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本編
閑話休題~主従の誓いです。腐ってません。
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アレクシアと神竜王をヴェルスブルクの陣付近まで送った後、レンファンは報告するべき主を探していた。
「天幕にいろと言っているのに……あのクソ馬鹿王……」
気さくな性格のリーシュは、兵にも人気が高い。北方の商人同盟との戦では半ば正気を失っていた為、前線には出せなかった。今回は王の出陣とあって、兵達の士気も高い。
この高まった士気こそ、撤退や退却には邪魔なものなのだが。
「捜索」
低く唱えると、目的の人物の居場所はすぐにわかった。桜華公主の天幕の裏で、何かしているらしい。さっさとそこに向かうと、蹲って土を掘る主がいた。
「主のいない天幕で何をなさってるんですか、あなたは」
「あ、レンか。大婆様の歯が抜けただろ? 埋めてる」
「……それは、乳歯の処理方法ですよ」
「マジか」
さくさくと、剣(ちなみに、桜華公主が降嫁の際に持ってきた国宝である)で土を掘っていたリーシュは、愕然とした表情で振り返った。
「まあいいか、もう埋めたもんは仕方ない。掘り返すのも面倒だしな」
そう言って立ち上がると、手や衣服にはもちろん、秀麗な顔にも土がついて汚れている。溜息まじりに、レンファンは主の土汚れを払ってやった。頬の汚れを払う時、ひっぱたいてやりたくなった。
「何歳ですか、あなたは。子供ではないんですから、身支度くらいは自分でなさって下さい」
「アレクシアと神竜王、ちゃんと送ったか?」
「送りました」
「本当か? 間違いなく? 実はどっかに閉じ込めといて、ヴェルスブルクとの交渉に使おうとかしてないな?」
「本当に間違いなく送り届けました。神竜王陛下が竜型になって空を飛んで行かれるのも確認しましたし、アレクシア様は王家の恩人です。人質になどしません。無暗に臣下を疑ってすまなかったと、そこで土下座して下さい」
「どうしておまえは、俺にはキツいんですかね」
仕方ないではないか。
幼い頃からお仕えしてきた主――香雪の、最期の命令だ。
神竜王の血が最も濃く、誰よりも強い「王」となるべき素質を持ちながら、いつまでも兄上兄上と甘ったれ全開の弟を、香雪はとても愛し、心配していた。
「褒められるようなことをしてからホザいて下さいね。このまま退却態勢に入りますよ。勝ちの勢いにノッてしまっていますから、桜華公主の薨去を理由にはしますが、下手に隙は見せられません」
万一、戦場心理で「逃げる敵を追う」などとやられて、返り討ちにするわけにはいかないのだ。細心の注意を払う必要がある。
退却の理由と公布、そして速やかな実行――それらを算段しているレンファンに、主はおずおずと声をかけてきた。
「あー……と、な。レン」
「何ですか」
珍しく歯切れの悪い口調に、今度は何をやらかしやがったのかと顔を上げると、銀色の瞳が仔犬のように揺れていた。
「もう、いい。今まですまなかった。大婆様は、もういない。だから、おまえが犠牲になる必要はない。おまえは、俺から解放されるべき――痛い!」
「馬鹿ですかあなたは。馬鹿ですね、馬鹿なんですよね、知っていましたが改めて情けないです」
「拳、拳で殴ったなおまえ!」
「武器を使わなかったことを褒めて下さい」
「あ、うん、そこはありがとう……って、違う! おまえ、さらっと拳を強化してから殴っただろ!」
「そうしないと、陛下には痛くもかゆくもないでしょうが」
腐っても、神竜王の末裔である。耐久力が半端ないのだ。剣の刃で切りつけるのはナシだとしても、柄で殴るくらいはしてもよかったと後悔した。
「私は、私の意志であなたにお仕えしています。香雪様の命は、切っ掛けです」
「……」
「確かに、桜華公主の色の相手は嫌なものでしたが。それはあなたの責任ではありません」
主君を死なせた女の相手など、反吐が出る。
そう思ったが、その屈辱に耐えようと思うくらいには、今の主を大切に思っている。口にしないだけで。
「……アレ、どうする?」
話題を変えるように、リーシュが天幕をくいと顎で指す――中で眠る老婆をどうするかという問いかけだ。
「私に、お聞きになりますか」
「悪い」
「いいえ。一任して下さるのかと伺っているのです」
「レン?」
アレクシアの言葉は、レンファンに言わせれば、とても甘い。きれいごとだけを信じていられるほど、レンファンは若くない。
けれど、かつての主と、今の主がいるのは、あの女のおかげでもあるのだ。
「……真実視のできる老婆を、桜華公主が拾ったことにしましょう。宮に引き取れと、最期のお言葉だったことにして」
「いいのか?」
「アレクシア様にはあのように言いましたが、実際、真実視の能力は使い方次第で、国を変えられます。――まずは、尚書達を洗いましょう。王と国ではなく、桜華公主に忠実な者なら、いらないのですよ」
「レン……」
「私は、あなたの敵になるものは――っ、神竜王陛下?」
不意に言葉が途切れたのは、神竜王からの、魔力による言葉が届けられたからだ。遠方との会話を可能とする異能を、あの王は具えていた。
――シルハークの王。もうやめてほしい。アレクシアが泣いている
「アレクシアが? 何を? つーか、ほんとに便利だな君の異能は。戦を変えるぞ、これ」
――ホモホモしいから、やめてと。私はノーマルなのと言って泣いている
「ほもほもし……?」
「寡聞にして知らない単語なのですが、神竜王陛下、ご説明をいただけると」
――衆道? 男色? そう伝えればいいのか、アレクシア?
意味を理解した二人は、同時にこみあげてきた吐き気と戦った。耐えた。何とか耐えた。
「神竜王……ごめん、俺、それ無理」
「私もです」
――素でその会話でノーマルとか言われても! 何なの、腐女子歓喜のシナリオ補正力でも働いてるの!?
――アレクシア、落ち着いて。そなたに泣かれるのはつらい
――だってホモホモしいんだもの!
――ホモホモしくないようにすればいいのか?
――ローランはそんな言葉口にしちゃ駄目! あなたは聖域のままでいて!
――よくわからないが、私の聖域はアレクシアだ
――私の聖域だってローランよ!
「あー……と、アレクシア? 神竜王?」
「痴話喧嘩は、他人に聞こえないようになさって下さい」
二人揃って突っ込んだ後、退却の準備に入った。
「天幕にいろと言っているのに……あのクソ馬鹿王……」
気さくな性格のリーシュは、兵にも人気が高い。北方の商人同盟との戦では半ば正気を失っていた為、前線には出せなかった。今回は王の出陣とあって、兵達の士気も高い。
この高まった士気こそ、撤退や退却には邪魔なものなのだが。
「捜索」
低く唱えると、目的の人物の居場所はすぐにわかった。桜華公主の天幕の裏で、何かしているらしい。さっさとそこに向かうと、蹲って土を掘る主がいた。
「主のいない天幕で何をなさってるんですか、あなたは」
「あ、レンか。大婆様の歯が抜けただろ? 埋めてる」
「……それは、乳歯の処理方法ですよ」
「マジか」
さくさくと、剣(ちなみに、桜華公主が降嫁の際に持ってきた国宝である)で土を掘っていたリーシュは、愕然とした表情で振り返った。
「まあいいか、もう埋めたもんは仕方ない。掘り返すのも面倒だしな」
そう言って立ち上がると、手や衣服にはもちろん、秀麗な顔にも土がついて汚れている。溜息まじりに、レンファンは主の土汚れを払ってやった。頬の汚れを払う時、ひっぱたいてやりたくなった。
「何歳ですか、あなたは。子供ではないんですから、身支度くらいは自分でなさって下さい」
「アレクシアと神竜王、ちゃんと送ったか?」
「送りました」
「本当か? 間違いなく? 実はどっかに閉じ込めといて、ヴェルスブルクとの交渉に使おうとかしてないな?」
「本当に間違いなく送り届けました。神竜王陛下が竜型になって空を飛んで行かれるのも確認しましたし、アレクシア様は王家の恩人です。人質になどしません。無暗に臣下を疑ってすまなかったと、そこで土下座して下さい」
「どうしておまえは、俺にはキツいんですかね」
仕方ないではないか。
幼い頃からお仕えしてきた主――香雪の、最期の命令だ。
神竜王の血が最も濃く、誰よりも強い「王」となるべき素質を持ちながら、いつまでも兄上兄上と甘ったれ全開の弟を、香雪はとても愛し、心配していた。
「褒められるようなことをしてからホザいて下さいね。このまま退却態勢に入りますよ。勝ちの勢いにノッてしまっていますから、桜華公主の薨去を理由にはしますが、下手に隙は見せられません」
万一、戦場心理で「逃げる敵を追う」などとやられて、返り討ちにするわけにはいかないのだ。細心の注意を払う必要がある。
退却の理由と公布、そして速やかな実行――それらを算段しているレンファンに、主はおずおずと声をかけてきた。
「あー……と、な。レン」
「何ですか」
珍しく歯切れの悪い口調に、今度は何をやらかしやがったのかと顔を上げると、銀色の瞳が仔犬のように揺れていた。
「もう、いい。今まですまなかった。大婆様は、もういない。だから、おまえが犠牲になる必要はない。おまえは、俺から解放されるべき――痛い!」
「馬鹿ですかあなたは。馬鹿ですね、馬鹿なんですよね、知っていましたが改めて情けないです」
「拳、拳で殴ったなおまえ!」
「武器を使わなかったことを褒めて下さい」
「あ、うん、そこはありがとう……って、違う! おまえ、さらっと拳を強化してから殴っただろ!」
「そうしないと、陛下には痛くもかゆくもないでしょうが」
腐っても、神竜王の末裔である。耐久力が半端ないのだ。剣の刃で切りつけるのはナシだとしても、柄で殴るくらいはしてもよかったと後悔した。
「私は、私の意志であなたにお仕えしています。香雪様の命は、切っ掛けです」
「……」
「確かに、桜華公主の色の相手は嫌なものでしたが。それはあなたの責任ではありません」
主君を死なせた女の相手など、反吐が出る。
そう思ったが、その屈辱に耐えようと思うくらいには、今の主を大切に思っている。口にしないだけで。
「……アレ、どうする?」
話題を変えるように、リーシュが天幕をくいと顎で指す――中で眠る老婆をどうするかという問いかけだ。
「私に、お聞きになりますか」
「悪い」
「いいえ。一任して下さるのかと伺っているのです」
「レン?」
アレクシアの言葉は、レンファンに言わせれば、とても甘い。きれいごとだけを信じていられるほど、レンファンは若くない。
けれど、かつての主と、今の主がいるのは、あの女のおかげでもあるのだ。
「……真実視のできる老婆を、桜華公主が拾ったことにしましょう。宮に引き取れと、最期のお言葉だったことにして」
「いいのか?」
「アレクシア様にはあのように言いましたが、実際、真実視の能力は使い方次第で、国を変えられます。――まずは、尚書達を洗いましょう。王と国ではなく、桜華公主に忠実な者なら、いらないのですよ」
「レン……」
「私は、あなたの敵になるものは――っ、神竜王陛下?」
不意に言葉が途切れたのは、神竜王からの、魔力による言葉が届けられたからだ。遠方との会話を可能とする異能を、あの王は具えていた。
――シルハークの王。もうやめてほしい。アレクシアが泣いている
「アレクシアが? 何を? つーか、ほんとに便利だな君の異能は。戦を変えるぞ、これ」
――ホモホモしいから、やめてと。私はノーマルなのと言って泣いている
「ほもほもし……?」
「寡聞にして知らない単語なのですが、神竜王陛下、ご説明をいただけると」
――衆道? 男色? そう伝えればいいのか、アレクシア?
意味を理解した二人は、同時にこみあげてきた吐き気と戦った。耐えた。何とか耐えた。
「神竜王……ごめん、俺、それ無理」
「私もです」
――素でその会話でノーマルとか言われても! 何なの、腐女子歓喜のシナリオ補正力でも働いてるの!?
――アレクシア、落ち着いて。そなたに泣かれるのはつらい
――だってホモホモしいんだもの!
――ホモホモしくないようにすればいいのか?
――ローランはそんな言葉口にしちゃ駄目! あなたは聖域のままでいて!
――よくわからないが、私の聖域はアレクシアだ
――私の聖域だってローランよ!
「あー……と、アレクシア? 神竜王?」
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二人揃って突っ込んだ後、退却の準備に入った。
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