乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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本編

王太子殿下は猪突猛進系。

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 使者として、カインとオリヴィエが旅立ってわずか三日。
 シルハークの新王・梨樹リーシュは、ヴェルスブルクに宣戦布告してきた。北方の商人同盟は、ほぼ手中に収めたらしい。二十三歳だという若い新王は、貪欲に周辺諸国に侵略の手を伸ばしている。

 ローランは、ドージェからの奏上で宣戦布告を知ったと教えてくれた。つまり、カインとオリヴィエはシルハークに辿り着く前に、公路上で宣戦布告の使者と行き会ったということだ。そして、オリヴィエの遠隔術で、使者より早く王宮に「宣戦布告」が報告され、カイン達は即帰国の途に就いた。

「……間諜って、スパイのこと?」

 私は、自分の部屋にローランとエージュを招き入れ、私の髪を見て叫んだリリーナに「誰も入らないで」とお願いして、三人で話し合いの最中だ。

「そうね。誰なのかはわからないけれど。シルハーク人はヴェルスブルクでは異端だから、紛れ込むことは難しい。となれば、ヴェルスブルク人を買収するのが早いわね」

 エージュは、トン、とテーブルを指先で叩いた。

「ヴェルスブルクに、神竜王が降臨した。そのことを知って尚、宣戦布告してきたということは、シルハークの王には、何か切り札があるのかしら」
「シルハークには、数代前の竜王姫が降嫁している」

 何でもないことのように、ローランが言った。

「私の先祖にもあたる。神竜王の座は、世襲ではなく指名だが、同じ血筋から王が出ることはある。私の先祖にも何人かいる。シルハークの王族が、神竜王の末裔であることは確かだ」
「……シルハークは、そのことを伏せている。普通なら誇示することよ。神竜王の血を引いている、と。それをしないというのは……」
「竜王姫の納采は、神竜を人にする秘術だ。そうでなくては、竜王姫は人である夫に死に遅れる」

 エージュの言葉に、ローランは淡々と答えた。神竜を人にする秘術。そんなものがあったなんて。

「それは……神竜王陛下。あなたにも有効?」
「その秘術を発動させる者の魔力による。降嫁した竜王姫は、シルハーク風に桜華インファと名を改めた。真名を変えることで、本来の神竜としての魔力を大幅に封印し、当時の神竜王が娘を人にしたと聞く」
「……あなたの真名は……」
「アレクシアとの契約で、あの場にいた者は知った。神竜の一族も知っている。だが、呼ばない」

 レフィアス様が、シルハークと通じているとは思えない。だから、その意味ではローランの真名は知られていないと判断できるけど――何か、不安になる。

「……シルハークについて調べるわ。将軍が戻るのは……急ぐでしょうから、二日後といったところかしら。アリー、リヒト殿下に会いに行くわよ」
「え?」
「王宮の書物庫は、リヒト殿下とシルヴィス様に任せるわ。わたくしは、シュラウス将軍を通じてシェーンベルク大公にお願いする」

 ローゼンヴァルト宮の、蔵書室に立ち入る許可を。
 ――シルハークのことを、何でもいいから調べると言って、エージュは席を立った。

「着替えてくるわ。アリーも仕度しておいて。神竜王陛下は……」
「私はアレクシアといたい。だが……私がいない方が、アレクシアは安全かもしれない」
「ローラン?」
「私の血は、シルハークの王とちかい」

 それは、リーシュ王が血を使って魔法を行うと、ローランにも通じてしまうということ。例えば、遠隔地を覗く「映像ヴィジョン」の魔法は、普通ならローランには通じない。人の魔力では、神竜の王である彼には歯が立たないからだ。けれど、供血きょうけつ魔法として発動させれば――血の持ち主が血縁者であれば、通じる。

「アレクシアと王の姫達が何をするのか、シルハークには知られない方がいいのだろう?」
「ええ」

 頷いたエージュに、ローランは私の髪を撫でた。

「それなら、我慢する。アレクシアを守りたいから」

 短くなった巻き毛は、するっとローランの指から離れた。

「何かあったら呼んでくれれば、すぐに行く」

 何もないことが一番いいけれどと言って、ローランはすっと壁に手をかざすと、そこをすり抜けて隣の自室に入った。……確かに手っ取り早いけど、ちゃんと扉を使うように言わなくては。
 エージュとは玄関で待ち合わせることにして、私は急いで身支度を調えた。




「……何か、私のリヒト殿下ルート回避とか言ってる場合じゃなくなったね」
「好意を利用させていただく形になるかもしれないわ。……といっても、アリーだものね、演技はできないでしょうし」

 確かに、私にはエージュ並の演技力はない。まして、リヒト殿下の好意を知った今となっては、関わりたくないというのが本音だ。
 でも、事が戦争となるなら、話は別だ。宣戦布告された以上は、ヴェルスブルクだって黙って蹂躙されるわけにはいかないから、迎撃になる。その間に、他の友好国に間に入ってもらうように和平工作も必要だ。

「……女神召喚が、早まるかもしれないわね」
「……うん」
「アリー。神竜王陛下がおっしゃった、シルハーク王家のことは、リヒト殿下とシルヴィス様にだけ話すわ。他の人――あなたのお父様にも、話しては駄目よ」

 それはローランの弱みにも繋がるからだと言った後、エージュは難しい顔で考え込んだ。



 ――馬車が、いつもの定位置で停車する。私とエージュは馭者にお礼を言った後、宮殿内に入った。
 国王陛下に謁見を願う人は多くても、リヒト殿下にとなると、そうはいない。まだ学業を済ませていない王太子に、政治的な発言力はないからだ。
 よって、私達はそれほど待たされることなく、いつものようにリヒト殿下の私室に案内された。……エージュが一緒だからだと思っていたけど、私への好意もあったのか……。

「エージュ、アレクシア。先触れもなしにとは珍しいな。シルヴィの同席も確認するということは、先日の話を……」
「いいえ、兄上様。……いえ、繋がるお話かもしれませんが……シルハークのことです」
「シルハーク? カインとオリヴィエが使者として発ったばかりだな」

 宣戦布告を受けたことを、リヒト殿下はまだ知らないらしい。国王陛下と宰相閣下までで止められているということだ。

「……何か、あったか?」

 シルヴィスが、やや緊張を孕んだ声で問いかけてくる。……この人にも、好感度五割かぁ……。

「……シルハークが、宣戦布告しました」
「……それは、アレクシア。未来視か?」
「いいえ。ローランが感知しました。オリヴィエが連れている竜――ドージェからの報告です」

 私の未来視ということにしなかったのは、それにしては遅すぎるからだ。もう布告され、報告されたものを、開示前に言い当てたところで、利はない。そもそも、私はシルハークからの宣戦布告自体は既に未来視している。

「そして、これからお話しすることは、殿下もシルヴィス様も、伏せて下さいませ。国王陛下にも、宰相閣下にも」

 私が重々しく言うと、リヒト殿下は即座に頷き、シルヴィスは怪訝そうにしながらも同意してくれた。

「……シルハークのリーシュ王は、神竜王の血筋だそうです。数代前の神竜王の姫――竜王姫が、当時のシルハーク王に降嫁したと」
「……何?」

 リヒト殿下の翡翠の双眸が、信じられないと言いたげに色を濃くした。シルヴィスも同様だ。

「おそらく、曾祖母か高祖母が、神竜王姫です」
「……それ、は……」
「だから、神竜王を恐れない。対策があるからです」
「そして――北の商人同盟を掌握した以上、シルハークはハユルスと手を結ぶ」
「馬鹿な。ハユルスは我がヴェルスブルクの友好国だ。我らの祖母上は、ハユルスから嫁いでこられたのだから」

 エージュの言葉に、リヒト殿下は愕然として否定の言葉を返した。ハユルスは豊かな交易国で、必然的に商人同盟とは親しかった。

「……リヒト。あり得ぬことではない。過去より今、名より実を選ぶのがハユルスだ」
「兄上様。どうか、王宮の書物をお調べ下さい。わたくしには、まだその資格がありません。兄上様にしかお願いできないのです」

 巷にある表向きのものではない書物を、エージュは懇願した。禁書を調べてくれという言葉に、エージュの願いには常に頷いてきたリヒト殿下が躊躇いを見せる。

「お願い致します、王太子殿下」

 私も頭を下げた。
 少しの逡巡の後、リヒト殿下は頷いた。

「……わかった。シルヴィ。見つからぬように忍び込むぞ」
「リヒトさえ騒がなければ、それは容易い。……姫は、如何なさる?」
「私は、ローゼンヴァルト宮に伺います。大公殿下に、書庫を見せていただきたいと……」

 私の言葉に、シルヴィスは首を振った。エージュと同行するつもりだったんだけど、駄目なのかな。

「そちらは、エルウィージュ様にお任せするといい。姫は、神殿――大神官様をお訪ねになるように」

 神殿にも古書は多い。
 そう指摘したシルヴィスは、首飾り――ペンダントを外して、私に預けてくれた。

「これは……?」
「亡き母の形見だが、あなたに預ける。神殿の、封印された書庫の鍵だ」

 ……ヤバい。シルヴィスが確実にデレ始めている。だけど、この機会を逃すわけにはいかない。
 ありがたく受け取った私に、シルヴィスは少し優しく笑った。それを見ていたリヒト殿下が、自分の指環――王位継承権者の証を外した。

「エージュ、これを。シェーンベルク大公にお願いするなら、カインを通した方がいい。カインには、私の命だと言って、これを見せなさい」
「兄上様」
「以前に君に贈った指環と合わせれば、遠隔の映像魔法も発動させられる。それで、カインから大公に依頼させられるだろう。大公は、カインの言葉なら従うはずだ。拒否されたら、私の命だと強行していい」
「リヒト」

 案じるようなシルヴィスの言葉に、リヒト殿下は屈託なく笑った。

「叱られる覚悟をしておけ、シルヴィ。父上とパラメデウスの説教は長いぞ」

 ――全責任は自分達が追うからと、私達を送り出してくれる。
 こういうところは、王の器なんだなと思うんだけど。

「……調べてほしい内容を訊かない辺りが、詰めが甘くていらっしゃるのよねえ……」

 溜息をついた私達は、門まで見送ってくれたリヒト殿下に、「調べてほしいのは、シルハーク王家の系図」だと、ちゃんと伝えました。
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