乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

文字の大きさ
45 / 93
本編

偽りの女神予定者。

しおりを挟む
 私が眠って――眠らされていた間に、いろいろ役割担当が決まったらしい。まあ、軍はカインで、神殿はオリヴィエ(と、レフィアス様ファンクラブ会員達)というのは、当たり前すぎるんだけど。

 シルヴィスには父親の収賄関係を洗わせて、でもリヒト殿下は何もさせないというのは、エージュ曰く「演技ができるかどうかの違い」だそうだ。リヒト殿下は裏表がないから、ヘンにギクシャクして勘繰られても困るから、と。
 そう私に説明してくれたエージュとローランは、いつも通りだった。――だから、不安になる。

「エージュ」
「駄目よ。聞き入れません」
「私も聞かない」

 まだエージュの名前しか呼んでないのに、ローランにまで拒否された。だって、私の為に国王をすげ替えるというのは、やり過ぎだと思うのよ。

「あなたの為だけではないわ。言ったでしょう、ギルフォード陛下は、既に王の器ではないの。そんな王を戴くのは、ヴェルスブルクにとって不利益でしかないわ」
「今度はハユルスを攻めろと言われたら、アレクシアはどうするつもりだ? ハユルスの王を誑し込むのか? そんなことは私がさせない」

 畳みかけられると、反論の余地がない。俯いた私に、エージュが慰めるように言う。

「無血革命――とまでは、言わないけれど。一番平穏な方法を選んだつもりよ。そうでなければ、アトゥール殿下が軍を焚きつけて、わたくしが神殿を煽り、神竜王陛下を先頭に内乱に突入させた方が早いし、膿を完全に出しきれるわ」

 だけどそうしなかった。内乱になれば、国力は落ちる。シルハーク――リーシュは攻めてこないにしても、ハユルスや他国はわからない。特にハユルスは、和睦しているとはいっても紙切れ一枚のことだ、簡単に手のひらを返す。

 そのことを滾々こんこんと説明されれば、私も頷くしかない。国王陛下と宰相閣下が、先に私を排除しようとしたのは事実で、レフィアス様経由での王太子令発令が間に合わなかったら、私は売国の汚名を着せられていた。今回は防げたけれど、次もそうとは言えない以上、私にとっては自衛でもある。
 ただ、気がかりなのは、クルムバッハ公爵令嬢のことだ。偽の「女神召喚」で女神の形代と設定され、その後で偽者と暴かれる――それ、被害者じゃないの?

「優しいアリー。そういうところが大好きよ」
「エージュ。誤魔化さないで」
「ひどいわ。わたくしがあなたを大好きなことは、本当なのに。教えてあげる。アルドンサ・レオノーラは、自分が偽りの女神になることを承知しているのよ」

 私の巻き毛を優しく撫でながら、エージュはくすっと笑った。……承知しているということは、アルドンサ嬢は、「女神ミレジーヌ」を演じるつもりなの?

「どうして、そんなこと」
「利になるからだ」

 エージュとは逆方向から、ローランが私の巻き毛を引っ張る。この二人は、どこまでも私の巻き毛がお気に入りらしい。

「女神ミレジーヌの化身となれば、王太子妃候補の筆頭でもおかしくないわ」
「ミレジーヌが、デュランドをつがいとして愛していたことは一般には知られていないし、知られても問題にならない。当代の神竜王である私は、そなたを選んだから」

 ――リヒト殿下の妃候補。その筆頭は、今現在は、私だったりする。私にその気はまっっったくないし、国王陛下は、リヒト殿下に必要以上の「力」が集まることを避けている。でも、未来視の姫と名高い上に神竜王を召喚した私は、本人の意志は関係なく、王太子妃候補のトップを独走中だ。

「他の「王太子妃候補」な姫君方からすれば、あなたとの差は凄まじいのよ。リヒト殿下が名前で呼ぶのはあなただけだし、あなたに好意を持っていることくらい、見ればわかるわ」
「リヒト殿下の好意? 何それ? 私にはわかりませんが」
「わかりたくないからでしょう? 現実逃避していないで、ちゃんと直視なさい。リヒト殿下はわたくしの兄なのだもの、あなたに惹かれるのは当たり前だわ」
「王の姫。その理論で言うと、国王もアレクシアに惹かれることになってしまう」
「それは絵的に美しくないので、わたくしが認めません」

 ローランの突っ込みに、エージュは楚々とした笑顔で、「犯罪的な年齢差になる父にアリーは渡さない」と言ってのけた。実父をロリコン呼ばわりして、平然たる姿は、強い。

「ともかく。アルドンサに同情はしなくていいわ」
「……でも」

 本人の意志なんだろうか。王太子妃になってほしいという、クルムバッハ公爵の意を汲んでのことじゃないんだろうか。
 そんな可能性を考えてしまう私に、エージュは仕方なさそうに溜息を漏らした。

「……いいわ。それなら、アルドンサも被害者だったという形も考えておくわ。だから、アリー。顔を上げて、わたくしを見て」
「……できるの?」
「本人次第にはなるけれど。騙された被害者、という形を装わせることは簡単だもの」

 国王陛下に積極的にくみしている貴族達は、できるだけ力を削いでおきたいのにと、エージュは私の髪を軽く指に絡めた。

「わたくしは、本当にあなたに甘いわ。――いつかわたくしが身を滅ぼすとしたら、間違いなくあなたが原因よ」
「怖い未来を想像しないで」
「策士、策に溺れるというでしょう。わたくしは、きっとあなたに溺れてしまうわ」

 刹那的なことを言って、エージュは私から離れた。そのまま、長椅子にゆったりと座る。

「学園のことだけれど」

 唐突に、国権転覆から日常生活レベルに話が戻って、私は戸惑った。だけどエージュは構わずに話し続けようとしているから、私はローランを促して二人掛けの椅子に並んで腰を下ろす。

「わたくし、選択講義の変更をするわ。できるだけ、あなたと一緒に過ごせるように」
「私は変えなくてもいいの?」
「そうね。二人揃って変更して、あちらに何か勘づかれても困るし、今はいいわ。本当は嫌だけれど、他の姫君方との交流も少し持ちましょう。アルドンサと接触しても不審がられない程度にね」

 とても嫌だけれど、とエージュは繰り返した。……ローランの人嫌いがうつったのかなあ。最近のエージュは、例の計画を知っている人達以外との接触を嫌っている。

「ねえ、エージュ」
「どうかして?」
「うん。……あのね、エージュの世界を小さくしないでね」
「?」

 きょとんとしているエージュというのは、結構レアである。

「私以外にも、仲良くできそうな子がいたら、仲良くしてね。あ、男の人は駄目だけど。アトゥール殿下に申し訳ないし」
「……殿下は、そういうことは気になさらないわ。わたくしとは、恋や愛で結婚するわけではないもの」

 ――私の為。ローゼンヴァルト宮の蔵書室に入る為だけに、エージュはアトゥール殿下に求婚した。
 だけど、アトゥール殿下は……本当に駄目なら、それでも断ったと思う。あの大公殿下のことはよくわからない。でも、人を見る目があるのは間違いないのよ。キャラ設定がそうなってたもん。

「女の子の皆が皆、エージュを敵視しているわけじゃないと思うの。むしろ、今は私の方が敵視されてる……」

 王太子妃候補筆頭として、妬まれています。
 項垂れた私に、ローランがおろおろして、手近にあった花菓子を取って渡してくれる。落ち込んだ時には甘い物というのはローランの癖で、私はそうでもないんだけど、気持ちが嬉しいから、受け取って口にした。フルーティーな香りと優しい味が、ふわっと口内を満たしてくれる。

「あなたがそう言うなら、仲良くするふりくらいはしてあげる。でも、それ以上は嫌よ。いらないもの」
「エージュってば」
「わたくしは、狭い箱庭の世界でいいのよ」

 微笑みながら、エージュは、もう黙ってと言うように、私の口唇に細い指を押し当てた。




 翌日、学園に登校した私は、いきなり頬を引っぱたかれた。しかも往復、両頬です。
 見知らぬ少女――ではない。クルムバッハ公爵令嬢、アルドンサ・レオノーラにである。

「あなたのせいで!」

 ――何がどう、私のせいなのかは説明せずに、アルドンサは走り去り。
 引っぱたかれた私が、じんじんと痛む頬に「治癒ヒール」を唱えようかなあと思っていたら、透きとおった声が「治癒」を唱えてくれた。
 輝くような笑顔のエージュと、その後ろで絶対零度のオーラを放っているリヒト殿下。

 ……アルドンサ・レオノーラ・ルア・クルムバッハ。
 あなたが王太子妃になる確率は、かなり下がったと思います……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...