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番外編~箱庭の姫君と闇の公主と光の王~
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「それでは、クレーフェ公爵。私を廃嫡すべきだというバシュラール侯の言葉には、耳を傾けてもいないと?」
「無論でございます、王太子殿下。我らはあの日あの時、神竜王陛下の御前で誓約致しました。どうして、それを破るなど考えましょう」
尊大に問いかけたリヒトに、クレーフェ公爵・エメルトは膝をついたまま答えた。リヒトの隣では、闇華が、神竜王の末裔の瞳を隠すことなく睨みつけている。
「私が、王妃として東の姫を迎えることに、反対していたと聞いているが?」
「反対ではございません。王太子殿下は、ラウエンシュタイン公爵の令嬢をお望みなのではないかと、そう推察致しておりましたので……」
「かの姫は、我が国との和睦の証として、我が祖国でお過ごし下されている。その御方を王妃にと言うならば――アレクシア様は、神竜王陛下の召喚者であられる、それを忘れておるまいな?」
「……っ」
闇華の銀の瞳が、鈍く光った。
「妾は、神竜王の末裔として、当代様のご意志も尊重せねばならぬ。当代様から、無理にアレクシア様を奪い、リヒト様と娶せて――さて、当代様のお怒りは、誰が鎮めるのかえ?」
「わ、私は……」
「答えられよ。エメルト・スウシェ・ルア・クレーフェ公爵」
「……せ、浅慮でございました」
「何がどう浅慮なのか、説明してもらいたいな。父上に廃嫡を画策され、今度は臣下からの廃嫡請求だ。私は、それほどに王位にふさわしくないか? それとも、アンファを娶るから王にふさわしくないと言うのか?」
「い、いえ、王太子殿下以外に、王となられる御方はいらっしゃいません。お、王妃陛下も、シルハークの公主様がふさわしゅうございます、両国の和平と親睦は、より強くなりましょう」
だらだらと汗を流しながら答えるエメルトを、リヒトは冷ややかに見据えた。闇華が小さく合図する――本心だという印だ。ひとまず、今に限っては、のことだが。
「ならば、私に忠誠を誓うのか?」
「は、はい」
「そうか。ではアンファ、お願いする」
「はい。――エメルト・スウシェ・ルア・クレーフェは、リヒト・カール・ルア・カイザーリングに叛くことは許されぬ。服従」
シルハークの言葉で紡がれた魔法の意味は、エメルトにはすぐにはわからないだろう。わかったところで、闇華の魔法を解呪できる魔力は、この男にはない。
「……真の主従となりし時、是は解呪される」
「は……?」
「よい。私が、善き王となり、そなたが善き臣下であってくれれば済む話だ」
最初は仕方がない。魔力で強制してでも、従わせなくてはならない。そうでないと、若すぎる王と異国の王妃に不満を持つ者を、制御しきれない。
だが、いつまでもそのままでいいわけでもない。すべての臣下は無理でも、せめて過半数の臣下との間に信頼と忠誠を築けないなら、それは王ではない。
「下がってよい、クレーフェ公爵」
「は」
「……ああ、忘れるところだった。エルウィージュが、是非会いたいと。アトゥールも一緒だ」
「は、はい。王女殿下には、今回のことは……?」
「さあ。最近のエルウィージュは、そなたも知ってのとおり、人嫌いでな」
エルウィージュが、人を寄せつけなくなったことは、宮廷では噂になっている。それを、王家の血の濃い王女は、異国からの王妃が気に入らぬのだと吹聴したのは、バシュラール侯爵の一派だ。
ギルフォードに認知されるまで「バシュラール侯爵令嬢」だった王女の、養父が言うのだ。話の信憑性は高いと踏んで、王女の立太子を画策する侯爵達に近づこうかとも思っていた矢先の、リヒトからの詰問だった。
――王女殿下の、ご真意を窺う機会でもある。
自分にそう言い聞かせて、エメルトはリヒトの退出の許しを待った。萎縮していると認めることは、彼の自尊心が許さなかった。
「ようこそ、クレーフェ公爵。御案内致しますよ。私の姫は、今日はとても御機嫌がよろしくてね」
案内された、王宮の中でも奥まった場所――王族の居住空間で、エメルトはシェーンベルク大公の出迎えを受けた。
穏やかに微笑んでいるが、宰相であり、大公だ。王配として申し分ない彼と婚約したからには、王女は王位に色気があるのではないかと思ったのは、エメルトだけではないだろう。
「これは……大公殿下」
「この先は、女性王族の私的な場所ですからね。私も、私の姫の御機嫌次第では入れていただけない。あなたは運がよろしいですよ」
優美な美貌と、やわらかな物腰。下位の者にも腰の低いシェーンベルク大公は、王配となる野心があるのかもしれない。成人の際に宰相職を拒否して軍籍に入ったが、結局は、宰相の地位に就いている。
「大公殿下。この度のこと、王女殿下は御存知では……?」
「知っておいでですよ。だから、何を措いてもあなたに会いたいと。王太子殿下に召されていると知ったら、すぐに王宮に連れていけと、珍しく駄々をこねられてしまいました」
可愛らしい我儘だと微笑む大公の真意は見えないが――エメルトに早く会いたいということは、王女殿下は、女王になりたいのかもしれない。
それなら、王女に鞍替えした方がいい。
その夫に、エメルトの息子をと願うことはできないが、王家に、異国の血――しかも、黒髪など!――を入れるよりは、はるかにいい。
元々、レーエンス伯爵の娘如きが王妃となったことが間違いだ。王妃となるのは、大公家か公爵家の姫でなければならない。譲って、侯爵家だ。
エメルトは、美貌の王女の姿を思い浮かべた。銀の髪、薄い水色の瞳。これ以上なく薄い色素の、貴い血筋の王女だ。
――エメルトがそう思った時、彼の体を漆黒の煙が包み、一瞬で消えた。
その一瞬で、アトゥールには十分だった。
王宮の中でも、特に女性的に美しく造られた一角に、王女の私室がある。
そこで、エルウィージュは紅茶を入れたブランデーを飲みながら、来客を待って――は、いなかった。むしろ来なくていい。何しろ、今は。
「エージュ。それは紅茶じゃないと思う」
「紅茶よ。先にブランデーを入れたけれど」
「比率がおかしい。お酒は体に悪いのよ、アルコール性の肝炎になったらどうするの」
「少しくらいなら、体にはいいのよ。そうですわよね、神竜王陛下?」
「……過ぎたるは……」
「陛下のお好きなザッハトルテにも、お酒は使われていますわよ?」
「アレクシア。少しくらいならいいと思う」
「……ローラン……」
アレクシアは、騙されないでと言いたげに恋人を見つめて口唇を尖らせている。拗ねた顔も可愛いわと、久しぶりに会えた親友の姿に、エルウィージュはとても満足している。
――現在、エルウィージュの私室は、ローランの異能で、シルハークの離宮と繋がっている。王太子廃嫡を画策した以上、彼らは、「王太子への忠誠を誓約させた」神竜王に喧嘩を売ったことになる。ならば、直々にご処断いただくのが、筋である。
そう言ってアレクシアも関わらせろと提案したのは闇華だが、エルウィージュも反対しなかった。帰国させるのは、国内が完全に落ち着いてからになるだろう。
「……王の姫。何人、来る?」
「今日は、お一人だけですわ。その方の対応次第では、明日以降もご助力いただきたいとは思っています」
気が進まない様子なのは、単に人見知りしているだけだと、エルウィージュは知っている。
「あの時、もっと厳しく枷をつければよかったか?」
「いいえ、陛下。科せられた枷による忠誠だけでは、兄上様は王たり得ない。真実、王として認められ、敬意を受けねばならないのです」
そう言って、エルウィージュはアレクシアの姿に手を伸ばす。大好きな、その金の巻き毛には触れられない。それでも、触れているのだと錯覚したい。空間の向こうのアレクシアは、どこかくすぐったそうに笑う。その、触れられたような反応に、エルウィージュは陶然と耽溺する。
「王は、孤独なもの。だからこそ、崇拝され、敬愛されなくてはなりません。そして、そのことに甘えてはいけません。常に一人で、誰よりも誇らかに、王であると示さねばなりません」
その為には、廃嫡を画策した者達を、確実に仕留めなくてはならない。おそらく、ヴェルスブルクの貴族達の地位は下剋上が起こるだろう。伯爵以下の貴族達はともかく、首謀者であるバシュラール侯爵とシェイエルン公爵、そしてクレーフェ公爵、フェドレン公爵、ヴェイユ侯爵。彼らは、許されるか、家名断絶か、爵位の格下げ――どれになるかは、この後の「彼ら」の態度次第だ。
このままでは、家名断絶か爵位格下げが多いだろうと、エルウィージュは踏んでいる。だが、それでは駄目なのだ。国を支える屋台骨のひとつである高位貴族達の一斉粛清を、王の専横と思われてはならない。
その為に、アレクシアとローランに協力を願ったのだ。再びの忠誠誓約を受けるなら、今回だけは見逃して恩を売る為に。
――そこに、少しばかりの我儘があったことは、認めるしかない。
ただ、会いたかった。声が聞きたかった。
リヒト廃嫡の阻止を理由に、愛してやまない少女が、今もちゃんと幸せに笑っているかどうかを確かめたくて――安堵した。
別れた時と少しも変わらない、明るい笑顔。少しだけ伸びた巻き毛。何より、「エージュ」と呼ぶ声に込められた慕わしさ。
「リヒト殿下も、大変ね……」
「早く片づけたいわ。そうでないと、あなたに帰ってきてもらえないもの。ラウエンシュタイン家の為にもね」
「うん……お父様とお母様、大丈夫かしら……」
「大丈夫よ、アリー。あなたに邪魔なものは、全部片づけてあげる。あなたの居場所はここよ。誰にも奪わせないわ」
「うん。エージュにお任せする。だけどね、エージュ。私にもできることがあるなら、協力させてね」
「ええ。あなたにしかできないことを、この後お願いするつもりよ」
「女神の審判」。アレクシアの魂は、本来の「女神の器」であるミレイでもある。ならば神の魔法が可能なはずだ。
――女神の審判。神の審判ともされるソレは、「真偽はいずれか」など比較にならない性能の魔法だ。些細な悪心も見逃さないからこそ、「審判」なのだ。
そして、審判を受ける「候補」の来室が、控えめな鈴の音で告げられた。
「無論でございます、王太子殿下。我らはあの日あの時、神竜王陛下の御前で誓約致しました。どうして、それを破るなど考えましょう」
尊大に問いかけたリヒトに、クレーフェ公爵・エメルトは膝をついたまま答えた。リヒトの隣では、闇華が、神竜王の末裔の瞳を隠すことなく睨みつけている。
「私が、王妃として東の姫を迎えることに、反対していたと聞いているが?」
「反対ではございません。王太子殿下は、ラウエンシュタイン公爵の令嬢をお望みなのではないかと、そう推察致しておりましたので……」
「かの姫は、我が国との和睦の証として、我が祖国でお過ごし下されている。その御方を王妃にと言うならば――アレクシア様は、神竜王陛下の召喚者であられる、それを忘れておるまいな?」
「……っ」
闇華の銀の瞳が、鈍く光った。
「妾は、神竜王の末裔として、当代様のご意志も尊重せねばならぬ。当代様から、無理にアレクシア様を奪い、リヒト様と娶せて――さて、当代様のお怒りは、誰が鎮めるのかえ?」
「わ、私は……」
「答えられよ。エメルト・スウシェ・ルア・クレーフェ公爵」
「……せ、浅慮でございました」
「何がどう浅慮なのか、説明してもらいたいな。父上に廃嫡を画策され、今度は臣下からの廃嫡請求だ。私は、それほどに王位にふさわしくないか? それとも、アンファを娶るから王にふさわしくないと言うのか?」
「い、いえ、王太子殿下以外に、王となられる御方はいらっしゃいません。お、王妃陛下も、シルハークの公主様がふさわしゅうございます、両国の和平と親睦は、より強くなりましょう」
だらだらと汗を流しながら答えるエメルトを、リヒトは冷ややかに見据えた。闇華が小さく合図する――本心だという印だ。ひとまず、今に限っては、のことだが。
「ならば、私に忠誠を誓うのか?」
「は、はい」
「そうか。ではアンファ、お願いする」
「はい。――エメルト・スウシェ・ルア・クレーフェは、リヒト・カール・ルア・カイザーリングに叛くことは許されぬ。服従」
シルハークの言葉で紡がれた魔法の意味は、エメルトにはすぐにはわからないだろう。わかったところで、闇華の魔法を解呪できる魔力は、この男にはない。
「……真の主従となりし時、是は解呪される」
「は……?」
「よい。私が、善き王となり、そなたが善き臣下であってくれれば済む話だ」
最初は仕方がない。魔力で強制してでも、従わせなくてはならない。そうでないと、若すぎる王と異国の王妃に不満を持つ者を、制御しきれない。
だが、いつまでもそのままでいいわけでもない。すべての臣下は無理でも、せめて過半数の臣下との間に信頼と忠誠を築けないなら、それは王ではない。
「下がってよい、クレーフェ公爵」
「は」
「……ああ、忘れるところだった。エルウィージュが、是非会いたいと。アトゥールも一緒だ」
「は、はい。王女殿下には、今回のことは……?」
「さあ。最近のエルウィージュは、そなたも知ってのとおり、人嫌いでな」
エルウィージュが、人を寄せつけなくなったことは、宮廷では噂になっている。それを、王家の血の濃い王女は、異国からの王妃が気に入らぬのだと吹聴したのは、バシュラール侯爵の一派だ。
ギルフォードに認知されるまで「バシュラール侯爵令嬢」だった王女の、養父が言うのだ。話の信憑性は高いと踏んで、王女の立太子を画策する侯爵達に近づこうかとも思っていた矢先の、リヒトからの詰問だった。
――王女殿下の、ご真意を窺う機会でもある。
自分にそう言い聞かせて、エメルトはリヒトの退出の許しを待った。萎縮していると認めることは、彼の自尊心が許さなかった。
「ようこそ、クレーフェ公爵。御案内致しますよ。私の姫は、今日はとても御機嫌がよろしくてね」
案内された、王宮の中でも奥まった場所――王族の居住空間で、エメルトはシェーンベルク大公の出迎えを受けた。
穏やかに微笑んでいるが、宰相であり、大公だ。王配として申し分ない彼と婚約したからには、王女は王位に色気があるのではないかと思ったのは、エメルトだけではないだろう。
「これは……大公殿下」
「この先は、女性王族の私的な場所ですからね。私も、私の姫の御機嫌次第では入れていただけない。あなたは運がよろしいですよ」
優美な美貌と、やわらかな物腰。下位の者にも腰の低いシェーンベルク大公は、王配となる野心があるのかもしれない。成人の際に宰相職を拒否して軍籍に入ったが、結局は、宰相の地位に就いている。
「大公殿下。この度のこと、王女殿下は御存知では……?」
「知っておいでですよ。だから、何を措いてもあなたに会いたいと。王太子殿下に召されていると知ったら、すぐに王宮に連れていけと、珍しく駄々をこねられてしまいました」
可愛らしい我儘だと微笑む大公の真意は見えないが――エメルトに早く会いたいということは、王女殿下は、女王になりたいのかもしれない。
それなら、王女に鞍替えした方がいい。
その夫に、エメルトの息子をと願うことはできないが、王家に、異国の血――しかも、黒髪など!――を入れるよりは、はるかにいい。
元々、レーエンス伯爵の娘如きが王妃となったことが間違いだ。王妃となるのは、大公家か公爵家の姫でなければならない。譲って、侯爵家だ。
エメルトは、美貌の王女の姿を思い浮かべた。銀の髪、薄い水色の瞳。これ以上なく薄い色素の、貴い血筋の王女だ。
――エメルトがそう思った時、彼の体を漆黒の煙が包み、一瞬で消えた。
その一瞬で、アトゥールには十分だった。
王宮の中でも、特に女性的に美しく造られた一角に、王女の私室がある。
そこで、エルウィージュは紅茶を入れたブランデーを飲みながら、来客を待って――は、いなかった。むしろ来なくていい。何しろ、今は。
「エージュ。それは紅茶じゃないと思う」
「紅茶よ。先にブランデーを入れたけれど」
「比率がおかしい。お酒は体に悪いのよ、アルコール性の肝炎になったらどうするの」
「少しくらいなら、体にはいいのよ。そうですわよね、神竜王陛下?」
「……過ぎたるは……」
「陛下のお好きなザッハトルテにも、お酒は使われていますわよ?」
「アレクシア。少しくらいならいいと思う」
「……ローラン……」
アレクシアは、騙されないでと言いたげに恋人を見つめて口唇を尖らせている。拗ねた顔も可愛いわと、久しぶりに会えた親友の姿に、エルウィージュはとても満足している。
――現在、エルウィージュの私室は、ローランの異能で、シルハークの離宮と繋がっている。王太子廃嫡を画策した以上、彼らは、「王太子への忠誠を誓約させた」神竜王に喧嘩を売ったことになる。ならば、直々にご処断いただくのが、筋である。
そう言ってアレクシアも関わらせろと提案したのは闇華だが、エルウィージュも反対しなかった。帰国させるのは、国内が完全に落ち着いてからになるだろう。
「……王の姫。何人、来る?」
「今日は、お一人だけですわ。その方の対応次第では、明日以降もご助力いただきたいとは思っています」
気が進まない様子なのは、単に人見知りしているだけだと、エルウィージュは知っている。
「あの時、もっと厳しく枷をつければよかったか?」
「いいえ、陛下。科せられた枷による忠誠だけでは、兄上様は王たり得ない。真実、王として認められ、敬意を受けねばならないのです」
そう言って、エルウィージュはアレクシアの姿に手を伸ばす。大好きな、その金の巻き毛には触れられない。それでも、触れているのだと錯覚したい。空間の向こうのアレクシアは、どこかくすぐったそうに笑う。その、触れられたような反応に、エルウィージュは陶然と耽溺する。
「王は、孤独なもの。だからこそ、崇拝され、敬愛されなくてはなりません。そして、そのことに甘えてはいけません。常に一人で、誰よりも誇らかに、王であると示さねばなりません」
その為には、廃嫡を画策した者達を、確実に仕留めなくてはならない。おそらく、ヴェルスブルクの貴族達の地位は下剋上が起こるだろう。伯爵以下の貴族達はともかく、首謀者であるバシュラール侯爵とシェイエルン公爵、そしてクレーフェ公爵、フェドレン公爵、ヴェイユ侯爵。彼らは、許されるか、家名断絶か、爵位の格下げ――どれになるかは、この後の「彼ら」の態度次第だ。
このままでは、家名断絶か爵位格下げが多いだろうと、エルウィージュは踏んでいる。だが、それでは駄目なのだ。国を支える屋台骨のひとつである高位貴族達の一斉粛清を、王の専横と思われてはならない。
その為に、アレクシアとローランに協力を願ったのだ。再びの忠誠誓約を受けるなら、今回だけは見逃して恩を売る為に。
――そこに、少しばかりの我儘があったことは、認めるしかない。
ただ、会いたかった。声が聞きたかった。
リヒト廃嫡の阻止を理由に、愛してやまない少女が、今もちゃんと幸せに笑っているかどうかを確かめたくて――安堵した。
別れた時と少しも変わらない、明るい笑顔。少しだけ伸びた巻き毛。何より、「エージュ」と呼ぶ声に込められた慕わしさ。
「リヒト殿下も、大変ね……」
「早く片づけたいわ。そうでないと、あなたに帰ってきてもらえないもの。ラウエンシュタイン家の為にもね」
「うん……お父様とお母様、大丈夫かしら……」
「大丈夫よ、アリー。あなたに邪魔なものは、全部片づけてあげる。あなたの居場所はここよ。誰にも奪わせないわ」
「うん。エージュにお任せする。だけどね、エージュ。私にもできることがあるなら、協力させてね」
「ええ。あなたにしかできないことを、この後お願いするつもりよ」
「女神の審判」。アレクシアの魂は、本来の「女神の器」であるミレイでもある。ならば神の魔法が可能なはずだ。
――女神の審判。神の審判ともされるソレは、「真偽はいずれか」など比較にならない性能の魔法だ。些細な悪心も見逃さないからこそ、「審判」なのだ。
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