71 / 93
番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~
荒療治も必要。
しおりを挟む
闇華は、エルウィージュと共にリヒトを訪ねた。婚約者と妹の訪問を聞いて、リヒトは執務室ではなく私室への入室許可を出した。執務室と続き間になってはいるが、執務室には控えの侍従がいる。私室には、リヒトが許可した者しか入れない。
予想通り、その部屋にはシルヴィスもいた。リヒトが闇華とエルウィージュを招き入れると、シルヴィスは黙って飲み物の支度を始めた。大公自ら、というのは問題がないのかと闇華は思ったが、リヒトにも自分にも飲み物を淹れる技術はない。エルウィージュはあるのかもしれないが、この姫の手ずからの飲み物を振る舞われたくはないと思う。
「どうぞ、アンファ公主、エルウィージュ」
「これは、如何な飲み物か?」
「珈琲といいます。茶と違って少し苦味がありますが」
砂糖とミルク――牛の乳だ――を添えて出してくれたので、好みで調整しろということだろう。闇華は、隣に座ったリヒトがそのまま飲むのを見て、同じくそれに倣った。そして噎せた。
「…………」
「無理なさらず。慣れない方には苦いばかりでしょう」
苦笑したシルヴィスの言葉に甘え、砂糖とミルクをたっぷり入れた。漆黒だった珈琲が焦げ茶色になったのを見て、もう一度口をつけた。少し甘過ぎたが、美味だと思える。
闇華の隣にはリヒト。その向かいの一人掛けの椅子にエルウィージュ。更に隣の、同じく一人用の椅子にシルヴィスが座っている。誰が口火を切るのか。やはり対面を申し込んだ自分からだと、闇華は意を決した。
「リヒト様。シルヴィス。妾は、ヴェルスブルクの王妃となる為にこの国に来た。王兄妃となる為ではない」
はっきり言う。そう、王妃となるのだ。目的はもうなくしてしまったけれど、責任までは忘れていない。シルハークとヴェルスブルク、両国の友好の為だ。
「エルウィージュと話した。リヒト様が悩んでおいでなのは、養父と祖父を処断すれば、エルウィージュの立場が悪くなると案じてのことか?」
「……そうだ」
リヒトが頷くと、優雅に珈琲を飲んでいたエルウィージュが、カップを置いて微笑んだ。女神の美貌に、魔を潜ませて。
「本当に、兄上様はお優しい。わたくしのことなど、放っておかれませ」
「できないこととわかっていて、それを言うのか、エルウィージュ」
「ええ、申し上げます。おできにならないのは兄上様です。わたくしではありませんから」
妹の答えに、リヒトは溜息をついた。正論でもあるだけに、反対しづらい。
「首謀は、バシュラール侯爵。追従がシェイエルン公爵。どちらにしようか様子見なのが、クレーフェ公爵、フェドレン公爵。ヴェイユ侯爵以下、多数の貴族も続きます」
「国中の貴族達、ということか」
「いいえ。シェーンベルク大公家、ナルバエス大公家、そしてラウエンシュタイン公爵家。王家に次ぐこの三家は、兄上様に忠誠を誓っています」
要するに、最高位の大公家と筆頭公爵家だけはリヒトを支持しているものの、他の貴族達はどちらが有利かを見極めかねているのだ。家名を守る為、彼らも必死なのだろうと、闇華は思った。
「そして、枢密院の構成は、両の大公家と公爵家と大神官様です。――シルヴィスが、枢密院の一員でよかったこと。そうでなくば、決は採られていましたわ」
枢密院は、議会の上に位置する。議会の決さえ無視できる。彼らに命じることができるのは、唯一「王」だけだ。王太子も王妃も、枢密院の決を拒否はできない。
「兄上様に、三票。バシュラール侯爵の買収次第でしょうが、わたくしに三票。同数ですわね」
「決定権は、大叔父上、か……」
呟いたリヒトは、困ったように闇華に笑いかけた。
「私は、大叔父上に支持していただける自信がない」
「何故だ?」
闇華の問いに、リヒトはエルウイージュを見据えて答えた。
「王の器というものがある。私は、そうなるべく育てられた。だが、先立って――私を廃嫡しようとなさった父上を阻止したのは、エルウィージュとアレクシアだ」
ぽつり、と零れた溜息は、自嘲に満ちていた。光そのもののようなこの王太子に、そんなものは似合わないと、闇華は耳をふさぎたくなった。
「なのに、アレクシアは国を追われ、エルウィージュは親友を失った。引き換え、私は――何も失っていない。妹と、初めて惹かれた女性が与えてくれた恩恵を受けるだけだ」
「リヒト。自分を責めるなと――」
「わかっている。わかっている、シルヴィ。私は、王太子だ。王とならねばならない。だが」
――その「王太子」という地位すら、与えられ、守られてばかりだ。
何一つ、自分の力で得ていないと吐露したリヒトに、闇華は何と言えばいいかわからず、咄嗟に、エルウィージュを見遣った。
美しい王女は、密やかな吐息を零して――ゆっくり立ち上がると、カップを手に取り、その中身を、兄の頭上から零した。
「っつ……熱い!」
「リヒト様! 冷却」
闇華が魔法をかけると同時に、シルヴィスが「洗浄」を唱えた。珈琲塗れからは逃れられたものの、綺麗な白金髪からぽたぽたと水の雫を落としながら、リヒトは茫然と加害者を見ていた。
「エルウィージュ! リヒトが火傷したらどうするつも――……」
「無能は黙りなさい」
シルヴィスの抗議に一言で答えて、エルウィージュは冷たい声で続けた。
「兄上様の側近でありながら、かほどに御心が弱られていることを見抜けないなど、無能の極みです」
シルヴィスは言い返せない。事実だ。リヒトが思いつめていることに、気づけなかった。
「与えられ、守られてばかりの王太子? そうですわね、兄上様はそのとおりの御方です」
断罪するような言葉に、リヒトが項垂れ――隣の闇華の気遣いの視線を受けて、気持ちを奮い立たせるように妹に視線を合わせる。
「――そのことの、何がいけないのですか」
「エルウィージュ……?」
「王となられる御方です。与えられ、守られて当然でしょう。王となられたら、兄上様はこの国を、民を、すべてお守りにならねばならないのです。それまでの間、王となる御方が守られるのは、当然のことです」
エルウィージュは、どうしてこんな当たり前のことを説明しなければならないのだと、苛立ったように言葉を継いだ。
「守られている者は、弱いのですか? 与えられている者は、愚かなのですか? そのようなこと、誰が定めました? たとえ天が定めたのだと言われても、わたくしは認めません。わたくしの親友は、愛しい方に守られているけれど、強かった。愛を与えられているからこそ、優しかった」
神竜王を守りたいと言うほどに、強かった。その愚かな強さが愛しい。
愛されることが当然だから、真っ直ぐだった。その素直な優しさが愛おしい。
「……守られ、与えられているから、あの子も、兄上様も――誰かを愛しみ、慈しむことを、少しも躊躇わないのではありませんか」
薄い水色の瞳が、逸らすことなく、兄の視線を受け入れる。
「そのお優しさを、弱さになさらないで」
「エルウィージュ……」
「わたくしの養父だから、わたくしの祖父だから。そのようなこと、考慮なさらないで。王太子の廃位を画策することは、謀叛です。王家への叛逆です。――それは、王のみに許された行いです」
王太子を廃嫡できるのは、王だけだ。
現王であるギルフォードは、正当な理由なく王太子廃嫡を口にし、結果、臣下の心を失って隠棲に追い込まれている。王ですらそうなるのに、貴族が策謀したとなれば、家名断絶に繋がる。クルムバッハ公爵家のように。
「故に、王として対処なされませ。既に、アトゥール殿下がシュラウス将軍を通じて近衛軍を招集しております」
「王、として……」
だが、ヴェルスブルクでは即位できるのは「妃を娶った王太子」か、王配となれる夫を迎えた王女だけだ。戸惑うリヒトに、闇華は自分の決意を告げた。
「そう、リヒト様は王となられねばならぬ。ゆえ、妾と婚儀を挙げていただく。大神官には、エルウィージュが使いを出し、是の返答を頂いた」
「アンファ……」
「恋だの愛だの、そのようなものは後でよい。いらぬとは言わぬ、後でよいのだ。これから妾を妃とし、そのまま即位なされよ。臣下の代表は宰相が務める。神官の代表は大神官が務める。軍は――」
「カインだな」
溺愛する従弟を珈琲で汚された怒りからか、ずっと黙っていたシルヴィスが、口を開いた。目的を見出した瞳は、爛々と輝いている。
「すべて形式だけでよい。書類の日付を弄れば、それで済む」
そう言って、闇華は「解呪」の呪文を口にした。髪と同じ漆黒だった闇華の瞳が、本来の色――にいさまと同じ銀色に輝く。
「アンファ。瞳、が……」
「妾は、この瞳で偽りを見抜ける。真実視とは違い、その場限りのものでしかないが……自分では制御できぬゆえ、幼い頃に、にいさまに封じていただいていた」
人の悪意も思念も、時と場合に関わらず、視えてしまっていた。今は、魔力が体に馴染んでいるから、視たいと思ったモノのみが視える。
「即位の後、叛徒どもを捕えたら――その真意を、妾が視よう。その者らの影に隠れた害虫がおらぬか、きちんと見極めねばならぬ」
「兄上様、お早く。――このようなことがシルハークに知れたら、アリーが心配してしまいます」
闇華とエルウィージュを交互に眺めていたリヒトは、大きく息を吐いて、笑い出した。
「王位すら、私は与えられてばかりか。わかった。私は、今は与えられるものを受け入れよう。善意も悪意も、私への叛意も。――王となった後は、私は守るべきものを守る」
そう宣言したリヒトの瞳にも、力強い意志が戻っていた。それを見て、闇華はほっとした――よくわからないが、この王太子には、前を見ていてほしい。光の中を生きてほしい。そう思う。
足元の闇は、闇華と――エルウィージュが、引き受ける。
闇華の視線に、エルウィージュは「どうかしら」と言いたげに、華やかに笑った。
予想通り、その部屋にはシルヴィスもいた。リヒトが闇華とエルウィージュを招き入れると、シルヴィスは黙って飲み物の支度を始めた。大公自ら、というのは問題がないのかと闇華は思ったが、リヒトにも自分にも飲み物を淹れる技術はない。エルウィージュはあるのかもしれないが、この姫の手ずからの飲み物を振る舞われたくはないと思う。
「どうぞ、アンファ公主、エルウィージュ」
「これは、如何な飲み物か?」
「珈琲といいます。茶と違って少し苦味がありますが」
砂糖とミルク――牛の乳だ――を添えて出してくれたので、好みで調整しろということだろう。闇華は、隣に座ったリヒトがそのまま飲むのを見て、同じくそれに倣った。そして噎せた。
「…………」
「無理なさらず。慣れない方には苦いばかりでしょう」
苦笑したシルヴィスの言葉に甘え、砂糖とミルクをたっぷり入れた。漆黒だった珈琲が焦げ茶色になったのを見て、もう一度口をつけた。少し甘過ぎたが、美味だと思える。
闇華の隣にはリヒト。その向かいの一人掛けの椅子にエルウィージュ。更に隣の、同じく一人用の椅子にシルヴィスが座っている。誰が口火を切るのか。やはり対面を申し込んだ自分からだと、闇華は意を決した。
「リヒト様。シルヴィス。妾は、ヴェルスブルクの王妃となる為にこの国に来た。王兄妃となる為ではない」
はっきり言う。そう、王妃となるのだ。目的はもうなくしてしまったけれど、責任までは忘れていない。シルハークとヴェルスブルク、両国の友好の為だ。
「エルウィージュと話した。リヒト様が悩んでおいでなのは、養父と祖父を処断すれば、エルウィージュの立場が悪くなると案じてのことか?」
「……そうだ」
リヒトが頷くと、優雅に珈琲を飲んでいたエルウィージュが、カップを置いて微笑んだ。女神の美貌に、魔を潜ませて。
「本当に、兄上様はお優しい。わたくしのことなど、放っておかれませ」
「できないこととわかっていて、それを言うのか、エルウィージュ」
「ええ、申し上げます。おできにならないのは兄上様です。わたくしではありませんから」
妹の答えに、リヒトは溜息をついた。正論でもあるだけに、反対しづらい。
「首謀は、バシュラール侯爵。追従がシェイエルン公爵。どちらにしようか様子見なのが、クレーフェ公爵、フェドレン公爵。ヴェイユ侯爵以下、多数の貴族も続きます」
「国中の貴族達、ということか」
「いいえ。シェーンベルク大公家、ナルバエス大公家、そしてラウエンシュタイン公爵家。王家に次ぐこの三家は、兄上様に忠誠を誓っています」
要するに、最高位の大公家と筆頭公爵家だけはリヒトを支持しているものの、他の貴族達はどちらが有利かを見極めかねているのだ。家名を守る為、彼らも必死なのだろうと、闇華は思った。
「そして、枢密院の構成は、両の大公家と公爵家と大神官様です。――シルヴィスが、枢密院の一員でよかったこと。そうでなくば、決は採られていましたわ」
枢密院は、議会の上に位置する。議会の決さえ無視できる。彼らに命じることができるのは、唯一「王」だけだ。王太子も王妃も、枢密院の決を拒否はできない。
「兄上様に、三票。バシュラール侯爵の買収次第でしょうが、わたくしに三票。同数ですわね」
「決定権は、大叔父上、か……」
呟いたリヒトは、困ったように闇華に笑いかけた。
「私は、大叔父上に支持していただける自信がない」
「何故だ?」
闇華の問いに、リヒトはエルウイージュを見据えて答えた。
「王の器というものがある。私は、そうなるべく育てられた。だが、先立って――私を廃嫡しようとなさった父上を阻止したのは、エルウィージュとアレクシアだ」
ぽつり、と零れた溜息は、自嘲に満ちていた。光そのもののようなこの王太子に、そんなものは似合わないと、闇華は耳をふさぎたくなった。
「なのに、アレクシアは国を追われ、エルウィージュは親友を失った。引き換え、私は――何も失っていない。妹と、初めて惹かれた女性が与えてくれた恩恵を受けるだけだ」
「リヒト。自分を責めるなと――」
「わかっている。わかっている、シルヴィ。私は、王太子だ。王とならねばならない。だが」
――その「王太子」という地位すら、与えられ、守られてばかりだ。
何一つ、自分の力で得ていないと吐露したリヒトに、闇華は何と言えばいいかわからず、咄嗟に、エルウィージュを見遣った。
美しい王女は、密やかな吐息を零して――ゆっくり立ち上がると、カップを手に取り、その中身を、兄の頭上から零した。
「っつ……熱い!」
「リヒト様! 冷却」
闇華が魔法をかけると同時に、シルヴィスが「洗浄」を唱えた。珈琲塗れからは逃れられたものの、綺麗な白金髪からぽたぽたと水の雫を落としながら、リヒトは茫然と加害者を見ていた。
「エルウィージュ! リヒトが火傷したらどうするつも――……」
「無能は黙りなさい」
シルヴィスの抗議に一言で答えて、エルウィージュは冷たい声で続けた。
「兄上様の側近でありながら、かほどに御心が弱られていることを見抜けないなど、無能の極みです」
シルヴィスは言い返せない。事実だ。リヒトが思いつめていることに、気づけなかった。
「与えられ、守られてばかりの王太子? そうですわね、兄上様はそのとおりの御方です」
断罪するような言葉に、リヒトが項垂れ――隣の闇華の気遣いの視線を受けて、気持ちを奮い立たせるように妹に視線を合わせる。
「――そのことの、何がいけないのですか」
「エルウィージュ……?」
「王となられる御方です。与えられ、守られて当然でしょう。王となられたら、兄上様はこの国を、民を、すべてお守りにならねばならないのです。それまでの間、王となる御方が守られるのは、当然のことです」
エルウィージュは、どうしてこんな当たり前のことを説明しなければならないのだと、苛立ったように言葉を継いだ。
「守られている者は、弱いのですか? 与えられている者は、愚かなのですか? そのようなこと、誰が定めました? たとえ天が定めたのだと言われても、わたくしは認めません。わたくしの親友は、愛しい方に守られているけれど、強かった。愛を与えられているからこそ、優しかった」
神竜王を守りたいと言うほどに、強かった。その愚かな強さが愛しい。
愛されることが当然だから、真っ直ぐだった。その素直な優しさが愛おしい。
「……守られ、与えられているから、あの子も、兄上様も――誰かを愛しみ、慈しむことを、少しも躊躇わないのではありませんか」
薄い水色の瞳が、逸らすことなく、兄の視線を受け入れる。
「そのお優しさを、弱さになさらないで」
「エルウィージュ……」
「わたくしの養父だから、わたくしの祖父だから。そのようなこと、考慮なさらないで。王太子の廃位を画策することは、謀叛です。王家への叛逆です。――それは、王のみに許された行いです」
王太子を廃嫡できるのは、王だけだ。
現王であるギルフォードは、正当な理由なく王太子廃嫡を口にし、結果、臣下の心を失って隠棲に追い込まれている。王ですらそうなるのに、貴族が策謀したとなれば、家名断絶に繋がる。クルムバッハ公爵家のように。
「故に、王として対処なされませ。既に、アトゥール殿下がシュラウス将軍を通じて近衛軍を招集しております」
「王、として……」
だが、ヴェルスブルクでは即位できるのは「妃を娶った王太子」か、王配となれる夫を迎えた王女だけだ。戸惑うリヒトに、闇華は自分の決意を告げた。
「そう、リヒト様は王となられねばならぬ。ゆえ、妾と婚儀を挙げていただく。大神官には、エルウィージュが使いを出し、是の返答を頂いた」
「アンファ……」
「恋だの愛だの、そのようなものは後でよい。いらぬとは言わぬ、後でよいのだ。これから妾を妃とし、そのまま即位なされよ。臣下の代表は宰相が務める。神官の代表は大神官が務める。軍は――」
「カインだな」
溺愛する従弟を珈琲で汚された怒りからか、ずっと黙っていたシルヴィスが、口を開いた。目的を見出した瞳は、爛々と輝いている。
「すべて形式だけでよい。書類の日付を弄れば、それで済む」
そう言って、闇華は「解呪」の呪文を口にした。髪と同じ漆黒だった闇華の瞳が、本来の色――にいさまと同じ銀色に輝く。
「アンファ。瞳、が……」
「妾は、この瞳で偽りを見抜ける。真実視とは違い、その場限りのものでしかないが……自分では制御できぬゆえ、幼い頃に、にいさまに封じていただいていた」
人の悪意も思念も、時と場合に関わらず、視えてしまっていた。今は、魔力が体に馴染んでいるから、視たいと思ったモノのみが視える。
「即位の後、叛徒どもを捕えたら――その真意を、妾が視よう。その者らの影に隠れた害虫がおらぬか、きちんと見極めねばならぬ」
「兄上様、お早く。――このようなことがシルハークに知れたら、アリーが心配してしまいます」
闇華とエルウィージュを交互に眺めていたリヒトは、大きく息を吐いて、笑い出した。
「王位すら、私は与えられてばかりか。わかった。私は、今は与えられるものを受け入れよう。善意も悪意も、私への叛意も。――王となった後は、私は守るべきものを守る」
そう宣言したリヒトの瞳にも、力強い意志が戻っていた。それを見て、闇華はほっとした――よくわからないが、この王太子には、前を見ていてほしい。光の中を生きてほしい。そう思う。
足元の闇は、闇華と――エルウィージュが、引き受ける。
闇華の視線に、エルウィージュは「どうかしら」と言いたげに、華やかに笑った。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる