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本編
戸惑い。
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人型に戻ったローランは、重さを感じさせない動きで降り立つと、タタッと私に駆け寄ってきた。瞳は「竜型になるのはいいけど、人が沢山見えて怖かったぁぁぁぁ」と如実に語っている。
「アレクシア。王の姫」
国王陛下から言質を取った。それでよかったかと、問いかけてくる。私は、思いきり背伸びして、ローランの頭を撫でた。うう、身長差がすごい。
「ええ。ありがとう」
そう答えると、安堵の笑顔になって、ローランは私に頭を撫でられ続けている。気に入ったのなら、いくらでも撫でるわ、たとえ明日腱鞘炎になろうとも!
「国王陛下。――今日、アレクシアと神竜王陛下を召された目的は、もう果たされましたでしょうか」
そんな私達を微笑ましげに見つめた後、エージュは念を押すように国王陛下に問う。父とは呼ばず、陛下と呼んだことに、国王陛下と宰相閣下は満足そうだ。
「うむ。諸国に使者を送ろう。特に、シルハークには……そうだな、カイン。オリヴィエ。そなたらが赴け。神竜王の力を、シルハークの新王に印象づけてくるのだ」
王命を、カインとオリヴィエは謹んで受ける。そして、オリヴィエは軽い口調で宰相閣下に確認した。
「神竜王陛下は、アレクシア姫をお守りなさるということは伏せ、ただ、我が国を守護したまうと申し上げるのですね?」
宰相閣下は沈黙で肯定し、オリヴィエとカインを近くに呼んで、声をひそめた会話に入った。私達には聞かれたくないというのが露骨すぎて、この人は宰相としてどうなんだろうと思わなくもない。もっとスマートに、誤魔化してほしいものである。
顔を見合わせた私とローラン、エージュに、リヒト殿下がこそっと声をかけてきた。いつも堂々としてるのに、珍しい。
「エージュ。あちらの部屋で、少し、私と話そう。アレクシアと神竜王陛下も御一緒に」
私とローランはエサですか。
エージュだけを呼ぶのではなく、こうして私達を一緒に誘う辺り、リヒト殿下も少しは成長なさったなあと思わなくもない。それはエージュも同じのようで、華やかに微笑み返した。
「はい、王太子殿下」
「エージュ、私は君の」
「……リヒト。姫のお言葉を否定するな」
君の兄だと言おうとしたリヒト殿下を制して、シルヴィスはエージュに「ご配慮に感謝致します」とだけ言った。そのままリヒト殿下の腕を掴むと、私達に「案内します」と素っ気なく告げた。
「……帰りたい」
ぽつりとローランが呟き、私とエージュは心から賛同しながらも、人嫌いの神竜王を何とか宥めて、シルヴィスの先導に従った。何となく、聞いておいた方がいい気がするから。
私はローランとエージュに挟まれ、円卓に座った。リヒト殿下の真意は不明だけれど、シルヴィスは、この席に上座も下座もないことにしておきたいらしい。
エージュの隣にリヒト殿下が座り、その向こうにシルヴィスが座った。一人分の空席を挟んでローランになる。飲み物と菓子が運ばれた後、束の間の静寂が訪れ――リヒト殿下が破った。
「父上は、女神の召喚を考えておられる」
「リヒト。話の順序というものを」
「結論から先に言っただけだ。――神竜王陛下との契約は、アレクシアのものだ。王家のものではない。それは、つまり」
「最強の切り札を、ラウエンシュタイン公爵家が握ったことになる」
エージュが、静かに言葉を発した。リヒト殿下は目を瞠った後、「さすがは我が妹!」と、その洞察力と聡明さを褒めちぎっている。エージュは、にっこり笑った。
「ですから、国王陛下は女神を召喚なさりたい。古の女神ミレジーヌは、当時の神竜王陛下を愛し、愛された御方だから――でしょうか?」
ローランがその神竜王の転生だということは、彼のルートに入らないと明かされない事実だけれど――私の知識は絶対ではなくなってきている。もしかしたら、国王陛下や宰相閣下は、古文書や文献から、そのことを推測しているかもしれない。
「知っていたのか。そう、女神ミレジーヌを召喚できれば――神竜王陛下の力を、王家が行使できると……」
「先程、神竜王陛下はアレクシア姫を傷つけないようにと命じられた。だが、アレクシア姫との契約より、女神ミレジーヌの方が優先されると――父は、考えている」
シルヴィスは、苦々しい声で吐き捨てた。父親に反発しているかのような口調に、私は疑問を覚えた。
「……シルヴィス様は、反対なのですか?」
「当たり前だ。神竜王陛下にもいえることだが、神たる御方は崇め、信じるもの。利用するものではない。我が父ながら……愚劣だ」
意外に潔癖だ。シルヴィスのルートは、分岐でのセーブデータを使ったからなあ……あまり、彼を理解できていなかったのかも。
「父上は、女神召喚が可能なほどの魔力に秀でた者を探している。今のところ、オリヴィエが最有力候補だ」
リヒト殿下も、難しい顔をしている。シルヴィスと同じで、「神は利用していいものではない」という意見らしい。それを若者特有の青さだというなら、私も青くていい。
「……アレクシア。未来視は……可能か? 女神ミレジーヌの召喚が成功するかどうか。成功するなら、誰がいつ行うのかを知りたい」
「……わかりません……未来視は、視ようとして視えるものでは……」
「わかっている。だから、視えた時でいい。すぐに、私かシルヴィに知らせてほしい」
俯いて答えた私に、リヒト殿下は急く様子もなく頷く。
「……兄上様とシルヴィス様は、何をなさるおつもり……?」
ここは私的な場だから、エージュも「兄上様」と妹ぶりっこで問いかけた。
「――女神召喚を、阻止する」
ちょ、待って、ミレイが来なきゃ、いろんな展開が変わり過ぎるんですけど!
そんな私の心の叫びが届いたのか、ローランがそっと手を握ってくれた。
「……大丈夫。私は、女神よりもアレクシアがいい」
綺麗な蒼の瞳が、私を見ていて――罪悪感に駆られる。だって、ローランが本当に好きなのは、女神ミレジーヌの転生であるヒロイン――ミレイだ。私は、オリヴィエの役どころを奪い取った、ただのサブキャラだもの。
不意にそんな想いがこみ上げ、泣きたくなった。だけど、今は泣けない。誰かの前では――ローランはもちろん、エージュの前でも、このことで泣いちゃいけない。
「……少し、時間をいただけますか」
協力するかどうかを、考えさせてほしい。
何とか答えた私に、リヒト殿下は「できるだけ早い返事を」と望み、シルヴィスは「他言は無用に」と注意した。そこは、言われなくてもわかってる。
私の心の葛藤に気づかないローランは、私の気配の変化に戸惑い――エージュは、何も言わずにそっと寄り添ってくれた。
「アレクシア。王の姫」
国王陛下から言質を取った。それでよかったかと、問いかけてくる。私は、思いきり背伸びして、ローランの頭を撫でた。うう、身長差がすごい。
「ええ。ありがとう」
そう答えると、安堵の笑顔になって、ローランは私に頭を撫でられ続けている。気に入ったのなら、いくらでも撫でるわ、たとえ明日腱鞘炎になろうとも!
「国王陛下。――今日、アレクシアと神竜王陛下を召された目的は、もう果たされましたでしょうか」
そんな私達を微笑ましげに見つめた後、エージュは念を押すように国王陛下に問う。父とは呼ばず、陛下と呼んだことに、国王陛下と宰相閣下は満足そうだ。
「うむ。諸国に使者を送ろう。特に、シルハークには……そうだな、カイン。オリヴィエ。そなたらが赴け。神竜王の力を、シルハークの新王に印象づけてくるのだ」
王命を、カインとオリヴィエは謹んで受ける。そして、オリヴィエは軽い口調で宰相閣下に確認した。
「神竜王陛下は、アレクシア姫をお守りなさるということは伏せ、ただ、我が国を守護したまうと申し上げるのですね?」
宰相閣下は沈黙で肯定し、オリヴィエとカインを近くに呼んで、声をひそめた会話に入った。私達には聞かれたくないというのが露骨すぎて、この人は宰相としてどうなんだろうと思わなくもない。もっとスマートに、誤魔化してほしいものである。
顔を見合わせた私とローラン、エージュに、リヒト殿下がこそっと声をかけてきた。いつも堂々としてるのに、珍しい。
「エージュ。あちらの部屋で、少し、私と話そう。アレクシアと神竜王陛下も御一緒に」
私とローランはエサですか。
エージュだけを呼ぶのではなく、こうして私達を一緒に誘う辺り、リヒト殿下も少しは成長なさったなあと思わなくもない。それはエージュも同じのようで、華やかに微笑み返した。
「はい、王太子殿下」
「エージュ、私は君の」
「……リヒト。姫のお言葉を否定するな」
君の兄だと言おうとしたリヒト殿下を制して、シルヴィスはエージュに「ご配慮に感謝致します」とだけ言った。そのままリヒト殿下の腕を掴むと、私達に「案内します」と素っ気なく告げた。
「……帰りたい」
ぽつりとローランが呟き、私とエージュは心から賛同しながらも、人嫌いの神竜王を何とか宥めて、シルヴィスの先導に従った。何となく、聞いておいた方がいい気がするから。
私はローランとエージュに挟まれ、円卓に座った。リヒト殿下の真意は不明だけれど、シルヴィスは、この席に上座も下座もないことにしておきたいらしい。
エージュの隣にリヒト殿下が座り、その向こうにシルヴィスが座った。一人分の空席を挟んでローランになる。飲み物と菓子が運ばれた後、束の間の静寂が訪れ――リヒト殿下が破った。
「父上は、女神の召喚を考えておられる」
「リヒト。話の順序というものを」
「結論から先に言っただけだ。――神竜王陛下との契約は、アレクシアのものだ。王家のものではない。それは、つまり」
「最強の切り札を、ラウエンシュタイン公爵家が握ったことになる」
エージュが、静かに言葉を発した。リヒト殿下は目を瞠った後、「さすがは我が妹!」と、その洞察力と聡明さを褒めちぎっている。エージュは、にっこり笑った。
「ですから、国王陛下は女神を召喚なさりたい。古の女神ミレジーヌは、当時の神竜王陛下を愛し、愛された御方だから――でしょうか?」
ローランがその神竜王の転生だということは、彼のルートに入らないと明かされない事実だけれど――私の知識は絶対ではなくなってきている。もしかしたら、国王陛下や宰相閣下は、古文書や文献から、そのことを推測しているかもしれない。
「知っていたのか。そう、女神ミレジーヌを召喚できれば――神竜王陛下の力を、王家が行使できると……」
「先程、神竜王陛下はアレクシア姫を傷つけないようにと命じられた。だが、アレクシア姫との契約より、女神ミレジーヌの方が優先されると――父は、考えている」
シルヴィスは、苦々しい声で吐き捨てた。父親に反発しているかのような口調に、私は疑問を覚えた。
「……シルヴィス様は、反対なのですか?」
「当たり前だ。神竜王陛下にもいえることだが、神たる御方は崇め、信じるもの。利用するものではない。我が父ながら……愚劣だ」
意外に潔癖だ。シルヴィスのルートは、分岐でのセーブデータを使ったからなあ……あまり、彼を理解できていなかったのかも。
「父上は、女神召喚が可能なほどの魔力に秀でた者を探している。今のところ、オリヴィエが最有力候補だ」
リヒト殿下も、難しい顔をしている。シルヴィスと同じで、「神は利用していいものではない」という意見らしい。それを若者特有の青さだというなら、私も青くていい。
「……アレクシア。未来視は……可能か? 女神ミレジーヌの召喚が成功するかどうか。成功するなら、誰がいつ行うのかを知りたい」
「……わかりません……未来視は、視ようとして視えるものでは……」
「わかっている。だから、視えた時でいい。すぐに、私かシルヴィに知らせてほしい」
俯いて答えた私に、リヒト殿下は急く様子もなく頷く。
「……兄上様とシルヴィス様は、何をなさるおつもり……?」
ここは私的な場だから、エージュも「兄上様」と妹ぶりっこで問いかけた。
「――女神召喚を、阻止する」
ちょ、待って、ミレイが来なきゃ、いろんな展開が変わり過ぎるんですけど!
そんな私の心の叫びが届いたのか、ローランがそっと手を握ってくれた。
「……大丈夫。私は、女神よりもアレクシアがいい」
綺麗な蒼の瞳が、私を見ていて――罪悪感に駆られる。だって、ローランが本当に好きなのは、女神ミレジーヌの転生であるヒロイン――ミレイだ。私は、オリヴィエの役どころを奪い取った、ただのサブキャラだもの。
不意にそんな想いがこみ上げ、泣きたくなった。だけど、今は泣けない。誰かの前では――ローランはもちろん、エージュの前でも、このことで泣いちゃいけない。
「……少し、時間をいただけますか」
協力するかどうかを、考えさせてほしい。
何とか答えた私に、リヒト殿下は「できるだけ早い返事を」と望み、シルヴィスは「他言は無用に」と注意した。そこは、言われなくてもわかってる。
私の心の葛藤に気づかないローランは、私の気配の変化に戸惑い――エージュは、何も言わずにそっと寄り添ってくれた。
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