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本編
偽りの女神予定者。
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私が眠って――眠らされていた間に、いろいろ役割担当が決まったらしい。まあ、軍はカインで、神殿はオリヴィエ(と、レフィアス様ファンクラブ会員達)というのは、当たり前すぎるんだけど。
シルヴィスには父親の収賄関係を洗わせて、でもリヒト殿下は何もさせないというのは、エージュ曰く「演技ができるかどうかの違い」だそうだ。リヒト殿下は裏表がないから、ヘンにギクシャクして勘繰られても困るから、と。
そう私に説明してくれたエージュとローランは、いつも通りだった。――だから、不安になる。
「エージュ」
「駄目よ。聞き入れません」
「私も聞かない」
まだエージュの名前しか呼んでないのに、ローランにまで拒否された。だって、私の為に国王をすげ替えるというのは、やり過ぎだと思うのよ。
「あなたの為だけではないわ。言ったでしょう、ギルフォード陛下は、既に王の器ではないの。そんな王を戴くのは、ヴェルスブルクにとって不利益でしかないわ」
「今度はハユルスを攻めろと言われたら、アレクシアはどうするつもりだ? ハユルスの王を誑し込むのか? そんなことは私がさせない」
畳みかけられると、反論の余地がない。俯いた私に、エージュが慰めるように言う。
「無血革命――とまでは、言わないけれど。一番平穏な方法を選んだつもりよ。そうでなければ、アトゥール殿下が軍を焚きつけて、わたくしが神殿を煽り、神竜王陛下を先頭に内乱に突入させた方が早いし、膿を完全に出しきれるわ」
だけどそうしなかった。内乱になれば、国力は落ちる。シルハーク――リーシュは攻めてこないにしても、ハユルスや他国はわからない。特にハユルスは、和睦しているとはいっても紙切れ一枚のことだ、簡単に手のひらを返す。
そのことを滾々と説明されれば、私も頷くしかない。国王陛下と宰相閣下が、先に私を排除しようとしたのは事実で、レフィアス様経由での王太子令発令が間に合わなかったら、私は売国の汚名を着せられていた。今回は防げたけれど、次もそうとは言えない以上、私にとっては自衛でもある。
ただ、気がかりなのは、クルムバッハ公爵令嬢のことだ。偽の「女神召喚」で女神の形代と設定され、その後で偽者と暴かれる――それ、被害者じゃないの?
「優しいアリー。そういうところが大好きよ」
「エージュ。誤魔化さないで」
「ひどいわ。わたくしがあなたを大好きなことは、本当なのに。教えてあげる。アルドンサ・レオノーラは、自分が偽りの女神になることを承知しているのよ」
私の巻き毛を優しく撫でながら、エージュはくすっと笑った。……承知しているということは、アルドンサ嬢は、「女神ミレジーヌ」を演じるつもりなの?
「どうして、そんなこと」
「利になるからだ」
エージュとは逆方向から、ローランが私の巻き毛を引っ張る。この二人は、どこまでも私の巻き毛がお気に入りらしい。
「女神ミレジーヌの化身となれば、王太子妃候補の筆頭でもおかしくないわ」
「ミレジーヌが、デュランドを番として愛していたことは一般には知られていないし、知られても問題にならない。当代の神竜王である私は、そなたを選んだから」
――リヒト殿下の妃候補。その筆頭は、今現在は、私だったりする。私にその気はまっっったくないし、国王陛下は、リヒト殿下に必要以上の「力」が集まることを避けている。でも、未来視の姫と名高い上に神竜王を召喚した私は、本人の意志は関係なく、王太子妃候補のトップを独走中だ。
「他の「王太子妃候補」な姫君方からすれば、あなたとの差は凄まじいのよ。リヒト殿下が名前で呼ぶのはあなただけだし、あなたに好意を持っていることくらい、見ればわかるわ」
「リヒト殿下の好意? 何それ? 私にはわかりませんが」
「わかりたくないからでしょう? 現実逃避していないで、ちゃんと直視なさい。リヒト殿下はわたくしの兄なのだもの、あなたに惹かれるのは当たり前だわ」
「王の姫。その理論で言うと、国王もアレクシアに惹かれることになってしまう」
「それは絵的に美しくないので、わたくしが認めません」
ローランの突っ込みに、エージュは楚々とした笑顔で、「犯罪的な年齢差になる父にアリーは渡さない」と言ってのけた。実父をロリコン呼ばわりして、平然たる姿は、強い。
「ともかく。アルドンサに同情はしなくていいわ」
「……でも」
本人の意志なんだろうか。王太子妃になってほしいという、クルムバッハ公爵の意を汲んでのことじゃないんだろうか。
そんな可能性を考えてしまう私に、エージュは仕方なさそうに溜息を漏らした。
「……いいわ。それなら、アルドンサも被害者だったという形も考えておくわ。だから、アリー。顔を上げて、わたくしを見て」
「……できるの?」
「本人次第にはなるけれど。騙された被害者、という形を装わせることは簡単だもの」
国王陛下に積極的に与している貴族達は、できるだけ力を削いでおきたいのにと、エージュは私の髪を軽く指に絡めた。
「わたくしは、本当にあなたに甘いわ。――いつかわたくしが身を滅ぼすとしたら、間違いなくあなたが原因よ」
「怖い未来を想像しないで」
「策士、策に溺れるというでしょう。わたくしは、きっとあなたに溺れてしまうわ」
刹那的なことを言って、エージュは私から離れた。そのまま、長椅子にゆったりと座る。
「学園のことだけれど」
唐突に、国権転覆から日常生活レベルに話が戻って、私は戸惑った。だけどエージュは構わずに話し続けようとしているから、私はローランを促して二人掛けの椅子に並んで腰を下ろす。
「わたくし、選択講義の変更をするわ。できるだけ、あなたと一緒に過ごせるように」
「私は変えなくてもいいの?」
「そうね。二人揃って変更して、あちらに何か勘づかれても困るし、今はいいわ。本当は嫌だけれど、他の姫君方との交流も少し持ちましょう。アルドンサと接触しても不審がられない程度にね」
とても嫌だけれど、とエージュは繰り返した。……ローランの人嫌いがうつったのかなあ。最近のエージュは、例の計画を知っている人達以外との接触を嫌っている。
「ねえ、エージュ」
「どうかして?」
「うん。……あのね、エージュの世界を小さくしないでね」
「?」
きょとんとしているエージュというのは、結構レアである。
「私以外にも、仲良くできそうな子がいたら、仲良くしてね。あ、男の人は駄目だけど。アトゥール殿下に申し訳ないし」
「……殿下は、そういうことは気になさらないわ。わたくしとは、恋や愛で結婚するわけではないもの」
――私の為。ローゼンヴァルト宮の蔵書室に入る為だけに、エージュはアトゥール殿下に求婚した。
だけど、アトゥール殿下は……本当に駄目なら、それでも断ったと思う。あの大公殿下のことはよくわからない。でも、人を見る目があるのは間違いないのよ。キャラ設定がそうなってたもん。
「女の子の皆が皆、エージュを敵視しているわけじゃないと思うの。むしろ、今は私の方が敵視されてる……」
王太子妃候補筆頭として、妬まれています。
項垂れた私に、ローランがおろおろして、手近にあった花菓子を取って渡してくれる。落ち込んだ時には甘い物というのはローランの癖で、私はそうでもないんだけど、気持ちが嬉しいから、受け取って口にした。フルーティーな香りと優しい味が、ふわっと口内を満たしてくれる。
「あなたがそう言うなら、仲良くするふりくらいはしてあげる。でも、それ以上は嫌よ。いらないもの」
「エージュってば」
「わたくしは、狭い箱庭の世界でいいのよ」
微笑みながら、エージュは、もう黙ってと言うように、私の口唇に細い指を押し当てた。
翌日、学園に登校した私は、いきなり頬を引っぱたかれた。しかも往復、両頬です。
見知らぬ少女――ではない。クルムバッハ公爵令嬢、アルドンサ・レオノーラにである。
「あなたのせいで!」
――何がどう、私のせいなのかは説明せずに、アルドンサは走り去り。
引っぱたかれた私が、じんじんと痛む頬に「治癒」を唱えようかなあと思っていたら、透きとおった声が「治癒」を唱えてくれた。
輝くような笑顔のエージュと、その後ろで絶対零度のオーラを放っているリヒト殿下。
……アルドンサ・レオノーラ・ルア・クルムバッハ。
あなたが王太子妃になる確率は、かなり下がったと思います……。
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そのことを滾々と説明されれば、私も頷くしかない。国王陛下と宰相閣下が、先に私を排除しようとしたのは事実で、レフィアス様経由での王太子令発令が間に合わなかったら、私は売国の汚名を着せられていた。今回は防げたけれど、次もそうとは言えない以上、私にとっては自衛でもある。
ただ、気がかりなのは、クルムバッハ公爵令嬢のことだ。偽の「女神召喚」で女神の形代と設定され、その後で偽者と暴かれる――それ、被害者じゃないの?
「優しいアリー。そういうところが大好きよ」
「エージュ。誤魔化さないで」
「ひどいわ。わたくしがあなたを大好きなことは、本当なのに。教えてあげる。アルドンサ・レオノーラは、自分が偽りの女神になることを承知しているのよ」
私の巻き毛を優しく撫でながら、エージュはくすっと笑った。……承知しているということは、アルドンサ嬢は、「女神ミレジーヌ」を演じるつもりなの?
「どうして、そんなこと」
「利になるからだ」
エージュとは逆方向から、ローランが私の巻き毛を引っ張る。この二人は、どこまでも私の巻き毛がお気に入りらしい。
「女神ミレジーヌの化身となれば、王太子妃候補の筆頭でもおかしくないわ」
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――リヒト殿下の妃候補。その筆頭は、今現在は、私だったりする。私にその気はまっっったくないし、国王陛下は、リヒト殿下に必要以上の「力」が集まることを避けている。でも、未来視の姫と名高い上に神竜王を召喚した私は、本人の意志は関係なく、王太子妃候補のトップを独走中だ。
「他の「王太子妃候補」な姫君方からすれば、あなたとの差は凄まじいのよ。リヒト殿下が名前で呼ぶのはあなただけだし、あなたに好意を持っていることくらい、見ればわかるわ」
「リヒト殿下の好意? 何それ? 私にはわかりませんが」
「わかりたくないからでしょう? 現実逃避していないで、ちゃんと直視なさい。リヒト殿下はわたくしの兄なのだもの、あなたに惹かれるのは当たり前だわ」
「王の姫。その理論で言うと、国王もアレクシアに惹かれることになってしまう」
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ローランの突っ込みに、エージュは楚々とした笑顔で、「犯罪的な年齢差になる父にアリーは渡さない」と言ってのけた。実父をロリコン呼ばわりして、平然たる姿は、強い。
「ともかく。アルドンサに同情はしなくていいわ」
「……でも」
本人の意志なんだろうか。王太子妃になってほしいという、クルムバッハ公爵の意を汲んでのことじゃないんだろうか。
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「怖い未来を想像しないで」
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刹那的なことを言って、エージュは私から離れた。そのまま、長椅子にゆったりと座る。
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唐突に、国権転覆から日常生活レベルに話が戻って、私は戸惑った。だけどエージュは構わずに話し続けようとしているから、私はローランを促して二人掛けの椅子に並んで腰を下ろす。
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「私は変えなくてもいいの?」
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「?」
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「女の子の皆が皆、エージュを敵視しているわけじゃないと思うの。むしろ、今は私の方が敵視されてる……」
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「あなたがそう言うなら、仲良くするふりくらいはしてあげる。でも、それ以上は嫌よ。いらないもの」
「エージュってば」
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微笑みながら、エージュは、もう黙ってと言うように、私の口唇に細い指を押し当てた。
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「あなたのせいで!」
――何がどう、私のせいなのかは説明せずに、アルドンサは走り去り。
引っぱたかれた私が、じんじんと痛む頬に「治癒」を唱えようかなあと思っていたら、透きとおった声が「治癒」を唱えてくれた。
輝くような笑顔のエージュと、その後ろで絶対零度のオーラを放っているリヒト殿下。
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