜くらいは召喚してくれないと、神竜召喚を成功させたという名誉に関わらせる気はない。
全く、いつになったらローランに会えるのかしら。あの、人見知りで人間嫌いで、だけど人間に恋してしまった自分に戸惑う様が可愛らしい、私の神竜王に。
――そう思いながら、私は召喚魔法を発動させていた。召喚するのは飛竜、ワイヴァーンね、わかってます。
「召喚――神竜王」
うっかり、ローランの名前を呼んでしまった。だって、ここは異世界。ビジュアルファンブックも設定資料集もないから、ずっと姿を見てないんだもの。
私は、「華寵封月」を完全制覇しているのに、裏ルートで明かされる極秘設定をすっかり忘れていた。召喚魔法の際、真名を見抜かれた者は、必ず召喚されてしまうということを。
私が立つ魔法陣の上空で、白焔にも似た激しい熱と光、そして交錯するように絶対零度の吹雪が荒れ狂い――治まった時。
蒼みを帯びた銀髪と、光の加減で色を変えるアレキサンドライトの瞳の神竜王が、ふわりと舞い降りてきた。
「……召喚士?」
呆けていた私は、その声で我に返った。どれだけ……どれだけ聞きたかった声でしょうか! 聞きまくった声だからわかる、今、ローランは私に怯えていない。疑問を口にしているだけだ。……この状態になるまで、ゲームでは二ヶ月かかる。
「……違い、ます。私は、アレクシア・クリスティン・ルア・ラウエンシュタイン」
「……真名を、私に明かす?」
それでいいのかと、ローランは綺麗な瞳を私に向けた。普通、召喚した存在と意思疎通が可能だとしても、名前は明かさない。逆支配される可能性があるからだ。
「あなたは、私を支配しない。あなたは、誰にも支配されない。あなたは――神竜の王、バハムートだから」
「やはり、神竜王であられたか……!」
大神官様――飛竜どころか神竜王の召喚に成功したので、堂々とレフィアス様と呼ばせていただく――は、激しい動揺をその一言だけで納めた。
「私を、私と知って、恐れない。……アレクシア。望みは?」
戦いの為に呼んだのだろうと言いたげな声に、ゆっくり首を振る。ローランは、ぱちぱちと瞬きした。
「まだ、わからない。あなたを呼べるなんて思っていなかったから」
極秘設定を忘れていたことに気づかなかったなんて。――もしかしたら、私、アレクシアとして生きることで、ゲーム知識をそうと認識できなくなっているのかもしれない。
「そなたが私を呼んだのだ、アレクシア。望みがないと言われると、……困る」
「わかっています。あなたは召喚者の望みを叶えなくては、神竜の世界に戻れない。だから、望みはちゃんと考えます。ただ、お願い。誰の命令も聞かないでいいから、誰にも命令しないで」
「私は、誰にも命じない」
「ありがとう」
そっと手を伸ばす――う、嬉しい、ローランが私に怯えない。私に合わせるように、手を差し伸べてくれたので、小指を絡めた。
「約束。指切りというの」
「指を、切るのか?」
「比喩よ。――決して違えないという、誓い」
物騒なことを言うローランに笑いかけると、うん、と頷いてくれた。
「……指切り」
ぽそっと言う口調が、あどけなくて可愛い! 外見は威厳溢れる王様な美形なのに! 駄目だ、五ヶ月近くの間のローラン愛が私の中で燃え滾ってどうしようもない。
「アレクシアは、私にまだ望みがない。望みが決まるまで、私は、アレクシアといる。……守る」
――このままずっと、望みが決まらなくてもいいよねと思った自分を叱咤して、私は小さく首を振った。
「アレクシア?」
不思議そうに私を見ているローランに、私はそっと膝をついて手の甲に口づけた。これは、私が召喚者としての優位を完全に放棄するという証明だ。
「アレクシア・クリスティン・ルア・ラウエンシュタインから。神竜王、ローラン・デア・バハムートに、最大の敬意を」
女性が男性の手の甲に口づけるのは、最高の敬意だ。逆だと、求愛のひとつでもあるんだけど。
「……ローラン・デア・バハムートから、アレクシア・クリスティン・ルア・ラウエンシュタインに、同じく、最大の敬意を」
私を抱き寄せて、額に口づける――これ、ローランの悲恋ルートで、ミレイに別れを告げるシーンで見たわ。スチル付イベントだったから印象深い。
そうして、私達が互いに敬意を贈り合い、召喚ではなく尊敬で繋がった時。
息を殺して見守ってくれていたレフィアス様が、深く長い溜息をついた。
「……アレクシア姫。本当に……常識外れでおられる」
「レフィアス様」
「情けなくも、腰が抜けかけました――神竜どころか、神竜王を召喚なさるとは」
そして、レフィアス様はローランの前に跪いた。
「偉大なる神竜の王よ。我がヴェルスブルク王国にご降臨を賜り……」
長々と、感謝と畏敬と敬愛の祝詞を紡ぎ始めたレフィアス様に、ローランは困ったように私を見つめた。
聞いてさしあげて、と視線を返すと、首肯してくれる。ローランが、私の言葉を聞いてくれてる!
狂喜乱舞しなかったのは、この後をどうしようかなあという現実逃避じみた考えがあったからだ。……せっかくエージュが軌道修正してくれた「予定調和」の展開、ぶっ壊しちゃった……。
エージュは、来月には王宮で暮らすことになりそうだと、リヒト殿下がうきうきと報告してきてくれた。彼女の十七歳の誕生日に、正式に「(妾腹の)王女」としてお披露目するらしい。
その場合、私はエージュの話し相手として、王宮に「作法見習い」に上がる予定だ。お母様はすごく渋っていたけど、お父様が「いずれは婿を取って家に戻るのだから」と宥めてくれた。すみません、その婿には神竜王を狙っています。お母様が卒倒しませんように。
「アレクシア姫。今日は、少し難易度を上げましょうかの。竜――飛竜を、召喚いただきますぞ」
大神官様の課題は、今の私には少し難しい。だけど、努力すれば叶わないわけじゃない。そのギリギリのラインを、課題として出してくる。
「輝石の魔力はお使いにならぬよう。――飛竜ならば、姫御自身の魔力で叶わぬことはない」
「……はい」
大神官様は、私を連れて召喚の間に向かいながら、気負うなと心遣いして下さった。さりげない優しさ、常に穏やかで優雅な物腰、気品溢れるお顔立ち――絶対、この方はモテたと思う。
というか、今現在もモテておられる。神殿勤めの女神官や女召喚士、女性近衛兵に大人気なのだ。ファンクラブもある。だけど、神官用・召喚士用・近衛兵用しかなくて、私は入れてもらえなかったので(公爵家の姫君が!と丁寧に拒否された)、貴族の令嬢用を自分で開設した。会員は私とエージュだ。
「大神官様。お願いがあります」
「はて、何をお望みであられよう?」
「飛竜を召喚できましたら、……レフィアス様とお呼びしてもよろしいですか?」
言った! 私、勇気を出した! 違うの、ローラン、これは浮気じゃないの。新参のファンクラブが、他より優位に立つ為に必要なことなの。
「このような老骨の名などが、褒美になりますか」
忍びやかに笑って、大神官様は許可してくれた。抜け駆け禁止なので、エージュ(と会員達。いないけど)もそう呼んでいいとお許しをいただいておく。
「私、頑張ります」
「姫は、少しばかり変わっておられますな」
「……公爵家の娘らしくないとは、自覚しています」
「わしは事実を申したまで。批判か称賛かは、姫がお決めなされ」
大神官様の言葉は、謎解きのようで少し難しい。
「では、半分ずつだと思っておきます」
「そう、そんなところが変わっておいでじゃ」
今度は軽やかに笑って、大神官様は召喚の間の扉を開けた。
――飛竜は、竜としてはやや上位にある。上から、神竜、竜、飛竜、水竜、土竜、蛟で、空を飛べるのは飛竜以上。それを私の魔力だけで召喚しろと言うんだから、大神官様はちょっとスパルタである。
「…………」
私は、召喚石を砕いた粉で、竜召喚の魔法陣を描いた。丁寧に、間違わないように、ゆっくり描きながら、気持ちを落ち着かせる。召喚は、召喚者の心身の調子も影響するからだ。
「…………喚びます」
「うむ」
魔法陣の中心に立って、目を閉じる。どれだけ正確に「召喚対象」を思い描けるかも大切だ。飛竜は、確か2冊目のガイドブックに出てたわ。大きな翼と鋭い牙と爪を持ち、意外に可愛い瞳をしていた。
――これに成功したら、ローランを召喚する。オリヴィエが輝石を託せる相手か見極めたい、なんて言ってみたけど、実行する気はない。
だってあいつ、有言不実行だもの。未だに、飛竜の召喚さえできていない。あれから二月経過したのに、せめて竜くらいは召喚してくれないと、神竜召喚を成功させたという名誉に関わらせる気はない。
全く、いつになったらローランに会えるのかしら。あの、人見知りで人間嫌いで、だけど人間に恋してしまった自分に戸惑う様が可愛らしい、私の神竜王に。
――そう思いながら、私は召喚魔法を発動させていた。召喚するのは飛竜、ワイヴァーンね、わかってます。
「召喚――神竜王」
うっかり、ローランの名前を呼んでしまった。だって、ここは異世界。ビジュアルファンブックも設定資料集もないから、ずっと姿を見てないんだもの。
私は、「華寵封月」を完全制覇しているのに、裏ルートで明かされる極秘設定をすっかり忘れていた。召喚魔法の際、真名を見抜かれた者は、必ず召喚されてしまうということを。
私が立つ魔法陣の上空で、白焔にも似た激しい熱と光、そして交錯するように絶対零度の吹雪が荒れ狂い――治まった時。
蒼みを帯びた銀髪と、光の加減で色を変えるアレキサンドライトの瞳の神竜王が、ふわりと舞い降りてきた。
「……召喚士?」
呆けていた私は、その声で我に返った。どれだけ……どれだけ聞きたかった声でしょうか! 聞きまくった声だからわかる、今、ローランは私に怯えていない。疑問を口にしているだけだ。……この状態になるまで、ゲームでは二ヶ月かかる。
「……違い、ます。私は、アレクシア・クリスティン・ルア・ラウエンシュタイン」
「……真名を、私に明かす?」
それでいいのかと、ローランは綺麗な瞳を私に向けた。普通、召喚した存在と意思疎通が可能だとしても、名前は明かさない。逆支配される可能性があるからだ。
「あなたは、私を支配しない。あなたは、誰にも支配されない。あなたは――神竜の王、バハムートだから」
「やはり、神竜王であられたか……!」
大神官様――飛竜どころか神竜王の召喚に成功したので、堂々とレフィアス様と呼ばせていただく――は、激しい動揺をその一言だけで納めた。
「私を、私と知って、恐れない。……アレクシア。望みは?」
戦いの為に呼んだのだろうと言いたげな声に、ゆっくり首を振る。ローランは、ぱちぱちと瞬きした。
「まだ、わからない。あなたを呼べるなんて思っていなかったから」
極秘設定を忘れていたことに気づかなかったなんて。――もしかしたら、私、アレクシアとして生きることで、ゲーム知識をそうと認識できなくなっているのかもしれない。
「そなたが私を呼んだのだ、アレクシア。望みがないと言われると、……困る」
「わかっています。あなたは召喚者の望みを叶えなくては、神竜の世界に戻れない。だから、望みはちゃんと考えます。ただ、お願い。誰の命令も聞かないでいいから、誰にも命令しないで」
「私は、誰にも命じない」
「ありがとう」
そっと手を伸ばす――う、嬉しい、ローランが私に怯えない。私に合わせるように、手を差し伸べてくれたので、小指を絡めた。
「約束。指切りというの」
「指を、切るのか?」
「比喩よ。――決して違えないという、誓い」
物騒なことを言うローランに笑いかけると、うん、と頷いてくれた。
「……指切り」
ぽそっと言う口調が、あどけなくて可愛い! 外見は威厳溢れる王様な美形なのに! 駄目だ、五ヶ月近くの間のローラン愛が私の中で燃え滾ってどうしようもない。
「アレクシアは、私にまだ望みがない。望みが決まるまで、私は、アレクシアといる。……守る」
――このままずっと、望みが決まらなくてもいいよねと思った自分を叱咤して、私は小さく首を振った。
「アレクシア?」
不思議そうに私を見ているローランに、私はそっと膝をついて手の甲に口づけた。これは、私が召喚者としての優位を完全に放棄するという証明だ。
「アレクシア・クリスティン・ルア・ラウエンシュタインから。神竜王、ローラン・デア・バハムートに、最大の敬意を」
女性が男性の手の甲に口づけるのは、最高の敬意だ。逆だと、求愛のひとつでもあるんだけど。
「……ローラン・デア・バハムートから、アレクシア・クリスティン・ルア・ラウエンシュタインに、同じく、最大の敬意を」
私を抱き寄せて、額に口づける――これ、ローランの悲恋ルートで、ミレイに別れを告げるシーンで見たわ。スチル付イベントだったから印象深い。
そうして、私達が互いに敬意を贈り合い、召喚ではなく尊敬で繋がった時。
息を殺して見守ってくれていたレフィアス様が、深く長い溜息をついた。
「……アレクシア姫。本当に……常識外れでおられる」
「レフィアス様」
「情けなくも、腰が抜けかけました――神竜どころか、神竜王を召喚なさるとは」
そして、レフィアス様はローランの前に跪いた。
「偉大なる神竜の王よ。我がヴェルスブルク王国にご降臨を賜り……」
長々と、感謝と畏敬と敬愛の祝詞を紡ぎ始めたレフィアス様に、ローランは困ったように私を見つめた。
聞いてさしあげて、と視線を返すと、首肯してくれる。ローランが、私の言葉を聞いてくれてる!
狂喜乱舞しなかったのは、この後をどうしようかなあという現実逃避じみた考えがあったからだ。……せっかくエージュが軌道修正してくれた「予定調和」の展開、ぶっ壊しちゃった……。
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