乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!

神城葵

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本編

お嬢様ぶりっこ。

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 学園生活は順調だ。アルドンサに引っぱたかれたことは、未だにひそひそされているけど、面と向かって突っ込んでくる人はいない。

 アルドンサは、私を見るとぷいっと顔を背けるという、非常に子供っぽく、貴族の姫君らしくない態度を取っているんだけど、その様子が私と一緒にいるエージュにどう受け止められるか判断できないらしい。そして、それが周囲にどう映るかも。
 ――傍から見たら、アルドンサは王女であるエージュと、同じ公爵家とはいえ血筋の古さでは格上にあたるラウエンシュタイン家の娘である私を、侮辱している形になる。

 だけどエージュは咎めないし、私も何も言わない。結果、私とエージュに「寛容」「心が広い」という評価が与えられる。レフィアス様ファンクラブ会員達の妹や従妹にあたる少女達は、姉・従姉の指示で私達と仲良くしようとし始めた。さすがレフィアス様、信奉者は数えきれない。既に会員数は私は把握できていない。マルレーヌさん、超有能。

「アレクシア様。次の講義、御一緒してもよろしいかしら」
「お昼は王女殿下と、でしたわよね。それまでの休憩時間、未来視のことを伺いたいのですけど」

 そんな誘いも、わりと頻繁になってきた。私は、予定が許す限りは受けている。エージュは人嫌いなところがあるし、アトゥール殿下といろいろ打ち合わせもあるから忙しい。なら、私が生徒達からの情報収集にあたらないとね。

「今日は、エージュは午前の講義だけですから。よろしかったら、お食事は皆様と御一緒したいのですが」

 控えめに、控えめに。あくまで、「王女とは親しいけれど、それをひけらかさない公爵令嬢」でいなくては。私が調子に乗った態度を取ると、エージュが非難されるんだから。

「大歓迎ですわ。ね、皆様?」

 明るく答える、金茶の髪とくすんだ蒼鈍色の瞳の少女が、この一団のリーダー格らしい。確か、シャロン侯爵家の、エリザベート・アウグステ。

「では、参りましょう、アレクシア様」

 カフェはゆったりめに作られているので、席を確保しておくという必要はない。そして家格に応じて「座っていい席」は決まる。今、最優先されるのはリヒト殿下。次がエージュ。シルヴィス。で、私だ。トップ3には入れないけどね! あくまで四番手です。

「今日は暖かいから、陽射しのきつくない席がよろしいわね」
「日焼けしてしまったら大変ですものね」

 きゃっきゃと会話しながら、カフェへと進む。言葉遣いの丁寧さを無視すれば、私も以前はこういう会話をしてたなあと懐かしくなった。もう半年以上前の記憶だけど、もっと遠く感じる。
 皆様の希望通り、私は「程々に暖かくて陽射しの当たらない場所」を選んだ。席の選択権は、グループ内の最高位家格のお嬢様にある。つまり、私だ。
 ほんとは、外の景色が良く見えるテラス席がよかったんだけど、あそこは陽射しがきつい。なので、誘ってくれた女生徒達の空気を読みました。
 他愛ない話をしながら食事をし、私が得た情報は。

・アルドンサ・レオノーラは王女殿下に心酔している
・その理由は、自分の従姉であるエージュが王女であり、未来の大公妃という高貴な身分にあるから
・そして、アルドンサの社交界デビューが決まると同時にエージュも婚約したことで、ヴェルスブルクの未婚の姫君達の共通の「婚約者(あるいは恋人)の心を奪われるかも」という心配がなくなった=アルドンサへの配慮に違いない

 ――そんな理論だった。よくわからないけど、偶然の一致だとは思わずに「運命!」となっちゃうのは、乙女特有の一過性のモノなのだろうか……。

「そう……ですか。では、アルドンサ様はエージュをお慕いしているから、私にお怒りだったのね。私が、エージュと呼ぶことで、王女なのに、公爵家の娘如きに軽んじられていると誤解されてしまったのかしら」
「あら、そんなこと。アルドンサ様の思い込みに過ぎませんわ。王女殿下が、アレクシア様に心からの親愛をお持ちだということは、少し見ればわかりますもの。そうですわよね、皆様?」

 私は悪くない、とエリザベートが言い、取り巻き達に同意を求める。少女達に一斉に頷いた。……見事なほど揃った動きだ。

「でも」
「アルドンサ様は、少し……かなり、いえ結構、有頂天になっていらしたの。お従姉のエルウィージュ様が王女殿下となられ、シェーンベルク大公殿下と婚約なさったことで、御自分まで貴い身分になったかのように」

 虎の威を借る狐状態で、「私は王女殿下の従妹なの! 王太子殿下とも義理の従兄妹になるんですからね!」だったらしい。それを「調子に乗ってんじゃないわよ」的に苦々しく見ていたのが、このエリザベート達のグループ。わかりやすい。

「でも、ねえ。王女殿下は、学園にいらしても、いつもアレクシア様と御一緒ですものね」
「ええ。御一人の時もありますけれど、やはり、侵しがたい気品に溢れていらっしゃるし、貴い御方にこちらから声をかけるなんてできませんもの」

 エージュの「寄るな触るな近づくな」オーラは、ローランとは似て異なる。ローランは「人が嫌い、人が怖い」だけど、エージュは「人が嫌い、関わりたくない」なのだ。

 そして身分が絶対の貴族社会では、下の者が上の者に声をかけることはかなりのタブーだ。学園生活を送っている以上、絶対駄目というわけではない。例えば「教本をお忘れですよ」と話しかけることはできる。だけど、相応の理由もなく声はかけられない。かけたが最後、他の貴族の子息令嬢からの誹謗の的だ。

 このことは、リヒト殿下とエージュは全く気にしていない。リヒト殿下は常にシルヴィスと一緒だし(選択講義まで完全に一致している辺り、筋金入りだ)、エージュは私と一緒の時以外は、人を拒否するオーラを発動する。二人とも、お喋りな方でもないから、何の不自由もないらしい。

「まあ、それでは、私がエージュを独り占めしているように見えてしまいますね。アルドンサ様のお怒りは、そういうことかしら」

 しらばっくれて、私は「困ったわ」という表情を作った。エージュみたいな緻密な演技は無理でも、このくらいはできます。

「エージュのお従妹に嫌われたくはないわ。ねえ、エリザベート様」
「はい?」
「アルドンサ様とお話ししてみたいのだけれど……機会を設けていただくことはできませんか? 私が直接お願いしたら……」

 また引っぱたかれそう、と匂わせてみると、エリザベートはどうしよう、という風に取り巻き達と視線を交わした。私に協力した方がいいか、このままアルドンサを孤立させた方がいいか、どちらが自分達の利益になるかを測っている。

「リヒト殿下も御心配下さっていたから、エリザベート様達のおかげでアルドンサ様の誤解を解けたと申し上げることも」
「やりますわ」

 私に最後まで言わせることなく、エリザベートは請け合った。リヒト殿下は、こういう時、本当に便利である。

「私のことは、リースルと呼んで下さいませ。お近づきの印に」
「ええ、ありがとう、リースル様。でも、私のことは……」
「アレクシア様を愛称で呼べる御方は、王女殿下だけ。心得ていますわ」

 エリザベート改めリースルは、勘もいいらしい。私は、にっこり微笑みかけた。

「リースル様。それから、ヘンリエッテ様、フランツィスカ様の御配慮、私、忘れません」

 同席している少女達にお礼を言って、「リヒト殿下にもいいように報告するから」と合図しておく。三人は、俄然やる気を出したのか、優雅かつ凄まじいスピードで昼食とデザートを食べ終えると、即、アルドンサと私の対面をセッティングすべく動き出してくれた。

 その様子をのんびり眺めて、紅茶を楽しんでいる私は、随分「悪役令嬢」らしくなってきたと思う。策を弄して裏で動くなんて、悪役令嬢というよりただの悪役じゃないの?という突っ込みは聞こえない。

 ――リースル達の仕事は早かった。
 その日の放課後、私とアルドンサは三度目の対面を果たしたのである。
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