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本編
策を立てましょう。
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翌日の朝。私が目を覚ました時、リーシュはまだ眠っていた。緊張からか、私の眠りは浅かったらしく、夜明け前に目が覚めたみたいだ。
どうしようかなと思っていたら、入口の方に人の気配がした。途端、リーシュは目を開けて身を起こす。人の気配に敏いのか、彼も神経過敏なのかはわからない。
「陛下」
男性にしては少し高い、やわらかい声が控えめに呼びかける。リーシュは、その声に安堵したように息をついて「入れ」と許可した。ちょっと待って、私は寝起きなんだけど。顔くらい洗いたい。
だけど、そんな暇はなく――入口から、背の高い男性が入ってきた。黒髪に黒い瞳の、繊麗な美しさの人だった。
「御命令通りに。……姫君、どうぞ」
リーシュに巻き物らしいものを渡した後、私の方に、水の入った手桶と布を置いてくれた。
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、その人は苦笑した。そして、首を振る。
「私こそ、昨夜はとても助かりましたので。――御挨拶が遅れました、レンファンと申します」
――桜華公主のお気に入りだというレンファンさんを見て、しみじみ思った。あの婆様、趣味はいいわね……。
「レン。これ、写しか?」
「ええ。頂いた指環の魔力で、いいトシどころか百五十年以上生きててまだ色狂いのクソ婆を眠らせた後、複写の魔法で。少し単語が抜けていますが、神竜王陛下なら発動させられる程度の落丁だと思います」
さらっと毒づいて、レンファンさんはリーシュに「ここです」と単語の抜け落ちている場所を示した。その間に、私は顔を洗って、さっぱりさせてもらった。
「アレクシア。ここの抜けは問題ないか?」
リーシュに呼ばれて、私も巻き物を覗き込む。……神竜達の文字で書かれているのか、全く読めないから判断がつかない。
とりあえず、「復元」の魔法を唱えてみたら、薄く文字のような紋様が浮かび上がった。
「……ローランなら、復元させられると思う」
私の魔力でも、完全とはいかなくてもある程度復元させられるなら、ローランなら完全に復元させられるはずだ。当代最強の神竜だからこそ、彼は神竜王なのだから。
「大婆様の目を盗んで、神竜王に会わせるのはなかなか難しいよな。かといって、打ち合わせなしで神竜王に「その婆を人間にしてくれ」と言ったところで……」
「……リーシュは、ローランに会ったことはある?」
「ん? ああ、あるぞ。美形だな、あの神竜王。おまえ、面食いだな」
「そうでしょ、しかも優しいし可愛いのよ。……じゃなくて。私があなたに変身して会いに行くことはできる? 桜華公主が一緒でないと無理?」
私が訊くと、リーシュとレンファンさんは顔を見合わせた。できなくはないけど、理由付けが必要っぽい雰囲気だ。
「……姫君。あなたは、あの神竜王陛下の召喚者ですよね?」
「召喚したと言われればそうだけど」
普通の召喚のようにローランを使役したいわけではないので、私の答えは曖昧になる。
「要するに、恋人未満な、周囲がじれったくなる関係ですか」
……レンファンさんは、言葉を選ばないなあ……。
私が微妙に目を逸らすと、それを答えと判じたのか、レンファンさんはコホンと咳払いした。
「私の人間性を疑われたくないので、こういう策もある、程度に思って下さいね。――陛下は、アレクシア姫を手籠めにした設定なんですよね?」
「俺はそんな非道な男じゃないんだけどな……」
「あなた、あのクソ婆の前ではそういう人格を演じてるでしょうが」
主君――正確には、忠誠を誓った御方の弟――にも遠慮なく突っ込んだ後、レンファンさんは黒い瞳で私を見据えた。
「かなり抵抗されたが、手籠めにした。その様を神竜王に話して、反応を見てみたいと言ってごらんなさい。あのクソ婆は性格が曲がった上に腐って終わってますから、大喜びします」
「……思いつくおまえもな……」
リーシュの言葉に心から同意する。凌辱の様を語って相手を嬲るなんて、普通の発想ではない。
「でも、それなら同行したいと言うぞ、大婆様は」
「構いませんよ。そこに行くのはアレクシア姫です。変身の魔法なら、神竜王陛下は気づくでしょう。但し、あのクソ婆にはバレないように強力に術をかけて下さい」
――ローランが、私だと気づくように。でも、桜華公主にはわからないように。
そんな都合のいいことは、たぶんできない。だから、私は首を振った。
「私の魔力じゃ、神竜王姫だった桜華公主には気づかれる。輝石を使ったら――殆ど完璧なものになると思う」
だけど。
気づいてくれると、信じる。
「……大丈夫なのか?」
「約束したもの。守るって」
だから、大丈夫。
そう言った私に、リーシュは頷いた。レンファンさんも。
「神竜王陛下が、あなたがあなただと気づけばこっちのものです。この秘術を、神竜王陛下に発動してもらえばいい。私と……あなたの姿の陛下も同行します。発動までの間、クソ婆を抑えることはしてみせます」
「かなり、俺の人格が最悪なことを前提とした作戦だが……やるしかない」
「うん」
私達は頷き合って、その後、打ち合わせを続けた。桜華公主が、遅い目覚めを迎えるまで。
どうしようかなと思っていたら、入口の方に人の気配がした。途端、リーシュは目を開けて身を起こす。人の気配に敏いのか、彼も神経過敏なのかはわからない。
「陛下」
男性にしては少し高い、やわらかい声が控えめに呼びかける。リーシュは、その声に安堵したように息をついて「入れ」と許可した。ちょっと待って、私は寝起きなんだけど。顔くらい洗いたい。
だけど、そんな暇はなく――入口から、背の高い男性が入ってきた。黒髪に黒い瞳の、繊麗な美しさの人だった。
「御命令通りに。……姫君、どうぞ」
リーシュに巻き物らしいものを渡した後、私の方に、水の入った手桶と布を置いてくれた。
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、その人は苦笑した。そして、首を振る。
「私こそ、昨夜はとても助かりましたので。――御挨拶が遅れました、レンファンと申します」
――桜華公主のお気に入りだというレンファンさんを見て、しみじみ思った。あの婆様、趣味はいいわね……。
「レン。これ、写しか?」
「ええ。頂いた指環の魔力で、いいトシどころか百五十年以上生きててまだ色狂いのクソ婆を眠らせた後、複写の魔法で。少し単語が抜けていますが、神竜王陛下なら発動させられる程度の落丁だと思います」
さらっと毒づいて、レンファンさんはリーシュに「ここです」と単語の抜け落ちている場所を示した。その間に、私は顔を洗って、さっぱりさせてもらった。
「アレクシア。ここの抜けは問題ないか?」
リーシュに呼ばれて、私も巻き物を覗き込む。……神竜達の文字で書かれているのか、全く読めないから判断がつかない。
とりあえず、「復元」の魔法を唱えてみたら、薄く文字のような紋様が浮かび上がった。
「……ローランなら、復元させられると思う」
私の魔力でも、完全とはいかなくてもある程度復元させられるなら、ローランなら完全に復元させられるはずだ。当代最強の神竜だからこそ、彼は神竜王なのだから。
「大婆様の目を盗んで、神竜王に会わせるのはなかなか難しいよな。かといって、打ち合わせなしで神竜王に「その婆を人間にしてくれ」と言ったところで……」
「……リーシュは、ローランに会ったことはある?」
「ん? ああ、あるぞ。美形だな、あの神竜王。おまえ、面食いだな」
「そうでしょ、しかも優しいし可愛いのよ。……じゃなくて。私があなたに変身して会いに行くことはできる? 桜華公主が一緒でないと無理?」
私が訊くと、リーシュとレンファンさんは顔を見合わせた。できなくはないけど、理由付けが必要っぽい雰囲気だ。
「……姫君。あなたは、あの神竜王陛下の召喚者ですよね?」
「召喚したと言われればそうだけど」
普通の召喚のようにローランを使役したいわけではないので、私の答えは曖昧になる。
「要するに、恋人未満な、周囲がじれったくなる関係ですか」
……レンファンさんは、言葉を選ばないなあ……。
私が微妙に目を逸らすと、それを答えと判じたのか、レンファンさんはコホンと咳払いした。
「私の人間性を疑われたくないので、こういう策もある、程度に思って下さいね。――陛下は、アレクシア姫を手籠めにした設定なんですよね?」
「俺はそんな非道な男じゃないんだけどな……」
「あなた、あのクソ婆の前ではそういう人格を演じてるでしょうが」
主君――正確には、忠誠を誓った御方の弟――にも遠慮なく突っ込んだ後、レンファンさんは黒い瞳で私を見据えた。
「かなり抵抗されたが、手籠めにした。その様を神竜王に話して、反応を見てみたいと言ってごらんなさい。あのクソ婆は性格が曲がった上に腐って終わってますから、大喜びします」
「……思いつくおまえもな……」
リーシュの言葉に心から同意する。凌辱の様を語って相手を嬲るなんて、普通の発想ではない。
「でも、それなら同行したいと言うぞ、大婆様は」
「構いませんよ。そこに行くのはアレクシア姫です。変身の魔法なら、神竜王陛下は気づくでしょう。但し、あのクソ婆にはバレないように強力に術をかけて下さい」
――ローランが、私だと気づくように。でも、桜華公主にはわからないように。
そんな都合のいいことは、たぶんできない。だから、私は首を振った。
「私の魔力じゃ、神竜王姫だった桜華公主には気づかれる。輝石を使ったら――殆ど完璧なものになると思う」
だけど。
気づいてくれると、信じる。
「……大丈夫なのか?」
「約束したもの。守るって」
だから、大丈夫。
そう言った私に、リーシュは頷いた。レンファンさんも。
「神竜王陛下が、あなたがあなただと気づけばこっちのものです。この秘術を、神竜王陛下に発動してもらえばいい。私と……あなたの姿の陛下も同行します。発動までの間、クソ婆を抑えることはしてみせます」
「かなり、俺の人格が最悪なことを前提とした作戦だが……やるしかない」
「うん」
私達は頷き合って、その後、打ち合わせを続けた。桜華公主が、遅い目覚めを迎えるまで。
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